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十三章
Ⅲ
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楽しくも賑やかな道中を経て、故郷に辿りついた。魔法学院に入学するまで、ずっと過ごした街は帝都ほど栄えてはいない。人口も少なく、特筆すべき名所もない。それでも、それなりにわくわくしていた。懐かしい街や記憶を思い返し、感慨に浸っていた。
けど、実際に帰ってきたときにおもったのはまったく別のことだった。
「あれ?」
「どうかされましたか?」
「いや、なんつぅか、う~~ん」
こんなに小さかったっけ? 例えようのない違和感と疑問。どこがどうとは説明ができないけど、全体的に寂れている印象と昼なのに人通りのなさ。寂寥と静けさは拭えない。
「帝都に慣れてしまったのではないでしょうか」
「そうなのかなぁ」
実家を目指しながら、それとなく散策する。けど、帝都と比べてもなんだか違う。
「あ、そうだ。この道をまっすぐ行けば」
「なんですか?」
「小さい頃よく行ってたお店があったんだ。子供の小遣いでも買える八百屋があって、そこで野菜を齧ったり果物を友達と分けて食べてたんだ」
「お肉ではないのですか?」
意気揚々と進んだけど、かつての八百屋にはなにもない。建物は残っているけど、人の気配がない。それとなく、木窓から中を覗くけどもぬけの空。引っ越してしまったんだろうか。でも、この街に八百屋なんて一軒しかなかったのに。
「まじか。まぁしょうがないかな」
「他にはどんなお店があるのでしょうか?」
「ん? 別に面白い場所なんてないけど」
「ぜひ知りたいのです」
「なんで?」
「察してください」
プイッと顔を背けるルウは最高ベリーキュート&ベリーベリープリティーだけど察することなんで苦手だ。
「あ、わかった。肉屋がないか知りたいんだろ?」
お肉が好きだからな、この子は。道中捕らえた獲物も、殆どルウが食べてたし。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そのとおりでございます。さすがご主人様です『念話』でも使ったのかとおもうほど正確に言い当てられて殺意と怒りが芽生えます」
「言い当てたことがそんなに気に入らない!?」
「もうよろしいです。さぁお早くお肉屋に案内してください。そこがだめなら次のお肉屋を。それがだめなら次のお肉屋。それでもだめなら外のお肉屋に」
「外になんて農民しかいねぇしこの街そんなにお肉屋ねぇよ!」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・? ないのですか?」
「なんでがっかりしてるんだよ・・・・・・・・・・・・」
「食べ比べ味比べができませんし、そのお店でしか扱っていない特別なお肉もあじわえないではないですかっ」
「逆ギレ!? 帝都でしかできないだろ!」
そんなやりとりしながらも、お肉屋を探してみるけど、ここもなかった。
「お肉屋一つ満足にないなんて、ここは地獄ですか。呪われればいいのに」
「肉のせいで奴隷に呪われるなんて街が不憫だろ」
でも、さすがに俺もなにも考えずツッコんでいられない。街に必要な店が軒並みなくなっている。他にもいくつかなくなってるし、あっても規模が小さくなっている。この街はどうなっているんだ?
「ちょっと早いけど、実家にむかおう」
まさか、と不安になる。俺の家族さえいなくなっているんじゃないか? でも、そうだとしたら手紙で知らせてくるはず。
「あ、あった」
見覚えのある民家の前で、安堵する。大げさかもしれないけどよかった。なんの変哲もない狭くて小さい家に安心できた。
「ただいまぁ~~」
他人の家ならいざしらず、ここは仮にも実家。安心したのもあってノックもせず、無遠慮に入った。
「おお? お前ユーグか? 久しぶりだなぁおい!」
ガタイがよい坊主頭の兄貴がまず気づいてくれた。立ち上がり肩をバシバシと叩く。
「おい、お前少し痩せたんじゃないか? ちゃんと食べれてんのかよ?」
「そうか? 別に変わらんだろ」
「というかなんだよその布。どっか怪我でもしたのか?」
「ちょっと魔法で失敗したというか・・・・・・・・・・・・・・・ハハ」
触られようとして、咄嗟に一歩後ろに下がってしまったけど、兄貴は気にした風もなく、「なんだ、まだ魔道士目指してるのか。ハハハ!」と豪快に笑った。
「てっきりもう諦めてんのかとばかり」
「失礼な。兄貴はどうなんだ? 仕事のほう」
「ん? おう。儲かってるとはいえねぇがぼちぼちってとこさ」
兄貴は俺と違って魔力を持たず、大工をしている。とはいえ兄貴は学校を出たのと魔法学院にいた時期が重なって卒業後もそのまま帝都へときたから実際に働いている場面はみたことない。それでも肉体を使った仕事だからか手も指さえ一回り大きくなったんじゃないだろうか。
「お前、結婚しないのか? 魔法士で研究所に勤めていたら、引く手あまただろうによ」
「あいにくと。魔道士の研究と仕事に忙しいし」
「恋人の一人でもできないのか? 早く親父達に孫でもみせてやれよ」
「それは兄貴も同じだろ」
「ん? ああ、俺はまぁ、な」
ん? 兄貴にしては歯切れが悪いな?
