ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ

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~番外編 「年末年始企画」SS~

戦国武将な正宗さんとその正室な千鶴とさらに…な夢の話

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 数カ月にも及ぶ隣国との戦を終え、久方ぶりに館に帰った俺は……
「お帰りなさいませ、殿!」
「ただいま帰りました。千鶴姫」
 愛しい妻、千鶴姫の笑顔に迎えられた。

 湯浴みをして戦の汚れも疲れも落すと、身なりを整えて姫の部屋に渡る。
 先刻、館の前で出迎えてくれた姫は畳の上に三つ指をつき、改めて「お帰りなさいませ」と俺を出迎えてくれた。
「息災でしたか?」
 上座に用意された席に座り、彼女に声を掛ける。
 数か月ぶりに見る姫は、戦前よりも少し痩せたように見えた。
 それを言えば、彼女は「あ……」と恥ずかしそうに目を伏せ、
「申し訳ございません……。殿のことが心配で……。あ、あの! 殿の武勇を信じていないとか、そういうわけではないのですが……」
「姫……。お気になさらずに。俺はむしろ、案じていただけて……嬉しいですよ」
「殿……」
 でも、大丈夫ですよ。姫……
 俺はあなたを置いて、逝ったりはしません。
「ところで殿……」
「?」
「殿にぜひ、お目通りいただきたい者がいるのですが……」
 そう言って、姫はちら、と後ろの襖に視線を送る。
 その向こうに、その「お目通りいただきたい者」が控えているのだろう。
 俺が「構いませんよ」と言えば、姫はぱあっと顔を綻ばせて、「はい! ありがとうございます、殿!!」と嬉しそうだ。
 誰か侍女にひきたてたい娘でもいるのだろうか。
「お許しをいただきました! さあ、こちらへ……」

「失礼いたします」

 そして、すす……っと襖が開き。
 現れたのは、顔を伏せた打掛姿の女性だ。
「姫、彼女は……?」
「実は、殿が戦に行ってらっしゃる間に家臣の方達が「殿の側室に!」と、この方を……」
「えっ?」
 俺には現在、正室である千鶴姫しか妻がいない。
 彼女一人で俺は十分だと思うのだが、家臣達がいらぬ気を回したらしい。
 俺の留守中に、余計なことを……
「私、最初はあの……恥ずかしながら悋気を起こしてしまいましたの……。でも! 今ではこの方ともすっかり仲良しで」
 ちょ、ちょっと待って下さい!?
 悋気を起こしてくれるのは嬉しいんですよ! 恥ずかしがることじゃありません。当然の感情です……。が!!
 今は仲良しですって!?
「この方となら、私、姉妹のようにうまくやっていけます!!」
「姫!?」
 この方と二人、殿の妻として頑張ります!! と、張り切っている千鶴姫。
 俺はそんなこと、望んでませんよ!?
 俺は千鶴姫がいてくれたら、それでいいんです!
 側室なんて……
「さ、姫。殿にお顔をお見せになって」
「……はい。お初にお目にかかります、殿」
 そして、顔を上げたその姫は……

「水無月!?」

 
「あら、ご存知でしたの? そうです! 水無月家の、朧姫です」
 姫って!? こいつが!?
 こいつは……
「まあめんどくせーけど、しょーがねえからお前の妻になってやるよ」
「なっ……」
「もう! 朧姫ったら相変わらずツンデ……げふんげふん」
「こいつは男じゃないですか!!」
「えっ、そうなんですか!?」
 驚きに目を見張る千鶴姫。
 気付いてなかったんですか……
「やっぱバレたか。ま、いんじゃね? どーせお前、千鶴以外と子供作る気ねーんだろ?」
 形だけいいから、俺を側室にしておけよ、と言う水無月。
 ……一体、何を考えている……
「ま、どーしてもって言うんなら……伽をしてやってもいいけど?」
「まあっ!」
「ありえん!!」
 そんなもの、御免被る!!
「……あの~、私の事ならお気になさらず!! 偏見とか、ありませんから!!」
 何故か目を輝かせてそんな冗談じゃないことを言う千鶴姫。
 偏見とかそういう問題じゃなくて……


「……う……嫌……だ……やめろ……っ、水無月……っ」

「…………」
 わぁおぅ……
 珍しく、正宗さんが魘されていらっしゃる……と様子を窺っていたら……
 悩ましげな吐息と共に吐かれる、意味深な寝言っ!!
 い、一体夢の中で水無月さんとどんな状況に陥っていらっしゃるんですか!?(興味津々すみませんっ!!)
「……っ、やめろ……! よ……寄るな……ッ」
 もしかして、朧さんにお、襲われていらっしゃる……? とか。
 嫌がる正宗さんに迫る、朧さん。正宗さんは口では「嫌」と言っていても、抵抗できずに彼の魅力に溺れ……
 きゃああああああああああ!!! 朧さん攻めの正宗さん受け、だと!?
 萌えッ!! 萌えッ!! 私もそんな夢、見てみたーい!!
 ……って。そんなわけないよねー!!
 うーん、正宗さん苦しそうだしなあ……
 起こした方が良いのかなあ……?
 しばしの逡巡の末、「正宗さん、正宗さん」と肩を揺り起した私に、「はっ!」っと目を覚ました正宗さんは……
 きょろ……と辺りを窺って。
「大丈夫ですか?」
 と声を掛ける私を見て、がばっ! と起き上がり。(び、びっくりしたあ)
 私の肩を掴んで、仰いました。

「千鶴さん!! 俺にはあなただけです!!」

「っ!!」
 ま、正宗さっ!?(ちょ、え!? う、嬉しいけどどうなさった!?)
「だから水無月なんて……。……あ……、夢……か」
「?????」
 水無月なんて? え?
 どゆこと!?
「……すみません。悪夢を見て……」
 一体どんな夢見たんですか!? 
 正宗さああああああああんん!!!!
  

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