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本編
ビビリな相談者-1
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圭斗が入ってから、今年もオカ研が正式に始動したと言えるのかもしれない。
なぜか彼は魔界王子と呼ばれるようになっていた。
そんな名前になった経緯はよくわからないが嵐の仕業だと紗綾は知っていた。
リアムが一度はオカ研に関わった者として地獄の皇太子と呼ばれるようになったのもそうだ。
わざと悪い噂を流して、興味本位でオカ研に寄り付かないようにしているらしい。
冷やかしは相手にしない。受けるのは本当の依頼だけである。だから、ほんの少し本当のことを混ぜるのである。
そんなある日の昼休みだった。
いつものように紗綾は香澄と話し込んでいた。
その時、やたらと周囲を気にしながら近付いてくる人物がいた。
「あ、あのさ、月舘」
その男子はやけに小声で紗綾に話しかけてきた。
尚もキョロキョロと視線を彷徨わせ、挙動不審である。
「えっと……」
紗綾も見覚えはある。同じクラスにいたはずなのだが、名前が全く出てこない。
「こいつ、野島」
さすがにクラスメートの名前は覚えていないのはまずい。誰だっけ、などと言えるはずがない。
そうあたふたする紗綾に香澄が助け船を出した。
「野島慎二、同じクラスなんだけどな……」
「ご、ごめんなさい……」
本人に言われて紗綾はしゅんとした。
他人に興味がない云々と人のことは言えないのかもしれない。二年目になるクラスメイトのことさえまるでわかっていないのだから。
「いや、いいよいいよ。気にしないから」
「そんなに目立つ奴でもないしね」
紗綾の記憶でもいつも誰かといるような気がしたが、中心にいたことはないように思えた。
「その、さ、月舘。できれば二人で話したいんだけど……」
ひどく言い辛そうに彼は切り出す。
その瞬間、香澄がキッと彼を睨んだ。
「告白なら私を通しなさいよ」
「ば、バカっ! んなんじゃねぇよ!」
慌てる彼と一緒に紗綾もどうしたらいいのかわからなくなる。そんなことあるはずがないのだ。
「用があるなら、さっさとはっきりきっぱり言いなさいよ」
「か、香澄!」
ちょっとその言い方はきついのではないかと紗綾は思う。
そして、野島の話は自分に向けられていたはずだった。
「いや、あれだよな、田端も知ってて側にいるんだよな……一緒に聞いてもらった方がいいのか……」
野島はぶつぶつと呟いて、やがて決心したようにその場にしゃがみ込んだ。
「あのさ、オカ研の部長ってさ……」
野島は控え目に切り出す。
「あの性悪男がどうしたのよ?」
何かあったのか。
今まで十夜の名前が出される時は大抵いい話ではなかった。
だからこそ、聞くに値しない話はこうして香澄が間に入ってはね除けてきたのだ。
けれども、今回は違うような気がした。
十夜のことを興味本位で聞くのに、ここまで周りを気にしないだろう。彼はそういう人間ではないような気がする。
「その、色々噂あるけどよ……霊能力があるっていうは、本当?」
何か霊障に悩んでいるのか、紗綾は心配になる。
だが、先に口を開いたのはやはり香澄だった。
「何で、今更、そんなこと聞くのよ?」
訝しげな視線を投げる香澄にすっかり野島は萎縮してしまったようだったが、少し沈黙した後、頭を振り、口を開いた。
「……いや、あのな、兄貴がな、何か変なんだよ。兄貴の友達も……その、上手く言えないんだけど、何かに怯えてるみたいでさ……それが、肝試しに行ってからなんだ。俺もまさかとは思うんだけど、でも……」
どうやら霊障らしい。
そこでようやく紗綾にも発言権が与えられた。香澄がちらりと視線を投げてきたのだ。
「えっと……そういう相談なら、部室で聞いてもらえるよ」
魔王と恐れられる十夜だが、本当に困っている人間を見捨てたりすることはしない。見捨てられないのかもしれない。
「あ、あそこって危なくないか……?」
部室と聞いて、野島はあからさまに体を震わせた。
「危ない……?」
そういう噂こそあるものの、いつもそこにいる紗綾には何が危ないのかわからない。
「いや、ほら、何か変なモノを見たとか、変な音が聞こえるとか、隣の部室使ってた同好会がノイローゼになって解体したとか……」
彼が上げたのは怪現象の類ではない。
