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~ひとつ屋根の下に贈る5つのお題2 より~
四、背中あわせ
しおりを挟む「……ううー」
…眠い。眠くて眠くて、頭も体もずっしり重くて、起き上がれないくらい。
数か月に一度、私はこんな症状に見舞われる。
原因は、月に一度やってくる…アレ。
あ、月に一度…とは言ったけど、私の場合は周期が不定期で、生理痛の重さもまちまち。
普段はお腹と腰が鈍痛に見舞われるのがデフォルト。で、数か月に一度、異常な眠気に襲われる。もちろん、お腹だって腰だって、いつもの三割増しくらい、痛い。
本当にね…。子宮とりたい!! って思うくらい、ひどい。痛い。だるい。
普段は薬を飲まずに我慢する痛みも、この時ばかりは痛み止め、飲みます。
痛み止めを飲んで、ひたすら、眠る。体が要求するままに、布団に芋虫みたいに包まって、寝倒す。あるいはこの眠気は、いつもよりひどい痛みを眠ってやり過ごすために体が調整しているのかなって、思う。
…とにかくそんなこんなで、私は今、芋虫になっている。
せっかく、正宗さんがお休みの日曜日なのになあ…。
ご飯も作れず申し訳ない…!!
結婚して、最初にこの酷い生理痛に見舞われた時、正宗さんはすわ病気か!! と思ったらしく、とても心配してくれて…。
恥ずかし…かったなあ…。生理痛ですって、説明するの…。
生理は隠すもの、って育てられた世代だからか、男の人に生理の話するの、苦手…。
(ちなみに生理用品買う時も、できれば女の人のレジで買いたい。若いお兄さんのいるレジとか、無理…!!)
正宗さんも今ではすっかり慣れて、放置しておいてくれる。
うん…。症状はひどいけど、病気とはまた違いますからね。
今日も、家事は気にせずゆっくり休んで下さいねって。枕元に、ペットボトルのミネラルウォーターと、チューブタイプのゼリーを置いてくれている。(ありがたや…っ)
痛み止めの薬を飲むためには、何か食べなきゃ行けないんだけど…。
生理痛がひどい時って、食欲が無いどころか、食べたら吐く…!! くらいなので。
こういうゼリーとかを胃に流し込んで、薬を飲むのです。
「うあー…」
早く、薬、効いてくれないかなあ…。
即効性の痛み止めって、ないの…かなあ…。
眠い…のに。お腹がジンジン痛んで、腰がズキズキ痛くって…。
眠れ…ない…。
「…ん」
眠れない眠れないって、思っている内に…。
いつの間にか眠っていたらしい。
ひと眠りした間に薬が効いたのか、お腹と腰の痛みは随分マシになっていた。
はふ…。これで大分、楽…。
少しだけ薄れた、眠気。
今の内にトイレに行こうと、私は寝室を出る。
ついでに、正宗さん今何してるかなって、トイレの後で茶の間を覗いてみた。
正宗さんは寝巻にしている浴衣姿のまま、こちら(廊下)に背を向けて、座卓の前に座り、何やら本を読んでいるご様子。
「あれ…?」
座卓の上に置かれた、ハードカバーの単行本。
そのページが、正宗さんの指によって…ではなく。
網戸から吹きこんでくる風に、パララ…と捲られている。
もしかして…。
私はそろーり、そろーりと、正宗さんに近寄った。
「!」
(やっぱり…)
座卓に肘をつき、本に手を添えた恰好で…。
正宗さんは目を閉じ、眠っていた。
珍しい…。というか、初めて見た…。
正宗さんの、居眠り姿。
「ごくり…」
な、なんか…イイな!!
涼しげな風が吹き込んでくる、夏の夕暮れ。
縁側に吊るした風鈴が、ちりん…ちりん…と涼しい音を奏でる中で。
読書途中に、うたた寝する浴衣姿の美青年…!!
さらさらと、風に揺れる前髪。
眼鏡の奥の、伏せられた睫毛…!!
が、眼福…っ!!
写メ、撮りたい…!! あああスマホ、枕元に置きっぱなしだぁ…畜生!!
代わりにこの目に焼きつけよう…!!
ほおおおっと、うたた寝する正宗さんを見つめて。
「あ」
私はふと、正面からではなく後ろから、正宗さんを見てみようと思った。
「うーん…」
やっぱり、イイ…!! うたた寝する正宗さん(後)!!
後ろ姿も素敵です…!! 少しだけ前に屈められた、広いお背中…!!
お背中ハァハァって感じです(自重しろ!!)
