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ルウに支えられながら、騎士団の営舎にやってきた。名目は、見舞い。親友であるシエナは、ゲオルギャルスと死力を尽くして戦い、そして倒したという。ルウに看病されるという至福の時間を過ごしているとき、ネフェシュがやってきて教えてくれた。
正直、少しイラッとした。モーガンを倒して、生死も行方も不明になったこととか、シエナがマンティコア隊の隊長に運就任することと合せて説明してくれたけど、最近ルウと二人っきりでいられなかったから邪魔された感が否めない。
「お見舞いにまいりましょう」
自分も怪我をしているルウの殊勝な提案を、俺は却下したかった。だって、俺がいない間、ルウとシエナがなんかあったっていう疑いを晴らせていないのだから。だから、ルウが提案したのもシエナが心配だからなんじゃないか? って疑ってしまう。こわくて聞けない。もし、ルウがシエナのことが好きで、シエナもルウとなんて・・・・・・・・・。
「ごばあっっっ!!」
「どうされたのですか。どうして血を?」
「はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫。傷がひらいちゃっただけだ」
「どこの傷ですか?」
そんなやりとりをしてい、流そうとしたけど、いい機会かもしれない。『隷属の首輪』で命令して知りたくはない。はっきりとなにがあったのか、シエナ自身から聞きたい。
もしも、シエナとルウが愛し合っているのだとしたら。
「わかった。じゃあすぐに行こうか。二人で」
葛藤を経て、シエナの元へ。見舞い。モーガンのこと。そんなことはどうでもいい。
「ご主人様、魔法を発動状態のまま歩くのはやめてください。また捕まりますよ」
感情の制御ができないから、時折、いろんなところから『紫炎』が噴出してしまう。ルウに窘めるけど、自分じゃどうにもならない。そう。人を好きになるのをとめられないのと同じだ。この『紫炎』は、ルウへの愛情とシエナへの友情がぐちゃぐちゃになっている、俺の心境を表している。
「ここが、シエナ様のお部屋なのですね」
もしも、ルウとシエナが愛し合っているんだとしたら。認めるしかない。ルウを尊重したいから。
「シエナ、ユーグだ。入るぞ」
ノックとともに呼びかけたけど、応答がない。気がはやっている俺はじれったくなって、扉を開けた。
認めて、尊重したうえで、シエナと刺し違える。そのつもりだった。
部屋にはいって、すぐに言葉を失った。目の前で繰り広げられている光景が信じられず、立ち尽くす。
シエナが、濃厚なキスをしていた。使い魔であるネフェシュと。ぶっちゅううううううう~~~~~と。舌を絡ませて恋人同士がする睦み事と同様な甘美でいやらしさで。
夢中になっていたシエナは、ネフェシュ越しに俺たちを視界におさめたんだろう。バッチリ目があってる。そのまま時間がとまった。驚愕、羞恥。次々と一変させている。
「「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」
お互い叫んで、ネフェシュを掴んで投げつけあってしまう。ルウが間に入って、ネフェシュを抱きとめなかったら、永遠に終わらなかっただろう。
「これ、お土産・・・・・・・・・・・・」
「あ、うん・・・・・・・・・・・・・。ありがとう・・・・・・・・・・・・・・・」
「怪我、いいのか・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「うん、すぐに治るよ・・・・・・・・・・・・・・・そっちは・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「ああ、俺も大丈夫だけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そっか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
き、きまずい。もうルウとのことなんか聞けない。見ちゃいけないものを見てしまった。それをはたして聞いていいのか。もしかして、使い魔との契約上必要なやりとり、魔力の補給とかいろいろな理由が。でも、シエナはすごい焦りまくってる。なにか秘密を知られたってくらいの狼狽ぶり。だからやっぱり。
聞いていいのか?
「いつもキスしているのですか? シエナ様とネフェシュ様は」
「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?? ルウウウウウウウウウウウウウウ!!??」
「どのような理由があるのですか?」
「オブラートに包もうぜ!? 遠回しに徐々に聞こうぜ!?」
ルウは俺のツッコみをシャットダウンしたいのか。耳を折りたたんだうえで塞いでいる。『念話』も無視してる。芸達者になっちゃって、この子は!
