88 / 126
~番外編~
相合傘
しおりを挟む
こちらはツイッターにて「1RTで物書き歴2RTで使ってる道具3RTで書くときのこだわり4RTで一番書くのが好きなジャンル5RTで書いた作品数6RTで書くペース7RTでプロット披露8RTでキャラ設定披露9RTで物書きの心得10RTで最初にリプくれたあなたに短編書きます」というのをやりまして、リクエストいただいて書いたSSです。先にブログで公開しておりました。
幸村と朧が相合傘をするお話です。短め。
********************************************
その日、バーで遅い夕食を済ませた幸村と朧は、店を出て初めて雨が降っていることに気付いた。
店に入った時には晴れていたし、地下にある店には雨音も届かなかったのだ。
「うわ……めんどくせぇ……」
今日は酒を飲むため、車ではなく電車で来た。だがこの店から駅までは少し距離がある。タクシーを呼ぼうにも店の前は小さな路地になっていて入って来れないし、かといってタクシーを拾える場所まで行こうものなら確実に濡れ鼠になる。
こんなことなら、このバーでメシが食いたいなんて言うんじゃなかった。朧はそう、鬱陶しげに雨空を見上げる。
「大丈夫だよ、朧。そこにコンビニがあったからさ、俺ちょっと行って傘買って来る!」
「あ……って、早ぇよ」
言うなり、幸村はこの雨の中を近所のコンビニまで駆けていった。
コンビニに行くならついでに買ってほしいものがあったのに……と思いつつ、朧は一人、バーの入口で雨宿り。
そして数分後、幸村はビニール傘を差して戻って来た。だが、その手にはもう一本の傘が無い。
「……ごめん。傘、これ一本しか残って無かったぁ……」
「…………」
「朧、これ使っていいよ」
幸村はそう言って、朧に自分が差していた傘を渡す。だがこれ一本しかないのだから、朧が使えば幸村が濡れるだろう。
朧は何か言いたげな目で幸村をじっと見る。その視線に幸村は困ったように頭を掻き、「気にしないで良いんだよ」と言った。
「なんで?」
「え?」
「なんで俺だけ? 一緒に使えばいいだろ?」
どうして「俺だけ使って真は使わない」という選択肢になるのかわからないと、朧は首を傾げる。
「えっ! い、いいの?」
「別にいいよ。それに、俺だけ傘差してて隣にずぶ濡れのお前が歩いてる方が感じ悪いだろうが」
「……た、確かにそうかも……」
「だからほら、お前が持てよ。お前の方が背、高いんだから」
「朧……」
幸村は「ん……」と突き返された傘の柄をぎゅっと握る。
てっきり、「俺が使うからお前は濡れて帰れ」とか、「男二人で相合傘とか見られたくねーんだよ」とか言われると思っていたのに、自分から「相合傘しよう」なんて言われるなんて……!!(正確には、そんな可愛い台詞は言われなかったけれど)
最後の一本で他に選びようの無かった傘は、男二人で使うには少々小さ過ぎた。柄を握っている幸村は身を縮込ませつつも、極力朧が濡れないように傘を彼の方に向けている。そのせいで自分の右肩が濡れてしまっているけれど、気にしなかった。幸村にとっては、自分が濡れることよりも朧が濡れてしまうことの方が嫌なのだ。
「……お前、濡れてんじゃん」
ふと隣の幸村に視線をやった朧が、肩をびしょびしょにしている恋人の姿に「なにやってんだ下手くそ」と声を上げた。
「なんで傘差してんのに濡れてんだ。馬鹿か」
朧は傘の柄を握ると、二人ともが均等に傘の中に入れるようにする。それから、幸村の左腕にぎゅうっとしがみついた。身を縮込ませ密着したおかげで、二人とも傘の中に納まり、濡れずに済む。
「……よし」
満足気にこくんと頷く朧の、その仕草が稚くて、幸村の胸がどきりと高鳴る。
「これでもう濡れねーな」
得意そうに言って、それから幸村を見上げ、彼は微笑む。
「な?」
「う、うん。そうだね」
(朧……!)
