ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ

文字の大きさ
83 / 126
~番外編~

クレス島で新生活!

しおりを挟む
こちらはブログ二周年記念リクエスト企画のSSとしてブログで公開していたお話です。
『ヒヨクレンリ』と『旦那様は魔法使い』のコラボ。パラレル設定で、柏木家の三人がクレス島に引っ越してくる……というお話です。
※『旦那様は魔法使い』未読の方には不親切な内容となっております。ご注意ください。
********************************************



「ん……」
 カーテンの隙間から差し込む光の眩しさに、私はもぞ……と身動ぎした。
「……んん~、ふぁあ……」
 目を瞑ったまま、大あくびを一つ。
 もう朝……かあ……
 私はもそもそと起き上がり、んんー!! と大きく伸びをした。
 そして傍らの……同じ寝台で眠る家族の顔を見る。
 私の隣には息子の優月。そして優月を挟んだ反対側には旦那様の正宗さんが、布団に包まってくうくうと眠っている。
 ふふっ。二人ともぐっすりさんだ。昨日は引越しの後片付けが遅くまでかかっちゃったからな~。
 この春から、正宗さんがここクレス島の学校で教鞭をとることになり、一家三人引っ越してきたのです!
 海の傍に住むのは初めてで、優月なんかは船旅も嬉しかったみたいで、夏になったら海でいっぱい泳ぐんだ~とはりきっております。
 それに新しいお家が煉瓦造りで可愛くってね! もう、優月と二人ではしゃいでしまいました。キッチンもとっても可愛いんだよ!! このお家を用意してくれた領主様に感謝です!!(あ、正宗さんはこの島の領主様の依頼で赴任することになったので、新しい家の準備やら引越しの手配まで、領主様が力を貸して下さったのです)
 今までとは違う環境での生活……は不安もあるけれど、同じくらい……ううん、それ以上に楽しみだ。
 これからどんな生活が待ってるんだろうなあ……
「…………」
 ……でも、新生活を始めるその前に……
 わ、私ももうちょっとだけ……寝ちゃおうかなっ。
(寝ちゃいます!)
 二度寝の誘惑に勝てず、私は再びお布団にもぐりこんだ。
「むにゃ……」
 だってやっぱり船旅で疲れもあるし~、引っ越しも大変だったし~と自分に言い訳し。
 そして結局、私達三人はお昼近くまで寝過してしまったのでした。



「えっと、確かこの辺に……」
 昼近くまでぐっすり眠った後、ぐうぐう鳴るお腹を抱えて私達三人は苦笑い。
 昨日の夜も軽く済ませたからね~。お腹ぺこぺこです!!
 急いで寝巻を着替え、街に繰り出しました!
 ……実はうっかりして、今朝の分の食材を買うの忘れてたんだよね……
 だからまずはお店で遅い朝食兼昼食を食べて、色々買い出し! 食材だけじゃなくて、生活用品も買わなくっちゃ。
 というわけで、親子三人手を繋いで街を歩いています。
 クレス島の街は坂になっていて、段状に色んなお店や家々が建ち並んでいる。
 往来は人々で賑わって活気があって、観光客らしい人達もたくさんいた。
 私達が目指しているのは、『アニエスのパン屋』というお店。その店名の通り、アニエスさんという女性が営んでいるパン屋さんなんだって。昨日クレス島の港から家まで家具や荷物を運んでくれた船乗りさんが、ここのパンは絶品!! っておススメしてくれてね。
 なんでも店内にカフェスペースもあるとかで、それじゃあさっそくここで食事にしましょうか! って。
「楽しみですねえ、正宗さん」
「そうですね」
「ぼくもたのしみー!」
 期待を胸にお店を探す。慣れない道にちょっと戸惑ってしまったけれど、街の人が声を掛けてくれて、道を教えてくれた。昨日の船乗りさんもそうだけど、この街の人は明るくって親切だ。
 ますます、「この街に来れて良かった。これから暮らしていくのが楽しみだ!」って気持ちが強まる。
 そして……
「わあああ……!」
 ようやく辿り着いた、『アニエスのパン屋』さん!!
 可愛い外観!! それに、辺りに漂うパンのいーい匂い!! 
 ついついつられて、お腹がグウと鳴ってしまう。
 はっと顔を赤らめたら、隣で優月のお腹も小さくクウ、と鳴った。
 ううう、こういうところも私そっくり!!
 そしてそんな私達の様子に、正宗さんが堪え切れないというように、ふっと笑いだした。
「待ちきれないみたいですね。さあ、入りましょうか」
「は、はい……」
「はーい!」
 面目次第もございません!!
 でもお腹は正直に、パンを求めているのです!!

