ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ

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~番外編 「年末年始企画」SS~

正宗さんがファントムで千鶴がクリスティーヌなオペラ座の怪人の夢の話

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 目の前で、炎が轟々と燃えている。
「……待って……」
 その炎の中にいる人は、全ての罪を背負って、今、逝こうとしている。
 たった一人で……
「いや……」
 ……だめ……だめよ……っ。
「いやあああああああああああああああああ!!!」


 その人はとても、恐ろしい人だった。
 天使様のように優しい声で、私を導いてくれた人。
 彼のおかげで私は、このオペラ座のプリマドンナになれた。
 本当に嬉しかったの。だって、このオペラ座で歌うのが、私の夢だったから。
 ……でも、彼は……
 彼は天使様なんかじゃ、なかった。
 このオペラ座に住み着いた、怪人……ファントム。
 白い仮面で顔を隠した、恐ろしい人。
 彼は私を地下の迷宮に攫い、「愛している」と言ったわ。
 私を愛しているんだと。
 私の歌が好きだ、って。私の全てが愛しい、って。
 ファントムに愛を囁かれる度、私の胸には恐怖が渦巻いた。
 彼は殺人者。たくさんの人を、その手にかけた。
 私もいつか、この暗い……暗い地獄のような地下迷宮で殺されるに違いない、と。
 だけど……
 だけどファントムは、私に歌を教えてくれた時と変わらず、優しかった。
 怯える私に、いったいどうやって手に入れているのか……、綺麗なドレスや美味しい料理を与えてくれた。 ピアノやバイオリンを奏で、慰めようと……してくれた。
 そして、戸惑う私に……
「……すまない、クリスティーヌ。だが……俺は……君を……」
 愛しているんだ、って。
 その言葉を囁く時の、彼の瞳……
 仮面越しに見える、彼の瞳はいつも悲しそうだった。
 私に歌を教えてくれた天使様。
 私のために人を殺した怪人。
 私をこの地下迷宮に攫った人。
「……ファントム……」
 彼の手が、そっと私の頬に触れる……
 ひどい女ね……私……
 私のために、この人は何人もの人を殺めたのに……
 私には、将来を誓い合った恋人……ラウルがいるのに……
「……っ! クリスティーヌ。見ないでくれ……」
 彼の仮面に手を掛けた私に、ファントムは言った。
 素顔を見られるのが怖いの……?
「……見せて……」
「…………っ」
 私はそっと、彼の白い仮面をとった。
 その下にあったのは、整った美しい顔に負った……酷い、火傷の後。
「醜い、私の……こんな姿を……」
 恐ろしいだろう……? と。彼は言う。
 またその瞳を、悲しく曇らせて。
「……だが、それでも私は君を……」
 離したくないんだ、と。
 誰にも渡したくない、と。
 そう言って、縋るように私の体を抱き締めるこの怪人を。
(……ああ、私は……)
 拒むことができない、私はきっと……
 彼と同じく、地獄の業火に焼かれるのでしょう。


「……っ!!」
 ばっと目を開けると、そこは見慣れた寝室の天井……だった。
 私……夢を見ていたんだ……
『オペラ座の怪人』
 有名なお話だ。どうして、こんな夢を見たのかはわからないけれど……
 夢の中で、私は、クリスティーヌは……ファントムの事を、愛してしまっていたんだと思う。
 だから恋人であるラウル子爵に助け出された後、炎に包まれる隠れ家で、一人死んでいくファントムを想って……
「……あれ……」
 おかしいな……
 涙が、溢れてくる……
 私はずいぶんと、夢の中のクリスティーヌに感情移入してしまっていたみたい。
「……千鶴さん……?」
 一人ぽろぽろと涙を零していたら、隣で眠っていた正宗さんが、そっと声を掛けてくれて……
「……泣いているんですか……?」
「…………悲しい夢を、見たんです……」
 そう言ったら、正宗さんはぎゅ……って。
 抱きしめて……くれて。
「……よし、よし。もう大丈夫……ですよ……」
 ぽんぽん、って。
 私の頭を撫でてくれた。
 ……あったかい、正宗さんの胸の中。
 安心……する……
「………………」
 私は再び、眠りに落ちた。
 正宗さんの温もりに抱かれて、私はもう……
 悲しい夢は、見なかった。
 おぼろげな夢の中で、黒衣の青年と金髪の女性が幸せそうに抱き合っているのを見たけれど……
 あれは、ファントムとクリスティーヌ……だったのかな……?


 そんなある日の、夢のお話。




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