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第1部

第10話 サウナリゾートの楽しみ方①

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 入る前に水を飲んで貰ってから、ベルエンテール公爵、ルクシャ、ガリウスがサウナに入る。
 日本の公衆浴場では、子どもがサウナに入るのは危険として、断られることも多いが、本場フィンランドでは、普通に子どもたちも入る。
 子どもは大人ほど体温調節機能が成長していないので、特に5歳以下だと、確かにサウナの影響を受けやすい。
 体重に対する体表面積の比率が大きいことと、皮膚が薄いこともあり、早く深部体温が上昇するのだ。

 公衆浴場などは、少し風呂の温度を高めに設定していることが多い。大人には丁度いい温度だが、それを熱いと言って嫌がる子どもが多いのはその為だ。
 だから大人程長く入ってはいけないし、子どもの様子をきちんと大人が見ながら入る必要がある。
 そこに気を付ければ、ルクシャの年齢でも充分にサウナは楽しめるのだ。
 俺は、熱いな、嫌だな、と少しでも感じたら無理をしないこと、そう感じたなら、すぐにサウナから出て、水分を取りながら川に浸かること、とルクシャに言い聞かせた。

 3人が入って暫くすると、アントが服を着たままサウナに入る。あれからすっかりサウナにはまったアントは、このサウナの熱波師になっていた。
 まずは柄杓でラヴァロックに水をかけ、水蒸気を発生させる。ロウリュ、またはロウリュウと呼ばれ、体感温度を上げ、発汗作用を促進させる効果がある。
 これが以外と難しい。勢いよくかけると跳ねてお客にかかってしまうし、手前から奥にかけようとすると、手前に蒸気が残るので火傷する可能性がある。
 静かに回しながらかけるのがコツだ。

 水をかけ終えると、部屋全体に空気が行き渡るように、タオルをくるくると回したり、扇いだりして熱波を撹拌する。
 サウナ室はそんなに広くないので、肘をたたんでぶつからないようにする必要がある。
 基本は頭から顔にかけて仰ぐと、上半身すべてに蒸気を浴びる事が出来る。
 プロサウナーと呼ばれるサウナ好きは、人気の熱波師の入る日には必ず集まると言われるくらい、重要な仕事だ。
 実際リピーターの多くは、アントの予定を確認してから来る程、人気の熱波師になっていた。

「ム……。」
「これは……、なかなか熱いですね。」
 慣れない熱波師の技に、始めは困惑する。だが、水風呂と外気浴を繰り返すうちに、サウナ好き程これにハマってしまうのだ。
「僕もう無理~。」
 ルクシャがサウナから出てきて床によつん這いになる。皆から、無理するな、と朗らかに笑われながら川に浸かる。
「あ……でも、これ気持ちいいかも。」
 デッキチェアで外気浴をしながら、くんだばかりの冷たい水を飲むルクシャは、風に肌を撫でられながら目を細めた。将来はサウナ好きに成長するかもな。

 ガリウスは2セットを終え、一足先に休憩室で休んでいた。ベルエンテール公爵は、初めてにも関わらず、4セットを終えたあと、デッキチェアでくつろぎながら俺に言った。
「鼻と口から冷気がフワッと抜けてゆく感じが、とても心地よいな。
 日頃の疲れが共に抜けて行くようだ。」
「それが“ととのう”ってことだ。
 いずれ食堂で、スイートビーの蜂蜜酒を出す予定なんだ。
 良かったらまた来てくれよ。」
「それは楽しみだ。ぜひまた寄らせていただこう。」
「待ってるぜ。」
 ベルエンテール公爵は穏やかに目を細め、流れる川を見ていた。

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