その全ての犯人が自分達の担任九鬼嵐の工作によるものだとわかったら、彼はどうするだろう。
理由を知っているからこそ紗綾は困った。
なぜか彼は魔界王子と呼ばれるようになっていた。
そんな名前になった経緯はよくわからないが嵐の仕業だと紗綾は知っていた。
リアムが一度はオカ研に関わった者として地獄の皇太子と呼ばれるようになったのもそうだ。
わざと悪い噂を流して、興味本位でオカ研に寄り付かないようにしているらしい。
冷やかしは相手にしない。受けるのは本当の依頼だけである。だから、ほんの少し本当のことを混ぜるのである。
そんなある日の昼休みだった。
いつものように紗綾は香澄と話し込んでいた。
その時、やたらと周囲を気にしながら近付いてくる人物がいた。
「あ、あのさ、月舘」
その男子はやけに小声で紗綾に話しかけてきた。
尚もキョロキョロと視線を彷徨わせ、挙動不審である。
「えっと……」
紗綾も見覚えはある。同じクラスにいたはずなのだが、名前が全く出てこない。
「こいつ、野島」
さすがにクラスメートの名前は覚えていないのはまずい。誰だっけ、などと言えるはずがない。
そうあたふたする紗綾に香澄が助け船を出した。
「野島慎二、同じクラスなんだけどな……」
「ご、ごめんなさい……」
本人に言われて紗綾はしゅんとした。
他人に興味がない云々と人のことは言えないのかもしれない。二年目になるクラスメイトのことさえまるでわかっていないのだから。
「いや、いいよいいよ。気にしないから」
「そんなに目立つ奴でもないしね」
紗綾の記憶でもいつも誰かといるような気がしたが、中心にいたことはないように思えた。
「その、さ、月舘。できれば二人で話したいんだけど……」
ひどく言い辛そうに彼は切り出す。
その瞬間、香澄がキッと彼を睨んだ。
「告白なら私を通しなさいよ」
「ば、バカっ! んなんじゃねぇよ!」
慌てる彼と一緒に紗綾もどうしたらいいのかわからなくなる。そんなことあるはずがないのだ。
「用があるなら、さっさとはっきりきっぱり言いなさいよ」
「か、香澄!」
ちょっとその言い方はきついのではないかと紗綾は思う。
そして、野島の話は自分に向けられていたはずだった。
「いや、あれだよな、田端も知ってて側にいるんだよな……一緒に聞いてもらった方がいいのか……」
野島はぶつぶつと呟いて、やがて決心したようにその場にしゃがみ込んだ。
「あのさ、オカ研の部長ってさ……」
野島は控え目に切り出す。
「あの性悪男がどうしたのよ?」
何かあったのか。
今まで十夜の名前が出される時は大抵いい話ではなかった。
だからこそ、聞くに値しない話はこうして香澄が間に入ってはね除けてきたのだ。
けれども、今回は違うような気がした。
十夜のことを興味本位で聞くのに、ここまで周りを気にしないだろう。彼はそういう人間ではないような気がする。
「その、色々噂あるけどよ……霊能力があるっていうは、本当?」
何か霊障に悩んでいるのか、紗綾は心配になる。
だが、先に口を開いたのはやはり香澄だった。
「何で、今更、そんなこと聞くのよ?」
訝しげな視線を投げる香澄にすっかり野島は萎縮してしまったようだったが、少し沈黙した後、頭を振り、口を開いた。
「……いや、あのな、兄貴がな、何か変なんだよ。兄貴の友達も……その、上手く言えないんだけど、何かに怯えてるみたいでさ……それが、肝試しに行ってからなんだ。俺もまさかとは思うんだけど、でも……」
どうやら霊障らしい。
そこでようやく紗綾にも発言権が与えられた。香澄がちらりと視線を投げてきたのだ。
「えっと……そういう相談なら、部室で聞いてもらえるよ」
魔王と恐れられる十夜だが、本当に困っている人間を見捨てたりすることはしない。見捨てられないのかもしれない。
「あ、あそこって危なくないか……?」
部室と聞いて、野島はあからさまに体を震わせた。
「危ない……?」
そういう噂こそあるものの、いつもそこにいる紗綾には何が危ないのかわからない。
「いや、ほら、何か変なモノを見たとか、変な音が聞こえるとか、隣の部室使ってた同好会がノイローゼになって解体したとか……」
彼が上げたのは怪現象の類ではない。
その全ての犯人が自分達の担任九鬼嵐の工作によるものだとわかったら、彼はどうするだろう。
理由を知っているからこそ紗綾は困った。
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