189 / 525
第2章
第189話 76番目の扉。リシャーラ王国先代国王。
しおりを挟む
「王家にお返しすべきだろうが、今はまだその時じゃない。……こんな重大な秘密を隠しているのは、正直かなり心苦しいが、神の使命のためだ。今は目をつぶろう。」
そう言って、刃の部分に、先代国王個人を示す意匠の彫られた、短剣を鞘に戻した。
「──さあ、扉を出してくれ。」
「うん!」
僕は扉と反対側の壁にドアをイメージすると、心の中で時空の扉!と唱えた。
すると目の前の壁が光って、何もなかった筈の壁に、新たに扉が現れたのだった。
「……行こうか。」
「……うん。」
僕は、そっと慎重に扉を開けた。
──!?
そこは簡素な部屋の中だった。だけど質素って訳じゃなくて、使われている家具なんかはとても豪華なしつらえだったよ。
なのにビックリするくらい物がなくて、慌てて周囲を見回したけど、側仕えの1人も見当たらなかった。王族の部屋であれば、常に室内と外に、従者が控えている筈なのに。
そこには大きいけど天蓋のないベッドが置いてあって、まだ明るいのに誰かがそこに寝ているのが見えた。……誰なんだろう?
遠目に見る限りじゃ、園遊会なんかでお会いしたことのある、王族の誰かじゃないね?
たぶんキレイな、金髪の大人の女の人だってことが、かじろうてわかる程度だ。
ゆうにキャベンディッシュ公爵家の、父さまの部屋くらいの広さのある部屋の中に、ポツンと大きなベッドのあるさまは、妙に寒々しくて寂しい光景だった。
絵も飾ってない。洋服ダンスのひとつも見当たらない。強いてなにか特徴的なものがあるとするなら、チェストの上に枯れかけた赤い花が、花瓶に入っているのが見えるだけ。
王宮の中でこんな扱いをされる部屋が存在するなんて思えない。部屋住みの従者ならもっと狭い部屋だし、基本相部屋の筈だ。
王宮内に住み込みで、自分の個室を与えられているのは、各宮を担当する、侍女長くらいのものだけど、侍女長はだいたい僕の親くらいの年齢だから、それも当てはまらない。
それにいくら従者の部屋だからって、洋服ダンスくらいはある筈だよ。ここって本当にリシャーラ王国の王宮の中なのかな?
僕がそう思った時だった。
窓の外を覗いていた叔父さんが、僕を無言で手招きしていて、僕はそっとそこに近寄った。僕が近付くと、親指で窓の外を指さしてみせた。窓の外を覗いてみると──王宮だ。
窓からリシャーラ王国の王宮が見えるということは、ここは敷地内だとは思うけど。
この角度はどの位置にあたるんだろう?
王宮ではそもそもないし、王子宮でも王妃宮でもない。先代国王や、王太后や先代王太后の為の離宮でもない。こんな場所が、リシャーラ王国の王宮敷地内にあったなんて。
叔父さんが黙ったまま、もと来た扉を指さしたから、部屋の中の人物に気付かれないうちに、この部屋を出ることにした。
「もう一度、別の場所をイメージして、あけてみてくれ。」
「うん、分かった。」
今度はさっきと別の場所、さっきと全然別の場所、とイメージしてみてから、さっきよりも恐る恐るドアをあける。あたりに人がいないかを、慎重に確認してから外に出た。
すると今度はさっきよりも広くて豪華な、だけど家具の1つ1つに白い布をかぶせた、薄暗い部屋の中へと出た。
あたりには誰もいなくて、誰かの部屋だった筈だけど、人の暮らしている気配がなかった。……たぶん、ここが先代国王の部屋なんだろうな。掃除はしてるみたいでキレイだ。
部屋の持ち主がいなくなっても、いずれまた今の王さまが引退した時に使われるようになるから、それまでこうしているんだろう。
僕と叔父さんは、ひと通り部屋を確認してから、再び黙って扉の中へと戻って来た。
「どうやら、もとの持ち主の生活圏に出るらしいことは分かったな。」
「うん、たぶんそうだと思う。少なくともその人が足を踏み入れたことのない場所には、出られないのかも知れないね。」
「だとしたら父さんは、俺の家に来たことがあったのか……。」
叔父さんは独り言のようにそう言うと、腕組みしながら、何ごとか考え込んでいる。
キャベンディッシュ公爵家を出てからは、まともに交流はなかったと聞いたけど、お祖父さまは叔父さんの知らないところで、叔父さんの様子を伺っていたのかなあ。
平民になった家族とは、関わりあえない決まりがあるからね。だから父さまは仕事を依頼する形で、叔父さんと交流をしていたし、僕だって出入り商人になろうとしてるんだ。
お祖父さまの気持ちは聞いたことがないけど、叔父さんのあげたものをアイテムボックスの中に取っておいたくらいだしね。
大切に思っていてくれたんじゃないかな。
そう言って、刃の部分に、先代国王個人を示す意匠の彫られた、短剣を鞘に戻した。
「──さあ、扉を出してくれ。」
「うん!」
僕は扉と反対側の壁にドアをイメージすると、心の中で時空の扉!と唱えた。
すると目の前の壁が光って、何もなかった筈の壁に、新たに扉が現れたのだった。
「……行こうか。」
「……うん。」
僕は、そっと慎重に扉を開けた。
──!?
