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~番外編~
フライング未来編 その7『苺大福の苺失踪事件』
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こちらは読者様からいただいたネタを元に書かせていただきました!
あひるさん様、ありがとうございます!!
********************************************
夕飯を食べ終えた夜の茶の間。
家族三人が揃う憩いの時間である。
「…………」
千鶴さんはじーっと、真剣な顔でテレビを見つめていた。
なんでも、毎週欠かさず見ているドラマが今日佳境を迎えるんだそうだ。
このドラマを見るために、早めに食後の後片付けを終わらせて。オープニングが流れる前から、びしっとテレビの前に正座している。
俺はというと、一歳になったばかりの我が子を膝の上に抱いて子守り役。日中はほとんど千鶴さんが世話をしてくれているから、夜は俺が見ることが多い。我が子と触れあえる貴重な時間だ。
「ダー、アッ」
「…………」
我が子はテーブルに掴まり立ち、なにやら手を伸ばしている。
その手の先にいるのは千鶴さんだ。
「ダー」
「…………」
やっぱり母親の方が良いのだろうか……。少し切ない。
「……ほら」
我が子をひょいと抱え上げ、自分の膝の上に抱き戻す。
「ムー」
「…………」
……不満そうな顔だ。
俺は「はあ……」とため息を吐いて、テーブルの上にある苺大福を一つ手にとった。
今日、仕事帰りに駅の和菓子屋で見かけたもので、苺好きな奥さんのために買ってきたのだ。大福には切れ込みが入っており、そこに一粒の苺が挟まっている。
一口サイズに作られていて食べやすいそれを、立て続けに二つ。そして温めに淹れたお茶(子供が倒しても火傷しないように、だ)を飲んで、流し込む。うん、やっぱり大福には緑茶が良く合うな。
「…………」
「?」
気付けば、我が子がじーっと俺の顔を見上げていた。
「どうした……?」
俺の方に関心を持ってくれたのか? と嬉しくなる。
が……
「ダー……」
我が子は何故か不満げな顔で、またふいっと千鶴さんの方に視線を送るではないか。
「…………」
……けっこう、傷付くな……
そして千鶴さんはというと、相変わらず視線はテレビに向けたままひょいと苺大福を掴み、口にしている。目は真剣にテレビを追っているが、その口元はにんまりと笑んでいた。
「……ムウー、ち、ご!」
「?」
じたばたと暴れ出した我が子。
あっと油断したすきに、テーブルの上に乗って。
「!!」
千鶴さんの皿の上の苺大福から、素早く苺を掴みとった。
「ち、ご!」
そして止める間もなく、ぱくっと口に含んでもぐもぐと口を動かす。
「…………」
本来なら、「行儀が悪い!」と叱るべき所なのかもしれないが、そのあまりの早業に俺は絶句するしかなかった。
「ムフフー」
満面の笑みを浮かべる我が子は、苺が好きな所も千鶴さんに似たのだろうか。
というか、我が子は千鶴さんを見ていたわけではなく千鶴さんの傍の苺大福(の苺)が気になっていたのか。そうか……
まあ、俺はすぐに食べきってしまったものな。
そして……
「…………」
苺大福から苺をとられたことにまだ気付いていない千鶴さんは、相変わらずテレビから視線を外さないまま手探りで苺大福を手に取り……
ぱく……と口に含んで。
(あ……)
「……?」
予想していたものと違う味に、首を傾げ。
「?????」
さらに咀嚼してもいっこうに感じられない苺の存在に、本格的に悩み始めたようで……
(……教えてあげた方が良いんだろうか……)
「ま、正宗さん大変です! い、苺が……!!」
「…………ああ、実は……」
「苺が失踪しました!! さっきまで確かにあったはずなのに……!!」
「……っ」
「え!? な、なんで!? なんでいなくなったの苺ちゃん!! なんでー!?」
と、千鶴さんは慌てている。
「……ぷっ」
し、失踪って……!!
