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第二章
永遠の花嫁 08
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その時、颯太の手の中で携帯電話が震える。クロエからのメール着信だ。
すぐに確認する。添付された画像がある。それを見た瞬間、颯太は震えが止まらなくなった。
「こ、こ、こ、こ、こ……」
「コッカ・ドゥードゥル・ドゥー」
「何ですか、それ!?」
「ニワトリの鳴き声」
「日本ではこけこっこーです!」
ボケたつもりなのだろうか。最悪だった。役に立たない上に、なぜ、空気を読んでくれないのか。
「本当に危ないです! 見て下さい!!」
颯太は大翔の眼前にずいっと画面を突き付ける。
小さな画面に映し出されているのは一人の花嫁だ。黒い艶髪は華やかに巻かれ、百合だろうか、白い大輪の花が飾られている。白いドレスを着ているようだが、普段露出が少ない彼女の白い胸元は大きく晒され、ジュエリーが煌めいている。だから、颯太は花嫁と判断した。
クロエだった。蔑むような眼差しをこちらに向けてきている。けれど、息を飲むほど美しい。化粧を施された彼女は高潔な貴族のようにも見える。元々の素材の良さを損なわない化け方だ。もっと見たいと思う。できることならば生で見たい。それが最早魂の抜けた骸でも。
(俺、今、何を考えた……?)
颯太は混乱する。また自分を見失いかけた気がする。
「あいつに着られるドレスも可哀想に」
食い入るように画面を見た後、大翔がぽつりと漏らした。
その瞬間、颯太の中でプチンと何かが切れる音がした。
「な・ん・でっ! そういう感想が出てくるんですかっ! 信じられません!! 龍崎先輩なんか大っ嫌いです! 最低の役立たずです! もういいです。宝生先輩にどうにかしてもらいますからっ!!」
急いで颯太は携帯電話を操作する。もう怖いなどとは言っていられない。捺樹だけが頼りだ。
「白が似合わねぇのは事実だろうが」
なぜ、ここまで怒られるのかわからないと言いたげな大翔を颯太は無視した。
そして、待ち望んだ振動がやってきた。着信は捺樹からだった。
「宝生先輩ですかっ!」
捺樹が何かを言っているようだったが、颯太は構わなかった。
「み、御来屋先輩が犯人……っ!」
御来屋先輩が《ウェディングドレス連続殺人事件》の犯人に誘拐されました。
そう言いたかったはずなのに、慌てたせいで違う意味になってしまった。すぐに気付いて言い直そうとするが、捺樹に「黙れ」と言われてしまった。彼が話し始めるのを黙って聞く。
「……わかりました」
そこで通話を終えた。そして、大翔に向き合う。
「宝生先輩は既に現場に向かってるそうです」
「だから、ほっとけって言っただろ」
これで解決したとばかりに大翔がファイルを開く。颯太はそれを取り上げて放り投げた。
「てめぇ……」
大翔が立ち上がり、低く唸る。見下ろすように睨まれても怖いとは思えなかった。
「宝生先輩が『面白いものが見れるからすぐに来て』だそうです」
面白いというのも不謹慎に思えるが、颯太は使命を感じていた。捺樹に大翔を連れて来るように言われたのだ。
「あいつの言う面白いなんかあてになるかよ」
「一緒に来てくれないなら全部バラします。先輩の今後の活動に著しく支障が出るように宝生先輩と結託します」
一歩も引かないという意思を颯太はその言葉に込める。何としてでも大翔を連れ出す。
彼女の最期の姿を見るということになるのだとしても、そうならば尚更彼には見せなければならないだろう。
「めんどくせぇ……」
呟きながらも大翔は諦めたようだった。
「早く支度して下さい!」
コートを羽織って、大翔にも促す。
そして、颯太は彼の手を引いて走り出した。
すぐに確認する。添付された画像がある。それを見た瞬間、颯太は震えが止まらなくなった。
「こ、こ、こ、こ、こ……」
「コッカ・ドゥードゥル・ドゥー」
「何ですか、それ!?」
「ニワトリの鳴き声」
「日本ではこけこっこーです!」
ボケたつもりなのだろうか。最悪だった。役に立たない上に、なぜ、空気を読んでくれないのか。
「本当に危ないです! 見て下さい!!」
颯太は大翔の眼前にずいっと画面を突き付ける。
小さな画面に映し出されているのは一人の花嫁だ。黒い艶髪は華やかに巻かれ、百合だろうか、白い大輪の花が飾られている。白いドレスを着ているようだが、普段露出が少ない彼女の白い胸元は大きく晒され、ジュエリーが煌めいている。だから、颯太は花嫁と判断した。
クロエだった。蔑むような眼差しをこちらに向けてきている。けれど、息を飲むほど美しい。化粧を施された彼女は高潔な貴族のようにも見える。元々の素材の良さを損なわない化け方だ。もっと見たいと思う。できることならば生で見たい。それが最早魂の抜けた骸でも。
(俺、今、何を考えた……?)
颯太は混乱する。また自分を見失いかけた気がする。
「あいつに着られるドレスも可哀想に」
食い入るように画面を見た後、大翔がぽつりと漏らした。
その瞬間、颯太の中でプチンと何かが切れる音がした。
「な・ん・でっ! そういう感想が出てくるんですかっ! 信じられません!! 龍崎先輩なんか大っ嫌いです! 最低の役立たずです! もういいです。宝生先輩にどうにかしてもらいますからっ!!」
急いで颯太は携帯電話を操作する。もう怖いなどとは言っていられない。捺樹だけが頼りだ。
「白が似合わねぇのは事実だろうが」
なぜ、ここまで怒られるのかわからないと言いたげな大翔を颯太は無視した。
そして、待ち望んだ振動がやってきた。着信は捺樹からだった。
「宝生先輩ですかっ!」
捺樹が何かを言っているようだったが、颯太は構わなかった。
「み、御来屋先輩が犯人……っ!」
御来屋先輩が《ウェディングドレス連続殺人事件》の犯人に誘拐されました。
そう言いたかったはずなのに、慌てたせいで違う意味になってしまった。すぐに気付いて言い直そうとするが、捺樹に「黙れ」と言われてしまった。彼が話し始めるのを黙って聞く。
「……わかりました」
そこで通話を終えた。そして、大翔に向き合う。
「宝生先輩は既に現場に向かってるそうです」
「だから、ほっとけって言っただろ」
これで解決したとばかりに大翔がファイルを開く。颯太はそれを取り上げて放り投げた。
「てめぇ……」
大翔が立ち上がり、低く唸る。見下ろすように睨まれても怖いとは思えなかった。
「宝生先輩が『面白いものが見れるからすぐに来て』だそうです」
面白いというのも不謹慎に思えるが、颯太は使命を感じていた。捺樹に大翔を連れて来るように言われたのだ。
「あいつの言う面白いなんかあてになるかよ」
「一緒に来てくれないなら全部バラします。先輩の今後の活動に著しく支障が出るように宝生先輩と結託します」
一歩も引かないという意思を颯太はその言葉に込める。何としてでも大翔を連れ出す。
彼女の最期の姿を見るということになるのだとしても、そうならば尚更彼には見せなければならないだろう。
「めんどくせぇ……」
呟きながらも大翔は諦めたようだった。
「早く支度して下さい!」
コートを羽織って、大翔にも促す。
そして、颯太は彼の手を引いて走り出した。
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