「いらっしゃいませ!」

 店内に入るなり、パンを棚に並べていた女性が元気よく挨拶をしてくれた……って!!
 び、美女!! すごい!! む、胸おっきい美女だ!!
 お顔立ちは清楚で雰囲気はほんわか~っとしてて、癒し系の美女!!
「ようこそ、『アニエスのパン屋』へ」
 こ、この人がアニエスさん……なのかな。そういえば船乗りさんが「店主のアニエスはこの島一の美人」って言ってたような……!!
 ほわぁあああ!! が、眼福……!!
「わああああ」
 隣では優月も私と同じような顔で美女に見惚れていた。
 幼子にも通じる美貌!! 目が幸せです!!
「おかあさんよりおっきい!」
「こ、こら!」
 ちょ!! おま!!
 どこを見ているのだお前は!! いやわかっているけれど!! わかっているけれどそれ言われたらお母さん傷付くから!! 自分のささやかな胸に涙が出ちゃうから!!
「あらあら……。ふふっ、可愛いお子さんですね」
 美女はふんわりと微笑んで、優月に視線を合わせるように腰を屈めると、なでなでと優月の頭を撫でてくれた。
 優月はもう、顔がふにゃーってなってるし!! デレッデレだな!!
「クレス島へは観光で?」
「い、いえ。昨日引っ越してきたんです。夫が今度ここの学校で教鞭をとることになりまして」
「まあ! 先生でいらっしゃるの? それならウチの子ども達がお世話になりますね。よろしくお願いします」
 お子さんがいらっしゃるのか!! 見えないな~!! 
「そうなんですか。こちらこそ、よろしくお願いします」
 とは正宗さん。
 そうして、私達が朝食を食いっぱぐれて食事をしにここへ来たことを話すと、笑顔でカフェスペースのテーブル席に案内してくれた。
 美女はやっぱり、ここの店主のアニエスさんだった。旦那様は魔法使い様なんだって! 今まで住んでいた街には魔法使い様はいなかったから、優月は大はしゃぎ! 
 おまけに……
「いらっしゃいませ。こちらがメニューになりますにゃ」
「店内のパンもご自由にお選びいただけますにゃ」
 テーブルにメニュー表を持ってきてくれた、猫耳猫尻尾付きのイケメン二人!! この二人はその魔法使い様の使い魔猫、なんだとか!!
 ギャルソン服がとってもよく似合っている、ええっと……耳と尻尾から察するに最初にメニューを渡してくれた子が灰色猫さんで、パンのことを教えてくれたのが茶色猫さん、かな。
 こんなイケメンが接客してくれるんだもん、流行るだろうな~。


「ふおおおおおお!!」
「ふおおおおおお!!」
 ついつい喜びの声を上げる私と、それを真似て声を上げる優月。
 私達の目の前には、美味しそうなランチプレートが……!!
 瑞々しい葉野菜のサラダと、ローストビーフ!! ぱくりとかじりつくと、う、うううう!! うまぁああああああ!!
「おいひいれふ~!!」
「おいひいね!!」
「……ん、本当に美味しいですね」
 カウンターの向こうの厨房に立っているブチ猫さんが作ったというローストビーフがとっても美味しい!!
 そ、それに……!!
 パン屋のお店の方で選んでバスケットに持ってもらった、焼き立てのパン……!! こ、これもすんごい美味しいよ~!!
 これは流行るわ……!! 店員さんがイケメンでその上料理がこんなに美味しいんだもん!! 私も通う!! これから通い詰めちゃう!!
「こちらのライ麦パン、スライスしてきましょうか? サラダとローストビーフを挟んでサンドイッチのように食べていただきますと、また美味しいですにゃ~」
「お願いします!!!」
 茶色猫さんの申し出に、私は二つ返事で頷いた。
 だって絶対美味しいもの!!