俺は笑いをこらえようとしても堪え切れず、はははっと笑ってしまった。
「あははははは」
「ち、ご!」
「え? えええ?」
……っと。ちゃんとタネを明かさないとな。
「ははっ。……犯人はここ、ですよ」
俺は笑いながら、我が子を指差す。
まだまだ苺が食べ足りないようで、我が子は千鶴さんの皿に残っている苺大福(ちなみに俺は二個。千鶴さんは三個食べるつもりで皿に乗せていた。今は千鶴さんの皿に一個だけ残っている)に手を伸ばしている。
「お、お前か~!!」
「ちご!!」
我が子はもっとくれ!! とばかりに手を伸ばす。
「だーめ! これは私の!!」
千鶴さんはさっと、苺大福ののった皿を持ち上げる。
「ちごー!!」
苺をめぐり、睨み合う我が子と奥さん。
だめだ、笑いが……
「……っ、あはははは」
結局、最後に残った苺大福の苺は千鶴さんが「しょうがないなぁ」と折れてやり、一粒の苺を半分に切って我が子に与えていた。
だが一粒まるっとは譲らないのかと俺はまた笑ってしまった。
千鶴さんいわく、「苺の無い苺大福なんて苺大福じゃないんです!!」とのこと。それはまあ、そうだろう。
「苺なくても美味しいけど、やっぱり苺があった方がより!! より美味しいので!!」
なんて、千鶴さんは熱弁する。
それがまた面白くて、俺は笑ってしまった。
「はははっ」
「ちごー!」
ちなみに、我が子は半分でも十分嬉しいようだ。念願の苺を手に入れた我が子はご満悦で「うまうま」と食べている。
そして千鶴さんも同じ顔で、「うまうま」と半分苺の苺大福を食べている。
やっぱりうちの子は千鶴さんに似たんだなあ……
「美味しい~」
「し~」
にこにこと笑顔で、大福を頬張る奥さんと子供。
「………………」
そんな二人を、俺は心底愛しいなぁ……と。
そう、思った。
あひるさん様、ありがとうございます!!
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夕飯を食べ終えた夜の茶の間。
家族三人が揃う憩いの時間である。
「…………」
千鶴さんはじーっと、真剣な顔でテレビを見つめていた。
なんでも、毎週欠かさず見ているドラマが今日佳境を迎えるんだそうだ。
このドラマを見るために、早めに食後の後片付けを終わらせて。オープニングが流れる前から、びしっとテレビの前に正座している。
俺はというと、一歳になったばかりの我が子を膝の上に抱いて子守り役。日中はほとんど千鶴さんが世話をしてくれているから、夜は俺が見ることが多い。我が子と触れあえる貴重な時間だ。
「ダー、アッ」
「…………」
我が子はテーブルに掴まり立ち、なにやら手を伸ばしている。
その手の先にいるのは千鶴さんだ。
「ダー」
「…………」
やっぱり母親の方が良いのだろうか……。少し切ない。
「……ほら」
我が子をひょいと抱え上げ、自分の膝の上に抱き戻す。
「ムー」
「…………」
……不満そうな顔だ。
俺は「はあ……」とため息を吐いて、テーブルの上にある苺大福を一つ手にとった。
今日、仕事帰りに駅の和菓子屋で見かけたもので、苺好きな奥さんのために買ってきたのだ。大福には切れ込みが入っており、そこに一粒の苺が挟まっている。
一口サイズに作られていて食べやすいそれを、立て続けに二つ。そして温めに淹れたお茶(子供が倒しても火傷しないように、だ)を飲んで、流し込む。うん、やっぱり大福には緑茶が良く合うな。
「…………」
「?」
気付けば、我が子がじーっと俺の顔を見上げていた。
「どうした……?」
俺の方に関心を持ってくれたのか? と嬉しくなる。
が……
「ダー……」
我が子は何故か不満げな顔で、またふいっと千鶴さんの方に視線を送るではないか。
