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十八章

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「ルナはいつから知っていたんだ?」

 ガーラ様は晴れた顔になって、解散した。それからルナの部屋に移動したわけだけど、逆探知を完成させる前に、気になったので聞いたみた。

「このお屋敷にきた、初日です。朝風呂を一番に堪能しようとしたら、お一人だったルナ様がいて。それからなし崩し的に。えへへへへ」

 恥ずかしそうにしているけど、お前仮にも居候の立場だろ? なのに一番風呂って。

「それから相談にものっていました。なんとかできないかって。まぁ私が魔法士で研究者だったからなんでしょうけど。生憎と私の力ではなんとも」
「そうか」
「このお屋敷でも、ガーラ様の事情を知っているのは数人しかいないそうです。なので、心細かったのではないでしょうか」
「そりゃあ、そうだろうけど」
「でも、先輩のおかげで少しは気が楽になったんじゃないですか? なんでしたっけ。あなたの傷を舐めてくれる人はいますか? それだけで、きっと産まれてきてよかったって実感できます。でしたっけ?」

 声を低くしているのは、俺を真似ているのか?

「いやぁ、さすが先輩ですねぇ~~~~~~。アハハハハハハ! あんな変態プレイを自ら喋るなんて! キャハハハ! あのときの先輩の顔が真面目さったら! 言ってることの気持ち悪さと……! キリっとした表情の、ギャップが………!ハハハハハハハハ! あ~~、だめです! お腹痛い~~!」

 とにかく、こいつやっぱり嫌い。

「ははっはは、あ~~~。面白い~~。ヒィ~~。あ、なんですか先輩こわい顔しちゃって。お腹でも痛いんですか? 私が舐めてあげましょうか? アハハハハハハ!」
「ルウ、こいつ燃やしちゃっていいかな?」

 心底馬鹿にしているこいつは、一度燃やし尽くさないとだめだ。

「それは舐められたことが馬鹿にされる行為に等しいとご自分で認めてしまった証となるのではないでしょうか。ご主人様も恥ずかしいことだと受け入れたと認めたことになりますよ」
「くっ! ジレンマ!」
「もうだめですよ先輩~~。奴隷ちゃんが一番恥ずかしいのに耐えているんですから~~。ペロペロした張本人のほうが一番大人じゃないですか~~~。あ、今度からペロペロちゃんって呼んだほうがいい? というか呼んでもいい? いいよね? ハハハ!」
「ご主人様灰も残らないくらいに燃やしてしまいましょう」
「よしきた」
「え!? まさかの裏切り!? ちょ、奴隷ちゃん力強い! ちょ、熱い! 熱い熱い! ああ、私の毛先がぁ!」

 がっしりと羽交い絞めにされたルナの顔面に、『紫炎』を近づける。最終的には泣きながら謝罪してきたので許した。俺だけじゃなくてルウを意図的に煽っていたわけだからな。

「と、まぁ冗談はこの辺にしておいて」

 冗談でお前火炙りにされていいんかい。そんなツッコミはおいておく。

「ガーラ様は苦労しているのですよ。お父上のこともいまだに恨んでいるそうです。勝手に母親のことを孕ませて捨てたくせに、とか。私達がどれだけ苦労してきたかもしらないのに~~とか」
「なのに、きちんと領主代理を勤めているのか」
「ええ。というか他に選択肢がないんじゃないでしょうか」
「しかも新たに問題がおこった」
「はい」
「複雑だなぁ」
「あの、ルナ様。少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい、なんですかペロ、奴隷……ちゃん?」

 ルウに一睨みされて、ルナは言い直した。

「ガーラ様のお母上は、今どうなっているのでしょうか」
「もう亡くなっているそうですよ。遺体も埋葬されています。それがなにか?」
「そうですか……」

 しょんぼりとしたルウは、耳が垂れていて大変愛しい。

「いえ。混じり者の親は、どのようにして子育てをなさっていたのか。個人的に気になったものですので」
「……はっはぁ~~ん? なるほどなるほど~~?」

 ルナが俺とルウを交互に見比べてにやにやしだした。なんだ?

「 ル ナ さ ま ?」
「はいはい。きちんとお口にチャックで閉じておきます~~」

 なんだろう。この二人にしかわからない意味深なやりとり。ちょっと疎外感。

「ご主人様はそういうお方ですよね。安心しました」
「奴隷ちゃんも苦労しますねぇ~」
「……とりあえず、逆探知の魔法完成させっぞ」

 このままだといつまで経っても終わらない。

「はいはい~~~。あれ? 先輩このままだと接続がうまくいきませんよ~~。なにやってんですか」
「あ? なんでだ。ちゃんと言われたとおりにしたぞ」
「エルフ文字が反転している呪いなんですから。このままだと呪いが撒き散らされてこの屋敷消滅しますよ?」
「だから一度人間の文字で解読しなおしたんだ」
「それだと魔法陣に負担がかかりすぎます。解読した文字を今度は解呪の手順でもう一度エルフ文字に直さないと。常識ですよ? 私の部署でこんなミスしたら埋められますよ?プンプンです」

 なにこいつの部署。こわい。

「あ~~あ。先輩がもっと使える人だったらなぁ~~。こんな労力無駄にしないですんだのに――痛い!?」

 腹がたってつい拳骨してしまった。けど、後悔していない。

「だったら先に言えこのやろう」
「うう、痛いです。先輩がこんな暴力的な人だなんて」

 手分けして、二人で魔法陣を描きなおす準備に入る。

「ご主人様。少しよろしいでしょうか」
「ん? どうした?」
 
 ルウはなにも言わず、俺の手を繋いでそのまま部屋から連れ出した。

「私は一度、戻ります」
「あ、ああ。そうか。うん」

 もじもじとしながら尻尾を弄んだり、上目遣いしてくるルウが最高にベリー・ベリー・プリティー&キュートすぎる。というか、二人で話していたこともおもいだして、こっちまで恥ずかしくなってくる。というか俺あのとき相当恥ずかしいこと言ってたよな? うわ、やばい。

「ご主人様はいつお戻りになられますか?」
「どうだろうな。また泊まりこみになるかもしれない」
「では、朝食も持ってまいります」
「うん。ありがとう」
「はい」
「「………」」

 甘酸っぱすぎて死にそう。なんだこれ。でも、こんな甘酸っぱい雰囲気で死ねたらそれはそれで。

「それでは」

 心臓が保たない。ぎりぎりの限界のときにルウが背中を向けて颯爽と歩きだす。なにか気の利いたセリフを言えるんだろうけど、情けないことにそのまま見送ることしかできない。

「ご主人様っ」

 ルウがダッシュしてきた。そして、止まらないまま勢いのまま、俺にぶつかって、そしてぎゅうううう、と抱きついていた。そのまま俺の頬をぺろりと舌で二回三回と舐めてきた。

「!!!!!??????」
「おやすみなさいませ」

 傷を舐められたときとは違う。旋毛から脳みそを通って全神経と血管をめぐり指の先まで雷の迸りに似た衝撃が。ぞくぞくと舌の感触も相まって放心するしかない。

「おやすみなさいませ」

 尻尾を高速回転させながら、凄まじい速さでルウが去っていく。ルウの後ろ姿が消えたのと同時に地面に倒れる。

「ぐふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! ああ、ああ!! んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!」

 そのまま悶死した。
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