「それは・・・・・・・・・・・・うう~~~」
いつものシエナじゃない。恥ずかしがってもじもじして、俺とルウを交互にして、布団の端で顔を隠して出して、と繰り返している。まるで乙女だ。
「ネフェシュ様?」
「ちょっとお茶を持ってくる」
スポン、とルウの腕からダッシュしたネフェシュは部屋から出ていった。逃げやがったなあいつ。
「僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ネフェシュを愛している。使い魔とか騎士とか。人間とそうじゃないとか関係なく」
いろいろと、言いたいことはある。
「そ、そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
けど、急展開すぎてそれしかでなかった。
「あいつって、性別的に雄なの?」
「うん」
「そうかぁ・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめん。今まで隠していて」
「でもまぁ――――」
事情とか、どうしてそんな関係になったのか。疑問はつきないけど。それでも――――
「よろしいのではないでしょうか。騎士であろうとなんであろうと。男性が男性? を好きになっても。世の中には奴隷のウェアウルフの少女しか愛せず、尻尾に異常な性欲をいだく魔道士志望者の魔法士もおりますし。そのような変態に比べたらましでしょう」
「それって俺のこと?」
ルウのことが好きすぎるだけで、奴隷とかウェアウルフとかはルウ個人への気持ちに作用してはいない。尻尾は・・・・・・・・・・・・・うん。好きな子のものならなんでも好きになっちゃうから仕方ないとおもう。
「ねぇ、ご主人様はどうおもわれますか?」
え、無視したうえでの問いかけ? まぁ好きだからいいけど。
「まぁ、でも俺もルウと同じだ。シエナが誰と恋人であっても、どんな秘密があっても、変わらない。親友で、すごい騎士で、俺の憧れの独りだって事実は変わらないから」
「え・・・・・・・・・・・・・・・憧れ?」
「そうだよ」
俺よりだいぶ年下なのに、夢を叶えて今も戦い続けている親友を、一番身近にいるすごいやつを憧れない、人なんかいるもんか。
「そうか。じゃあ僕がもう一つ秘密があってもかい?」
「お前まさかまだあるのか! 秘密なんて人それぞれだろ! 俺だってあるし! だからどんだけ秘密あったって変わらねぇよ」
「そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ゆっくりと噛み締めるようなシエナだけど、少し大げさな反応すぎるんじゃないか?
「ユーグ、ルウ、ありがとう」
なんだか恥ずかしくて、こっちが照れてしまう。なんでこんなことになってんの? 元々俺はシエナと刺し違えるつもりで来たのに。なんかいい雰囲気になってるし。
「それで、シエナ様はネフェシュ様のどこがよろしいのですか?」
「え? ええ~っと、それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それから、二人は和やかに笑いあっているけど、二人を眺めている間にもやもやとか全部消えてしまった。ネフェシュを好きになった理由とか、いつも二人きりでなにをしているかとか話していて、シエナはルウとなんの関係もなかったって。それだけでわかったから。だって、二人に愛し合っている同士特有の空気はない。遠慮がなくて距離が近くて、まるで――――
「こんなにネフェシュとのことを話せたのは、初めてだなぁ」
「シエナ様、そのような秘密を今まで誰にも言えなかったのですか?」
「うん。そうだね。誰にも」
「さようですか。それならば、私でよければ、またお話しを聞きますが」
「え?」
「私は奴隷です。物です。ならば、どんな秘密を話しても無問題かと」
「いや、せめて友達にならないかい? 僕からこんなこと頼むのはおかしいけど」
「私と友達? 奴隷と騎士が?」
「関係ないんじゃないかな。僕は、君と友達になりたいんだ。まぁ、君の主が許すならだけど」
チラ。
「こっち見んな」
「そうですね。私でよろしいのでしたら。まぁ私のご主人様が、奴隷である私に友達ができるのは許せない! という矮小なお方でなければですけど」
チラ。
「もうお前らとっくに友達じゃねぇか! なんだその息のあいようは!」
二人のさっきのやりとりは、まさに友達って関係がふさわしかった。だから安心して、シエナと刺し違える気が失せた。安心してしまったんだ。
シエナが、花が咲いたくらいの勢いで大きく笑いだした。ネフェシュがお茶を持ってきて、それから四人で会話を。ネフェシュはシエナとのことを聞かれても黙りこんでしまう。もしくは睨みつける。恥ずかしがり屋なのか?
