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~君を想う5つの情景 より~
一、言葉を奪われる虹
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「君を想う5つの情景」は全編正宗さんの視点でお送りします。
一話一話が短めで、時系列や季節もバラバラですが、お楽しみいただけたら幸いです。
********************************************
それはある日曜日のこと。
その日は朝から雨が降っていて、久しぶりに二人で買い物に(ショッピング、なんてものじゃなく。ただ近くのスーパーに食材を買いに行くだけなのだが)行く予定だった俺達は、二の足を踏んでいた。
傘をさして、両腕にたくさんの荷物を持って帰ってくるのは億劫だ。
こんな時、車を買うべきだろうかと思う。
そうすれば天候にも左右されないし、たくさん買い込んでも大丈夫だろう。
「…………」
千鶴さんは先ほどから、ガラス越しに外を見つめている。
止む気配の無い、雨。
灰色の空を、むーっと不満げに睨んでいた。
冷蔵庫が空っぽなわけじゃない。買い物に出なくても、今日明日分はなんとでもなるのだが……
「……二人で出掛けるの……久しぶりだったのに」
この頃は期末テストの時期で、家に帰るのも遅かったし、休日も部屋に籠って仕事をしていた。構ってあげられなかった自覚はあるので、俺は苦笑するしかない。
それなら、買い物じゃなくどこかへデートに行き……
「……スーパーの駐車場に、最近新しくタイヤキ屋さんができたんですよ。外はカリっとして、あんこたっぷりで、美味しいんです。……正宗さんにも、食べてほしかったな」
ああ、そっちがメインですか。
「雨、やまないかな~。むー。雨、やめー」
千鶴さんは相も変わらず雨空を睨みながら、呟いている。
その独り言が面白くて、俺は笑ってしまった。
その数時間後。
千鶴さんの祈りが届いたのか、雨が止んで。
俺達は雨上がりの道を、二人で歩いた。もちろん、スーパーに行くために。
「ふっふっふ~。今日は正宗さんがいるから、トイレットペーパーとか、油とか、お醤油とか、買えますね~」
「はい。いくらでも持ちますよ」
「ありがとうございます! あ、チラシで大根が安いって書いてあったな~。まだ残ってるかな~」
「大根、ですか」
「はい! 大根は良いですよね~。お味噌汁の具にもなるし~、サラダにもなるし~、煮物にもなるし~。あっ! おでんもいいですね!!」
「おでん」
それは良いかもしれない。
「卵も買わなきゃ~。へへっ。正宗さんは、おでんの具は何が一番好きですか?」
「そうですね……」
千鶴さんは楽しそうに喋りながら、雨上がりの道を歩く。
ふいに、彼女の口がはたと止まった。
「?」
そして足も止めた彼女は、言葉も無く、空を見つめている。
その視線の先には……
「虹?」
雨上がりの、空に。
大きな虹が架かっていた。
「……………………」
ずいぶんはっきり見えるな……
あんなに大きな虹を見るのは、何年振りだろう。
傍らの千鶴さんは、じっとその虹を見つめて。
「…………っ。す、すごい」
キラキラとした瞳で、俺に笑いかけた。
「すごいですね! 正宗さん」
「はい」
確かにあの虹は、凄い虹だ。
思わず言葉を奪われるほどに。
「……知ってますか、正宗さん」
再び歩き出した俺達。
千鶴さんは嬉しそうに虹を見つめながら、言った。
「虹のふもとには幸せがあるんですって! 小さい頃、虹のふもとを探そうとしたことがあるんですけど、走っても走っても、追いつかないんですよね~」
ああ、そういえばそんな話を聞いたこともあるな。
……でも、ね。千鶴さん。
「そのせいか、今でも時々虹がかかると、ふもとはどのあたりだろうって、探しちゃうんです。ばかですよね~」
俺の幸せは、走っても走っても手の届かない場所にあるんじゃなくて。
「…………」
「……正宗さん?」
ここに。
今、ここにあるから。
「……いえ、なんでもありません。……千鶴さん、手を繋いでもいいですか?」
「えぅっ!? は、はい……」
千鶴さんは一瞬ぎょっとして、それでもおずおずと、手を差し出してくれた。
その小さな手を、ぎゅっと握る。
そう。虹のふもとなんて、走っても走っても追いつかない場所に本当にあるかどうかもわからない『幸せ』じゃなくて。
