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本編
黒い大天使、降臨-1
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圭斗が教室を出れば、廊下では意外な人物が微笑んで出迎えた。
女生徒達にちらちらと見られても全く気にした様子もなく、そこに立っている。
目が合って、その神々しくも見える笑みを向けられた瞬間、圭斗は思わず舌打ちして顔を逸らしたが、無駄だった。
ここにいる理由は聞くまでもない。
「一年生はやんちゃでいいね」
人のいない方へ歩き出した圭斗の隣に並んで将也は言う。
圭斗としてはできれば無視したかった。
特に今は誰かと話したい気分ではないが、それで撒ける相手ではないことはわかる。
彼は見ていたのだろう。だから、気持ちも察しているだろう。
だが、タイミングが悪かったと思ったなら、とっくに帰っていたはずだ。
大抵の人間なら一睨みでもすれば済むのに、全く通用しないのだ。
「僕のこと、わからないってことはないよね?」
「俺のこと、馬鹿にしてるんスか?」
対面して言葉を交わしてから、それほど時間は経っていない。
そして、ライバルになる可能性のある人間を忘れられるほど平和な頭でもない。
この男は曲者だと圭斗の本能が告げている。
「司馬将也、と言っても僕は君の名前を聞いていなかったね」
「榊圭斗」
今、この瞬間、二人は互いの名前を知って真にライバルになったのかもしれなかった。
「圭斗君、少し時間あるかな? もちろん、あるよね?」
「先輩に手を出すな的なライバル潰しだったら応じないっスけど。俺、今、かなり機嫌悪いんで」
違うよ、と将也は笑ったが、半ば強制している時点で穏やかには思えない。
すぐに教室に戻る気がないことをわかっているに違いないのだ。
「僕はお兄ちゃんとかお父さんとかみたいなものだからね。むしろ、逆だよ。君には頑張ってほしいと思ってるんだ」
「それも作戦っスか?」
将也は爽やかな笑みを見せるが、安全な男だと思い込ませたいのかもしれない。
圭斗は警戒を解く気はなかった。
この男の本性はただのいい人ではないのだから。
「田端君と言い、君も僕を何だと思ってるんだろうね」
参ったな、と彼は肩を竦める。信用がないらしいと。
圭斗は簡単に中身が見えない人間を信用する男ではないし、信頼できるだけの時間もなかった。
「田端先輩と紗綾先輩で呼び方が違うのは何でっスかね? 司馬先輩」
「兄貴のがうつったんだよ。会ったでしょ? くたびれた刑事」
「じゃあ、そういうことにしておくっスよ」
刑事の司馬将仁が彼の兄であることは聞いた。だが、それを理由にしても疑わしいのがこの男である。
何を考えているのか本当によくわからないのだ。
「俺は黒羽には彼女を渡したくなくてね」
人気のない場所へ圭斗を誘導して、将也は言う。そういうことは三年である彼の方が熟知していたのかもしれない。
しかし、それを聞いて、圭斗は思わず笑いたくなった。
「万年一位でむかつくから?」
「君、話を歪めるのが好きなんだね」
将也は苦笑するが、圭斗も本気でそう感じたわけではない。わざとそうしたのだ。
「先輩が歪んで見えるからっスよ」
「確かにそうなのかもしれないね」
肩を竦める将也には思い当るところがあるようだった。
「でも、それでもいいんだ」
彼は全てを諦めているようだった。
否、彼は悟ったつもりなのかもしれない。
「あいつは誰かを愛せる男じゃない。このままあいつが変わらないなら、俺はあいつから彼女を引き離すべきだと思うんだ。手遅れになる前に」
「言われなくてもわかってるっスよ」
そこで将也は安心したような穏やかな表情を見せてきた。
作り物の笑みではない、素の表情を。
女生徒達にちらちらと見られても全く気にした様子もなく、そこに立っている。
目が合って、その神々しくも見える笑みを向けられた瞬間、圭斗は思わず舌打ちして顔を逸らしたが、無駄だった。
ここにいる理由は聞くまでもない。
「一年生はやんちゃでいいね」
人のいない方へ歩き出した圭斗の隣に並んで将也は言う。
圭斗としてはできれば無視したかった。
特に今は誰かと話したい気分ではないが、それで撒ける相手ではないことはわかる。
彼は見ていたのだろう。だから、気持ちも察しているだろう。
だが、タイミングが悪かったと思ったなら、とっくに帰っていたはずだ。
大抵の人間なら一睨みでもすれば済むのに、全く通用しないのだ。
「僕のこと、わからないってことはないよね?」
「俺のこと、馬鹿にしてるんスか?」
対面して言葉を交わしてから、それほど時間は経っていない。
そして、ライバルになる可能性のある人間を忘れられるほど平和な頭でもない。
この男は曲者だと圭斗の本能が告げている。
「司馬将也、と言っても僕は君の名前を聞いていなかったね」
「榊圭斗」
今、この瞬間、二人は互いの名前を知って真にライバルになったのかもしれなかった。
「圭斗君、少し時間あるかな? もちろん、あるよね?」
「先輩に手を出すな的なライバル潰しだったら応じないっスけど。俺、今、かなり機嫌悪いんで」
違うよ、と将也は笑ったが、半ば強制している時点で穏やかには思えない。
すぐに教室に戻る気がないことをわかっているに違いないのだ。
「僕はお兄ちゃんとかお父さんとかみたいなものだからね。むしろ、逆だよ。君には頑張ってほしいと思ってるんだ」
「それも作戦っスか?」
将也は爽やかな笑みを見せるが、安全な男だと思い込ませたいのかもしれない。
圭斗は警戒を解く気はなかった。
この男の本性はただのいい人ではないのだから。
「田端君と言い、君も僕を何だと思ってるんだろうね」
参ったな、と彼は肩を竦める。信用がないらしいと。
圭斗は簡単に中身が見えない人間を信用する男ではないし、信頼できるだけの時間もなかった。
「田端先輩と紗綾先輩で呼び方が違うのは何でっスかね? 司馬先輩」
「兄貴のがうつったんだよ。会ったでしょ? くたびれた刑事」
「じゃあ、そういうことにしておくっスよ」
刑事の司馬将仁が彼の兄であることは聞いた。だが、それを理由にしても疑わしいのがこの男である。
何を考えているのか本当によくわからないのだ。
「俺は黒羽には彼女を渡したくなくてね」
人気のない場所へ圭斗を誘導して、将也は言う。そういうことは三年である彼の方が熟知していたのかもしれない。
しかし、それを聞いて、圭斗は思わず笑いたくなった。
「万年一位でむかつくから?」
「君、話を歪めるのが好きなんだね」
将也は苦笑するが、圭斗も本気でそう感じたわけではない。わざとそうしたのだ。
「先輩が歪んで見えるからっスよ」
「確かにそうなのかもしれないね」
肩を竦める将也には思い当るところがあるようだった。
「でも、それでもいいんだ」
彼は全てを諦めているようだった。
否、彼は悟ったつもりなのかもしれない。
「あいつは誰かを愛せる男じゃない。このままあいつが変わらないなら、俺はあいつから彼女を引き離すべきだと思うんだ。手遅れになる前に」
「言われなくてもわかってるっスよ」
そこで将也は安心したような穏やかな表情を見せてきた。
作り物の笑みではない、素の表情を。
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