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十章
Ⅵ
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魔導具を調べ終わったタイミングで、夕食になった。あまりにも豪華すぎる食事だけど、別段特別なわけではないらしい。「いやはや、粗末なものでお恥ずかしい」と謙遜しているキロ氏に、改めて感謝と敬意を持つ。ルウがおいしそうに食べているのを見て、緊張とか吹き飛んで、和んだ。
夕食の席に、シエナはいなかった。ネフェシュに尋ねると無言で首を振った。相当落ち込んでいるのか。シエナの分まで食べようとするルウをなんとか説得したものの気が気じゃない。今後の方針を話し合いたかったんだけど、まだかかるかもしれない。
仕方ないからルウと二人で凄そう。うん、仕方ない。キロ氏の屋敷は大きくて部屋もたくさんあるけど、さすがに甘えてばかりというのも気が引ける。だから俺とルウが同じ部屋で過ごすのもしょうがないことなんだ、うん。一つのベッドで寝るのも普通、寝ている間に俺が寝惚けて尻尾を堪能しまくったり耳を堪能しまくったり匂いを堪能するのも仕方ないことなんだ、うん。
誤解しないでほしいんだけど、牢獄にいて長い間ルウといられなかったせいでか、ルウへの愛が溜まりに溜まっていると自覚できる。だからといってルウに無理やりえっちなことをしたいわけではない。会えなかった分の時間を取り戻したい、それだけなんだ。うん、本当。下心なんてない。これっぽっちも。
「よし、ルウ。それじゃあそろそろ寝ようか」
「ええ、そうですね」
キタコレ。自然な態度で誘えたぞ。もしかしたら『もふもふタイム』も許してもらえるかも。具体的にできなかった時間、つまり三週間分まとめてやらせてもらえるんじゃないか?
「それではおやすみなさいませご主人様」
「おやすみってちょっと待て。なんで部屋から出て行く?」
「私はしばらく奴隷部屋で過ごすことになりました」
「なんで!?」
奴隷部屋っていうのはキロ氏に仕えている奴隷達全員が過ごすための部屋らしい。けど、わざわざなんでそんなところに。すべての前提条件が崩れるだろ。
「ご主人様と今一緒に過ごすのは、貞操の危機であると私の第六感が告げているので」
「そんなことねぇよ!」
「目が血走っていますし」
「寝不足だからだ!」
「鼻息荒いですし」
「モーガン達への怒りだ!」
「私の尻尾と耳と私を見る視線がいやらしいです」
「・・・・・・・・・気のせいだよ」
「ちっ、往生際が悪いですね。ご主人様は気づいていないかもしれませんが、女性にとって異性の視線だけでそういう風に見ているのか伝わるものなんですよ」
「大げさだって」
「『もふもふタイム』三週間分まとめてしたいとおもっているでしょう」
「心読んだ!? 『念話』使ってないぞ!?」
ほら、と言わんばかりのジトッとした視線に、反論できなくなる。いや、だって仕方ないじゃん。
「なにが仕方ないのですか」
「だからなんでそこまでわかるんだ! 目逸らしてるぞ!」
「とにかく、私は奴隷ですので、主と同じベッドで寝るのは生理的に無理、失礼しました。体質的に・・・・・・・・・嗅覚が発達している私にはご主人様の体臭は受け入れにくいので」
「うおおおおおおおおおお・・・・・・・・・!!」
「それに、ここは他の人の屋敷なので。破廉恥なことをすれば皆に聞こえますよ。朝になって、昨夜はお楽しみでしたねと善人にニヤニヤしながら言われるんですよ。私に羞恥プレイをお望みですか?」
「うおおおおおおおおお・・・・・・・・・!!」
ぐ、くそ。こんなの悲しすぎるじゃねぇか。せっかく脱獄したのにルウと愛を深められないなんて。一人残された俺は、ベッドで横になるけど、眠れない。無駄に時間を過ごすのが嫌になったとき、あることをおもいだし、シエナの部屋に向かった。
部屋の前には、ネフェシュがいた。扉の前にシエナの分なんだろうか。冷えてしまった食事がお盆に載ったまま置かれていた。ネフェシュは食事をじ~っと眺めていたあとプ~ンと飛んでこちらへ。
