ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ

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~番外編~

猫のじゃれあい

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 窓の外では、しとしとと雨が降っている。
 ああ、またこの季節がやってきてしまった。
 そう……癖っ毛の天敵! 梅雨!! が。

 梅雨は苦手、です。じめじめと蒸し暑いし、お洗濯物は外に干せなくなるし、薄暗いお天気が続くと気持ちまで落ち込んじゃう。
 なにより、湿気が……ね! 厄介なのですよ。
 私の髪は少し癖っ毛である。だから湿気が多い日は、髪がこう……ぼんっ!! とね、ボリュームアップしたり、くるくるっと変な癖がついたりして、大変なのだ。
「うう~」
 今日も今日とて私は、小雨のふる日曜の朝(そう! せっかくの日曜日なのに雨……!!)に、鏡台の前に座ってブラシ片手に自分の髪と格闘していた。
 朝起きたら寝ぐせがね! 酷いことになっていてね!! 
 何度も梳かしている内にだいぶおさまってはきたんだけど、右の方の髪が一房だけクルンと毛先が巻かれている。それがぴょーんと浮いていて、いわゆるアホ毛状態。さっきからブラシでなんとか直そうとしているんだけど、ちっとも言うことをきいてくれない。
 おまけに、今日も湿気で全体的に髪がボリュームアップしていて、頭がおっきくなったみたいで……憂鬱だ。
「はあ……」
 もう、シャワーを浴びて来ようかな……
 一度濡らしてからドライヤーを使ってスタイリングした方がマシかも。面倒だなあ……
 ああでも、そろそろ……
「髪、切ろうかなぁ……」
「切るんですか?」
 ぽつりと呟いた声に、ベッドの上で文庫本を読んでいた正宗さんが反応した。
 正宗さんは浴衣姿のまま、朝食前のひと時を本を読んで過ごしていらっしゃったところ。
 相変わらず、合わせ目からちらりと覗く胸板がセクシーであります!!(どこ見てんだお前)
「はい。これから暑くなりますし……」
 いつも同じくらいの長さにしている髪も伸びてきて、そろそろ切り時かなぁって。
 ついでに薄く梳いてもらって、軽くしたい。
 あ……! いっそショートにしちゃおうかな! 思いきって!!
 ……ん、でもなあ……似合うかなぁ……
「そういえば、千鶴さん、髪を長く伸ばさないんですね」
「あはは……。いつもこのくらいの長さまで伸びると、切りたくなっちゃうんですよ」
 鏡には、ベッドの上の正宗さんがまじまじとこちらを見つめている姿が映っていた。
 う……。髪を梳かしているところをじいっと見られるのって、ちょっと照れるな……と思いつつ、私はアホ毛との戦いを再開させる。
 スプレータイプのスタイリング剤をしゅっと振りかけて濡らし、ブラシで梳くが、すぐにまたくるん!! って。どんだけ頑固なのこいつ……!! ハードワックス使えってか!!
「肩にかかるまで伸びると、癖が酷くなるんです。それが嫌で……」
 外ハネが酷くなるんだよねえ……
 長いのも憧れるんだけど……。思いはするんだよ? 何度もさ。「今度こそ伸ばそうかな!!」って。
 でも毎回、途中で断念しちゃうんだよなあ……
「それに、なんだかんだで今の髪型が一番気に入ってますし。あ、でも今回はショートにしてみようかな、とも思ってて」
 ブラシを置いて、私は自分の髪を手で後ろに纏めてみる。ショートカットにしたらこんな雰囲気かなって、鏡をまじまじ。
 うーん……微妙? よくわからん。

