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第二章
永遠の花嫁 04
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颯太は急いでいた。
廊下を走るなと言われても止まれない。止まるわけにはいかない。一刻も早く部室に行かなければならない。
大慌てで部室に駆け込む。手には携帯電話を握り締めている。
「騒がしいよ、おちびちゃん。俺は埃が大嫌いだ。龍崎と同じくらいにね」
捺樹が顔の前で手を振りながら非難に満ちた冷たい視線を投げかけてくる。さりげなく大翔への嫌みを込めるのだから彼は怖いが、今は冷静になる余裕もなかった。
「あ、あのあの! これって……」
颯太は携帯電話の画面をクロエに見せる。この場合、彼女が一番まともだろう。大翔に見せれば「興味がない」の一言で終わらされてしまう。捺樹にそんな真似はできない。
「私達もさっき聞いたところ」
クロエのパソコンの画面にも同じニュース速報が載っている。捺樹も携帯電話をちらつかせる。早速警察に聞いたのだろう。
「全然、ダメね」
クロエは画面を切り替え、捺樹は手帳を広げる。そこには今回の事件の情報がメモされているようだ。
遺体は近くの山林で見付かった。一週間ほど行方不明になっていた女子高生と特徴が一致しているらしい。
発見された時、彼女は白いドレスを着ていた。それこそ颯太が慌てた原因である。先日、クロエが語った殺人の物語に酷似しているように思えたのだ。
「全くアート性が損なわれてる。凡人の殺しだ」
遺体は既に腐敗が始まり、決して綺麗な状態ではなかったらしい。棺に詰められているわけでもないが、花が撒かれた形跡はあったようだ。
「現実はお粗末なもんってこった」
さらさらと何かを書き込んでいた手を止め、大翔が言う。興味がないと言いながら彼は聞いていることが多い。彼に言わせれば耳に入ってきてしまったのだろうか。
「俺に言わせれば初動捜査ミスで迷宮入りする方がよほどお粗末だと思うけど」
捺樹は反論する。大翔は年月の経った未解決事件にしか手を出さない。その中には捺樹の言うような事件も含まれるのだ。
「これ、模倣犯ですよね!?」
「模倣違う」
颯太の問いをクロエが即座にぴしゃりと否定した。
「あ、盗作ですね!」
模倣では元になる殺人があったことになるが、クロエはアイデアを出しただけだ。
「それも違う。作品を発表したりしてないし、たまたま似たようなことを考えただけでしょ」
颯太は納得できなかった。そんなことがあるだろうか。同じ時期に、同じ市内に、同じようなことを考える人間がいるとは。それもかなり猟奇的だ。彼女と同じ狂気を抱え、その上、実行してしまう人間が本当に偶然存在するのだろうか。
「同じじゃないよ、おちびちゃん。まるで意味が違う」
捺樹が首を横に振るが、颯太にはわからない。彼は彼女の味方だから、自分にとって唯一無二だから庇うだけに違いない。
「あの物語のタイトルは《永遠の花嫁》――目的は遺体にドレスを着せることじゃない。防腐処理を施すことに意味があるのに」
「結婚できる歳じゃなきゃいけないのに十五歳。それに、白は純潔の白。暴行したらその意味がなくなる。確かめるためでも貫通しちゃいけない。そうだよね?」
捺樹に聞かれて、こくりとクロエが頷く。どうしてそういうことをお互いに平気で言えるのか。
「ドレスとかから足がつきそうな気がするね。まあ、持ち運び考えてミニにしたんだろうけど、どうせ、ネットでしょ? その前に三件目が見付からなきゃいいけど」
「三件目って……だって、これが初めてですよね?」
「最近、この辺で女の子達が行方不明になってる。今回もその一人」
捺樹はそんなことを言っていたかもしれない。思い返せば情報提供の呼びかけもあった。
「それに、この子は少し時間が経ってる。見付からなかっただけで二件目はもう起きてると思うよ。俺の勘がそう言ってる」
「じゃ、じゃあ、宝生先輩は止められなかったってことですか……?」
ここ最近、捺樹は頻繁に警察署に通っていたはずだ。だから、思わず出てしまったのだ。
