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十二章

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 研究所への復帰が認められた俺は、魔導具を使ってルウと移動していた。すっかり元の生活に戻って、浮かれている。後ろでしがみつきながらも景色を楽しんでいるルウに、密かに悶えて喜んでいると、生きててよかったって夢見心地だ。本当は『念話』でルウの気持ちを密かに聞きたいけど、俺の心までルウに聞こえてしまうからはずかしくて断念した。

 どうしてルウが一緒に付いてきたのか。出掛けるとき一悶着あったけど了承せざるをえなかった。

「ご主人様の復帰が本当のことかどうかたしかめたいだけでございます。実は決まっていないのに公園で一日暇を潰している人も多いと聞きました。私の今後の生活と食事に関わる重大な問題です。この目でじかに確認しなければ納得できません」

 しっかり者だなぁ、そんなところもかわいいなぁ、けど俺を心配しての行為でもあるって言い聞かせて納得した。

「本当に大丈夫ですか? 昨日も徹夜なさっていたでしょう」
 
 大きな欠伸をした俺に、不安そうなルウが窘めてきた。落っこちないか心配なんだろうけど、こんなことで魔導具の運転をミスしたりはしない。

「だけど、興がのっちゃってさ。おかげで義眼の改善にも繋げられるし」
「例の・・・・・・・・・なんでしたっけ?」
「制御を奪う魔法の過程、一部にある箇所を抽出したんだ。その抽出した部分を、一つの魔法として創りなおしたんだ」
「はぁ」
「それを別の方法で構築しなおしたんだけど。そっくりそのまま移し替えるなんて無理だったから。義眼を一旦維持したまま繋ぎ直す方法を今模索中ってかんじかな」
「ほぉ」
「けど、このままいけば義眼を取り外すこともできるかもしれない」

 義眼と備わってしまった魔法。失敗の副作用。密接に作用しあっているおかげで摘出も不可能。けど、このまま研究を続ければ。一度は破棄して避け続けていた魔法を、ちゃんと完成させられるかもしれない。恐怖心はある。本当にこれを魔導書に記載するのか。けど、研究している間は葛藤なんて忘れられていて、熱中している。

 ずっと放置しておくのは魔道士を志している者として、だめじゃないか。無責任じゃないか。完成させたから、改めてどうするか考えればいい。一つの教訓として、注意を払うときに役立っているんだ。

「しかし、それでは魔道士の試験はどうされるのですか?」
「それなんだよなぁ。う~ん、悩ましい」

 魔導書を創り直すか。それだと絶対に間に合わない。抽出した魔法と『念話』を書き加えるには全体を整理し直さなければいけないし、一つの魔導書って限定されているし。

「一旦、今のままで試験を受けられてみては? もしだめだった場合、来年受けるために改めて創り直すのではだめでしょうか」
「それ、一回は落ちるって決めつけてる?」
「申し訳ございません。死んでお詫びいたします」
「なんで!? ちょ、箒から飛び降りちゃだめええええええええええええええ!!」

 本当に身を投げようとするルウを必死でとめる。後ろからぎゅううううっと抱きしめる。

「来年もう一度受ければ、ご主人様は少しでも心と生活に余裕ができるとおもって提案しました。けれど、それがご主人様を傷つけることになったのですから奴隷失格です」
「そんな優しい理由だったの!? だったら俺のほうがごめんだよ! ルウに傷つけられるのは慣れてるしルウにだったらズタボロにされてもいいくらい大丈夫だから! 死なないで!」
「この変態」
「どこが!?」
「私に夜な夜な傷つけられてしかも鞭でぶたれたいなど、被虐趣味以外ありえないではないですか。 私に女王様になってほしいのでしょう?」
「体の話でも性癖の話でもない! 心の話だ!」
「では『念話』でたしかめてよろしいですね?」
「あ! 遅刻する! 急がないと!」

 ごまかしたわけじゃない。決してきわどい衣装を着て鞭を振うルウをイメージしたのが『念話』でバレそうって焦ったんじゃない。断じて。

「『念話』をどうして拒むのですか? 魔法がきちんと発動するかたしかめるのは魔法士としての義務では? そんなことで魔道士になれるのですか?」

 く・・・・・・・ここぞとばかりに俺の弱いところを刺激してきやがって・・・・・・・・・・・・・。魔法のことなんて興味ないのに。けどそんなルウも大大大大大好きだ。

「では、ご主人様は来年また受けることも視野に入れるのですね?」
「落ちたらね? 魔道士になったら改めて魔導書創るけどね?」
「そうですか。どちらにしてもよかったです」
「なんか釈然としないなぁ」
「だって、そうすればご主人様と一緒に過ごせる時間増えるのでございましょう?」
「え?(トゥンク)」

 それってもっと俺と一緒に過ごしたいってこと? さみしかったってこと? やば、嬉しい。かわいい。ドキドキがとまらない・・・・・・・・・・・・・・・。

「ああああああああああああああああああああんんんんんんんんんんんんんんんんん・・・・・・・・・・・・・・・!」

 我慢できなくなって、叫びだしている途中で唇を噛んでとめた。

「気持ち悪い」
「だってルウが・・・・・・・・・俺のこと好きって・・・・・・・・・・嬉しくて・・・・・・・・・・・・・」
「本当にこわい。幻聴聞こえているじゃないですか」
「はぁああああああああああ・・・・・・・・・・・・幸せすぎてもういつ死んでもいい・・・・・・・・・・・・」
「突き落としていいですか? 今なら幸せの記憶を持ったまま死ねますよ?」

 まったく、ご主人様は。小声で聞こえたけど、すぐにルウが抱きついてきた。気温は高すぎるけど、上空なので逆に風が強い。だから柔らかい感触と体温が心地よくて、そのまま額を首に押し当ててぐりぐりとしてきて最高にかわいくて。もう魔導具の操作すら疎かになって。

 順風満帆とは、こういうことなんだなぁって浮かれてしまった。研究所のことなんて消え去ってしまうくらい。
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