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第五章

王子様は永遠に 09

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「俺のこと、エネミーだと思ってねぇか?」
「味方でもないでしょう?」
「いや、味方……フレンドだ」

 心にもないことを。クロエは丈二を睨む。
 彼はアンチ犯研のスケープゴート、刺客だ。本人もわかっている。弱みを見せれば彼は犯研潰しに一役買うことになるだろう。

「同類なんだよ。正直、仲間に入れてほしいと思ってる。その昔はおめぇらみてぇに色々事件を調べてみたもんさ。だから、おめぇらと一緒に事件を語り合ってみてぇ」

 本心だろうか。
 捺樹ならば嘘を見抜けるのだろうが、クロエにはそこまでの洞察力がない。必要ないのだ。現実がどうでもいいものにしか感じられないから、そういう風にしか見ようと思わない。

「そうやって気を引く作戦ですか?」

 揺さぶりになるのかもわからないが、彼を不快な気分にさせれば少しは見えてくるのかもしれない。
 どちらかと言えば彼は探偵的なものより犯罪者の方が似合う。きっと、彼が過去に犯罪を起こしていても驚かないだろう。クロエはそんなありえないことを考えるのが好きだった。

「黙ってたが、俺ぁ、海外ドラマオタクなんだ。証拠にグッズでも見せれば信用するか?」

 ゴソゴソと丈二がポケットを漁る。本当に持ち歩いているのだろうか。

「なら、今度、何かDVDを貸してください。ここで観ますから」

 犯研の部室には大型の液晶テレビがある。丁度、クロエが座るソファーの正面にあり、普段は置物と化している。本来はニュースを見るためにあるのだが、大抵クロエがパソコンで見ている。
 だが、DVDプレイヤーもあるのだ。

「おう、そん時は俺も一緒だ。主任チーフと呼んでくれ」

 何かの真似なのだろうか。丈二はニカッと笑う。
 本気かはわからないが、もし、その時がくれば大翔か捺樹が真偽を見抜いてくれるだろう。

「おいおい、露骨に嫌そうな顔すんな。俺だってちったぁ傷付くんだよ」

 ポリポリと頭を掻く丈二にクロエは頭を傾げる。

「そんな顔してます? よく無表情で気味が悪いって言われるんですけど」
「そうでもねぇだろ、少なくともここにいる時はいい顔してると思うぜ?」

 自分の顔に触れてみるが、わかるはずもない。

「龍崎や宝生も、ホームにいるような感じって言やあいいのか、クラスで見んのとは違う」

 同じクラスの大翔はよく男子達の中心で笑っていることが多い。あれは猫を被っているのだとクロエは思っている。
 捺樹は休み時間に押し掛けてくることもあるが、それは見せしめのためで普段とは変わらない。教室での彼の姿はわからない。

「ただあの一年坊だけは……」

 言いかけて、丈二は口を噤んだ。

「三笠が何か?」

 なぜ、彼がそんな表情をするのかクロエにはわからなかった。苦虫を噛み潰したような、自分で言っておきながら触れたくないような、そんな顔だ。

「……あいつは、何でこんなところにいるんだ?」

 意図がわからない。彼がここにいるべきではないと言わんばかりだ。この話はそこに繋がるのだろうか。

「龍崎の気まぐれです。本人も刑事ドラマが好きだって言っていた気がします」

 大翔はもうほとんど覚えていないだろう。彼の入部届をどうしたのかさえ覚えていなかったくらいだ。

「あいつは、おめぇらとは全然違う。引き離してやった方が身のためだ。いや……それもよくねぇな。どうにか自分で気付いて辞めてくれりゃあいいんだが……」

 彼が言っている意味が本当にわからない。
 クロエ自身、正直に言ってしまえば犯研における颯太の存在意義がわからない。彼にあるのは狂気ではないように思う。元々正常な男で、初めの内は非常識だと喚いていたのに、最近は嬉々として話を聞きたがる。

「おめぇにはわかんねぇ話だ」

 ぽんと肩を叩かれる。クロエにとっては単なる動作でしかないが、捺樹がいたらまた面倒なことになるだろう。

「そろそろ帰んな。今日はボディーガードがいねぇんだろ」
「そうするところでした」

 彼が来なければ帰れたという非難を込める。彼は邪魔者だ。排除できるものなら、そうしたい。

「次は追及するので」

 今日はその時間がない。けれど、このままにするつもりもない。
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