――――――これでもやもやは晴れましたか?――――――
突然の『念話』での語りかけに、はっとするとルウがちらりと窺っている。なんてことか。ルウは俺の不安とかとっくに見抜いていたんだ。『念話』も使っていないのに。もしかして、シエナとはなんでもないことを証明するために?
かなわないな、この子には。ああ、かわいい。好き。苦笑いしながら、心で呟く。それはルウに伝わったのか、フイッと反対へと向いてしまう。
「そうだ、ユーグ。君これからどうするんだい?」
ルウにおもいっきり悶えていたかったのに、シエナに邪魔される。
「君、研究所なくなったんだろ? だったら生活とか収入とかしばらくないんじゃないの?」
「え? あ・・・・・・・・・・・・・・・」
モーガンに壊された研究所は、まだ建て直しもされていない。それだけじゃなくて、貴重な研究資料もほとんど消失して職員も死亡もしくは大怪我をしている。とてもじゃないが、再開なんて簡単にできない。最初からそんなこと頭になかった。
「研究所の給料は、たしか帝国から出ていたよね?」
「ああ。だが仕事ができない研究者に、国も金はださねぇんじゃねぇの? 帝国はそこまで甘くねぇだろうし」
「それってつまり?」
三人の視線が、一斉に俺に注がれている。さっきまで和気藹々な明るいかんじだったのに、重苦しく、気遣わしげな慈愛に満ちた残酷でキツい空気に。
「つまり、俺、無職?」
問いかけに答えてくれる者はいない。どうしよう。魔道士試験とかそんなこと言ってる場合じゃねぇ。急な死活問題に直面してしまった。
正直、少しイラッとした。モーガンを倒して、生死も行方も不明になったこととか、シエナがマンティコア隊の隊長に運就任することと合せて説明してくれたけど、最近ルウと二人っきりでいられなかったから邪魔された感が否めない。
「お見舞いにまいりましょう」
自分も怪我をしているルウの殊勝な提案を、俺は却下したかった。だって、俺がいない間、ルウとシエナがなんかあったっていう疑いを晴らせていないのだから。だから、ルウが提案したのもシエナが心配だからなんじゃないか? って疑ってしまう。こわくて聞けない。もし、ルウがシエナのことが好きで、シエナもルウとなんて・・・・・・・・・。
「ごばあっっっ!!」
「どうされたのですか。どうして血を?」
「はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫。傷がひらいちゃっただけだ」
「どこの傷ですか?」
そんなやりとりをしてい、流そうとしたけど、いい機会かもしれない。『隷属の首輪』で命令して知りたくはない。はっきりとなにがあったのか、シエナ自身から聞きたい。
もしも、シエナとルウが愛し合っているのだとしたら。
「わかった。じゃあすぐに行こうか。二人で」
葛藤を経て、シエナの元へ。見舞い。モーガンのこと。そんなことはどうでもいい。
「ご主人様、魔法を発動状態のまま歩くのはやめてください。また捕まりますよ」
感情の制御ができないから、時折、いろんなところから『紫炎』が噴出してしまう。ルウに窘めるけど、自分じゃどうにもならない。そう。人を好きになるのをとめられないのと同じだ。この『紫炎』は、ルウへの愛情とシエナへの友情がぐちゃぐちゃになっている、俺の心境を表している。
「ここが、シエナ様のお部屋なのですね」
もしも、ルウとシエナが愛し合っているんだとしたら。認めるしかない。ルウを尊重したいから。
「シエナ、ユーグだ。入るぞ」
ノックとともに呼びかけたけど、応答がない。気がはやっている俺はじれったくなって、扉を開けた。
認めて、尊重したうえで、シエナと刺し違える。そのつもりだった。
部屋にはいって、すぐに言葉を失った。目の前で繰り広げられている光景が信じられず、立ち尽くす。
シエナが、濃厚なキスをしていた。使い魔であるネフェシュと。ぶっちゅううううううう~~~~~と。舌を絡ませて恋人同士がする睦み事と同様な甘美でいやらしさで。
夢中になっていたシエナは、ネフェシュ越しに俺たちを視界におさめたんだろう。バッチリ目があってる。そのまま時間がとまった。驚愕、羞恥。次々と一変させている。
「「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」
お互い叫んで、ネフェシュを掴んで投げつけあってしまう。ルウが間に入って、ネフェシュを抱きとめなかったら、永遠に終わらなかっただろう。
