魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

文字の大きさ
上 下
188 / 192
二十八章

しおりを挟む

 激痛と、誰かの叫び声。俺自身が発しているのだと自覚していながらもとめることができない。目の奥が尋常ならざる悲鳴をあげ、脳がひりつくようだ。

「があああ………ああ………! はぁ、はぁ………」
「ユーグ様?」
「あ、はぁはぁ………アンナ?」

 両方のまなこが、しっかりとアンナの顔を捉えた。まだ疼く痛みがマシになることはなく、義眼と左目で映っている景色の差に吐き気すらしてしまう。

「呆れたぞ。まさか本当に生き返るとは」
「あ、アコーロン?」
「ああ、ようございました………」
 
 状況がうまく読み取れない。俺はたしか遺跡の奥で遺産を。それで少女が。魔獣の骨が。

「貴様は、仮死状態に陥っていた。それで義眼を嵌めこんだら生き返ったのだ」
「生き返った? 俺が?」
「そうだ。心臓も呼吸も脈も完全に停止していたにも関わらずだ」
「……………………………………どうして?」
「知るか。貴様の体で魔法だろうが」

 おかしい。だって俺の義眼は摘出したらそれだけで死んでしまうほど密接に複雑に俺と繋がっていた。なのにそんな簡単に生き返れるほど取り外しができるんだったら苦労なんてしていなかった。

「まだ俺にも解明できていない謎があるのか………? だったら………」
「あの、ユーグ様?」

 義眼の研究について深い思考の奥に落ちようとしていたけど、鼓膜を破り肌にびりびりとした狼の遠吠えによって強制的に中断された。なんだと振り向くと魔獣と同じほどの大きさの狼と、そして巨人が戦っていた。

「なにあれ?」
「オスティン様だ」
「は?」
「そして片方は貴様の奴隷だ」
「………は?」

 意味がわからない。

「ルウがなんであんな筋肉ダルマの巨人になってるんだ!? まさか呪いか!?」
「逆だっっっ!!」

「ルウさんはユーグ様が死んだとき、とても悲しんでおられました。ですが、そのあとあのようなお姿に」
「え、えええええ?」

 どういうこと? なんでルウがあんな大きな狼になって、筋肉の巨人になったオスティンと戦ってるんだ? というかここどこだ? 森でも遺跡でもなくて、なんだか戦場跡みたいだ。

「これ、がご主人様がおそれていた、魔法士ユーグ。なんだ、か。残念」

 ふと気がつくと、魔獣を復活させた少女が影に半分身を浸すようにして、こちらを眺めていた。

「自分、の。奴隷のことすら把握、してない。判断力、分析力、劣ってる」

「つまり、私、のご主人様、が上」

 えへん、と胸を少し逸らし、どや顔をしている。

「あいつのことはこちらでする。早くなんとかしろ。貴様の奴隷だろうが」
「な、なんとかって。ええ~~~?」 

「このままでは貴様の奴隷を殺すことにもなりかねんぞ。オスティン様は躊躇っておられるが」
「………なんだと?」
「貴様の奴隷は、世界を滅ぼす力を秘めている種族だった。できるだけ殺したくはないだろうが、あの人も最後には自分を優先する。ならば仕方ないだろうよ」
「………………………」
「あ、ユーグ様?」

 まだ義眼がきちんと正常に戻っていないのか。ただ立っただけでとんでもなく激痛がはしる。

「アンナ、アコーロン。少し手伝ってくれ」

 一人では、ルウの元へ行くなんてできないかもしれない。

「わ、私でよければ。ですが大丈夫でございますか?」

 肩を貸してくれるアンナと、少女を見張るつもりらしいアコーロンに視線を。

「いいか、アンナ。一つ覚えておいてくれ」

 世界が滅ぶ? どうでもいい。

 力を秘めている種族? どうでもいい。

 ルウは俺にとってただの大切な女の子だ。

 その子を殺す羽目になるだなんて、見過ごすことなんてできるわけがない。

「俺はルウのためだったらなんでもできるんだよ。死ぬことさえ惜しくない」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3IN-IN INvisible INnerworld-

ゆなお
ファンタジー
一人の青年のささやかな願いから始まった旅は、いつしか仲間と共にひっそりと世界を救う旅へと変わっていく。心と心の繋がりの物語。 ※本編完結済みです。2ルート分岐あり全58話。長いですが二十五話まで読んで、続きが気になったら最後まで読んでください。

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...