ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ

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~番外編~

奥様の休日

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こちらは、前話『旦那様の休日』の千鶴視点のお話です。
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 ――ピピピッ ピピピッ ピピピッ

「うぁ……?」
 枕元で、朝を告げる目覚ましのアラームが鳴っている。
 むくりと起き上がった私は、音の出所――正宗さんのスマートフォンを手に取ると、いったんアラームを止めた。
「ふああああああ」
 大あくびと共に、伸びをひとつ。
 あー、良く寝た。目を擦りながら、私は傍らで眠る正宗さんに視線を移した。
「おおお……」
 珍しい……。結構大きくアラームが鳴っていたのに、正宗さんは微動だにせずすうすうと規則正しい寝息をたてている。
 それにしても……
「綺麗なお顔だなぁ……」
 私はしみじみ、正宗さんの寝顔に見入った。
 いつもは正宗さんの方が先に起きて私を起こしてくれることが多いから、こうしてじっくりと旦那様の寝顔を見つめる機会は早々ない。
 あ、やっぱり睫毛長い……。それに、どことなく疲れを感じさせる目元はちょっと……あの、色っぽいと言いますか……
 ……正直に言おう!! 萌えであると!! 
 仕事で疲れた三十代男性の色気、半端ないッス!!!!!
 私ははぁはぁと荒くなる息を押さえて、ゆっくりとベッドから降りた。
 今日は日曜日で正宗さんもお休みだし。こんな日くらい、自然に目が覚めるまでゆっくり寝ていてもらいたい。
「うーん……」
 でも、目が覚めて目覚ましが止まってたら「あれ?」って思うかなあ。私なら思う。寝ぼけて止めちゃったのかな、って。
 私は少し考えた後、自分のスマホを手に正宗さんにメールを送った。これなら、スマホを起動させた時メールに気付いてくれるよね。
「よし」
 メールを送り終えた私は、着替えを済ませて一階へと降りて行った。


 洗面所で顔を洗い、台所で朝食を作る。炊飯器には、昨日の夜にセットしておいたご飯が美味しそうに炊けていた。炊きたてのご飯って、お米がぴかぴかしてとっても美味しいよね!
 それからお味噌汁は……っと。今日の具は、んー、豆腐とわかめにしよう!! 
 お味噌汁を作り終えたら、今度はおかずだ。一人だから簡単に……ということで、目玉焼き。卵を一つにしようか二つにしようか迷って、結局二つ使っちゃう! それから、袋に二本だけ残っていたソーセージを焼いた。
 卵を焼いている間に、野菜室から取り出したレタスとキュウリ、ミニトマトを水洗い。レタスはちぎり、キュウリは斜めに薄く切り、ミニトマトはそのままで即席サラダの完成!! 自分の分と正宗さんの分と二皿作って、一皿はラップをして冷蔵庫へ。
「それから……っと」
 冷蔵庫から、納豆をワンパック取り出す。むふふー!! ご飯に、お味噌汁に、納豆!! これぞ日本の朝食って感じですよねー!! 納豆大好き!! 醤油をちょろりと垂らして、ねばねばになるまでかき混ぜる。そしてそれを、炊きたてのご飯の上にどぱーっと盛った。
「うまー!!」
 朝からモリモリご飯を食べて、今日も私は元気いっぱいです。