捺樹は氷の彫刻のように冷たい顔になり、立ち上がって近付いてくる。
廊下を走るなと言われても止まれない。止まるわけにはいかない。一刻も早く部室に行かなければならない。
大慌てで部室に駆け込む。手には携帯電話を握り締めている。
「騒がしいよ、おちびちゃん。俺は埃が大嫌いだ。龍崎と同じくらいにね」
捺樹が顔の前で手を振りながら非難に満ちた冷たい視線を投げかけてくる。さりげなく大翔への嫌みを込めるのだから彼は怖いが、今は冷静になる余裕もなかった。
「あ、あのあの! これって……」
颯太は携帯電話の画面をクロエに見せる。この場合、彼女が一番まともだろう。大翔に見せれば「興味がない」の一言で終わらされてしまう。捺樹にそんな真似はできない。
「私達もさっき聞いたところ」
クロエのパソコンの画面にも同じニュース速報が載っている。捺樹も携帯電話をちらつかせる。早速警察に聞いたのだろう。
「全然、ダメね」
クロエは画面を切り替え、捺樹は手帳を広げる。そこには今回の事件の情報がメモされているようだ。
遺体は近くの山林で見付かった。一週間ほど行方不明になっていた女子高生と特徴が一致しているらしい。
発見された時、彼女は白いドレスを着ていた。それこそ颯太が慌てた原因である。先日、クロエが語った殺人の物語に酷似しているように思えたのだ。
「全くアート性が損なわれてる。凡人の殺しだ」
遺体は既に腐敗が始まり、決して綺麗な状態ではなかったらしい。棺に詰められているわけでもないが、花が撒かれた形跡はあったようだ。
「現実はお粗末なもんってこった」
さらさらと何かを書き込んでいた手を止め、大翔が言う。興味がないと言いながら彼は聞いていることが多い。彼に言わせれば耳に入ってきてしまったのだろうか。
「俺に言わせれば初動捜査ミスで迷宮入りする方がよほどお粗末だと思うけど」
捺樹は反論する。大翔は年月の経った未解決事件にしか手を出さない。その中には捺樹の言うような事件も含まれるのだ。
「これ、模倣犯ですよね!?」
「模倣違う」
颯太の問いをクロエが即座にぴしゃりと否定した。
「あ、盗作ですね!」
模倣では元になる殺人があったことになるが、クロエはアイデアを出しただけだ。
「それも違う。作品を発表したりしてないし、たまたま似たようなことを考えただけでしょ」
颯太は納得できなかった。そんなことがあるだろうか。同じ時期に、同じ市内に、同じようなことを考える人間がいるとは。それもかなり猟奇的だ。彼女と同じ狂気を抱え、その上、実行してしまう人間が本当に偶然存在するのだろうか。
「同じじゃないよ、おちびちゃん。まるで意味が違う」
捺樹が首を横に振るが、颯太にはわからない。彼は彼女の味方だから、自分にとって唯一無二だから庇うだけに違いない。
「あの物語のタイトルは《永遠の花嫁》――目的は遺体にドレスを着せることじゃない。防腐処理を施すことに意味があるのに」
「結婚できる歳じゃなきゃいけないのに十五歳。それに、白は純潔の白。暴行したらその意味がなくなる。確かめるためでも貫通しちゃいけない。そうだよね?」
捺樹に聞かれて、こくりとクロエが頷く。どうしてそういうことをお互いに平気で言えるのか。
「ドレスとかから足がつきそうな気がするね。まあ、持ち運び考えてミニにしたんだろうけど、どうせ、ネットでしょ? その前に三件目が見付からなきゃいいけど」
「三件目って……だって、これが初めてですよね?」
「最近、この辺で女の子達が行方不明になってる。今回もその一人」
捺樹はそんなことを言っていたかもしれない。思い返せば情報提供の呼びかけもあった。
「それに、この子は少し時間が経ってる。見付からなかっただけで二件目はもう起きてると思うよ。俺の勘がそう言ってる」
「じゃ、じゃあ、宝生先輩は止められなかったってことですか……?」
ここ最近、捺樹は頻繁に警察署に通っていたはずだ。だから、思わず出てしまったのだ。
捺樹は氷の彫刻のように冷たい顔になり、立ち上がって近付いてくる。
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