ちょいちょい、と控えめにルウがローブの袖を引っ張った。いかん。つい夢中になっていたから愛しのルウを紹介していなかった。なんて罪深い。ルウもちょっとむすっとしてる。話に置いてけぼりにされたから悲しませてしまった。
「そうだ兄貴。紹介するよ。この子はルウ。俺の――――――――――――」
「おいどうした?」
まずい。すごい緊張してきた。だってルウは俺の好きな子。将来絶対にしてみせる! と誓ってはいるけどまだ恋人でもないし、そして奴隷だ。なんて説明すればいいだろう。兄貴と家族にルウを認めてもらうためには、最初が肝心。最新の注意を払わないといけないぞ。
「ここここここここのこはぶしゅ!」
「おいどうした!? 舌噛み切れてるぞ!?」
「大丈夫。いまちょっと喉が渇いていたから」
「吸血鬼かお前は!」
うまくできる自信がないけど、改めて息を整える。けどルウは俺の前にすっと立って恭しく挨拶を述べはじめた。
「お初にお目見えいたします。私はウェアウルフのルウです。ユーグ様のお兄様。不束者ですがどうかよろしくお願いいたします」
「お、おう。こいつはどうもご丁寧に」
ああ、なんて素敵なんだ。完璧。礼儀作法なんて詳しくは知らないけど、他国の国王への使者になってもおかしくない姿勢、言葉遣い。好き。好き好き好き好き~。
「ユーグ様の性奴隷でございます」
「は?」
「ルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
「あ、間違えました。申し訳ございません。ユーグ様の性玩具でございます」
「がん、ぐ?」
「どうしたんだあああああああああああああ!! もっとできる子だろおおおおおおおおおおお!?」
「これも違いますね。どうも先程のご主人様と同じく緊張しているようです」
「よおおおおおおおおおし、じゃあ深呼吸しよう深呼吸! いやぁごめんな兄貴!? この子照れ屋でしゃいで冗談好きでひょうきんな恥ずかしがり屋でめんこい子でさぁ!?」
「いろいろとおかしいぞ? それ」
「正しく説明いたします。私はユーグ様に毎夜熱い情熱をぶつけられ夜毎足腰たたなくなるほど癒やさざるをえない身の上と関係の者です。賃金も与えられずけ・っ・こ・ん! もこ・い・び・と! もいないご主人様と同じ屋根の下で寝屋を同じにしております」
「なんで強調したの!? あとその説明も正しくない! 微妙に変なニュアンスになってるし! ほら見ろ兄貴の顔を! 絶対混乱してるだろ!」
「ご主人様に熱い情熱的な愛の言葉をぶつけられ、毎日『もふもふタイム』をなさって癒やしていて衣食住は確保されていますが基本的な賃金はもらえない身分と関係をできるだけ濁したまま説明したのですが」
「ありがとう! でも絶対正しく伝わってないよ! いかがわしい関係としか皆おもわないよ!」
「私の努力が無駄だと?」
「そうじゃない!」
「ではご主人様がなさってください。け・っ・こ・んっもこ・い・び・とっもないご主人様が」
「ええ~? 結局丸投げ? しかもなんでそこ無駄に強調するの?」
けど、もう仕方ない。きちんと説明しないと。俺の気持ちごと。
「えっと兄貴。改めてきちんと紹介する。この子は俺の奴隷で、俺の好きな子なんだ」
うっっっわああああああああああ。めちゃんこ恥ずかしい。家族に紹介するのってこんな恥ずかしいの? いやだめだ。恥じることなんて何一つない。胸を張らないと。隣にいるルウは「ふぅ、やっと言えましたかこの人は」ってかんじな視線を。それとしきりに手の甲に尻尾が当たる。そんなに俺が恥ずかしがってるのが楽しいの?
