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~番外編 「年末年始企画」SS~
いつか叶えたい夢の話
しおりを挟む家に帰り、茶の間を覗くと、千鶴さんはまだ俺の帰宅には気付かずにいるようだった。
その腕には、生後三か月の赤ん坊を抱えている。
「よーしよし……」
ゆーら、ゆーらと。ゆっくり揺らしながら、赤ん坊をあやす千鶴さん。
その顔は慈愛に満ち、すっかり『母親』の顔になっていて。
「良い子だね~。ん? ミルク? よーしよし、今あげますよ~」
そして、彼女はポチポチと着ていたシャツのボタンを外すと、赤ん坊におっぱいをあげはじめる。
何度見ても、少しだけ照れくさくて……
そして、とても眩しく思える光景、だ。
「よしよし……いっぱい飲んで、大きくなってね~」
そして満足したのか、けぷっと口を離した赤ん坊を肩に抱き上げて、その背を優しくとん、とん、と叩く。
その仕草も、すっかり板についていた。
「けぷっ!」
「んー! おっきいの出たね~。それじゃあまたねむねむしましょうか~」
「んんー、ば……」
「ええ? やなの?」
どうやら赤ん坊はまだ眠くはないらしい。
千鶴さんは「もー」と口では言いながらも、笑みを浮かべて優しく赤ん坊を抱き、揺する。
「お父さん、早く帰ってくるといいね~」
「だーっ」
「ふふっ! お父さんのこと、大好きだもんね~」
そう言って、千鶴さんはちょんちょんと赤ん坊の頬に触れている。
そして赤ん坊も、楽しそうに「きゃっきゃ」と笑い声を上げていた。
ああ、なんて幸せな光景だろう。
「千鶴さん、ただいま帰りました」
そう言って茶の間に入っていけば、彼女は驚いたように目を見開いて。
「おかえりなさい! 正宗さん」
俺を出迎えてくれる。
そうして、彼女と我が子を抱き締めようと伸ばした手は……
「……夢……か……」
どうやら、ずいぶんと気の早い夢を見てしまったようだ。
赤ん坊を抱いた千鶴さんを抱き締める寸前で、覚めてしまった夢。
「…………」
俺はそっと、隣で眠る千鶴さんを見た。
すうすうと、あどけない寝息を立てて眠る千鶴さん。
「…………」
夢の中で伸ばした手、で。
彼女の体を、ぎゅっと、抱きしめる。
「んん……」
ころん、と。俺の腕の中で寝がえりをうった千鶴さんは。
すり……と。俺の胸に身を寄せてきた。
可愛い。愛しい。俺の……奥さん。
(……とても幸せな夢を、見ました……)
俺は心の中で、彼女に話しかける。
赤ん坊を腕に抱いて、あやしながら俺の帰りを待っていてくれた千鶴さん。
いつか、いつかあの光景を現実のものにしたい。
あの夢を正夢にしたい、と。そう願いながら……
俺は千鶴さんを抱き締め、もう一度、眠りに落ちた。
************************************************
これにて『今年一年のご愛顧に感謝いたしまして、年末年始っていうか年の初めに『初夢』にちなんで夢オチ=なんでもありのリクエストSS書きます!! 企画(長ぇ)』は終了となります。
最後は「正夢になるといいね! っていうか、なるよ!!」なお話で締めさせていただきました。楽しんでいただけましたでしょうか……?
今回の企画に、たくさんのリクエストありがとうございました!!
私の力不足で全てのリクエストにお応えできず、申し訳ありません。
ですが今後、なんらかの形でいただいたリクエストにお応えできれば……と考えております。本当にありがとうございました!!
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