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二十一章

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 帝都が嫌に騒がしくてうるさい街に映る。人の数も賑やかしさも故郷とは比べるべくもない。

 帰ってきたという高揚感はない。その代わりに以前とは違う余裕があって、落ち着いた喜びに満ちていられる。

「おや、旦那。ずいぶんお久しぶりで。死んだかとばかり」

 オークのマットは、相も変わらずむさ苦しい顔で憎まれ口を叩いてくる。

「はは、こいつめ。それが常連に言う言葉かよ♪ この店燃やしちゃうZE♪」
「は?」

 ああ、ここの店も懐かしいなぁ。ありとあらゆる素材に囲まれた景色に独特の香り。たまらない。

「旦那。どうかなさりやしたか?」
「俺もワンステージ上の階段を駆け上って大人になったってことだ♪ へへっ」
「冷やかしなら帰ってください」
「おいおい。冗談じゃないか。はは、怒るなよ♪」
 
 なんでだろう。こんなに晴れやかで世界が明るくみえたことなかったのに。すべてに対して優しく広い心で接してしまう。

「いつにも増して気持ち悪いですぜ。良いことでもあったんで?」
「そうか。マットにはわからないか・・・・・・。かわいそ――――悪いな」
「今なんと?」

 カランカラン

「お~~い。マット。主からの注文だ――――げ。ユーグ・・・・・・」
「ネフェシュ! あいかわらずしょぼくれたやろうだなぁおい!」

 シエナの使い魔、ネフェシュが入ってきた途端に警戒色ばりばりで俺から距離をとりながら店内を巡り、マットの元へとぴょんと飛んだ。

「ち。なんであんたがもういんだよ。道中魔物に襲われて胃の中でゆっくりしてりゃあよかったのによぉ」
「遠回しに死ねってかい? ははっ。おあいにく様♪」

 普段ならネフェシュの生態を調べさせてくれないかって頼んだり興味津々になるところだけど、そうじゃない俺にネフェシュも訝しみはじめた。

「俺はまだまだ死ねないからな」
「ああ、だろうな。大魔道士を越える魔道士になるまでは死ねないんだろ」
「それかあの奴隷ちゃんと両想いになるまでは、でしょうに」
「フッ」
「あ? なんで今鼻で笑いやがった」

 いや。だって。あまりにも小さくて。いつの話をしてるんだって可笑しくなっちまう。

「いいか。ネフェシュ。マット。それは過去の俺だ。今の俺はもう違う。いうなれば、三日前までの俺とは」
「ごくごく最近じゃねぇか」
「いいかお前ら。レベルアップした俺が教えよう。人は成長する生き物だ! 魔道士しかり! 魔法士しかり!」
「「・・・・・・・・・」」

 本当にこいつどうしたんだ? って二人は顔を見合わせている。そんな二人に、

「ああ~~。そうかそうか。お前らにはわかんねぇか~~。そりゃあそうか~~。恋人がいないで夢を追い続けているむさ苦しいオークと恋人はいるけど隠しておかなきゃいけない魔物(?) じゃあわからないかぁ~~!」
「ネフェシュさん。あんた恋人いたんで?」
「もういい放っておこうぜ。それよりこの注文票の品くれ。あほらしくて付き合いきれねぇよ」
「いうなればもう俺一人の人生でもない! ルウとの人生でもあるんだ!」
「いい加減にしやがれこのくそやろう!」

 マットになにかを渡そうとしていた間に、ズザザザザァ! と滑り込んで防いだ。聞いてほしい。知ってほしい。そんな俺にネフェシュの小さすぎる足が両目に突き刺さった。

「こっちは主が隊長に就任したし他にも揉め事があって忙しいんだよ! てめぇの戯れ言なんざ聞いていられるか! うぜぇぞ溶かすぞ!」

「戯れ言なんかじゃない! 真剣なことだ! だから二人にも報告したいんじゃないか!」
「どこが報告だ! ただの嫌味なやつがマウントとって上から目線になってるとしか受け取れねぇよ! あほらしい!」
「まぁまぁネフェシュさん。それで旦那? なにがあったんですかい?」

 マットが貸してくれたタオルで、目を癒やす。

 ええ~~? 聞きたいのかぁ~~? じゃあしょうがないなぁ~。二人がそこまで言うなら教えるしかないかぁ~~。照れるなぁ。

 「馬鹿。てめぇなんでこいつに」「だってそうじゃねぇとずっと終わらねぇじゃねぇですか」 なんてひそひそ話をしているけど、これもある意味持たざる者達の反応であるならば、甘んじて受け入れよう。

 少し大袈裟気味な咳で、声の調子を整える。二人をぐるりと見回して、












「俺、ルウと結婚する」


 簡潔に、幸せすぎる重大で世濾過橋過ぎる。事実。それだけを述べた。
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