 朝食の後片付けをして、菜園に水を撒いて。さて今日は何をしようかと考える。
 正宗さんが起きてくる気配はまだ無い。うーん……お掃除……はいつもやっているし、なにより正宗さんが寝ていらっしゃるのに掃除機をガーガーかけるわけには……
 とりあえず、洗濯……かな。今日はお天気も良いし、朝の内に洗って干しておけば、夕方には乾いてくれそう。
 洗面所に行って、洗濯機の蓋をかぱりと開ける。二人暮らしだから、洗濯物の量はそれほど多くない。スイッチを押して、洗濯機が表示する通りの量の洗剤を入れたら、あとはお任せ。
 私はいったん二階に上がって、寝室を覗いてみた。
「……おお……」
 正宗さんはまだ爆睡されております。相変わらず麗しい寝顔ですじゅるり……ってよだれ!! よだれ垂れてる馬鹿!!
 私は慌てて口元を拭い、寝室を出て自分の部屋に入った。洗濯が終わるまでの間、ちょっとネットでも見てみようっと。
 パソコンを起動し、お気に入りフォルダの中からあるサイトへアクセスする。お菓子作りのレシピを紹介しているサイトさんだ。
「うわぁー、やっぱり美味しそう!!」
 最近、こういうお料理やお菓子のレシピをネットで見るのが好きなんですよ。美味しそうな写真を見ているだけで楽しいし、自分でも作ってみたりする。簡単なレシピもたくさん紹介されていて、メニューに困った時の心強い味方だ。
「ああー、これ、美味しそうだなぁ……」
 色々なお菓子を見ていて、ぱっと目に留まったのはオレンジのパウンドケーキ。
 こんがりと焼けたケーキの上にのった、輪切りのオレンジに心ときめく!!!
「材料は……と。……え! ホットケーキミックスならある!! オレンジもあるし……」
 デザート用に買っておいたオレンジがあるのですよ!! 他の材料も揃ってるし、作っちゃおうかなぁ……
 思っていたより、簡単そうだし……
 ……よし! 作ろう!!
「ふむふむ……」
 私はレシピを紙に書くと、パソコンを閉じた。


 お洗濯物を干し終わったら、さっそく台所でお菓子作りに挑戦!!
 綺麗に洗ったオレンジを輪切りにして、小鍋に入れて、水と砂糖と一緒に煮てコンポートを作る。
「ふわぁ……」
 爽やかな柑橘の香りと甘い香りが立ち昇り、私はうっとりと眼を細めた。これだけでもう美味しそう!!
 十分に煮詰まったら、火を止めて少し冷ます……って書いてあったな確か。
 コンポートを作り終わったら、今度は生地作り……の前に。
「……そろそろ、かなぁ」
 私はちら……と、台所の柱に掛っている時計を見た。時計の針はもうすぐ十一時にさしかかろうとしている。そろそろ正宗さんが起きてくるんじゃないかなーと思って、私はいったん作業の手を止め、コーヒーメーカーのスイッチを入れた。
 しばらくすると、注ぎ口からゆっくりとコーヒーの雫が零れてくる。甘い香りで包まれていた台所に、ほろ苦いコーヒーの良い香りが漂い始めた。
「うーん……」
 コーヒーの香り、すごく好きだなあ。飲む時には、ミルクや砂糖をたくさん入れてしまうんだけど。淹れたてのコーヒーの、この苦い香りがすごく好き。
 私はまたうっとりと、こぽこぽと音を立てるコーヒーメーカを見ながら目を細めた。
 そしてボウルに卵と油、水を入れて混ぜていたとき、階段を下りてくる音がして、正宗さんが台所に顔を出した。
「あ! おはようございます、正宗さん」
「おはようございます、千鶴さん」
 普段着のシャツにカーディガンを羽織った正宗さんは、やはりまだどこかお疲れのご様子。ここは私が……!! と、食卓の椅子を引いて食事の用意に取り掛かる。
 ……と、その前に。
 私は食器棚からカップを取り出すと、淹れたてのコーヒーを注いで正宗さんの前に置いた。私と違って、正宗さんはブラック派。砂糖やミルクは添えない。
「へへ。もうそろそろ起きて来られるかなって思って、用意してたんです。ドンピシャでした!」
我ながら、今日は勘が冴えてる!! ちょっと嬉しくなって、私は上機嫌に冷蔵庫を開けた。
 ええと、すぐに用意できるおかず……ということで、卵とベーコンを取り出す。卵ってホント便利!! それから、サラダの入ったガラスの器も忘れずに。
 食卓にランチョンマットを敷いて、サラダとドレッシングの瓶と、フォークを置いていく。
「お米とパン、どっちがいいですか?」
 炊き立てのご飯がおススメだけど、一応パン屋さんで買った食パン(厚切り!)もありますよ~。でももしパンなら、お味噌汁よりスープの方が良いかなあ? インスタントのカップスープならすぐ出せます!
「それじゃあ、……米で」
「はい! 卵は、目玉焼きとスクランブルエッグ、どっちにします?」
「目玉焼き、を半熟でお願いします」
「わかりました! 半熟とろとろ、ですね」
「はい」
 半熟とろとろの目玉焼き、美味しいですよね~!! よし、張り切って作るぞぅと、私は思わず「了解です」と敬礼してしまう。なんだろう、ちょっと楽しい。
 旦那様に食事を作る。そんな当たり前のことに幸せを感じながら、私はフライパンで卵とベーコンを焼き、隣のコンロで作っておいたお味噌汁を温め直した。
(……うん)
 蓋をしたフライパンの中では、卵が良い感じに焼けている。あとは余熱で……とコンロの火を止め、正宗さん用のお茶碗に炊飯器からご飯を持った。気持ち多めなのは、サービスです!!
 ランチョンマットの上にお箸を置いて、ご飯とお味噌汁も並べていく。
「お待たせしました~」
 そして最後に、目玉焼きとベーコンを盛ったお皿を置いた。
 正宗さんは箸をとると、「いただきます」と両手を合わせる。
「……ふう」
 まずはお味噌汁のお椀を手に取り、一口すする。正宗さんはほっと息を吐いて、
「美味しいです」
 と仰った。
 うううううううううう嬉しいいいいいいいいいいいいいいい!!!
 思わずにこにこしちゃって、「嬉しいです」と言ってしまう。だって、本当に嬉しいんだ。
 美味しいって言ってもらえるのが、何よりのご褒美です。

