ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ

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~番外編~

ろうちゃんとおでん

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幼稚園児優月と朧のお話。
三人称です。
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 それは九月初旬の、ある土曜日のこと。
 その日、優月は午前中から朧のところに預けられていた。
 今日は両親ともに用があって、朧が子守りを買って出てくれたのである。ちなみに幸村も優月と一緒に遊びたがっていたが、実家に呼び出されていて帰りは夜になるらしい。その代わり、夜は正宗や千鶴も交えて五人で食事をすることになっている。
 優月は車で迎えに来てくれた朧と、マンションに着く前にコンビニに寄ってお菓子と飲み物を買い込み、部屋に入ってからは一緒にDVDを見たりお絵かきをしたりして遊んだ。久しぶりに大好きな朧と遊べて、優月は終始ニコニコとご機嫌さんだった。


「……お、もう昼か。優月、今日は外に食べに行くぞ。何食べたい?」
 一緒になって遊んでいるうちに時間はあっという間に過ぎ、気付けば時計の針が十二時を過ぎていた。
 朧が優月に昼食のリクエストを尋ねると、優月はしばし考え込んでから、意外なメニューを口にする。

「コンビニのおでん!」

「……は?」
 てっきりファミレスのハンバーグかオムライスだろうと思っていた朧は、「どうしてまたおでんなんだ?」と疑問を抱く。しかも、コンビニの。
 暑さも和らぎ、ちょっと涼しい風が吹くようになったとはいえ、まだ九月である。おでんには少し早いのではないか? 
 そう思ったが、そういえば今日寄ったコンビニにはすでにおでんが並んでいた。思い返せば、優月は会計待ちの間じっとおでんを見ていた気がする。
(……あれで食べたくなったのか……)
「おでんか……。お前が食べたいなら、実家の板前に頼んで作ってもらうか?」
 今から連絡して作ってもらうとして、少し待ってもらうことになるがコンビニのおでんよりは美味いだろうと朧は思う。なんなら、夜の食事会を実家の料亭にしてみんなでおでんを食べるのもいいだろう。
 ちなみに、彼はコンビニのおでんを食べたことがない。一流の板前の味に慣れている彼にとって、おでんはコンビニで買うものではないのだ。
 だが、優月はふるふると首を横に振った。
「んーん! コンビニのおでん、たべたい! あのね、ろうちゃんちのごはんもだいすきなの。でもコンビニのおでんもとってもおいしいんだよ! たまごとー、じゃがいも!! あと、あとー」
「わかった。じゃあコンビニ行くか」
「うんっ! ありがとう! ろうちゃん!!」
 なんだかんだいって、優月に甘い朧である。
 優月が食べたいのならと、結局朧は優月の手を引いて、近所のコンビニに向かうことにした。

 歩いて数分の距離にあるコンビニにも、レジの所におでんが並んでいた。
「どれがいい?」
 朧に聞かれ、優月は迷いながらも「たまごと~、じゃがいもと、あとロールキャベツとソーセージ!」と四種のネタを選んだ。
 そして朧も、「大根、こんにゃく、はんぺん、がんも、牛すじ」と五種選ぶ。
「おでんだけじゃなんだから、肉まんも食うか?」
「くうー!」
 肉まんはサイズが大きかったので、二人で一つを分けることにした。
 あとは飲み物も買って、マンションには帰らず近くの公園で食べることにする。優月が外で食べたいと言ったのだ。
「熱いから気をつけろよ」
「うん!」
 公園のベンチに並んで座り、朧は優月の分のおでんを容器の蓋に取り分けてやる。そして割り箸も割ってから手渡してやった。
「ありがとうございます。いただきます」
 優月はちゃんと手を合わせてから、まずはとじゃがいもを崩し、ぱくりと口にする。
「んー! うまー!!」
(千鶴にそっくりだな)
 くすりと笑って、朧も大根を口にした。
「……意外に、イケるな」
 ダシがしっかり沁み込んだ大根。
 コンビニのおでんなんてと思っていたが、意外に美味しかった。
 感心する朧に、優月は何故か得意気になって「でしょー!」と言う。
「あのねー、あったかいのはねー、ちょっとさむいところでたべるともっとおいしいんだよって、おかあさんいってたの!」
 公園には涼しい風が吹いている。そんな中で食べる温かいおでんは、確かに美味しく感じられた。
「そうだな」
(……今度、他のも買ってみるか……)
 コンビニおでんがちょっと気になりだした朧だった。
「むふー。ぼく、おでんだーいすき! にくまんも!」
「ああ、肉まんも今出してやるよ」
「ありがとう!」
 半分に割った肉まんの片方を受け取り、優月は満面の笑みを浮かべる。
「あのね、それからね、だいすきなひととたべるごはんは、とってもとってもとーってもおいしいんだよっ」
 だから今朧とこうして一緒に食べているごはんも美味しいのだと、優月は言いたいのだろう。
「それも千鶴に教わったのか?」
「うん。あと、ぼくもそうおもうの。だから、えーと、ぼくのろんじなの!」
「……ろんじ……? もしかして、持論っていいたいのか?」
「そう! それ!!」
「ははっ。ちょっと惜しかったな」
「てへー」
 確かに、優月と食べるごはんは楽しくて、いつも以上に美味しく感じられる。
 朧は可愛くて仕方がない優月の笑顔を見ながら、このささやかな幸福を噛み締めるように、はんぶんこの肉まんにぱくりと齧りついた。



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コンビニおでんを見かけて食べたくなって思いついたネタです。
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