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おにいちゃん猫の奮闘

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本編完結記念リクエスト企画第六弾!
「使い魔猫達の子育て奮闘記」です。
 縞猫アクアと三毛猫セラフィのコンビで書かせていただきました。

リクエスト下さった方、ありがとうございました!!
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 それはまだ、双子が一歳をようやく過ぎた頃のお話……
 その日、双子は大変に機嫌が悪かった。特に妹のステラの方が大声で泣き喚き、おもちゃを与えても「いや!」、哺乳瓶を差し出しても「いーやー!」で、どんなにあやしてもなだめても「いやいや!」と癇癪を起こす。
 そうすると、それまで大人しかった兄のルイスも泣き始める。妹の声がうるさくて苛立っているのか、それとも妹と同じく癇癪を起こしているのか。まだちゃんと意志の疎通ができるほど喋れない双子の心境は、世話役の猫達にはわからない。
「ううう……泣きやんでくれにゃぁ……」
 ぎゃんぎゃんと泣きわめくステラを抱っこして、よーしよしと体を揺するのは今日の子守り役そのいち、縞猫のアクア。
「もしかして、腹が減っているのかもしれないにゃ」
 そう予想を立てるのは、えぐっ、えぐっと泣きじゃくるルイスを抱っこして背中を撫でてやる今日の子守り役そのに、三毛猫のセラフィである。
「ええ~? だって、さっき哺乳瓶ぷいってしたにゃ~」
「昼に離乳食をあまり食べていなかったろう? ミルクじゃなくて、ごはんが食べたいのかもしれない」
 セラフィの言う通り、双子は昼食の時間にアニエスが作った離乳食を半分ほど残していた。途中で「いや!」と言って、まったく食べなくなってしまったのだ。無理して食べさせなくても……と、こちらもそれ以上は食べさせるのを断念したのだが……
「自分で「いや」って言ったのに!」
「赤ん坊にそんなことを言ってもしょうがないだろう。アクア、私が離乳食を用意してくるから、その間二人を見ていてくれるか?」
「ううう……。なるべく早く頼むにゃ。なるはやにゃ」
「わかった」
 そうしてセラフィが離乳食を作りに行っている間、アクアは双子をひとりで見ることになった。セラフィが抱いていたルイスはクッションの上に寝かせられ、「ふにゃあ……あああ……」と泣き声を上げながら、ぼろぼろと涙を零している。
 ステラがじたばたと暴れるので同じようにクッションの上に寝かせてやると、こちらは両手両足をバタバタと動かして、「ふぎゃああ! ふぎゃあ!!」と泣きわめいている。同じ泣くでも静と動だ。
「こんなに泣いて、疲れないのにゃ?」
「ふにゃあ……」
「ふぎゃああ!!」
「……うん、とりあえず涙と鼻水拭くにゃ~」
 アクアは双子の顔を濡らす涙と鼻水を拭いてやり、無駄だろうとは思いつつも小さなぬいぐるみを双子の前で動かして声色を変え、「やあ、ぼくわんこ! 泣きやんでにゃ~、いいこにしてにゃ~……じゃなくて、いいこにしてわん!」と言ってみた。すると余計にギャン泣きしてしまったので、ぬいぐるみはポーイと後ろに投げ捨ててがばっと床に顔を伏せる。
「どうしろっていうのにゃー!!」
 自分の方が泣きたい、そう思うアクアであった。

 その後、セラフィが戻って来てふたりは双子に離乳食を食べさせようとしたのだが……
「よかった。食べてる……」
 セラフィに抱っこされたルイスは、彼に差し出された匙からもぐもぐと離乳食――昼間残していた野菜のクリーム煮と粥を合えてリゾットにしたもの――を食べている。が……
「やー!」
 妹のステラの方はアクアの膝の上でバタバタともがき、彼から差し出された匙を手でばしっと払った。拍子、匙がアクアの顔にぶつかる。
「にゃ!」
 地味に痛い。零れたリゾットを拭うアクアはもう涙目だ。
「やーあー!! やっ! やああ!!」
 ステラは相変わらず大暴れである。これでは離乳食を食べるどころではない。
「うぇええ、な、なんでにゃぁ……」
 朝からずっと双子の癇癪に悩まされ、泣きわめく声を聞き続けていたアクアもまたへこたれて泣きじゃくりたい気持ちだった。
「アクア……」
「おれ、おれ……、子守り下手なのかにゃあ……。ステラが何をしたいのか、わからないにゃあ。何をしてあげたらいいのか、わからないのにゃあ……」
 アクアの水色の瞳から、ぽろぽろと涙が零れる。ご主人様と奥方様の役に立ちたい、可愛い弟分妹分の面倒をちゃんと見てあげたい。なのにできなくて、どうしたらいいのかわからなくて、色んな感情が込み上げて止まらなかった。
「……あ、にゃー……あ」
 すると、それまでアクアの腕の中でじたばた暴れていたステラが動きを止め、様子を窺うようにじっと彼を見上げる。
 それはルイスも同じだった。じっと、アクアを見ている。そして……
「あ……う、あうーあ、あく、あ!」
「「!!」」
 ステラの口が、たどたどしくアクアの名を呼ぶ。それは初めてのことだった。
 アニエスのことを「かーしゃ」と、サフィールのことを「とーしゃ」とは呼んだことはあったのだが、使い魔猫達の名前を呼んでくれたのは、これが初めてだ。
「あくあ~」
 ルイスも負けじと、アクアの名を呼ぶ。
 突然の事態に、アクアはびっくりと涙が引っ込んだ。
「……アクア、いま、この子達……」
「にゃっ、にゃにゃっ……!!」
(おれの名前を、一番に呼んでくれたにゃ……!!)
 先程までとは違う感情が込み上げて来て、また、泣きそうになる。
「あく、あ、にゃーにゃ」
「にゃーにゃ、あくあ」
 それまで泣き喚いていたのが嘘のように、双子はにぱっと笑ってアクアの名を呼び合っている。
「ル、ルイス、ステラ。私は? 私はセラフィだ。セラフィ」
 名前を呼んでもらえたアクアが羨ましく、セラフィは彼にしては必死な様子で双子に話しかける。すると……
「あ~! しぇら! しぇーら、ひ!」
「しぇらひ!」
 たどたどしくも、セラフィの名を呼んでくれた。
「! そうだ。セラフィだ」
「にゃ~!! どうしようセラフィ、おれ、すっごく嬉しいにゃ~!!」
「私も嬉しい。ふふ……、可愛いにゃあ……」
 アクアはステラを、セラフィはルイスをぎゅっと抱き締める。
 癇癪にはこちらが泣かされそうになったのに、こんな風に笑ってもらえただけで、名前を呼んでもらえただけで……
 愛しさで、胸がいっぱいになる。
「……もしかして、ずっと私達に呼びかけようとしていたのかもしれないにゃ。それでも思うように言葉を発せなくて、もどかしくて、それで癇癪を起こしていたのかもしれない」
「にゃぁ~。じゃあおれ達で、みんなの名前を教えてあげるにゃ~」
「ああ」
「まずはカルからにゃ! カール、カル。言ってみるにゃ~」
「「かる、にゃ~」」
「にゃーは余計にゃ~」
「「にゃ~」」
「違うにゃ、カル、カルって言うにゃ~」
「「にゃ~」」
(……アクアが語尾に「にゃ~」を付けるのをやめたらいいと思うにゃぁ……)
 そんなことを思いながらも、セラフィは双子に猫達の名前を教えるアクアと、きゃっきゃっと楽しそうに笑いながらアクアの言ったことを真似する双子達を、微笑ましく見守っていた。



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