 食事を綺麗に平らげて下さった後、正宗さんは唐突に、「今日どこかに出かけませんか?」と仰った。
「えっ」
 おでかけ!?
「この頃は、なかなか一緒に出歩くこともできませんでしたし」
 どこか行きたいところは? と正宗さんは言う。行きたいところ……
「ええっと、ええと……」
 そうだなぁ……。一緒にお買い物に行きたい、かなぁ。正宗さんのお仕事用のシャツとかネクタイとか、見たいかも。本屋さんにも行きたいなぁ。あ、映画に行くのも良いかも! 見たい映画あったんだよねえ。食事……は今食べたばかりだから、三時くらいを狙ってカフェでお茶……っていうのも捨てがたいし。
 迷う……。迷うよおおおおお!!!
「うーん……」
「どこでも大丈夫ですよ」
「…………それじゃあ……」
 なんてお優しい!! 私はぱっと、目の前の正宗さんを見上げた。
(あ……)
 正宗さんは、優しく微笑んでいる。でも、その表情にはまだ疲れが見えて……
 そうだよね……。最近、本当にお忙しいみたいだったし。学校の先生って本当に大変なんだぁって、しみじみ思った。
 そんな中でも、こうして私を気にかけて下さる。その気持ちが嬉しくって、私は『今日したいこと』を決めた。うん! やっぱり今日は……
「……今日は、おうちでゆっくりしましょう!」
「え……?」
 正宗さんは意外そうに目を見開く。
 ええっと……、せっかく提案して下さったのに、失礼だったかな……?
 でも、今日はなにより一番に、正宗さんに体を休めてもらいたいんだ。 
「外へ出かけるのも好きですけど、今日は正宗さんにゆっくり休んでもらいたいです」
「千鶴さん……」
「どこかへ出かけるのは、また今度にしましょう。ね?」
「……そう、ですね」


 その後、正宗さんは二階の書斎から文庫本を数冊持って来て、縁側で読書タイム。
 うんうん。最近は本を読む時間も無かったみたいですし、この機会にのんびり読むのも良いと思います!
 それに、今日はぽかぽか陽気ですからね。風も程良く吹いて、心地良い日です。
「あ……」
 パウンドケーキの生地を型に入れ、オーブンにセットした後和室を覗いてみれば、本を読んでいたはずの正宗さんは座布団を枕にうたた寝なさっていた。
「ふおおお……」
 眼鏡をかけたまま、文庫本を胸に眠る美青年。な、なんて眼福……!!
 私はしばらく旦那様の寝顔を眺めた後(し、視姦じゃないですよ!!)、ページが折れちゃうかなあと思って、正宗さんが持っていた文庫本をとり、しおりを挟んで傍らに置いた。
「…………そうだ」
 私も本を読もうと思って、二階から漫画本(ちなみに、BLではないです!)を数冊持ってきて正宗さんの隣に寝転がる。
「へへー」
 正宗さんの、お隣……。どきどきするけど、やっぱりこう……安心するというか……
 こんな風にゆっくり一緒に過ごすのは久しぶりで、私はまるで充電をするように、正宗さんの体にぴったりと寄り添った。
(正宗さん不足、解消中……。なんちゃって!)
 むふふと笑いながら、私は漫画本を読んだ。
 そうこうしているうちに、台所のオーブンがピーと鳴る。ケーキが焼き上がったんだ!!
 漫画を片付けて、私はぱたぱたと台所に走った。
 どきどきしながらオーブンの扉を開ける。ふわっと、熱気と共に甘い香りが広がっていった。
「わあー!!」
 こんがりときつね色に焼けたパウンドケーキ。その上では、輪切りのオレンジもイイ感じに焼けている。お、美味しそう~!!
 オーブンから取り出し、型から外す。そしてあら熱をとって切り分けた。
 おお~!! 小さく刻んだオレンジのコンポートが入ったケーキ生地は、中もしっとりと焼けている。
 味見に……と、切れ端をぱくり。
「はふっ、あふ……」
 焼き立てのケーキはまだ熱いけど、う、美味ァ!!!
「おいひー!!」
 初めて挑戦したオレンジのパウンドケーキ、どうやら大成功!! のようです!!

