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第1章

第51話 変装擬態のコバルト

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「は、はい、エノー2匹ですね!」
「その場で焼いて食べたい人は、お隣のお店でお願いします!」
「アローア魚1匹、銅貨6枚です!」

 お金の計算は普段もしているから、お金を数える道具の使い方は問題なかったみたいだけど、2人ともお客さんの多さに大慌てだった。2人の普段の10倍の数だもんね。

 目に見えてアワワワしてるから、ゆっくりでだいじょうぶだよ!って声をかけたけど、耳に入ってないみたいだった。

「お、終わった……。」
 思わず地面に体を投げ出して横たわるルークくん。ミアちゃんも肩で息をしている。

「お疲れさま2人とも。
 ほんとにありがとね。
 すごく助かったよ。」

 僕がそう声をかけると、恥ずかしそうに、へへへ、と笑った。どうやらすっかり打ち解けてくれたみたいだね。

「小さいのに、よく頑張ったね。
 ほら、これはご褒美だよ。
 うちの肉の焼串さ。
 良かったら食べとくれ。」

 ラナおばさんが笑顔で肉の焼串を差し出してくれる。ルークくんは途端にヨダレをたらしたけど、ミアちゃんを振り返って、無言で食べてもいい?って、顔だけで聞いている。

「ありがとうございます。」
「ありがとう!」
「どういたしまして。」

 ミアちゃんがお礼を言って、ラナおばさんから肉の焼串を受け取ったのを見てから、ルークくんも安心して手を伸ばしていた。

「──なにこれ……!美味しい!」
「うまい!こんなの、はじめて食べた!」
 2人とも、ラナおばさんの肉の焼串のうまさに、目をキラキラさせて喜んでいる。

 そうだろう、そうだろう?と、ラナおばさんも嬉しそうだ。
「ラナおばさん、ごめんなさい、僕、ちょっと買いたいものがあるから、2人を任せてもいいですか?ヒルデはついて来て。」

「ああ。構わないよ。
 じゃあ、アレックスが戻るまでに、今のうちにタライを洗っちまおうかね。」

 ラナおばさんが、ミアちゃんとルークくんを連れて、井戸までタライを運んで行く。
 運んであげるわ、とヒルデが残りのタライを重ねて運んでくれた。2人はヒルデの力持ちっぷりに目を丸くしていたよ。

 僕がヒルデを連れて戻ってくると、ちょうど2人がタライを洗い終えたところだった。
「おまたせ。──はい、2人にこれをあげるよ。魚を持って帰るの大変でしょ?」

 僕は買って来たばかりのマジックバッグを2人に手渡そうとした。
 小さい子が魚を持ち運ぶのは大変だろうなと思って買って来たんだ。

「まさかこれ、マジックバッグですか?
 こんな高いもの……!」
 ミアちゃんが恐縮して、マジックバッグを受け取ろうとしなかった。

「一番小さいものだから、安心してよ。
 あんまり高いものを子どもが持ち歩いてたら、狙われちゃうかも知れないからね。」

「で、でも……。」
「2人にはこれからも頑張って貰うつもりだから、先行投資だと思ってよ。
 それと、約束の魚だよ。」

 僕は、エノー、と言って、エノーを25匹思い浮かべた。僕の目の前が発光する。
 それをミアちゃんとルークくんが、キラキラした目で見上げている。

 眩しい光の奔流に包まれて、僕よりも背の高い木で出来た扉が現れて、手も触れていないのに、扉が勝手に開いていく。

「2人とも、マジックバッグの蓋をあけて?
 直接魚が入るよ!」
「え?え?え?」
 ミアちゃんとルークくんが、慌ててマジックバッグの蓋をあける。

 驚く2人のマジックバッグの中に、泳ぐようにエノーが吸い込まれていく。
 ちょっと幻想的な光景に、2人はすっかり大喜びだった。

「凄い!魚が空を泳いでた!」
「キレイ……。」
「それは今日のぶんだよ。明日はなんの魚がいいか、みんなで相談しといてね。」

「え?私たちが選べるの?」
 ミアちゃんが驚いている。
「うん、毎日同じじゃ、飽きちゃうでしょ?
 2人が来てくれたから、お店のほうも種類を増やそうかなって思ってさ。」

「わ、わかりました。
 シスターに聞いてみます!」
 ミアちゃんがそう言ってくれる。

「ついでに売るならいくらにするのかも、聞いておいて貰えると助かるな。」
 そうしないと、僕には魚の相場が分からないからね。知ってる人から教えて貰いたい。

 ミアちゃんがうなずいてくれた。
 僕はみんなと店を片付けると、ヒルデと一緒に2人と町の入口まで歩いて、明日もよろしくね、と手を振って別れた。

 そんな僕らを、影から見守っている存在があることに、その時はヒルデですらも気が付いていなかったんだ。

「──ついに見つけた。さすが私。
 変装擬態のコバルト。
 さっそくジャックさまに報告。」

 懐から取り出した魔道具を見て、目をキラーンと輝かせている無表情な背の低い子。
「ジャックさま、見つけました。
 アレックスさまです。」

「──わかった。お前は引き続き、護衛をかねてアレックスさまを見張るように。
 決して片時も目を離してはならない。」
「了解。」

 そんなこととはつゆ知らず、俺は叔父さんと一緒に夕ご飯を作り、一緒に食べて、今日あった出来事を話していた。
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