そこは簡素な部屋の中だった。だけど質素って訳じゃなくて、使われている家具なんかはとても豪華なしつらえだったよ。
なのにビックリするくらい物がなくて、慌てて周囲を見回したけど、側仕えの1人も見当たらなかった。王族の部屋であれば、常に室内と外に、従者が控えている筈なのに。
そこには大きいけど天蓋のないベッドが置いてあって、まだ明るいのに誰かがそこに寝ているのが見えた。……誰なんだろう?
遠目に見る限りじゃ、園遊会なんかでお会いしたことのある、王族の誰かじゃないね?
たぶんキレイな、金髪の大人の女の人だってことが、かじろうてわかる程度だ。
ゆうにキャベンディッシュ公爵家の、父さまの部屋くらいの広さのある部屋の中に、ポツンと大きなベッドのあるさまは、妙に寒々しくて寂しい光景だった。
絵も飾ってない。洋服ダンスのひとつも見当たらない。強いてなにか特徴的なものがあるとするなら、チェストの上に枯れかけた赤い花が、花瓶に入っているのが見えるだけ。
王宮の中でこんな扱いをされる部屋が存在するなんて思えない。部屋住みの従者ならもっと狭い部屋だし、基本相部屋の筈だ。
王宮内に住み込みで、自分の個室を与えられているのは、各宮を担当する、侍女長くらいのものだけど、侍女長はだいたい僕の親くらいの年齢だから、それも当てはまらない。
それにいくら従者の部屋だからって、洋服ダンスくらいはある筈だよ。ここって本当にリシャーラ王国の王宮の中なのかな?
僕がそう思った時だった。
窓の外を覗いていた叔父さんが、僕を無言で手招きしていて、僕はそっとそこに近寄った。僕が近付くと、親指で窓の外を指さしてみせた。窓の外を覗いてみると──王宮だ。
窓からリシャーラ王国の王宮が見えるということは、ここは敷地内だとは思うけど。
この角度はどの位置にあたるんだろう?
王宮ではそもそもないし、王子宮でも王妃宮でもない。先代国王や、王太后や先代王太后の為の離宮でもない。こんな場所が、リシャーラ王国の王宮敷地内にあったなんて。
叔父さんが黙ったまま、もと来た扉を指さしたから、部屋の中の人物に気付かれないうちに、この部屋を出ることにした。
「もう一度、別の場所をイメージして、あけてみてくれ。」
「うん、分かった。」
今度はさっきと別の場所、さっきと全然別の場所、とイメージしてみてから、さっきよりも恐る恐るドアをあける。あたりに人がいないかを、慎重に確認してから外に出た。
すると今度はさっきよりも広くて豪華な、だけど家具の1つ1つに白い布をかぶせた、薄暗い部屋の中へと出た。
あたりには誰もいなくて、誰かの部屋だった筈だけど、人の暮らしている気配がなかった。……たぶん、ここが先代国王の部屋なんだろうな。掃除はしてるみたいでキレイだ。
部屋の持ち主がいなくなっても、いずれまた今の王さまが引退した時に使われるようになるから、それまでこうしているんだろう。
僕と叔父さんは、ひと通り部屋を確認してから、再び黙って扉の中へと戻って来た。
「どうやら、もとの持ち主の生活圏に出るらしいことは分かったな。」
「うん、たぶんそうだと思う。少なくともその人が足を踏み入れたことのない場所には、出られないのかも知れないね。」
「だとしたら父さんは、俺の家に来たことがあったのか……。」
叔父さんは独り言のようにそう言うと、腕組みしながら、何ごとか考え込んでいる。
キャベンディッシュ公爵家を出てからは、まともに交流はなかったと聞いたけど、お祖父さまは叔父さんの知らないところで、叔父さんの様子を伺っていたのかなあ。
平民になった家族とは、関わりあえない決まりがあるからね。だから父さまは仕事を依頼する形で、叔父さんと交流をしていたし、僕だって出入り商人になろうとしてるんだ。
お祖父さまの気持ちは聞いたことがないけど、叔父さんのあげたものをアイテムボックスの中に取っておいたくらいだしね。
大切に思っていてくれたんじゃないかな。
489
お気に入りに追加
2,075
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。
彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。
彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。
あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。
元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。
孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。
「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」
アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。
しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。
誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。
そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。
モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。
拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。
ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。
どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。
彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。
※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。
※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。
※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く
burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。
最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。
更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。
「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」
様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは?
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる