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二十二章
Ⅰ
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試験前日、逸る心拍と不安を和らげる目的もあって工房にこもった。この頃は個人的な研究ができていなかったもんで、つい熱中して時間を忘れてしまった。
「失礼いたします」
経験則か、俺に対するノックは意味がないと理解したルウは、わざとらしく乱暴に入室した。集中していると、小さい音は特に気づきにくいからありがたい。
この辺も、今までの積み重ねがあったからだと、じ~~んと無遠慮に感動してしまう。
「紅茶をお持ちいたしました」
「ああ、ありがとう」
何気なく受取ったカップを視認しようとした。その合間にルウの姿が一瞬だけ目に映った。実に自然な流れだったし、いつもと同じ衣服だって先入観によって、変化を見逃してしまった。一口啜ったところで、強い違和感が働いて
「!?」
おもわず二度見して、目を疑う。
ルウは普段と違う装いをしていた。太ももと肩が出ているだけじゃなくて、下着が透けている。
「ルウ、それは?」
「シエ子様にいただきました。勝負下着だそうです」
「誰と戦うの?」
まさか俺と? 胸の膨らみと谷間が扇情的で、けど大事なところはちゃんと隠されていて、ほのかな燭台に照らされている効果もあって実にエロい。
着てる意味あるの? ってくらい機能性としては疑問が大いにあるけど、心の中でシエ子に土下座で礼をした。
「ネグリジェというものだそうです。こうやって相手を誘うと教えられましたが。なるほど。実に合理的です。わざと防御力が薄いということを視覚でアピールして油断させるのですね。体術にも似た作法があります」
「お、おう・・・・・・。というかなんでそれ着てるの?」
一人でうんうんと頷いて、納得しているけど。まさか俺と本気で戦うつもり?
「いえ。せっかくいただいたのですから。着ないともったいないとおもいまして」
「あ、そう・・・・・・」
「他にも股がぱっくりと開いた下着とか乳首が出る下着とか紐とかいただきました」
「嫌だったら嫌だって断っていいんだよ? シエ子に押しつけられてない?」
さぁ? とばかりの身ぶりをしながら、俺の元へ。下着の効果もあって、ドギマギしてしまう。
「どうでしょうか」
「な、なにが?」
「ご感想です。ご主人様がお気に召すかどうか」
「ん、んんんん~~~!?」
ここで判断に迷った。「似合っているよ。毎晩俺の前だけ着てくれ。好き」か? それとも「そんなはしたない格好しちゃだめだろ? 好き」か? それとも、「ルウはかわいいからどんなでも似合うね。好き」か?
素直に感想をいえば、気持ち悪いとおもわれるだろう。けど、本音を押し殺してルウに嘘をついていいのか?
総動員しろ。全神経をかき集めて新しい魔法を創りだすときと同じく、この場での最適解を導きだせえええ!
「ご主人様?」
フニョン、と体を寄せられて、柔らかい感触に心臓が飛び跳ねる。石鹸と体臭が混じってほんのりと甘い匂い、ほぼ裸に近い肢体。だめだ、全五感が俺の邪魔をするううううう!
「い・・・・・・・・・いんじゃないかな」
それだけ伝えるのが精一杯だった。
「それはどういういいという感想ですか? この下着を着た私がですか? それとも下着がですか? より詳しく」
やだこの子。グイグイ来る。
「なにゆえ離れるのですか? もしかして・・・・・・あ。なるほどかしこまりました」
? 急に一人で納得した?
「ムラムラして欲情なさっているのですね。どうぞ」
ペロン、とネグリジェを捲ってお腹まで丸出しに。下着の食い込みまで具に見えてしまうほどで、
「ってなにをどうぞなの!?」
「欲情なさったのでしょう? ですから私をどうぞお好きに陵辱なさってください、と」
「そこまでの意図はこっちも把握できねぇよ!? つぅか陵辱ってなんだ!」
「いつもご主人様が私の尻尾にしているようなことです」
「あれルウにとっては陵辱なの!? なんかごめんねぇ!」
「はぁ、ご主人様。いい加減になさってください」
「なんで俺が怒られてんの!? それくらいうるさかった!?」
「そうやっていつでもかんでもツッコむのでしたらさっさと私に別の突っ込んだらいかがですか?」
「どうしよう、ルウの言ってることがこれっぽっちも理解できない!」
ルウは心なしか、イライラしていて、そわそわと落ち着きがない。なんだ?
