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第二章

永遠の花嫁 13

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 どっちだ。
 階段にさしかかって大翔は考える。否、上に行くことはないだろう。逃げ道がない。
 そう言えば、自分は下に何か置いてこなかっただろうか。
 そもそも、自分はなぜこんなところに来たのだろうか。

「ああ、そう言えば」

 大翔は思い出した。
 自分と担任を無理矢理ここまで連れてきた颯太を待たせていたはずだが、彼は鉢合わせしなかっただろうか、無事だろうか。
 大翔が考えた正にその時だった。
 ドサッと音がする。

「うわあああああぁぁぁぁぁっ!」

 落下音に続く悲鳴は颯太のもので間違いないようだった。
 なぜ、上からなのだろうか。大翔は階段を駆け上がる。


「龍崎先輩!」

 屋上に着くなり颯太が抱き付いてくる。他に姿はない。

「あ、あの人っ、は、犯人ですか!?」

 颯太が指さす方向を見る。誰もいないが、先程何か音がしなかっただろうか。
 大翔はやんわりと颯太を引き離すと手摺りの方へ近付く。見下ろせば女が倒れている。遠目に見ても動く様子がない。

「あ、あの人、山岸先生じゃあ……うわっ、救急車! 警察!」

 また後ろからガバッと颯太が抱き付いてくる。恐怖で不安なのだろうか。今度は引き剥がすわけにもいかず、大翔はぽんぽんとその頭を叩いてみた。
 彼は他人を安心させる術を知らなかった。抱き付いてくる颯太の気持ちも自分を呼び止めたクロエの気持ちも全く分からない。


「何があった!?」

 捺樹も颯太の叫び声を聞いたのか、駆け上がってきたようだった。

「俺にとっちゃ最悪の結末だ」

 犯人の自殺、大翔が最も嫌う死に方だ。
 何がそこまで駆り立てたのかは知らない。考えてみても理解できないから嫌いなのだ。自殺が美しいものだという風潮があるところもあるが、大翔は認めない。美しいはずがないのだ。
 それから、蘭子が大翔のすぐ側に駆け寄ってくる。

「ゆり、こ……? そんな……どうして……?」

 蘭子は手摺りの前でへたり込む。

「だから、さっき言ったじゃないですか。あなたの双子のお姉さんがこの事件の犯人だって」

 捺樹は淡々と告げる。彼は蘭子に百合子と同様に軽蔑の念を抱いたのかもしれない。

「ウェディングドレス殺人事件、二件の殺しに関わり三件目を実行しようとした。そっちは未遂ですけどね。でも、一番許されないんですよ、山岸先生」

 捺樹は蘭子をも非難するように辛辣な物言いだった。遺伝子上はほぼ同一人物、だから同罪とでも言うのだろうか。

「あなたは共犯です。あなたが入れ替わったから、盗聴器を仕掛けたから、こういうことになったんです」

 最早嗚咽するだけの蘭子を一瞥すると懐から携帯電話を取り出した。

「あ、生嶋いくしまさん? 例の事件の犯人、飛び降りました」

 捺樹は例の美人刑事に連絡を入れる。既にこちらに向かっているはずなのだが、状況が変わったのだ。しかし、彼に動揺はない。


 やがてけたたましいサイレンが辺りに響き渡った。
 こうして《ウェディングドレス殺人事件》は終わりを告げたのである。
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