「……俺、今幸せを捕まえましたよ」
「えっ!?」
あなたが俺の、『幸せ』だから。
一話一話が短めで、時系列や季節もバラバラですが、お楽しみいただけたら幸いです。
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それはある日曜日のこと。
その日は朝から雨が降っていて、久しぶりに二人で買い物に(ショッピング、なんてものじゃなく。ただ近くのスーパーに食材を買いに行くだけなのだが)行く予定だった俺達は、二の足を踏んでいた。
傘をさして、両腕にたくさんの荷物を持って帰ってくるのは億劫だ。
こんな時、車を買うべきだろうかと思う。
そうすれば天候にも左右されないし、たくさん買い込んでも大丈夫だろう。
「…………」
千鶴さんは先ほどから、ガラス越しに外を見つめている。
止む気配の無い、雨。
灰色の空を、むーっと不満げに睨んでいた。
冷蔵庫が空っぽなわけじゃない。買い物に出なくても、今日明日分はなんとでもなるのだが……
「……二人で出掛けるの……久しぶりだったのに」
この頃は期末テストの時期で、家に帰るのも遅かったし、休日も部屋に籠って仕事をしていた。構ってあげられなかった自覚はあるので、俺は苦笑するしかない。
それなら、買い物じゃなくどこかへデートに行き……
「……スーパーの駐車場に、最近新しくタイヤキ屋さんができたんですよ。外はカリっとして、あんこたっぷりで、美味しいんです。……正宗さんにも、食べてほしかったな」
ああ、そっちがメインですか。
「雨、やまないかな~。むー。雨、やめー」
千鶴さんは相も変わらず雨空を睨みながら、呟いている。
その独り言が面白くて、俺は笑ってしまった。
その数時間後。
千鶴さんの祈りが届いたのか、雨が止んで。
俺達は雨上がりの道を、二人で歩いた。もちろん、スーパーに行くために。
「ふっふっふ~。今日は正宗さんがいるから、トイレットペーパーとか、油とか、お醤油とか、買えますね~」
「はい。いくらでも持ちますよ」
「ありがとうございます! あ、チラシで大根が安いって書いてあったな~。まだ残ってるかな~」
「大根、ですか」
「はい! 大根は良いですよね~。お味噌汁の具にもなるし~、サラダにもなるし~、煮物にもなるし~。あっ! おでんもいいですね!!」
「おでん」
それは良いかもしれない。
「卵も買わなきゃ~。へへっ。正宗さんは、おでんの具は何が一番好きですか?」
「そうですね……」
千鶴さんは楽しそうに喋りながら、雨上がりの道を歩く。
ふいに、彼女の口がはたと止まった。
「?」
そして足も止めた彼女は、言葉も無く、空を見つめている。
その視線の先には……
「虹?」
雨上がりの、空に。
大きな虹が架かっていた。
「……………………」
ずいぶんはっきり見えるな……
あんなに大きな虹を見るのは、何年振りだろう。
傍らの千鶴さんは、じっとその虹を見つめて。
「…………っ。す、すごい」
キラキラとした瞳で、俺に笑いかけた。
「すごいですね! 正宗さん」
「はい」
確かにあの虹は、凄い虹だ。
思わず言葉を奪われるほどに。
「……知ってますか、正宗さん」
再び歩き出した俺達。
千鶴さんは嬉しそうに虹を見つめながら、言った。
「虹のふもとには幸せがあるんですって! 小さい頃、虹のふもとを探そうとしたことがあるんですけど、走っても走っても、追いつかないんですよね~」
ああ、そういえばそんな話を聞いたこともあるな。
……でも、ね。千鶴さん。
「そのせいか、今でも時々虹がかかると、ふもとはどのあたりだろうって、探しちゃうんです。ばかですよね~」
俺の幸せは、走っても走っても手の届かない場所にあるんじゃなくて。
「…………」
「……正宗さん?」
ここに。
今、ここにあるから。
「……いえ、なんでもありません。……千鶴さん、手を繋いでもいいですか?」
「えぅっ!? は、はい……」
千鶴さんは一瞬ぎょっとして、それでもおずおずと、手を差し出してくれた。
その小さな手を、ぎゅっと握る。
そう。虹のふもとなんて、走っても走っても追いつかない場所に本当にあるかどうかもわからない『幸せ』じゃなくて。
「……俺、今幸せを捕まえましたよ」
「えっ!?」
あなたが俺の、『幸せ』だから。
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