あ、そういうことか。なるほど。
「ふふ、かわいい。かわいいなルウ」
「は?」
「かわいすぎるよ」
「意味不明です」
「ほんっっっとかわいすぎて好き」
「鳥肌立ちまくりなのですが。ウェアウルフなのに」
ルウは俺の求婚を受け入れた。つまりは、これはルウなりの精一杯の覚悟の証。いうなれば、性的アプローチなんだ。
でも、いいんだ。別に無理しなくて。俺はルウと両想いになれて、求婚を受け入れられたってだけで今は満足なんだ。そう、今は。
「いいか、ルウ? 無理しなくていいんだ。時間はたっぷりあるんだから」
「なにを慈愛に満ちた顔で気持ちの悪い顔をなさっているのですか?」
いいんだ。女性に、好きな女の子に恥はかかせたくない。
「好きだよ、ルウ。本当に大好き」
「それはもう知っています。聞き飽きました」
「言い足りないんだ。好きだ。好きすぎる」
「いえ、あの――――」
―――――――好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き――――――――――――――――――――――――――――
「『念話』と言葉の二重攻撃はやめてくださいおかしくなりそうですっ」
「おっと。ごめん。ルウが好きすぎて暴走しちゃったみたいだ。でも、それもルウが好きだからだ」
「う、うう・・・・・・」
顔がほんのりと赤らんで、ぎゅううう、と顔を圧し潰しそうになるほど押さえて、かわいすぎてまた暴走しちゃいそうだ。耳がダンゴムシ、芋虫、蚯蚓みたいにくねって丸まってうようよして動揺をありありと。尻尾がピン! と直立したままへにゃへにゃのぐにゃぐにゃに。
最近、ルウの耳と尻尾が面白い具合に変化するなぁ。かわいい。
「も、もう好きになさってください。私はどうせごしゅじん様の奴隷。ご主人様のお心に沿うことしかできませんので」
そこは奴隷じゃなくて素直に婚約者でいいのに。
「失礼いたします」
経験則か、俺に対するノックは意味がないと理解したルウは、わざとらしく乱暴に入室した。集中していると、小さい音は特に気づきにくいからありがたい。
この辺も、今までの積み重ねがあったからだと、じ~~んと無遠慮に感動してしまう。
「紅茶をお持ちいたしました」
「ああ、ありがとう」
何気なく受取ったカップを視認しようとした。その合間にルウの姿が一瞬だけ目に映った。実に自然な流れだったし、いつもと同じ衣服だって先入観によって、変化を見逃してしまった。一口啜ったところで、強い違和感が働いて
「!?」
おもわず二度見して、目を疑う。
ルウは普段と違う装いをしていた。太ももと肩が出ているだけじゃなくて、下着が透けている。
「ルウ、それは?」
「シエ子様にいただきました。勝負下着だそうです」
「誰と戦うの?」
まさか俺と? 胸の膨らみと谷間が扇情的で、けど大事なところはちゃんと隠されていて、ほのかな燭台に照らされている効果もあって実にエロい。
着てる意味あるの? ってくらい機能性としては疑問が大いにあるけど、心の中でシエ子に土下座で礼をした。
「ネグリジェというものだそうです。こうやって相手を誘うと教えられましたが。なるほど。実に合理的です。わざと防御力が薄いということを視覚でアピールして油断させるのですね。体術にも似た作法があります」
「お、おう・・・・・・。というかなんでそれ着てるの?」
一人でうんうんと頷いて、納得しているけど。まさか俺と本気で戦うつもり?
「いえ。せっかくいただいたのですから。着ないともったいないとおもいまして」
「あ、そう・・・・・・」
「他にも股がぱっくりと開いた下着とか乳首が出る下着とか紐とかいただきました」
「嫌だったら嫌だって断っていいんだよ? シエ子に押しつけられてない?」
さぁ? とばかりの身ぶりをしながら、俺の元へ。下着の効果もあって、ドギマギしてしまう。
「どうでしょうか」
「な、なにが?」
「ご感想です。ご主人様がお気に召すかどうか」
「ん、んんんん~~~!?」
ここで判断に迷った。「似合っているよ。毎晩俺の前だけ着てくれ。好き」か? それとも「そんなはしたない格好しちゃだめだろ? 好き」か? それとも、「ルウはかわいいからどんなでも似合うね。好き」か?