「この子、奴隷なのか?」
「ああ、うん」
「それで、ウェアウルフで、お前の・・・・・・・・・・・・・」
兄貴は真剣な面持ちになって俺とルウを代わる代わる見やって、なんともいえない深刻そうになった。
「お前の恋人か」
祝福されると期待していたわけじゃないけど、なにがしかの反応はあると覚悟していた。だけど、予想外すぎてえ、と声が零れてしまう。ルウへの迸る感情を余すことなく、溢れるままぶちまければわかってくれるだろうか?
「いえ全然恋人ではございません」
「え?」
「私はあくまでユーグ様の奴隷でユーグ様に対する忠誠心とご奉仕の精神はございます。されどご主人様への恋愛感情は露ほども、塵一つもございません」
グサ!
「あくまでご主人様が私にたいして一方的な片想いをしていて、私はそれをきちんと受け流すことができない身分ですので困っているのでございます」
グサグサ!
「ですが私はご主人様に一目惚れをされて買われた奴隷ですので。仕方なくいるだけでございます。拒否でもしようものなら『隷属の首輪』でもっと酷い扱いをされるでしょう。愛が深いお方ですからその分の反動が強そうで」
「う、ルウ。俺のこと嫌い? そうなんでしょ? グシュ・・・・・・・・・・・・」
というか君一回奴隷やめたよね? 望んで奴隷に戻ったよね? やっぱり無理ってこと?
「一番の理由であるこうしゅ――――いえ体臭。ご主人様から分泌される汗、いえ」
「もういい! やめてくれ!」
これ以上喋られたら心が死ぬ。悲しみの雄叫びが我が家に響いた。
けど、実際に帰ってきたときにおもったのはまったく別のことだった。
「あれ?」
「どうかされましたか?」
「いや、なんつぅか、う~~ん」
こんなに小さかったっけ? 例えようのない違和感と疑問。どこがどうとは説明ができないけど、全体的に寂れている印象と昼なのに人通りのなさ。寂寥と静けさは拭えない。
「帝都に慣れてしまったのではないでしょうか」
「そうなのかなぁ」
実家を目指しながら、それとなく散策する。けど、帝都と比べてもなんだか違う。
「あ、そうだ。この道をまっすぐ行けば」
「なんですか?」
「小さい頃よく行ってたお店があったんだ。子供の小遣いでも買える八百屋があって、そこで野菜を齧ったり果物を友達と分けて食べてたんだ」
「お肉ではないのですか?」
意気揚々と進んだけど、かつての八百屋にはなにもない。建物は残っているけど、人の気配がない。それとなく、木窓から中を覗くけどもぬけの空。引っ越してしまったんだろうか。でも、この街に八百屋なんて一軒しかなかったのに。
「まじか。まぁしょうがないかな」
「他にはどんなお店があるのでしょうか?」
「ん? 別に面白い場所なんてないけど」
「ぜひ知りたいのです」
「なんで?」
「察してください」
プイッと顔を背けるルウは最高ベリーキュート&ベリーベリープリティーだけど察することなんで苦手だ。
「あ、わかった。肉屋がないか知りたいんだろ?」
お肉が好きだからな、この子は。道中捕らえた獲物も、殆どルウが食べてたし。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そのとおりでございます。さすがご主人様です『念話』でも使ったのかとおもうほど正確に言い当てられて殺意と怒りが芽生えます」
「言い当てたことがそんなに気に入らない!?」
「もうよろしいです。さぁお早くお肉屋に案内してください。そこがだめなら次のお肉屋を。それがだめなら次のお肉屋。それでもだめなら外のお肉屋に」
「外になんて農民しかいねぇしこの街そんなにお肉屋ねぇよ!」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・? ないのですか?」
「なんでがっかりしてるんだよ・・・・・・・・・・・・」
「食べ比べ味比べができませんし、そのお店でしか扱っていない特別なお肉もあじわえないではないですかっ」
「逆ギレ!? 帝都でしかできないだろ!」
そんなやりとりしながらも、お肉屋を探してみるけど、ここもなかった。
「お肉屋一つ満足にないなんて、ここは地獄ですか。呪われればいいのに」
「肉のせいで奴隷に呪われるなんて街が不憫だろ」
でも、さすがに俺もなにも考えずツッコんでいられない。街に必要な店が軒並みなくなっている。他にもいくつかなくなってるし、あっても規模が小さくなっている。この街はどうなっているんだ?
