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第2章

第189話 76番目の扉。リシャーラ王国先代国王。

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「王家にお返しすべきだろうが、今はまだその時じゃない。……こんな重大な秘密を隠しているのは、正直かなり心苦しいが、神の使命のためだ。今は目をつぶろう。」

 そう言って、刃の部分に、先代国王個人を示す意匠の彫られた、短剣を鞘に戻した。
「──さあ、扉を出してくれ。」
「うん!」

 僕は扉と反対側の壁にドアをイメージすると、心の中で時空の扉!と唱えた。
 すると目の前の壁が光って、何もなかった筈の壁に、新たに扉が現れたのだった。

「……行こうか。」
「……うん。」
 僕は、そっと慎重に扉を開けた。

 ──!?
 そこは簡素な部屋の中だった。だけど質素って訳じゃなくて、使われている家具なんかはとても豪華なしつらえだったよ。

 なのにビックリするくらい物がなくて、慌てて周囲を見回したけど、側仕えの1人も見当たらなかった。王族の部屋であれば、常に室内と外に、従者が控えている筈なのに。

 そこには大きいけど天蓋のないベッドが置いてあって、まだ明るいのに誰かがそこに寝ているのが見えた。……誰なんだろう?

 遠目に見る限りじゃ、園遊会なんかでお会いしたことのある、王族の誰かじゃないね?
 たぶんキレイな、金髪の大人の女の人だってことが、かじろうてわかる程度だ。

 ゆうにキャベンディッシュ公爵家の、父さまの部屋くらいの広さのある部屋の中に、ポツンと大きなベッドのあるさまは、妙に寒々しくて寂しい光景だった。

 絵も飾ってない。洋服ダンスのひとつも見当たらない。強いてなにか特徴的なものがあるとするなら、チェストの上に枯れかけた赤い花が、花瓶に入っているのが見えるだけ。

 王宮の中でこんな扱いをされる部屋が存在するなんて思えない。部屋住みの従者ならもっと狭い部屋だし、基本相部屋の筈だ。

 王宮内に住み込みで、自分の個室を与えられているのは、各宮を担当する、侍女長くらいのものだけど、侍女長はだいたい僕の親くらいの年齢だから、それも当てはまらない。

 それにいくら従者の部屋だからって、洋服ダンスくらいはある筈だよ。ここって本当にリシャーラ王国の王宮の中なのかな?
 僕がそう思った時だった。

 窓の外を覗いていた叔父さんが、僕を無言で手招きしていて、僕はそっとそこに近寄った。僕が近付くと、親指で窓の外を指さしてみせた。窓の外を覗いてみると──王宮だ。

 窓からリシャーラ王国の王宮が見えるということは、ここは敷地内だとは思うけど。
 この角度はどの位置にあたるんだろう?

 王宮ではそもそもないし、王子宮でも王妃宮でもない。先代国王や、王太后や先代王太后の為の離宮でもない。こんな場所が、リシャーラ王国の王宮敷地内にあったなんて。

 叔父さんが黙ったまま、もと来た扉を指さしたから、部屋の中の人物に気付かれないうちに、この部屋を出ることにした。

「もう一度、別の場所をイメージして、あけてみてくれ。」
「うん、分かった。」

 今度はさっきと別の場所、さっきと全然別の場所、とイメージしてみてから、さっきよりも恐る恐るドアをあける。あたりに人がいないかを、慎重に確認してから外に出た。

 すると今度はさっきよりも広くて豪華な、だけど家具の1つ1つに白い布をかぶせた、薄暗い部屋の中へと出た。

 あたりには誰もいなくて、誰かの部屋だった筈だけど、人の暮らしている気配がなかった。……たぶん、ここが先代国王の部屋なんだろうな。掃除はしてるみたいでキレイだ。

 部屋の持ち主がいなくなっても、いずれまた今の王さまが引退した時に使われるようになるから、それまでこうしているんだろう。

 僕と叔父さんは、ひと通り部屋を確認してから、再び黙って扉の中へと戻って来た。
「どうやら、もとの持ち主の生活圏に出るらしいことは分かったな。」

「うん、たぶんそうだと思う。少なくともその人が足を踏み入れたことのない場所には、出られないのかも知れないね。」

「だとしたら父さんは、俺の家に来たことがあったのか……。」
 叔父さんは独り言のようにそう言うと、腕組みしながら、何ごとか考え込んでいる。

 キャベンディッシュ公爵家を出てからは、まともに交流はなかったと聞いたけど、お祖父さまは叔父さんの知らないところで、叔父さんの様子を伺っていたのかなあ。

 平民になった家族とは、関わりあえない決まりがあるからね。だから父さまは仕事を依頼する形で、叔父さんと交流をしていたし、僕だって出入り商人になろうとしてるんだ。

 お祖父さまの気持ちは聞いたことがないけど、叔父さんのあげたものをアイテムボックスの中に取っておいたくらいだしね。
 大切に思っていてくれたんじゃないかな。
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