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四章

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「それじゃあ、乾杯!」
「「「「「かんぱい~い!!!!」」」」」

 居酒屋の一角、大人数の飲み会が開催された。後期に入ったこと、先輩たちの研究発表が終わったこと、抜き打ちの試験が終わったこと。諸々の理由を合わせているけど、結局のところ皆酒を飲んで騒ぎたいのだ。特に忙しくて遊ぶ暇が中々もてなかった上級生たちが。

 下級生はそのおこぼれをあずかる形で参加しているけど、学科全体が集まる機会なんて滅多にないし、夏休みとあって会えていなかった人たちの近況報告も兼ねている。とまぁいろいろ言い訳がましいけど、楽しい。大勢のわいわいとした賑やかしさ、ビールの苦みと料理。それになんといってもれみのことから解放されているのも大いにある。

「小田先輩、院には進まないんですか?」
「そうだワン。就職する方針だワン。けどまだどこの企業を受けるか決めてないんだワン」
「ええ~!? 小田先輩だったらどこにでも内定もらえるわよ~!」
「ありがとうだワン。嬉しいワン」
「先輩、お酒のおかわりいります?」
「じゃあ梅酒がほしいワン」
「「「さっきからワンってなんですか!?」」」

 律儀。人気者な小田先輩は男女問わず囲まれているけど、罰ゲームの内容を守っている。俺は側にいったら絶対小田先輩に恨み言をぶつけられるか罰ゲームのことをばらされるかだから、遠くからニヤニヤと楽しませてもらう。それに、ちょうど他の人と話しているし。

「おお~。お前いつも以上の飲みっぷりだなぁ」

 隣人の言う通り。ジョッキを一気にカラにしているけど、普段はもう少しゆっくり飲む。れみに矯正されてたのと久しぶりに酒を飲んだ反動もあるんだろう。とにかくハイペースで飲み続けてしまう。そのせいで酔いが回るのが早い気がする。

「おい、瞬。なにか一発芸しろ~!」

 いつもなら困る無茶ぶりにもノリノリで応えてしまう。先輩たちの研究発表会を見学したときの内容を元にして、

「ナイアガラ!!」
「吊り構造!!」

 と次々とネタを披露。皆酔っ払っているのと突飛なネタに大笑い。他にも健が教授のものまねをして笑いをかっさらったりそれに続いて俺も私も! と続いていく。

「はぁ~。楽しい」

 笑いつかれて、乾ききった喉を、ビールで潤す。こんなに楽しいのはいつぶりだろう。トイレに行こうとしたとき、携帯が震えているのに気づく。なんとかポケットから出して中身を確認。視点が定まらず、パスワードを間違えながら起動する。

〈今どこですか?〉

 れみからの連絡だった。けど、一通だけじゃなくってもう何通も来ている。

「ええ~。上杉くんなに携帯みてんの~?」

 女子が肩にもたれかかってくる。よろけそうになって体勢を戻すと、彼女の口から酒臭さが漂ってくる。

「もしかして、例の彼女ちゃん? 高校生の」
「なんで知ってんの!?」
「健が言ってたよ~」

 あのやろう、と腹が立ったけど屈強なガチムチの先輩たちに絡まれているからよしとしよう。恋バナであることを嗅ぎつけたのか、ハイエナよろしく女子たちが集まってくる。

「ええ~? 上杉彼女いんの!?」
「まじで! いつの間に!」
「上杉くんは長井くんと付き合うべきですだから別れてください!」
「写メ見せて写メー!」

 若干一名おかしい人がいたけど、それかられみの話になる。適当に挙げた好きなところも、一緒にいるときの様子を赤裸々に語る。嘘も罪悪感も、全部アルコールが紛らわしてくれる。

〈既読がつきましたけど、もしかして無視してます?〉
〈アパートひどい様子ですけどなにしていたんですか〉
〈私がいない間、好き放題遊んでたんですか〉
〈女の子とっかえひっかえですか。合コンし放題ですか。いやらしい〉
〈こっちがめんどうなことに巻き込まれているのに、良いご身分ですね〉

 画面を覗き込もうとしてくる女子たちの顔を押して防御しながら返信したいけど、連投はとまらない。これは相当ご立腹。いつもならなんとかしないといけないっておもうけど、酒のせいだろうか。なんだか微笑ましくなってきた。

〈もしかして、なにか連絡できない状況ですか? だったら私が行きます。教えてください〉

 あ、優しいな。今度は心配してくれてる。このままどんな様子になるか様子見っていうのもいいけど、それじゃれみがかわいそうだ。少し安心させてやろう。

「おーい皆ちょっと写真撮ろうぜ!」

 近くにいた女子たちと、写メを撮る。皆酔いまくってテンション上がりまくってるから快く承諾してくれた。俺も柄にもなくヘビメタのバンドみたいなポーズをとったり、女子たちと肩を組んだりした。れみに今飲み会してると教える内容の文面とともに撮った写メたちを送る準備に入る。

 けど、誰かと肩が太ももに頭をのせてきた拍子に驚いて未完成のまま送信。そいつの頭を叩いたり瞼を開いて息を吹きかける嫌がらせ、それから力比べといったコミュニケーションに移る。

「おい! そろそろ会計だけど、次カラオケ行くやついるか!!??」
「「「「「「「「「「「「はああああああああああああああああああい」」」」」」」」」」」

 幹事である先輩の誘いに、全員が返事を。そのまま会計・移動に入る。れみへの連絡も、震え続ける携帯も思考の彼方に消えて歌う曲についてワクワクしていた。
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