「ちょっと早いけど、実家にむかおう」
まさか、と不安になる。俺の家族さえいなくなっているんじゃないか? でも、そうだとしたら手紙で知らせてくるはず。
「あ、あった」
見覚えのある民家の前で、安堵する。大げさかもしれないけどよかった。なんの変哲もない狭くて小さい家に安心できた。
「ただいまぁ~~」
他人の家ならいざしらず、ここは仮にも実家。安心したのもあってノックもせず、無遠慮に入った。
「おお? お前ユーグか? 久しぶりだなぁおい!」
ガタイがよい坊主頭の兄貴がまず気づいてくれた。立ち上がり肩をバシバシと叩く。
「おい、お前少し痩せたんじゃないか? ちゃんと食べれてんのかよ?」
「そうか? 別に変わらんだろ」
「というかなんだよその布。どっか怪我でもしたのか?」
「ちょっと魔法で失敗したというか・・・・・・・・・・・・・・・ハハ」
触られようとして、咄嗟に一歩後ろに下がってしまったけど、兄貴は気にした風もなく、「なんだ、まだ魔道士目指してるのか。ハハハ!」と豪快に笑った。
「てっきりもう諦めてんのかとばかり」
「失礼な。兄貴はどうなんだ? 仕事のほう」
「ん? おう。儲かってるとはいえねぇがぼちぼちってとこさ」
兄貴は俺と違って魔力を持たず、大工をしている。とはいえ兄貴は学校を出たのと魔法学院にいた時期が重なって卒業後もそのまま帝都へときたから実際に働いている場面はみたことない。それでも肉体を使った仕事だからか手も指さえ一回り大きくなったんじゃないだろうか。
「お前、結婚しないのか? 魔法士で研究所に勤めていたら、引く手あまただろうによ」
「あいにくと。魔道士の研究と仕事に忙しいし」
「恋人の一人でもできないのか? 早く親父達に孫でもみせてやれよ」
「それは兄貴も同じだろ」
「ん? ああ、俺はまぁ、な」
ん? 兄貴にしては歯切れが悪いな?
