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第1章

第28話 新しい力の目覚め

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「ラナの娘のポーリンです。
 はじめまして。」
 感じのいい娘さんが、両手をお腹の前で揃えて、にこやかに挨拶してくれる。

 おかみさん──ラナおばさんは、タライに水をはるのを手伝うよ、と申し出てくれた。
「その大きさじゃあ、だいぶ重たいだろうからね。娘と2人で運ぶよ。」

 ありがたくお礼を言って、ラナおばさん、ポーリンさんの3人で、タライに水をはっていると、
「ああ。ちょうど準備中ね。」

 ヒルデがやって来て、僕らを後ろから見下ろしていた。
「なに?これを運ぶの?」

 そう言って、並々と水がはられたタライをヒョイと両手にそれぞれ持ち上げると、
「店まで運べばいいの?」
 とこちらを振り返った。

 ヒルデのあまりの怪力を初めて目の当たりにした、ラナおばさんとポーリンさんは、あんぐりと口を開けて言葉も出ないようだ。

 なんせ、ラナおばさんとポーリンさん、2人で1つのタライを運ぼうとしてたからね。
 男の僕でも、1つがやっとだし、かなり重たくて、えっちらおっちら運ぶんだもの。

「うん。運んでくれるの?ありがとう。
 じゃあ、店の奥までお願いしようかな。」
「りょーかい。」

 ラナおばさんとポーリンさんには、タライに水をはる役目を頼んで、僕とヒルデでタライを店まで運んだ。

 おかげであっという間に終わって、僕は店の準備を始めた。
 スキルで魚を直接タライに出していく。

「何度見ても凄いねえ、あんたのアイテムボックスは。」
 おかみさんが、楽しいものを見た、とでも言うような笑顔でこちらを見ている。

「確かに、ここまでの大きさのものは初めて見たわね。」
 ヒルデも感心している。Cランク冒険者のヒルデが言うくらいだから、アイテムボックスと僕のスキルって似てるのかな?

「ほら。うちの肉の焼串だよ。
 食べてみとくれ。
 こんな場所でも常連さんがいて、それなりに売り上げがある理由がわかるだろうさ。」

 ラナおばさんがそう言って、開店前に焼いた肉の焼串を僕とヒルデに1本ずつくれた。
 お礼を言って頬張った。
「──!!美味しい!」

「やわらかい……、なんなの、これ……。」
 塩を加えていることももちろんだけど、最初に市場の露天商で買った肉の焼串とは、比べものにならないくらい、お肉が柔らかい。

 ラナおばさんは、ふふふ、と笑って、
「そうだろう、ただ四角く切って焼くだけじゃあ、肉は美味しくならないのさ。筋を切って、叩いて、手間暇かけてるんだよ。」

「お肉そのものを柔らかくさせるものにも、毎晩漬けてあるんですよ。
 母さんは料理が得意なんです。」
 ポーリンさんが誇らしげに言う。

「確かに、これは凄いわ……。
 1本銅貨3枚だなんて思えない……。」
 ヒルデは夢中で食べると、自分でお金を払って、追加で3本購入していた。

 本当はまだ開店前だけど、ラナおばさんは嬉しかったらしく、喜んでヒルデに追加の肉の焼串を焼いてくれた。

 キャベンディッシュ家で出るお肉ほどは、いいものを使ってない筈なのに、歯ごたえを残した柔らかさって点においては、そこまで負けてないんじゃないかな?

「ほんとに美味しいや……。」
 つぶやくようにそう言うと、ラナおばさんはニカッと笑った。

 お客さんも集まりだしたので、僕も開店準備を急ぐことにした。隣でラナおばさんたちも、端っこで肉の焼串を5本、残りはエノーを焼く場所にしようと話してる。

 昨日の教訓をいかして、ラナおばさんは先に僕から100匹分のエノーを買い取って、台の上で塩を振りかけて焼き始めた。

 貴重な塩を少しでも無駄にしないように、平たくて四角い木の枠がついた桶のようなもの──バットって言うんだって──を台の上に置いて、そこに細い木を幾つも交差したようなもの──網っていうらしい──の上にエノーを置いて塩を振ってる。

 どうしても下に落ちるし、落ちた時にエノーにつき過ぎることもあるし、エノーから出た水分で、塩が回収出来なくなるのを防ぐためなんだって。ったまいいなあ。

 昨日もそのくらい売れたし、僕から仕入れたとしても、差額で小金貨3枚の儲けだ。
 肉の焼串もちゃんと持って来ている。

 ここは場所が端っこで、あまり人が来ないから、今までひと月で中金貨1枚と小金貨2枚いけばいいほうだったらしくて、僕のおかげで大儲けだと喜んでくれている。

 場所がいい方が売れるから、いい場所は前からいる露天商が、ずっと確保してて取ることが出来ないらしい。

 こんな場所でも借賃は10日で小金貨1枚だから、肉の焼串が33本売れてようやくトントンてところだ。

 ラナおばさんの店は、多くて月に400本の売上だから、場所代を含めた元手を引いたら、半分くらい手元に残る計算なのかな?

 儲けなんて微々たるものだと思うけど、それでも現金が手に入るかどうかは、自給自足の人たちからすると大きなことなんだそう。

 僕が自分の店の分の魚を、タライに直接出していた時だった。
 頭の中にまた、【スキルがレベルアップしました】、という文字が浮かんだ。
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