「いらっしゃいませ!」
「……どうも」

 んん? 優月と歳の近そうな、とっても可愛い女の子と男の子が私達のテーブルにやってきた。この子達、アニエスさんに似ているような……あっ! もしかして、さっきアニエスさんが言ってた「ウチの子ども達」って……
「はじめまして、ようこそクレス島へ! 私はステラ、こっちはルイス」
「お母さんから、あなたが新しい先生だって聞いて……」
 あっ、お店の方でアニエスさんがニコニコ笑っている!
 やっぱりこの子達ってアニエスさんのお子さんなんだ! もしかして、双子なのかな?
「挨拶に来てくれたの?」
 私がそう尋ねると、ステラちゃんとルイスくんはこくんと頷いた。
「「これからよろしくお願いします、先生」」
 はあああああ、良い子達……!!
 正宗さんは笑みを深めて、「こちらこそよろしくお願いします」と言った。
「おお~! ルイスとステラの先生!! これからもよろしくにゃ~!!」
 そう言って、厨房に立っていたブチ猫さんがトレイを手にやって来た。
 それに載っていたのは……
「これ、オレ達からサービスにゃ!!」
 美味しそうなアップルパイ!!
 それにバニラアイスが添えられていて、たまらず優月が「きゃ~」と歓声を上げる。
「二人をよろしくにゃ~。それから、クレス島を好きになって欲しいにゃ」
 も、もうだいぶ大好きですが!! 
 ますます好きになっちゃう~!! のは、美味しい料理のせいだけじゃなくって……
 こうして歓迎してくれるひと達の気持ちが、とっても温かいから、なんだろうな。
「ありがとうございます!」
 私達はランチをぺろりと平らげた後、美味しいデザートを堪能してお腹いっぱい胸いっぱいになった。


 それから、優月はステラちゃんとルイス君に「一緒に遊ぼう!」って誘ってもらって、遊びに出かけていった。街の遊び場を案内してもらうんだって。早速お友達ができてよかったね!!
 そして私と正宗さんは二人で買い物をして、今はちょっと休憩!!
 見晴らしのいい広場にあるベンチに座って、街並みや海を眺めています。
「はあ~。とっても良い風……。良い街ですねえ、正宗さん」
「……ええ、本当に」
 それからしばらく間を開けた後、正宗さんは「……ほっとしました」と言った。
「え?」
「……今回の赴任は急な話でしたし、あなたや優月に無理をさせてしまったと……」
 だからせめて、この街が私の気に入る街で良かった……と、正宗さんは言う。
「そ、そんな!」
「千鶴さん、前の街も好きだったでしょう? 友達やお義父さん、お義母さん、雲雀君とも離れてしまうことになりますし……、申し訳ないと思っていたんです」
 そ、そうだったの!?
 そりゃあ、以前住んでいた街も大好きだし、家族や友人と離れるのは寂しいけれど、でも……!!
「……お馬鹿さんですねえ、正宗さん」
 私はぎゅーっと、正宗さんの腕にしがみついた。
 正宗さんが申し訳なく思うことなんて、ないんですよ!
「……私が居たいのは、帰りたいのは、あなたと同じ家なんです。だから、どこにだって一緒について行きますよ!」
「千鶴さん……」
「私、楽しみで仕方ないんですよ。この街で、正宗さんと優月と一緒に暮らしていくの。ね? 正宗さんは楽しみじゃないですか?」
「……そう、ですね。正直、とっても楽しみです」
「でしょう?」
 ふっと、正宗さんが笑う。私もへへへっと、笑ってしまう。
 色んなこと、したいですね。この街で……
 あなたと、優月と、三人で!!


「あっ! そうだ正宗さん!! 帰りにまたアニエスさんのお店に行きましょう!! パンを買うの忘れてました!! 明日の朝もアニエスさんのパンが食べたいです~!!」
「……ふっ。そうですね、そうしましょうか」

 だって、アニエスさんのパンはとっても美味しくって……
 そう! 『幸せの味』がするんだ!!



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...