「これ、お土産・・・・・・・・・・・・」
「あ、うん・・・・・・・・・・・・・。ありがとう・・・・・・・・・・・・・・・」
「怪我、いいのか・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「うん、すぐに治るよ・・・・・・・・・・・・・・・そっちは・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「ああ、俺も大丈夫だけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そっか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
き、きまずい。もうルウとのことなんか聞けない。見ちゃいけないものを見てしまった。それをはたして聞いていいのか。もしかして、使い魔との契約上必要なやりとり、魔力の補給とかいろいろな理由が。でも、シエナはすごい焦りまくってる。なにか秘密を知られたってくらいの狼狽ぶり。だからやっぱり。
聞いていいのか?
「いつもキスしているのですか? シエナ様とネフェシュ様は」
「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?? ルウウウウウウウウウウウウウウ!!??」
「どのような理由があるのですか?」
「オブラートに包もうぜ!? 遠回しに徐々に聞こうぜ!?」
ルウは俺のツッコみをシャットダウンしたいのか。耳を折りたたんだうえで塞いでいる。『念話』も無視してる。芸達者になっちゃって、この子は!
「それは・・・・・・・・・・・・うう~~~」
いつものシエナじゃない。恥ずかしがってもじもじして、俺とルウを交互にして、布団の端で顔を隠して出して、と繰り返している。まるで乙女だ。
「ネフェシュ様?」
「ちょっとお茶を持ってくる」
スポン、とルウの腕からダッシュしたネフェシュは部屋から出ていった。逃げやがったなあいつ。
「僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ネフェシュを愛している。使い魔とか騎士とか。人間とそうじゃないとか関係なく」
いろいろと、言いたいことはある。
「そ、そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
けど、急展開すぎてそれしかでなかった。
「あいつって、性別的に雄なの?」
「うん」
「そうかぁ・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめん。今まで隠していて」
「でもまぁ――――」
事情とか、どうしてそんな関係になったのか。疑問はつきないけど。それでも――――
「よろしいのではないでしょうか。騎士であろうとなんであろうと。男性が男性? を好きになっても。世の中には奴隷のウェアウルフの少女しか愛せず、尻尾に異常な性欲をいだく魔道士志望者の魔法士もおりますし。そのような変態に比べたらましでしょう」
「それって俺のこと?」
ルウのことが好きすぎるだけで、奴隷とかウェアウルフとかはルウ個人への気持ちに作用してはいない。尻尾は・・・・・・・・・・・・・うん。好きな子のものならなんでも好きになっちゃうから仕方ないとおもう。
「ねぇ、ご主人様はどうおもわれますか?」
え、無視したうえでの問いかけ? まぁ好きだからいいけど。
「まぁ、でも俺もルウと同じだ。シエナが誰と恋人であっても、どんな秘密があっても、変わらない。親友で、すごい騎士で、俺の憧れの独りだって事実は変わらないから」
「え・・・・・・・・・・・・・・・憧れ?」
「そうだよ」
俺よりだいぶ年下なのに、夢を叶えて今も戦い続けている親友を、一番身近にいるすごいやつを憧れない、人なんかいるもんか。
「そうか。じゃあ僕がもう一つ秘密があってもかい?」
「お前まさかまだあるのか! 秘密なんて人それぞれだろ! 俺だってあるし! だからどんだけ秘密あったって変わらねぇよ」
「そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ゆっくりと噛み締めるようなシエナだけど、少し大げさな反応すぎるんじゃないか?
