ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ

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~番外編~

続々・学園パロな夢の話 後編

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「うう……」
 水無月くんの手からスケッチブックをとり返そうと奮闘してみたものの、勝てませんでした。
 挙句、美術室から追い出されて「告白するまで帰ってくるな」と鍵を掛けられました!!(扉ドンドン叩いたけど無視されましたっ!!)
 あれを……っ。あれを他の人に見られるとか……っ!!
 まじ公開処刑!! 耐えられない……っ!!!
 しかも水無月くんは「窓から弓道場見てるからな」と脅してくれて、私にはもう逃げ場は無いようです……
 やらなければ、晒される……ッ!!
 そうして重い足取りで辿り着いた弓道場。
 今日は練習日じゃないから、弓を引いているのは自主練に来ている部員さんが数人だけ……で。(いつも美術室の窓から見ているから詳しいのです。ス、ストーカーではないよ!!)
 そしていつも自主練に参加している柏木先輩のお姿も、そこにあって……
(ふわあ……)
 弓道着姿で真っすぐに的を見据える柏木先輩……
 や、やっぱりかっこいい……っ!!
 私は物陰からこっそりと、先輩の雄姿に見惚れておりました。


 ……ら!!
(はうっ!!)
 あっという間に時間は過ぎて、他の部員さんみんな帰っちゃった!!
 どんだけぼうっとしてたの自分!!
 そしてああ、最後まで居残っていた柏木先輩も帰り支度を始めていらっしゃるよまずいいいい!! 
 このままだと、晒されるっ……!! 水無月くんに、晒される……ッ!!
(ううううううう覚悟を決めろ千鶴ぅうううう!!!)
「…………ッ」
 私は意を決して、弓道場に近付いた。
「……あ、あのっ」
 矢道の傍から声を掛ける。(ちなみに、ウチの高校の弓道場は矢道の脇にフェンスとか無いです。オープンです)
 すると、射場で帰り支度をなさっていた柏木先輩がこちらを振り向かれ……
「…………! 君は……」
 ひっ、ひええええええええええええええええ!!!
 心臓が、爆発しそう……!!
「弓道場に何か用でも?」
「うっ」
 あ、貴方様に告白しに参りました……ッ!! なんて、い、言えないよう……!!
「ええと……あのう……そのう……」
 うあああああっ……!!
 でも言わないと、あれとかそれとか、皆に晒されてしまうっ!!
 水無月くんはやると言ったらやる人だ。それに……
 それに水無月くんも、たぶん、きっと、私のために背中を押してくれた……んだし。(そうだと信じたい!!)
 い、言うぞ……!! 言うぞ!! 「先輩のこと、好きです」って!!

「…………っ、す、好き……なんです……」

 ひっ、ひゃあああああああああああああああああああああああ!!!
 言っちまった!!
 言っちまったよ「好き」って!!
 で、ででででも「付き合って下さい!!」とか言えない!!!
 体温がかあー!! っと急上昇して、頬っぺたが熱くって。(今私、めっちゃ顔紅いよきっと!!)
 ど、どどどどうしよう。こ、これ以上言葉が出てこないっ……
「……えっ?」
(あわわわわわわ……!!)
 先輩困惑されてる!!
 そ、そりゃそうだよな……っ!!
 突然そんなこと言われたら、こま……

「……ああ! 弓道、好きなんだ」

「……え?」
 きゅ、弓道?
 え、ええと。それはその、見ているのは大好きですが……
「見学なら、言ってくれればちゃんと練習を見てもらったのに」
 おうふ!!!!
 私の精一杯の告白、「柏木先輩のことが好き」……じゃなくて、「弓道が好き」って受け取られた!?
「え、ええとあの……すいませんお邪魔になるかと思いまして……」
 って私!! 
 何故否定しないで話し合わせてるんだこの馬鹿!!!!
 何故「違いますッ!! 私が好きなのは柏木先輩です!!」って言え……
 言えないよおおおおおおおおおおおお!!!!!!
 そんなこと言えないよおおおおお!!
 さっきの「…………っ、す、好き……なんです……」が精一杯だよ私の!!
「邪魔じゃないよ。……そうだ。良かったら少し、やってみる?」
「え……?」
 えええええええええええええええ!!!???
 なっ、なんですかこの展開はっ!!!