 パウンドケーキをお皿に盛って、ティーポットに紅茶を淹れる。ふふ~。気分が良いので今日はティーバックじゃなく、お茶っ葉から淹れます!!
 ポットとカップ、それにケーキのお皿をトレイに載せて、私は「起きていらっしゃるかな~?」と和室に戻った。もしまだ寝ていらっしゃったら、紅茶だけ一人で飲んじゃおう。
 そう思って様子を窺うと、どうやら正宗さんは起きていらっしゃるよう。寝起きでぼんやりされているお顔も素敵です!!
「正宗さん、おやつにしませんか?」
「おやつ……?」
 ぷぎゃっ!! そ、そのぼんやりとした口調、か、可愛い!!
 私は悶絶しそうになるのを必死に堪えて、テーブルにトレイを置いた。あ、危ない危ない。
「オレンジのパウンドケーキ、焼いてみたんです。ネットでレシピを見つけて、試してみたくって」
 カップに紅茶を注ぐ。正宗さんは紅茶にも砂糖やミルクは入れないからね。私も、ケーキと一緒だから今回は紅茶に何も入れないでおこう。
 そしてカップをソーサーにのせて、テーブルの前に座る正宗さんに手渡した。
 正宗さんは紅茶を一口飲んだ後、フォークを手にオレンジのパウンドケーキをぱくりと口に含む。
 お、お口に合うかな……?
 どきどきと、私は正宗さんの反応を待った。
「美味しいです」
「よ、よかったぁー!! 味見はしたんですけど、お口に合うか不安で……」
 自分では美味しいと思っていても、正宗さんがどう思われるか不安だったんだ。
 心底ほっとして、私もケーキを食べる。うん、美味しい!
「うまー! えへへ、これはですねー、ホットケーキミックスを使ってるから、簡単なんですよ~」
「へえ」
「うまうま。お手軽で美味しいなんて、素敵です。素晴らしいです。ファンタスティックです」
 おっと! なんだか嬉しくってぺらぺらと喋りすぎちゃった。なんだよファンタスティックって!!
でも、正宗さんはくすくすと楽しそうに笑っていた。よ、良かったぁ。


 おやつを食べた後は、お皿とカップ、ティーポットを洗う。うーん、今日の夕飯何にしようかなあ……。おやつ食べたばかりで何言ってんだって感じですが、それとこれとは別問題です!!
 お味噌汁もご飯も残ってるし、和食系? いや、中華って手もあるか。こう、スタミナがつくというか、疲労回復に効果的な食事が良いなあ。
 あ! 酢豚とかどうだろう!! たしか、豚肉もお酢も疲労回復に良いんだよね。それに美味しいし! 確かパイナップルの缶詰もあったはず。(私は酢豚にはパイナップル入れたい派です!)
 よぉし、今日の夕飯は酢豚にしよう!! と、水道の蛇口を締めて食材と段取りを思い浮かべる。酢豚の他にも何か作ろう。何が合うかなー?