素直に感想をいえば、気持ち悪いとおもわれるだろう。けど、本音を押し殺してルウに嘘をついていいのか?
総動員しろ。全神経をかき集めて新しい魔法を創りだすときと同じく、この場での最適解を導きだせえええ!
「ご主人様?」
フニョン、と体を寄せられて、柔らかい感触に心臓が飛び跳ねる。石鹸と体臭が混じってほんのりと甘い匂い、ほぼ裸に近い肢体。だめだ、全五感が俺の邪魔をするううううう!
「い・・・・・・・・・いんじゃないかな」
それだけ伝えるのが精一杯だった。
「それはどういういいという感想ですか? この下着を着た私がですか? それとも下着がですか? より詳しく」
やだこの子。グイグイ来る。
「なにゆえ離れるのですか? もしかして・・・・・・あ。なるほどかしこまりました」
? 急に一人で納得した?
「ムラムラして欲情なさっているのですね。どうぞ」
ペロン、とネグリジェを捲ってお腹まで丸出しに。下着の食い込みまで具に見えてしまうほどで、
「ってなにをどうぞなの!?」
「欲情なさったのでしょう? ですから私をどうぞお好きに陵辱なさってください、と」
「そこまでの意図はこっちも把握できねぇよ!? つぅか陵辱ってなんだ!」
「いつもご主人様が私の尻尾にしているようなことです」
「あれルウにとっては陵辱なの!? なんかごめんねぇ!」
「はぁ、ご主人様。いい加減になさってください」
「なんで俺が怒られてんの!? それくらいうるさかった!?」
「そうやっていつでもかんでもツッコむのでしたらさっさと私に別の突っ込んだらいかがですか?」
「どうしよう、ルウの言ってることがこれっぽっちも理解できない!」
ルウは心なしか、イライラしていて、そわそわと落ち着きがない。なんだ?
あ、そういうことか。なるほど。
「ふふ、かわいい。かわいいなルウ」
「は?」
「かわいすぎるよ」
「意味不明です」
「ほんっっっとかわいすぎて好き」
「鳥肌立ちまくりなのですが。ウェアウルフなのに」
ルウは俺の求婚を受け入れた。つまりは、これはルウなりの精一杯の覚悟の証。いうなれば、性的アプローチなんだ。
でも、いいんだ。別に無理しなくて。俺はルウと両想いになれて、求婚を受け入れられたってだけで今は満足なんだ。そう、今は。
「いいか、ルウ? 無理しなくていいんだ。時間はたっぷりあるんだから」
「なにを慈愛に満ちた顔で気持ちの悪い顔をなさっているのですか?」
いいんだ。女性に、好きな女の子に恥はかかせたくない。
「好きだよ、ルウ。本当に大好き」
「それはもう知っています。聞き飽きました」
「言い足りないんだ。好きだ。好きすぎる」
「いえ、あの――――」
―――――――好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き――――――――――――――――――――――――――――
「『念話』と言葉の二重攻撃はやめてくださいおかしくなりそうですっ」
「おっと。ごめん。ルウが好きすぎて暴走しちゃったみたいだ。でも、それもルウが好きだからだ」
「う、うう・・・・・・」
顔がほんのりと赤らんで、ぎゅううう、と顔を圧し潰しそうになるほど押さえて、かわいすぎてまた暴走しちゃいそうだ。耳がダンゴムシ、芋虫、蚯蚓みたいにくねって丸まってうようよして動揺をありありと。尻尾がピン! と直立したままへにゃへにゃのぐにゃぐにゃに。
最近、ルウの耳と尻尾が面白い具合に変化するなぁ。かわいい。
「も、もう好きになさってください。私はどうせごしゅじん様の奴隷。ご主人様のお心に沿うことしかできませんので」
そこは奴隷じゃなくて素直に婚約者でいいのに。
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