ちょいちょい、と控えめにルウがローブの袖を引っ張った。いかん。つい夢中になっていたから愛しのルウを紹介していなかった。なんて罪深い。ルウもちょっとむすっとしてる。話に置いてけぼりにされたから悲しませてしまった。
「そうだ兄貴。紹介するよ。この子はルウ。俺の――――――――――――」
「おいどうした?」
まずい。すごい緊張してきた。だってルウは俺の好きな子。将来絶対にしてみせる! と誓ってはいるけどまだ恋人でもないし、そして奴隷だ。なんて説明すればいいだろう。兄貴と家族にルウを認めてもらうためには、最初が肝心。最新の注意を払わないといけないぞ。
「ここここここここのこはぶしゅ!」
「おいどうした!? 舌噛み切れてるぞ!?」
「大丈夫。いまちょっと喉が渇いていたから」
「吸血鬼かお前は!」
うまくできる自信がないけど、改めて息を整える。けどルウは俺の前にすっと立って恭しく挨拶を述べはじめた。
「お初にお目見えいたします。私はウェアウルフのルウです。ユーグ様のお兄様。不束者ですがどうかよろしくお願いいたします」
「お、おう。こいつはどうもご丁寧に」
ああ、なんて素敵なんだ。完璧。礼儀作法なんて詳しくは知らないけど、他国の国王への使者になってもおかしくない姿勢、言葉遣い。好き。好き好き好き好き~。
「ユーグ様の性奴隷でございます」
「は?」
「ルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
「あ、間違えました。申し訳ございません。ユーグ様の性玩具でございます」
「がん、ぐ?」
「どうしたんだあああああああああああああ!! もっとできる子だろおおおおおおおおおおお!?」
「これも違いますね。どうも先程のご主人様と同じく緊張しているようです」
「よおおおおおおおおおし、じゃあ深呼吸しよう深呼吸! いやぁごめんな兄貴!? この子照れ屋でしゃいで冗談好きでひょうきんな恥ずかしがり屋でめんこい子でさぁ!?」
「いろいろとおかしいぞ? それ」
「正しく説明いたします。私はユーグ様に毎夜熱い情熱をぶつけられ夜毎足腰たたなくなるほど癒やさざるをえない身の上と関係の者です。賃金も与えられずけ・っ・こ・ん! もこ・い・び・と! もいないご主人様と同じ屋根の下で寝屋を同じにしております」
「なんで強調したの!? あとその説明も正しくない! 微妙に変なニュアンスになってるし! ほら見ろ兄貴の顔を! 絶対混乱してるだろ!」
「ご主人様に熱い情熱的な愛の言葉をぶつけられ、毎日『もふもふタイム』をなさって癒やしていて衣食住は確保されていますが基本的な賃金はもらえない身分と関係をできるだけ濁したまま説明したのですが」
「ありがとう! でも絶対正しく伝わってないよ! いかがわしい関係としか皆おもわないよ!」
「私の努力が無駄だと?」
「そうじゃない!」
「ではご主人様がなさってください。け・っ・こ・んっもこ・い・び・とっもないご主人様が」
「ええ~? 結局丸投げ? しかもなんでそこ無駄に強調するの?」
けど、もう仕方ない。きちんと説明しないと。俺の気持ちごと。
「えっと兄貴。改めてきちんと紹介する。この子は俺の奴隷で、俺の好きな子なんだ」
うっっっわああああああああああ。めちゃんこ恥ずかしい。家族に紹介するのってこんな恥ずかしいの? いやだめだ。恥じることなんて何一つない。胸を張らないと。隣にいるルウは「ふぅ、やっと言えましたかこの人は」ってかんじな視線を。それとしきりに手の甲に尻尾が当たる。そんなに俺が恥ずかしがってるのが楽しいの?
「この子、奴隷なのか?」
「ああ、うん」
「それで、ウェアウルフで、お前の・・・・・・・・・・・・・」
兄貴は真剣な面持ちになって俺とルウを代わる代わる見やって、なんともいえない深刻そうになった。
「お前の恋人か」
祝福されると期待していたわけじゃないけど、なにがしかの反応はあると覚悟していた。だけど、予想外すぎてえ、と声が零れてしまう。ルウへの迸る感情を余すことなく、溢れるままぶちまければわかってくれるだろうか?
「いえ全然恋人ではございません」
「え?」
「私はあくまでユーグ様の奴隷でユーグ様に対する忠誠心とご奉仕の精神はございます。されどご主人様への恋愛感情は露ほども、塵一つもございません」
グサ!
「あくまでご主人様が私にたいして一方的な片想いをしていて、私はそれをきちんと受け流すことができない身分ですので困っているのでございます」
グサグサ!
「ですが私はご主人様に一目惚れをされて買われた奴隷ですので。仕方なくいるだけでございます。拒否でもしようものなら『隷属の首輪』でもっと酷い扱いをされるでしょう。愛が深いお方ですからその分の反動が強そうで」
「う、ルウ。俺のこと嫌い? そうなんでしょ? グシュ・・・・・・・・・・・・」
というか君一回奴隷やめたよね? 望んで奴隷に戻ったよね? やっぱり無理ってこと?
「一番の理由であるこうしゅ――――いえ体臭。ご主人様から分泌される汗、いえ」
「もういい! やめてくれ!」
これ以上喋られたら心が死ぬ。悲しみの雄叫びが我が家に響いた。
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なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。
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