「千鶴さん」

 おや? 正宗さんがお呼びです。
「はーい」
 私はパタパタと、正宗さんのいる和室に向かった。
「なにかご用ですか? あ、上から新しい本お持ちします?」
 濡れた手をエプロンで拭きながら、そう尋ねる。今日の私は何でも致しますよ!! さあ、仰ってくださいませ~!!
「いえ、それよりも……」
 正宗さんはぽんぽんと、傍らの畳みを叩いた。
「?」
 ホワッツ?
「こちらへ来てくれませんか?」
「??」
 なにゆえ? 私は首を傾げながら、言われるまま正宗さんのお隣に座った。
「…………」
「ええっ!?」
 ま、正宗さんが突然私の体を抱きしめてくる!! そしてそのまま、畳の上に寝転がった。
 え? ええええええええ!? 
「ま、まままま正宗さんっ!?」
 なっ、何故に私は寝技をかけられ(違う)ているのでしょうかっ!?
「すみません、千鶴さん。ちょっとだけ……」
 そう呟いて、正宗さんはぎゅううっと私を抱きしめる。
 ふおおおおおおおおおおおおおお!! し、心臓が破裂しそうなんですけれども!!
「えええええええ」
 なにがどうしてこうなったの!?
 私は困惑を隠しきれず、正宗さんを見上げた。正宗さんは目を閉じている。ね、眠いのですか!?
「あ、あのっ、正宗さん!?」
「俺には今、千鶴さんが足りないんです。もっと、補充させてくれませんか?」
 どこか甘えたような声が、私の耳朶を打った。
 ひゃ、ひゃああああああああああああああああああ!!!
「ええええええええ」
 ほ、補充って……。ええええええええええ!?
「嫌、ですか?」
 そう問われて、うっと言葉に詰まる。
 だ、だって。そりゃ、突然でびっくりしたし、今だってすっごいドキドキして胸が苦しいけど……
(……おんなじこと、考えてた……)
 ……嫌じゃ……ない……です……
 だって、私も同じこと考えてた。正宗さんが足りない……って。
 そう……。い、嫌じゃないから……
「……嫌じゃないから、困ってるんです……」
 私はきゅっと、正宗さんの胸にしがみついた。
「千鶴さん……」
「あああああの、わ、私もほんとは……正宗さんに、い、いっぱい……。あ、甘えたかった……です」
 もっといっぱいお話、したかったし。もっといっぱい、一緒にいたかったし。寂しいなって、思うこともあって。あ、甘えたりとかも……したかった……
 でも、あんまり我儘言って困らせるわけにはって、思って……
 ってええええ!! な、なんか私、今すっごく恥ずかしいこと言った!! ひえええええ!!
 顔が真っ赤に染まっているのがわかる。は、恥ずかしくて逃げ出したいのに、正宗さんの腕はいっそう力強く、私を抱いた。
「……今日はゆっくりする日、でしたね」
 正宗さんの手が、私の髪を撫でる。
「それじゃあこうして、ゆっくり。二人で『仲良く』しましょうか」
 そして頬を撫でられ、そっと唇が重ねられた。
 なっ、『仲良く』って、つ、つまりその……セ……ッ!!
「でっ、でもあの……お疲れじゃ……」
「千鶴さんのおかげで、疲れも吹き飛びました」
 ほわあああああああああ!! ま、正宗さんやる気だ!! やる気マックスだ!!
「で、でも……っ。あの……」
「……千鶴さん……?」
 い、嫌なわけじゃないですよ!! た、ただ、ただ……!!
「……こっ、ここじゃ……嫌……です……」
 ッああああああ!! 恥ずかしい!!!! なに上目遣いとかしちゃってるんだろう!! ばか!! 恥じらっている自分がなんか、よけい恥ずかしい!!
「……正宗さん?」
 正宗さんは、口元を手で押さえて震えていた。
 も、もしかして私があまりにも気持ち悪くて!? もしくはおかしくて、笑いが止まらない的な!? 
「……それじゃあ、上に行きましょうか?」
(!!)
 こくんと頷くのが精一杯の私を抱き上げて、正宗さんはそのまま二階へと上がった。


 そしてその、寝室でね! ベッド……でね!! その、『仲良く』致しまして。
 その後、ぐったりと疲れてしまった私を気遣って下さった正宗さんは、なんと夕飯に出前をとって下さいました。(正直助かりましたァ……)
 なので、酢豚は翌日の夕飯にいたします。出前の親子丼も、とっても美味しゅうございましたああああ!!!



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