「…………」
……けっこう、傷付くな……
そして千鶴さんはというと、相変わらず視線はテレビに向けたままひょいと苺大福を掴み、口にしている。目は真剣にテレビを追っているが、その口元はにんまりと笑んでいた。
「……ムウー、ち、ご!」
「?」
じたばたと暴れ出した我が子。
あっと油断したすきに、テーブルの上に乗って。
「!!」
千鶴さんの皿の上の苺大福から、素早く苺を掴みとった。
「ち、ご!」
そして止める間もなく、ぱくっと口に含んでもぐもぐと口を動かす。
「…………」
本来なら、「行儀が悪い!」と叱るべき所なのかもしれないが、そのあまりの早業に俺は絶句するしかなかった。
「ムフフー」
満面の笑みを浮かべる我が子は、苺が好きな所も千鶴さんに似たのだろうか。
というか、我が子は千鶴さんを見ていたわけではなく千鶴さんの傍の苺大福(の苺)が気になっていたのか。そうか……
まあ、俺はすぐに食べきってしまったものな。
そして……
「…………」
苺大福から苺をとられたことにまだ気付いていない千鶴さんは、相変わらずテレビから視線を外さないまま手探りで苺大福を手に取り……
ぱく……と口に含んで。
(あ……)
「……?」
予想していたものと違う味に、首を傾げ。
「?????」
さらに咀嚼してもいっこうに感じられない苺の存在に、本格的に悩み始めたようで……
(……教えてあげた方が良いんだろうか……)
「ま、正宗さん大変です! い、苺が……!!」
「…………ああ、実は……」
「苺が失踪しました!! さっきまで確かにあったはずなのに……!!」
「……っ」
「え!? な、なんで!? なんでいなくなったの苺ちゃん!! なんでー!?」
と、千鶴さんは慌てている。
「……ぷっ」
し、失踪って……!!
俺は笑いをこらえようとしても堪え切れず、はははっと笑ってしまった。
「あははははは」
「ち、ご!」
「え? えええ?」
……っと。ちゃんとタネを明かさないとな。
「ははっ。……犯人はここ、ですよ」
俺は笑いながら、我が子を指差す。
まだまだ苺が食べ足りないようで、我が子は千鶴さんの皿に残っている苺大福(ちなみに俺は二個。千鶴さんは三個食べるつもりで皿に乗せていた。今は千鶴さんの皿に一個だけ残っている)に手を伸ばしている。
「お、お前か~!!」
「ちご!!」
我が子はもっとくれ!! とばかりに手を伸ばす。
「だーめ! これは私の!!」
千鶴さんはさっと、苺大福ののった皿を持ち上げる。
「ちごー!!」
苺をめぐり、睨み合う我が子と奥さん。
だめだ、笑いが……
「……っ、あはははは」
結局、最後に残った苺大福の苺は千鶴さんが「しょうがないなぁ」と折れてやり、一粒の苺を半分に切って我が子に与えていた。
だが一粒まるっとは譲らないのかと俺はまた笑ってしまった。
千鶴さんいわく、「苺の無い苺大福なんて苺大福じゃないんです!!」とのこと。それはまあ、そうだろう。
「苺なくても美味しいけど、やっぱり苺があった方がより!! より美味しいので!!」
なんて、千鶴さんは熱弁する。
それがまた面白くて、俺は笑ってしまった。
「はははっ」
「ちごー!」
ちなみに、我が子は半分でも十分嬉しいようだ。念願の苺を手に入れた我が子はご満悦で「うまうま」と食べている。
そして千鶴さんも同じ顔で、「うまうま」と半分苺の苺大福を食べている。
やっぱりうちの子は千鶴さんに似たんだなあ……
「美味しい~」
「し~」
にこにこと笑顔で、大福を頬張る奥さんと子供。
「………………」
そんな二人を、俺は心底愛しいなぁ……と。
そう、思った。
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