(…せっかく、なので…)
ちょっと、あの、積年の野望(っていうほど大したものでもないのですが)を叶えても、いいですか…ね。
私は床に座り、すすすすす…っと、背中から正宗さんににじり寄る。
「!!」
ぽす…っと。
私の、背中と…。
正宗さんの背中が、ぴったりと、背中あわせに重なった。
(おおお…)
一度、やってみたかったんだよねぇ。
“背中あわせ”
正面や、隣に座ったり…。
その…だ、だっこ…みたいにされたことは、あるけど…。
こんな風に、背中あわせに座るのは、初めて。
正宗さんの、大きなお背中に身を預けて、座る。
どきどき、する…。
(おおお…)
なんか、これ…。
癖に、なりそ…う。
「ふぁあ…」
正宗さんの背中にひっついて、悦に浸っている内に…。
私は再び、あの重い眠気に襲われた。
「…ん…」
いつの間にか、眠っていたらしい。
どれくらい眠っていたのかわからない、うたた寝から目覚めれば。
背中に、温かなぬくもり。
「え…?」
ゆっくりと振り返ると、俺の背中に…。
「千鶴…さん…?」
背中を預けて眠る、千鶴さん。
今日は生理痛が辛いらしく、ずっとベッドで眠っていたはずの彼女が、いつの間に…。
俺は読みかけだった本を閉じて、ゆっくりと…。千鶴さんの体を倒さないように、ゆっくりと振り返る。
そして、すうすうと寝息を立てる彼女を腕の中に抱き止めるように、支えた。
「…千鶴さん…?」
「…………」
ぐっすりと、眠っている。
その…生理痛…がひどい時は、眠くて眠くてしようがないのだと、言っていたな。
俺の様子でも見に来て、そのまま眠ってしまったのだろうか。
何だか…。
「……猫…みたいだな…」
昔、まだ小学生だった頃…。
この家で祖父に飼われていた猫のことを、思い出した。
俺はその猫をかまいたくて、よく追い掛けていたのだが…。
猫は逃げるばかり。全然、触らせてくれなかった。
なのに、俺が昼寝していると、いつの間にか傍に寄りそっていて…。
眠っていた、猫。
「…………」
千鶴さんも、俺がかまおうとするといつも恥ずかしがって、真っ赤になって…。
(あの猫のようには、逃げないでいてくれるけれど…)
それでもいつの間にか、こうして傍に…寄り添ってきてくれる。
「…千鶴さん…」
今朝、痛みに顔をしかめながら布団の中で丸くなっていた、千鶴さん。
毎月ではない…とは言っていたが、何度も…。
痛い思いを、してきたのだろう。
男である俺には、想像もできない、痛み。
肩代わりしてあげることは、できないけれど…。せめて…。
「…ゆっくり、休んで下さいね…」
労わることはできるだろう、と。
俺は眠る千鶴さんの体を、抱き上げて。
二階にある寝室に、向かった。
「…んん…?」
目を、開ければ…。
(…えっ!?)
背後から、正宗さんに抱きしめられておりましたああああああ!!
(ちなみに正宗さんは眠っておられるようであります!!)
えっ!? えええええ!?
今何時!? もう夜!? って、ちがあああああああああう!!!
なんで!?
一階に降りて、茶の間に行ったところまでは覚えている。
そう。私、うたた寝する正宗さんを見つけて一人でひゃっほい!! ってなって。
正宗さんが寝ているのをいいことに、「背中あわせー」って、くっついて。
くっつい…て。ね、寝ちゃったんだよな…確か。
で…、今…。
正宗さんに背後から、抱かれている…と。
えええええええええええええええ!!!???
ええと、ええと…(落ち着け!!)
普通に考えて、正宗さんがここまで運んでくれ…て?
一緒にベッドに入った、と。いうこと…ですよね!?
「あ…」
正宗さんの、腕が…。
私の腰に回っていて、その手が…。
私の、お腹…に。
(…正宗…さん…)
もしかして、さすっていてくれた…のかな…。
いつだったか、やっぱり今日みたいに、生理痛がひどかった時。
薬が効かなくて、お腹が痛くて、痛くてしょうがなかった時。
正宗さんは、一体どうしてやったらいいんだろうって、戸惑ったような表情で。
「…大丈夫です、大丈夫ですよ…」って。
私のお腹を、撫でてくれた。
…痛い所、撫でてもらうのって。さすって、もらうのって。
なんであんなに、安心しちゃうんだろうなぁ…。
私は、あやされた赤ん坊みたいに、いつの間にか寝入っていたっけ。
今日も、あの時みたいに…。
お腹、さすってくれていたのかなぁ…。
優しい…なぁ…。
やばい…。体が弱っている時に優しくされるのって、涙腺への爆撃投下だよ…。
…生理痛が重い時、いつも「もう子宮いらない!」って、思ってたけど…。
この痛みが、いつかこの人の子供を産む…ことに繋がっているのなら。
ど、どんと来い生理&生理痛…っ!! って、思う、今日この頃。
旦那様の腕の中。私は…。
『あ、でもやっぱり毎月は無理です勘弁して下さい…!!』
と、思いながら、再び目を閉じた。
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生理中の女性を気遣える男性って萌えだと思って書きました。
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