旦那様は魔法使い

なかゆんきなこ

文字の大きさ
上 下
8 / 73
幼馴染は魔法使いの弟子

黄色い薔薇の物語編 1

しおりを挟む
二人の過去編です。
幼馴染が夫婦になるまでの、ちょっと長い物語。
この物語は、本編(夫婦編)とは雰囲気が異なる、切ない、すれ違い、シリアス…なお話になります。ご注意ください。
この時の二人の年齢は、アニエスが10歳。サフィールが12歳です。
********************************************


 約束を、した。
 他愛もない約束を。
 でもアニエスは、ずっと、ずっと。
 その約束のことを、覚えていた。待って、いた。


 それは、いつものように二人で森で遊んでいた時のこと。

 秋の森の中で、アニエスとサフィールは落ち葉拾いに夢中になっていた。
 どちらが綺麗な落ち葉を見つけられるか、競争していたのだ。
 アニエスは、綺麗な赤い落ち葉を見つけた。
 欠けているところもなく、鮮やかな赤の葉っぱだった。
「サフィール!! 私、これにするわ」
 立ち上がって、アニエスはサフィールを振り返る。
 サフィールはまだ、しゃがみ込んで、落ち葉を探しているようだった。
 今日こそ勝てる! アニエスは思った。いつも、落ち葉探し競争ではサフィールに負けているのだ。
「…うん。これでいいや」
 サフィールは一枚の葉っぱを手にとって、立ち上がった。
 二人はいつものように、「「せーの」」と互いの落ち葉を見せ合う。
「……うう…」
 アニエスは唸った。サフィールの、手の上の黄色い落ち葉。
 もちろん、欠けているところもない、汚れもない。とても綺麗な黄色のイチョウの葉っぱだ。
 自分が持っている赤い落ち葉より、ずっと素敵に見える。
 アニエスはしばらく唸った後、「負けたわ!」と宣言した。
 サフィールは苦笑して、アニエスの手の落ち葉と、自分の手にしたイチョウの葉っぱとを見やる。
 別に、自分の拾ってくる葉っぱが特別綺麗なわけではない。アニエスのあれは、「他人の持っている物の方が良く見える」という、思い込みだ。
 アニエスの拾ってきた落ち葉だって、十分魅力的だった。紙に張り付けて、栞にしようとサフィールは思う。
「とっても綺麗な葉っぱね。ねえサフィール。今度はこのイチョウの葉っぱを集めましょうよ。いっぱい」
「いっぱい?」
 サフィールは首を傾げる。
 いっぱい集めて、何に使うんだろう。
「そう! いっぱい集めたら、とっても綺麗だと思うわ!!」
 ああ、と。サフィールは思った。 
 アニエスの提案は、いつも何かを深く考えてのものではない。
 ただ綺麗だから集めたい。それだけである。何かに使うために、集めるのではない。
 集めるのが楽しいから、集めるのだ。
 サフィールは微笑って、アニエスの手を引いた。
「じゃあ、こっち」
 こっちに行けば、大きなイチョウの木がある。
 その下にはきっと、綺麗な葉っぱがいっぱい落ちているだろうと、思ったのだ。

 アニエスと二人、夢中になってイチョウの葉を集める。
 左手には、もう何枚もの葉っぱが握られていた。それをふと見やって、サフィールはあることを思い付く。
 そして、葉っぱを探す手を止めて、いそいそと何かをし始めた。
 そんな幼馴染の様子に気付いたアニエスが、そろそろと彼に近付く。
 サフィールは集めたイチョウの葉を重ねるようにゆるりと巻いて、何かを作っているようだった。
「…わあ…」
 そうして、サフィールの手の中で形作られたものに、アニエスは感嘆のため息を吐く。
「すごい! すごいわサフィール!! とっても綺麗」
 それは、黄色いイチョウの葉で作られた花だった。
 薔薇に似た形の、黄色い花。
 予想以上の出来に、サフィールは満足気に頷く。そして、出来上がったそれをそっと、アニエスの頭にあててみた。
「可愛いよ、アニエス」
「ありがとう! サフィール!!」
 アニエスはばっと、目の前の幼馴染に抱きついた。
 拍子、サフィールの手から花の形になっていたイチョウの葉が零れ落ちる。
「「あっ」」
 黄色い花は、サフィールが手で押さえていただけで、しっかりと結ばれていたわけではなかったのだ。
 葉は花びらのように、ぱらぱらと二人に降りかかる。
「「っぷっ」」
 二人は揃って、吹き出した。
「ごめんね、サフィール。せっかく作ったのに」
「ううん、いいんだ。今度はちゃんと、糸か紐で結ぶようにするよ」
「それ、良い! 黄色いお花、いっぱい作れるわね」
 私も作りたい、というアニエスの手を引いて、サフィールが「そろそろ帰ろうか」と言う。秋の夕暮れは早いのだ。暗くなる前に、帰らなければ。
「うん」
 二人は仲良く手を繋いで、森の道を歩いた。
 その途中、アニエスが思いだしたように、言う。
「ねえサフィール。さっきの葉っぱのお花、薔薇みたいだったわね」
「うん」
「黄色い薔薇みたいだったわ」
 そうだね、とサフィールも頷く。幾重にも葉っぱを重ねて作った花は、同じく何枚もの花びらが重なった薔薇の花によく似ていた。
 とっても綺麗、と、アニエスは言う。
 少女はよほど、あの黄色い花が気に入ったらしい。
「アニエスは、薔薇の花が好きなの?」
「うん! だって、とっても可愛くて綺麗なんだもの!!」
 彼女は綺麗な物と、可愛い物が大好きだ。
 それから、美味しい物も。
 サフィールは微笑んで、「それなら、」と言った。

「いつかアニエスに、たくさんの黄色い薔薇をあげる。今日作った花より、ずっと綺麗な花を。たくさん」

 アニエスは目を丸くして、「本当に?」とサフィールの顔を見つめる。
 サフィールは、「本当に」と頷いた。
 
「いつかって、いつ?」
 アニエスはわくわくしながら、サフィールにそう尋ねた。
 サフィールは、「そうだなあ…」と、真剣に考えながら、呟く。
 薔薇の花は、結構高いのだ。特に黄色い薔薇は、あまり花屋で見かけないから。普通の薔薇よりも高いのかもしれない。
「…俺が一人前の魔法使いになったら、かな」
 一人前の魔法使いになって、大人になったら。
 大人になったアニエスに、黄色い薔薇の花をたくさん贈るよ、と。
 サフィールは微笑んだ。
 アニエスも、にっこりと笑った。


 この頃の二人には、黄色い薔薇が何を意味するのかなんて、関係無かった。
 二人はまだ幼くて、自分達の未来がどうなるかなんて、想像もつかなかった。
 ただ、大人になっても、自分達は一緒に居るのだろうと。
 そんな未来を、ぼんやりと思い浮かべていただけで。



************************************************
イチョウの葉っぱで花を作るのは、作者が子供の頃にやった遊びです。
子供の目には、薔薇の花のように映ったのでした。今はどうかわからないですが(^_^;)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

処理中です...