「ユーグ、ルウ、ありがとう」
なんだか恥ずかしくて、こっちが照れてしまう。なんでこんなことになってんの? 元々俺はシエナと刺し違えるつもりで来たのに。なんかいい雰囲気になってるし。
「それで、シエナ様はネフェシュ様のどこがよろしいのですか?」
「え? ええ~っと、それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それから、二人は和やかに笑いあっているけど、二人を眺めている間にもやもやとか全部消えてしまった。ネフェシュを好きになった理由とか、いつも二人きりでなにをしているかとか話していて、シエナはルウとなんの関係もなかったって。それだけでわかったから。だって、二人に愛し合っている同士特有の空気はない。遠慮がなくて距離が近くて、まるで――――
「こんなにネフェシュとのことを話せたのは、初めてだなぁ」
「シエナ様、そのような秘密を今まで誰にも言えなかったのですか?」
「うん。そうだね。誰にも」
「さようですか。それならば、私でよければ、またお話しを聞きますが」
「え?」
「私は奴隷です。物です。ならば、どんな秘密を話しても無問題かと」
「いや、せめて友達にならないかい? 僕からこんなこと頼むのはおかしいけど」
「私と友達? 奴隷と騎士が?」
「関係ないんじゃないかな。僕は、君と友達になりたいんだ。まぁ、君の主が許すならだけど」
チラ。
「こっち見んな」
「そうですね。私でよろしいのでしたら。まぁ私のご主人様が、奴隷である私に友達ができるのは許せない! という矮小なお方でなければですけど」
チラ。
「もうお前らとっくに友達じゃねぇか! なんだその息のあいようは!」
二人のさっきのやりとりは、まさに友達って関係がふさわしかった。だから安心して、シエナと刺し違える気が失せた。安心してしまったんだ。
シエナが、花が咲いたくらいの勢いで大きく笑いだした。ネフェシュがお茶を持ってきて、それから四人で会話を。ネフェシュはシエナとのことを聞かれても黙りこんでしまう。もしくは睨みつける。恥ずかしがり屋なのか?
――――――これでもやもやは晴れましたか?――――――
突然の『念話』での語りかけに、はっとするとルウがちらりと窺っている。なんてことか。ルウは俺の不安とかとっくに見抜いていたんだ。『念話』も使っていないのに。もしかして、シエナとはなんでもないことを証明するために?
かなわないな、この子には。ああ、かわいい。好き。苦笑いしながら、心で呟く。それはルウに伝わったのか、フイッと反対へと向いてしまう。
「そうだ、ユーグ。君これからどうするんだい?」
ルウにおもいっきり悶えていたかったのに、シエナに邪魔される。
「君、研究所なくなったんだろ? だったら生活とか収入とかしばらくないんじゃないの?」
「え? あ・・・・・・・・・・・・・・・」
モーガンに壊された研究所は、まだ建て直しもされていない。それだけじゃなくて、貴重な研究資料もほとんど消失して職員も死亡もしくは大怪我をしている。とてもじゃないが、再開なんて簡単にできない。最初からそんなこと頭になかった。
「研究所の給料は、たしか帝国から出ていたよね?」
「ああ。だが仕事ができない研究者に、国も金はださねぇんじゃねぇの? 帝国はそこまで甘くねぇだろうし」
「それってつまり?」
三人の視線が、一斉に俺に注がれている。さっきまで和気藹々な明るいかんじだったのに、重苦しく、気遣わしげな慈愛に満ちた残酷でキツい空気に。
「つまり、俺、無職?」
問いかけに答えてくれる者はいない。どうしよう。魔道士試験とかそんなこと言ってる場合じゃねぇ。急な死活問題に直面してしまった。
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