なんなの!? 今日はデレの日なの!? と幸村は思う。
(……どうしよう。俺の恋人、超可愛い……)
――それは雨がもたらした、束の間の幸福な時間。
幸村と朧が相合傘をするお話です。短め。
********************************************
その日、バーで遅い夕食を済ませた幸村と朧は、店を出て初めて雨が降っていることに気付いた。
店に入った時には晴れていたし、地下にある店には雨音も届かなかったのだ。
「うわ……めんどくせぇ……」
今日は酒を飲むため、車ではなく電車で来た。だがこの店から駅までは少し距離がある。タクシーを呼ぼうにも店の前は小さな路地になっていて入って来れないし、かといってタクシーを拾える場所まで行こうものなら確実に濡れ鼠になる。
こんなことなら、このバーでメシが食いたいなんて言うんじゃなかった。朧はそう、鬱陶しげに雨空を見上げる。
「大丈夫だよ、朧。そこにコンビニがあったからさ、俺ちょっと行って傘買って来る!」
「あ……って、早ぇよ」
言うなり、幸村はこの雨の中を近所のコンビニまで駆けていった。
コンビニに行くならついでに買ってほしいものがあったのに……と思いつつ、朧は一人、バーの入口で雨宿り。
そして数分後、幸村はビニール傘を差して戻って来た。だが、その手にはもう一本の傘が無い。
「……ごめん。傘、これ一本しか残って無かったぁ……」
「…………」
「朧、これ使っていいよ」
幸村はそう言って、朧に自分が差していた傘を渡す。だがこれ一本しかないのだから、朧が使えば幸村が濡れるだろう。
朧は何か言いたげな目で幸村をじっと見る。その視線に幸村は困ったように頭を掻き、「気にしないで良いんだよ」と言った。
「なんで?」
「え?」
「なんで俺だけ? 一緒に使えばいいだろ?」
どうして「俺だけ使って真は使わない」という選択肢になるのかわからないと、朧は首を傾げる。
「えっ! い、いいの?」
「別にいいよ。それに、俺だけ傘差してて隣にずぶ濡れのお前が歩いてる方が感じ悪いだろうが」
「……た、確かにそうかも……」
「だからほら、お前が持てよ。お前の方が背、高いんだから」
「朧……」
幸村は「ん……」と突き返された傘の柄をぎゅっと握る。
てっきり、「俺が使うからお前は濡れて帰れ」とか、「男二人で相合傘とか見られたくねーんだよ」とか言われると思っていたのに、自分から「相合傘しよう」なんて言われるなんて……!!(正確には、そんな可愛い台詞は言われなかったけれど)
最後の一本で他に選びようの無かった傘は、男二人で使うには少々小さ過ぎた。柄を握っている幸村は身を縮込ませつつも、極力朧が濡れないように傘を彼の方に向けている。そのせいで自分の右肩が濡れてしまっているけれど、気にしなかった。幸村にとっては、自分が濡れることよりも朧が濡れてしまうことの方が嫌なのだ。
「……お前、濡れてんじゃん」
ふと隣の幸村に視線をやった朧が、肩をびしょびしょにしている恋人の姿に「なにやってんだ下手くそ」と声を上げた。
「なんで傘差してんのに濡れてんだ。馬鹿か」
朧は傘の柄を握ると、二人ともが均等に傘の中に入れるようにする。それから、幸村の左腕にぎゅうっとしがみついた。身を縮込ませ密着したおかげで、二人とも傘の中に納まり、濡れずに済む。
「……よし」
満足気にこくんと頷く朧の、その仕草が稚くて、幸村の胸がどきりと高鳴る。
「これでもう濡れねーな」
得意そうに言って、それから幸村を見上げ、彼は微笑む。
「な?」
「う、うん。そうだね」
(朧……!)
なんなの!? 今日はデレの日なの!? と幸村は思う。
(……どうしよう。俺の恋人、超可愛い……)
――それは雨がもたらした、束の間の幸福な時間。
10
お気に入りに追加
888
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
私はオタクに囲まれて逃げられない!
椿蛍
恋愛
私、新織鈴子(にいおりすずこ)、大手製菓会社に勤める28歳OL身。
職場では美人で頼れる先輩なんて言われている。
それは仮の姿。
真の姿はBL作家の新藤鈴々(しんどうりり)!
私の推しは営業部部長の一野瀬貴仁(いちのせたかひと)さん。
海外支店帰りの社長のお気に入り。
若くして部長になったイケメンエリート男。
そして、もう一人。
営業部のエース葉山晴葵(はやまはるき)君。
私の心のツートップ。
彼らをモデルにBL小説を書く日々。
二人を陰から見守りながら、毎日楽しく過ごしている。
そんな私に一野瀬部長が『付き合わないか?』なんて言ってきた。
なぜ私?
こんな私がハイスぺ部長となんか付き合えるわけない!
けれど、一野瀬部長にもなにやら秘密があるらしく―――?
【初出2021.10.15 改稿2023.6.27】
★気持ちは全年齢のつもり。念のためのR-15です。
★今回、話の特性上、BL表現含みます。ご了承ください。BL表現に苦手な方はススッーとスクロールしてください。
★また今作はラブコメに振り切っているので、お遊び要素が多いです。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる