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本編
悪魔と二人だけの秘密-2
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「そう言えば、部長って貧血とかなんスか? 意外に虚弱とか?」
ペンダントを再びしまい込んで、圭斗が言う。
「黒羽部長は繊細な人だから」
はぐらかされたようにも思いながら紗綾は答える。
紗綾にはよくあることでしかないが、彼にとっては意外なことだったのかもしれない。
「紗綾先輩の方がよっぽど繊細な気がするんスけどね」
「全然そんなことないよ」
まだ理解は深くない。そう思う度に恐怖がある。幻滅されるのはやはり怖かった。
だが、その恐怖は繊細ということとは違うと紗綾は考えるのだ。ただ臆病で卑怯なだけにすぎない。
「俺もまだまだっスね」
不意に圭斗が小さく笑う。
困ったような、いつもは大人びた表情を見せるのに今は幼さの方が強く感じられる。
「紗綾先輩は本当に色々考えすぎっスよ。人間、少しくらいは無神経な方がいいんスよ。田端先輩みたいに、って言うと語弊があるっスけど」
見透かされているかのような気分になるのはなぜだろうか。
彼は年下だ。ほんの一年の差だが、それでもずっと年上のように感じるのはなぜだろうか。
物怖じせず、ストレートで、紗綾とは全く違うタイプの人間だ。香澄のような、憧れのタイプでもある。
こうなれたらと思いながら、自分には無理だと否定するしかない種の人間だ。
「負担を増やしてるのは私だから」
自分さえサイキックであればと何度思ったかはわからない。
彼の霊的センサーになぜ自分が引っ掛かったのか、それは最大のミステリーであり、今も解明されていない。
魔女にさえ解けない難問だったのかもしれない。あるいは、彼女だけがわかっていて、答えを教えてくれないのか。
「早退は自分のせいって? それはないっスよ。繊細だって言うなら、それは先生が言うようにヘタレってことっスよ。どれくらいヘタレかって言うともうどうしようもなく、どん底的にヘタレっス。救いようがないって言うか……救われたいと思ってるくせに自分から救われない道を選んでる……一言で言えば馬鹿っスね、大馬鹿者と言っても過言じゃない」
彼はなぜ、こんなにも次々に物が言えるのか。
一体、何を知っていると言うのか。
「圭斗君には……」
「俺にはわからない?」
言いかけて、けれど、言えなかった言葉を圭斗は容易く言い当てた。
言ったら傷付けてしまうと歯止めがかかったのに、誘導されるように頷いてしまう。
彼は黒羽十夜を知らないからだと何度も心の中で自分を正当化する理由を考えて。
「わかるよ。だって、俺もサイキックだし」
「え……? えっ!?」
さらりと、あまりにもさらりと言われて紗綾は動揺を隠せなかった。
何度も圭斗を見てしまう。
「今、言わないと俺の好感度下がっちゃいそうだし」
「だ、だって……」
「俺、霊感ゼロなんて言った?」
思い返せば、確かに彼が霊的な力を持っていないと言った記憶はない。
理解している素振りで、けれど、持っているとも言わなかった。
「あ、これ、みんなにはナイショっスよ?」
圭斗は人差し指を口元に当てる。
その仕草にさえ目を引き付けられるのはどこか神秘的だからなのかもしれない。
「でも……」
「まあ、その内バレそうっスけどね。能ある鷹は爪を隠すって言うじゃないっスか。自分から言う奴なんて胡散臭いし」
圭斗は尚も続けるが、紗綾は理解が追い付いていない。霊感など欠片もない紗綾にとっては、彼らの世界のことはわからない。
サイキックと一言で言っても様々なタイプがいるらしい。その辺りのことは前に十夜や嵐からオカ研における必須知識として聞いたことがある。
「でも、前に力がある人は会えばわかるって部長が……」
力を持つ者同士感じるものがあると嵐にも説明されたことがある。
もし、圭斗がサイキックなら、なぜ、十夜は彼を要らないと言ったのか。
あるいは、力には強弱があるからこそ、リアムの方が強いということなのか。
だが、そんな考えを見抜いたのか、圭斗はクスクスと笑い出す。
「ああ、俺、力隠してるんで。どうせ、ヘタレにはわからないっスよ。先生の方は探ろうとしてる感じあったっスけどね、でも、結局見抜けなかった」
隠している。圭斗は言うが、紗綾は今一つ情報が自分の中で繋がらないのを感じていた。
隠したくても隠せないと十夜は言った。現に彼はそのせいで苦悩している。
それとも、それは彼の家がそうさせていることなのか。
「だから、どうしようもなくなるまで、紗綾先輩と俺の、二人だけの秘密ってことで。少しだけ俺に悪足掻きさせて下さいっス」
聞きたいことはあったが、聞ける雰囲気でもなく、紗綾は頷くしかなかった。
彼がサイキックであると名乗りでてくれれば、少し状況が変わるかもしれない。それでも、本人が隠していると言うのなら、紗綾には暴くことができない。
真偽さえわからないのだから何も言えないのだ。
「誰にも言わないよ」
「ありがとうございます」
最後に見せたその表情は切なそうで、十夜の苦しげな表情とも重なり、とても嘘には思えなかった。
ペンダントを再びしまい込んで、圭斗が言う。
「黒羽部長は繊細な人だから」
はぐらかされたようにも思いながら紗綾は答える。
紗綾にはよくあることでしかないが、彼にとっては意外なことだったのかもしれない。
「紗綾先輩の方がよっぽど繊細な気がするんスけどね」
「全然そんなことないよ」
まだ理解は深くない。そう思う度に恐怖がある。幻滅されるのはやはり怖かった。
だが、その恐怖は繊細ということとは違うと紗綾は考えるのだ。ただ臆病で卑怯なだけにすぎない。
「俺もまだまだっスね」
不意に圭斗が小さく笑う。
困ったような、いつもは大人びた表情を見せるのに今は幼さの方が強く感じられる。
「紗綾先輩は本当に色々考えすぎっスよ。人間、少しくらいは無神経な方がいいんスよ。田端先輩みたいに、って言うと語弊があるっスけど」
見透かされているかのような気分になるのはなぜだろうか。
彼は年下だ。ほんの一年の差だが、それでもずっと年上のように感じるのはなぜだろうか。
物怖じせず、ストレートで、紗綾とは全く違うタイプの人間だ。香澄のような、憧れのタイプでもある。
こうなれたらと思いながら、自分には無理だと否定するしかない種の人間だ。
「負担を増やしてるのは私だから」
自分さえサイキックであればと何度思ったかはわからない。
彼の霊的センサーになぜ自分が引っ掛かったのか、それは最大のミステリーであり、今も解明されていない。
魔女にさえ解けない難問だったのかもしれない。あるいは、彼女だけがわかっていて、答えを教えてくれないのか。
「早退は自分のせいって? それはないっスよ。繊細だって言うなら、それは先生が言うようにヘタレってことっスよ。どれくらいヘタレかって言うともうどうしようもなく、どん底的にヘタレっス。救いようがないって言うか……救われたいと思ってるくせに自分から救われない道を選んでる……一言で言えば馬鹿っスね、大馬鹿者と言っても過言じゃない」
彼はなぜ、こんなにも次々に物が言えるのか。
一体、何を知っていると言うのか。
「圭斗君には……」
「俺にはわからない?」
言いかけて、けれど、言えなかった言葉を圭斗は容易く言い当てた。
言ったら傷付けてしまうと歯止めがかかったのに、誘導されるように頷いてしまう。
彼は黒羽十夜を知らないからだと何度も心の中で自分を正当化する理由を考えて。
「わかるよ。だって、俺もサイキックだし」
「え……? えっ!?」
さらりと、あまりにもさらりと言われて紗綾は動揺を隠せなかった。
何度も圭斗を見てしまう。
「今、言わないと俺の好感度下がっちゃいそうだし」
「だ、だって……」
「俺、霊感ゼロなんて言った?」
思い返せば、確かに彼が霊的な力を持っていないと言った記憶はない。
理解している素振りで、けれど、持っているとも言わなかった。
「あ、これ、みんなにはナイショっスよ?」
圭斗は人差し指を口元に当てる。
その仕草にさえ目を引き付けられるのはどこか神秘的だからなのかもしれない。
「でも……」
「まあ、その内バレそうっスけどね。能ある鷹は爪を隠すって言うじゃないっスか。自分から言う奴なんて胡散臭いし」
圭斗は尚も続けるが、紗綾は理解が追い付いていない。霊感など欠片もない紗綾にとっては、彼らの世界のことはわからない。
サイキックと一言で言っても様々なタイプがいるらしい。その辺りのことは前に十夜や嵐からオカ研における必須知識として聞いたことがある。
「でも、前に力がある人は会えばわかるって部長が……」
力を持つ者同士感じるものがあると嵐にも説明されたことがある。
もし、圭斗がサイキックなら、なぜ、十夜は彼を要らないと言ったのか。
あるいは、力には強弱があるからこそ、リアムの方が強いということなのか。
だが、そんな考えを見抜いたのか、圭斗はクスクスと笑い出す。
「ああ、俺、力隠してるんで。どうせ、ヘタレにはわからないっスよ。先生の方は探ろうとしてる感じあったっスけどね、でも、結局見抜けなかった」
隠している。圭斗は言うが、紗綾は今一つ情報が自分の中で繋がらないのを感じていた。
隠したくても隠せないと十夜は言った。現に彼はそのせいで苦悩している。
それとも、それは彼の家がそうさせていることなのか。
「だから、どうしようもなくなるまで、紗綾先輩と俺の、二人だけの秘密ってことで。少しだけ俺に悪足掻きさせて下さいっス」
聞きたいことはあったが、聞ける雰囲気でもなく、紗綾は頷くしかなかった。
彼がサイキックであると名乗りでてくれれば、少し状況が変わるかもしれない。それでも、本人が隠していると言うのなら、紗綾には暴くことができない。
真偽さえわからないのだから何も言えないのだ。
「誰にも言わないよ」
「ありがとうございます」
最後に見せたその表情は切なそうで、十夜の苦しげな表情とも重なり、とても嘘には思えなかった。
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