 戸惑う私を手招きして(ふあああ! 手招きする柏木先輩もまじカッコいい!!)、先輩は私を弓道場の中へと入れてくれた。(い、いいいいのかなこんな不純な部外者が足を踏み入れても!!)
 初めて上がった、弓道場の射場。
(ふおおおおお……っつ)
 どきどきそわそわとする私に、柏木先輩は苦笑して一本の弓を手に取ると、それを……
「はい。これなら軽いし、君でも引けると思う」
 と渡して下さった。
 い、いいんですか私なんぞが神聖なこの場で弓を引いても!!!
 わ、私入部希望とかじゃなくてあの、ほんとあの……  
 弓道をやっている先輩のお姿とかが好きであの、自分でやるとかはあの……
「持ち方は、こう。姿勢は……もっと背筋を伸ばして」
「っ!!」
(ひえええええええええええええええええええええええ!!!)
 先輩の手が!! わ、私の背中にいいいいい!!!
 どうしよう私本当に心臓がもたないです……っ!!
「……そう。そのまま、的をしっかり見て……」
 先輩は申し訳ないくらい丁寧に教えて下さいました。(途中先輩の手が私のこ、腰とか! 手に触れてホントもう顔は真っ赤だし心臓はバクバクするしで、本当なら心を落ちつけて的と向き合わなきゃいけないんだろうけどそれどころじゃなかったよ!!)
 っていうか、恐れ多いよ!!!!!
「…………」
「……放つ!」
「ッ」
 私の震える手から放たれた矢は、ポーンと飛び……(と、飛んだ!! 飛んだよ!!)
 かすっと、的の端に当たりました。
「あ、当たったぁ……っ」
(なにこれ……っ)
 き、気持ち良い……!!
 矢を放った瞬間、それまでの戸惑いが一瞬で消えて。
 後に残るのは、これまで味わったことの無い高揚感。
 柏木先輩のように的の中心にトスっ!! とはいかなかったけれど(当たり前だ!)、なんだろうこれ……! すごく……
「……クセになるだろ?」
(ッ!!)
 そうそれ!!
 思わず柏木先輩の顔を見ると、先輩はくすっと、笑った。
(ほぎゃっ!!)
 得意気なその笑顔、む、胸がアアアアアアア!!
 キュンキュンするよう……っ!!
「……は、はいっ……!」
 クセに、なります……!!
 弓引くの、楽しいです……っ!!
 それに、それに……っ。
 せ、先輩にこうして弓を教えてもらえて、すごく……すごく……
(う、嬉しい……ですっ!!)


 先輩は、部に入らなくても弓を引きたくなったらいつでもおいで……って言ってくれて。
 こ、告白……はちゃんとできなかったけど……(水無月くんには「言ったけど伝わらなかった!!」でなんとか許してもらおう……)
 なんかもう、一生分の幸運を使い果たしたような気分で、私は弓道場を後にした。
「ふあ……」
 今も胸、どきどきしてる……
 私、やっぱり先輩の事が好きだ……
 大好きだ。
 さっきまで、北条先輩への分不相応な嫉妬とか不安とかで鬱々としてて。
 水無月くんに脅されて、告白しなくちゃ!! って強迫観念に駆られて。頭、ぐるぐるしてたのに……
 先輩とお話しするだけで、優しくしてもらえるだけで……
 そんなぐるぐるも、吹っ飛んでしまうくらい。
 私は柏木正宗先輩が、大好きなんだ。
 水無月くんの言った通りだ。この気持ちに気付いてしまったら、もう目を背けることはできない。ちゃんと向き合わないと、いけない。
 だから……
(……ちゃんと……しよう……)
 ちゃんと告白、しよう。
 水無月くんに脅されたから、とかじゃなくて。
 ちゃんとこの気持ちを、伝えよう。
 フラれる……と思うけど。でも……!!
 私はぎゅっと、拳を握りしめ、
(……こ、今度こそ先輩に告白……する……っ)
 そう、心に決めたのです。 


   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 その頃、美術室では……
 
「……なぁーにやってんだあの馬鹿」
 窓から弓道場を見ていた水無月は、仲良く弓を引く二人の姿に呆れていた。
 そして彼の隣には……
「おお~。まっさむねったらごっきげーん! あの子、朧が前に言ってた子だよねえ?」
 水無月の恋人であり、正宗の友人でもある幸村真の姿が。
 一緒に帰ろうと水無月を迎えに来た幸村は、そこで正宗に想いを寄せている千鶴がこれから告白するということを聞いて、こうして一緒にその様子を覗っていたのだ。
 二人の声は聞こえないものの、千鶴が正宗に何かを告げた……ようではあった。
 傍目にそれは、好きな人に告白する女子、の姿に見えて。
 朧はにやり、と。幸村はにこにこっ、と。そんな二人の様子を見守っていたのだが……
 けれども二人は何故か射場へと入り、弓を手にとって……と。
 それを見た瞬間、朧はちっと舌打ちした。
「誰が弓を引いてこいと言った」
 俺は「告白して来い」と言ったんだ、と。
「ま、まあまあ。……でもさ、正宗があんな風に手取り足取り教えるなんて、そうないよ?」
 頼まれれば後輩の指導もするが、自ら招いて弓を教える……なんて。
 珍しい物を見た、と。幸村は言う。
「ふうん」
 それはつまり、柏木正宗も千鶴のことをまんざらでもなく思っている……ということだろう。
 あの千鶴が、そんなことに気付けはしないだろうけれど。
「それに、いいじゃない? ああいうのも。青春、って感じでさ」
「……青春、ねえ」
「そそ。ねえ朧……俺達もその……青春……」
 自分の人差し指同士をつんつんと突き合わせて、ちらり……と恋人の顔を窺う幸村。
 実は先ほどの正宗と千鶴の様子がちょっと羨ましかったりするのだ。
 俺も朧になら、手取り足とり教えてあげるんだけどなあ~、なんて。
「……俺、弓とか興味ねーんだけど」
「うっ。わ、わかってるよう! でもっ……ンッ」
 言い募る幸村の言葉を遮ったのは、水無月の唇だった。
 そして彼は、ちゅ……と音を立てて唇を離すと……
 
「……別な運動なら、付き合ってやるよ……」

 蟲惑的な笑みを浮かべて、恋人の耳に囁いた。



************************************************
最後にちょっと幸村×朧の様子もw

弓道の描写はすみません! 素人考えです、すみません!!
初心者がいきなり弓引けるわけないだろと思われるかもしれませんご都合主義ですみません!!!
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