上 下
17 / 68

ブチ猫の回想

しおりを挟む


 キースは食べることが好きだ。
 自分の仕える魔法使いサフィールの妻、アニエスの手料理が特に大好きである。
 美味しいゴハンを食べているだけで、幸せな気分になれる。
 そして、
「オレも、美味しいゴハンを作りたいにゃ!」
 食べることと同じだけ、作ることにも興味があった。
 パンを作ったり料理を作るアニエスを手伝うのが楽しい。
 だから今年のクリスマスは、ぜひとも自分の料理で主人夫妻を喜ばせたいと、キースは思っていた。
 だが、自分がアニエスを手伝う中で習得したレシピは少ない。
 猫である自分にも簡単にできるような家庭料理の域を出ず、自分達が目指すような「ロマンティックなクリスマス・ディナー」には相応しくない。
 そこでキースは、資金を稼ぐために領主館で働くという黒猫カルと白猫ジェダについていって、領主館の料理人達に教えを請うことにした。
 領主であるエドワードの口添えもあって、キースは無事彼らに料理を教えてもらうことができた。
 といっても、付け焼き刃でいきなり本格的な料理を作れるようにはならない。料理人達は、キースと一緒に「こういうのはどうだ?」「この料理だと…」とあれこれメニューを思案して、あまり手間のかからない、けれどとびきり美味しくて豪華に見えるメニューを考え、作り方を教えてくれた。

 そうして考えたメニューを引っ提げ、キースはクリスマス・イブの日。主人夫妻をデートに送り出してから意気揚々と厨房に籠った。
 そして下拵えを終え、後は仕上げて盛り付け、出すだけという頃合いに。
「お二人がお戻りにゃん。料理の用意は?」
 サフィールとアニエスにプレゼントのローブとドレスを渡す役の茶色猫ネリーが、二人の帰宅を告げた。
「にゃにゃーん。準備万端、にゃ!」
 最初に出すのは、前菜のテリーヌ。野菜をたっぷり使い、ヘルシーであっさりした味付けにした。緑の野菜と赤いニンジンが、クリスマスカラーになっている。
 それを皿に綺麗に盛り付けるのは、白猫のジェダ。最初はキースが盛りつけようとしていたのだが、皿に切ってちょんと載せただけの出来に、
「もっと綺麗に!」
 と怒られてしまったのだ。
「せっかく上手く作ったんだから、盛り付けまでしっかりしろにゃ!!」
 ぷんぷんと怒りながら盛り付けるジェダに、「どうせ食べるんだから一緒にゃあ」と思いつつも、ジェダの盛り付けたテリーヌの皿を見て「おお…」と感心するキース。
 確かに、綺麗に盛り付けた方が美味しそうに見える。
 その皿を灰色猫のライトが運んで行くのを見送って、次に用意するのはスープ。
 コンソメスープは、まだキースには作るのが難しかったので、簡単にできるニンジンのポタージュスープを教えてもらったのだ。
 丁寧に裏ごしして滑らかに仕上げた、オレンジ色の色鮮やかなスープ。
 中央には、同じく色鮮やかな乾燥パセリを散らす。
 それに、焼き立てのロールパンと家庭菜園で採れた冬野菜を使ったサラダを合わせて、これはキースが運んだ。
 シェフ姿で現れたキースに、主人夫妻は目を見開いた後、微笑んで出迎えてくれた。
 そして、キースの作った料理を「美味しい」と褒めてくれて、キースはとても嬉しかった。そして、もっと喜ばせたい、とも思った。
 挨拶もそこそこに、キースは再び厨房に戻る。
 これから出すメインディッシュの仕上げが残っているのだ。
 さあ、美味しい料理を作ろう。そして、もっともっと、喜んでもらうのだ。
 期待を胸に、キースは包丁を握り締める。

「美味しい料理を作るのにゃー!!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...