「これくらい……ですか?」

 鏡を前にうんうんと唸っていたら、突然髪に正宗さんの手が触れた。
 い、いつの間に背後に……!?
 そしてそっと私の髪を撫でると、まるで美容師さんが「これくらい短くする?」って見せてくれるみたいに、髪を持って毛先の位置を変えてくれる。
 な……なんかめっちゃドキドキするんですけど……!!
「は……はい……!」
 正宗さんの手で、私の毛先はちょうど耳の下くらいまでに合わさっていた。これくらい短くしたら、楽そうだなあ……
 髪を洗った後もすぐ乾くよねぇ……。夏はドライヤーの熱が苦痛で……
「短いのも可愛いですね」
「うひゃっ! か、かわ……!?」
 おおおっとおお!! 不意打ちで囁かれ、変な声出た……!!
 し、しししししかも正宗さんの指先がゆっくりと私の髪を梳いて、耳にかけてくれる。その手付き……エロ……げふん!! つ、艶っぽい……です。
「……でも、俺もいつもの千鶴さんの髪型が好きですよ。似合っています」
「!! あ、ありがとうございます……」
 って、言いながらも私の頭を撫で撫で……なにゆえ!?
「柔らかくて気持ちいですね」
「あう……」
 そ、そんな、にこにこ上機嫌で……!! そんな上等な髪じゃありませんよ!?
 私の髪なんかより、正宗さんの髪の方がずっと綺麗。
 真っすぐで、張りと艶があって、綺麗な黒で……
「……千鶴さん?」
「はっ!!」
 や、やばい……!! 私ったら思わず振り返って、正宗さんに手を伸ばしていた……!! 破廉恥!!!!
「あ……」
 かああっと真っ赤になる私に、正宗さんは優しく目を細めた。
 そして身を屈めると、私の手をとって、自分の頬に触れさせる。
「!!」

「……触りたくなった……?」

 ぷぎゃあおおおおおおおおおおおうっふ!!!!
 その低音ボイスはヤバイ!! ヤバイ!! 
 なんで朝から色気全開なんだろうかこの人は!! もう!!!!
 なにも言えず赤面してふるふると震える私に、正宗さんは「ふっ」と噴き出して、笑い始めた。
「本当に、可愛い人ですね。千鶴さん」
「んなっ……!!」
「いくらでも触って良いんですよ? 俺も、触れたいです」
 そして正宗さんは、徐に私を抱き上げた。
「ひゃ……っ」
 ベッドの上にぽすんと落されて、向かい側に正宗さんも寝転がる。そしてくすくすと笑いながら、私の髪に指を通した。
 すこし節ばった長い指が、耳の上の髪をすっと撫でる。そして耳に掛けるようにしてから、ふにっと、耳たぶに触れる。
 触れられた耳が熱を帯びて、頬っぺたみたいに赤くなっているんじゃないかって、思った。
 ううう……、や、やられっぱなしやないかぁ……自分……!!(なぜ関西弁!!)
 負けじと(っていうのもなんかヘンだけど)私も正宗さんの髪に手を伸ばす。
 サラサラの黒髪は指通りも滑らかで、癖なんて一つもなくって、羨ましい。そして、き、気持ち良い……
「……ははっ、なんだかくすぐったいですね……」
「へへ……っ」
 正宗さんがそう、楽しそうに笑うから、私もなんだか楽しくなってきた。
 二人でくすくすと笑いながら、お互いの髪に触れあう。
 なーでなーでとすると、それに身を任せるようにして、正宗さんが目を細める。その仕草がまるで猫のようで、なんか可愛い。
「正宗さんが猫だったら、黒猫さんですね」
 真っ黒でしゅっとした、かっこいい猫さんだ。
 そう言ったら、「それじゃあ千鶴さんは、茶色くてふわふわの猫ですね」って言われた。
「うっ……」
 自分が言い出したことながら、恥ずかしいことを口走ってしまった……!!  
 赤面して言葉を詰まらせる私に、正宗さんはまたも「ぷっ」と噴き出す。
 ううううううう!!! 恥ずかしいよう!!!!
「……千鶴さん……」
「んっ」
 恥ずかしさにぎゅっと引き結んでいた口に、ちゅっと柔らかい唇が触れた。
 キスをされたんだと思った時にはもう、優しい眼差しが間近に迫っている。その瞳には、熱が籠っているように感じられた。
「正宗さん……。……ん……ぁ……」


 そして私達は、梅雨のある日。朝っぱらからその……にゃ……にゃんにゃん……!! し、したのでした!!




************************************************
今回は濡れ場なしですみません……!!
梅雨=髪がぼん! な話を書こうと思ったら最終的にこんなオチになりました。相変わらずな二人です。
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