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本編

生贄の証-1

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 放課後、紗綾が覚悟を決めて部室に行くと既に十夜と圭斗が来ていた。
 ソファーに体を預けている十夜の顔色が悪く見えるのは決して気のせいではないのだろう。
 歓迎会の疲労もまだあるのだろうが、別の理由が大きく関係していることが紗綾にはわかる。
 だから、今は何も言うべきではないと思っていた。言ったところで何ができるわけでもない。これは彼の問題だ。
 圭斗も既に向かいのソファーに座っているが、リアムの姿はなかった。座布団だけがぽつんと置かれている。
 やがて、やってきた嵐も部屋を見回し、首を傾げた。

「あれ? ロビンソンは? 一応来いって言っておいたのに」
「ああ、それなら、俺がクビって言っといたっス。紗綾先輩は俺を選んだし、なんかセンセーのこと怖がってたし」
「君も勝手なことをするね」

 嵐は肩を竦めるが、怒る気配はなかった。
 彼にとっては好都合であるのだろう。
 結局のところ、本当の生贄は圭斗であって、リアムのことは何かの手違いであったということだ。

「トラブルの種なんていらないっしょ? それに、喜んで手引いたっスよ」

 彼の存在は厄介でオカ研としては監視するべきだが、抱えておくのはリスクが高すぎる。
 どちらかしかオカ研には入れられず、トラブルは間違いなく十夜や嵐の心労に繋がるだろう。
 既に八千草というトラブルホイホイの存在もある。彼が卒業したからと言ってその繋がりは決して切れることはない。

「八千草とは波長が合ったみたいだけどね」

 確かに歓迎会の帰り、学校に戻って車から降りた時、二人が妙に意気投合していたのを紗綾も見ている。
 そして、十夜がうんざりしていたのも見てしまった。
 死にそうだったと形容してもいいのかもしれない。

「OBと合っても意味ないじゃないっスか。それ以上に先輩や部長が怖かったんスよ、きっと」

 圭斗は笑う。自分が脅したわけではないとばかりに。
 思い返せば、確かにリアムは嵐を恐れていた。躾を施されたせいもあるだろう。
 それはどこか香澄が彼を恐れるのに少し似ていたのかもしれない。

「月舘はこれでいいんだね?」

 嵐にじっと見られれば、紗綾も緊張感が増す。
 彼は本当に選択したのかと疑っているのかもしれない。
 だが、紗綾も覚悟を決めている。彼について責任を持つと。

「はい、今年の生贄は圭斗君に決めました」

 宣言すれば、圭斗が微笑みかけてくる。
 恥ずかしさを覚えながらも、後悔はなかった。
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