「どうだ、シエナは?」
「だめだな。相当落ち込んでる。たく、なにしてやがるんだか。なんだったらあんたが慰めてくれ」
え、俺? それどころじゃないんだけど。
「親友だろ」
「それをいうなら、お前は使い魔だろ。主の不始末押しつけんのか」
「俺は自分で望んであいつの使い魔になったんじゃねぇ。無理やり手元に置かれている状態だ。あいつに逆らえないからあいつの命令に従っているだけなんだよ。いつだって殺してやりたいくらいなんだ」
お、おう。なんかいろいろと複雑そうだ。ネフェシュの言葉は本音なんだろう。負の感情が多分にこめられている声音だった。けど、そういえばネフェシュがどうして使い魔になったのか、お互いがどうおもっているのか聞いたことがなかったっけ。出会った頃からシエナとネフェシュは一緒で、当たり前の二人だった。
命令には逆らえないか。俺とルウの関係に似ている。だとすれば、なにか参考にできるかもしれない。
「主が求めるんなら、なんでもするしかないのが今の俺だ。ペットとか人形扱いとかもみくちゃにされてストレス発散に付き合わされるのもな。けど、そうする余裕がないほどダメージくらってるあいつを自分から進んで慰めることなんざする義務ねぇよ」
ど、ドライすぎる・・・・・・・・・。それともしかしたらルウも本音はこうなんじゃないかって重ねてしまって心が痛い。
「そんなところだ。あんたもあの奴隷と安心した生活を取り戻したいのなら、自分でなんとかするんだな。あいつ、もうだめかもしれんし」
欠伸をした拍子に、口腔内にぎっしり詰まっている歯が丸見えになる。おそろしくグロテスクな場面を目撃したけど、それどころじゃない。去っていくネフェシュをぼんやりと見送ったあと、やや躊躇ってシエナの部屋をノックする。
「シエナ、俺だ。ユーグだ。話したいことがある」
返事はなかった。もしかしたら寝てしまったのか、とおもったけどカチャリと鍵が開く音がした。声をかけて部屋に入る。シエナはふかふかな椅子の上で膝を抱えてしまっている。いつもと打って変わってどんよりと暗い表情と包帯と湿布だらけなのもあって、痛々しい。
「魔導具を調べた結果なんだがな。使用者の魔力を吸い取る効果があった。材料は高級だけど作りが雑なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
違う。こんな話じゃダメだ。
「お前、ルウとなにかあった?」
「・・・・・・・・・・・」
「あの子、秘密だって教えてくれないんだよ。『念話』使えば知れるけど。そうしたらお前となにかあったのか赤裸々に伝わるんだよ。もしお前とルウが・・・・・・・・・なんておもったら仕えないんだ。あ、『念話』っていうのは説明してないだろ?」
これも違う。というか逆効果っぽい。横に倒れた。ダメだ、どうすればいいんだろう。『念話』の説明をしても、魔法のことに興味がないということじゃなく、もっと別の話題を振らなければ。
「もしも、お前がルウと良い仲になってしまったんだとしたら・・・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・一番はルウの気持ちを優先したいから。応援するよ。けど一発殴らせろ。もしくは俺を倒してから次に進め」
これも逆効果っぽい。なんかさっきより明らかにずうぅぅぅぅぅぅん・・・・・・・・・と落ち込み具合が重くなったし、椅子から落ちてコロコロコロ・・・・・・・・・と回転していって、部屋の隅まで移動していった。器用だなおい。その話題には触れられたくないのか? やっぱりなにかあったのか?
一旦落ち着こう。ルウとのことは後回し。そもそも俺は落ち込んでいるシエナを元気づけるなんてしたことない。シエナだけじゃない。誰にもしたことがない。人付き合いを深くしたことなかった弊害が、こんな形であらわれるなんて。
ルウとシエナになにがあったのか知りたい。モーガン達を捕まえて俺たちの濡れ衣を晴らしたい。そんなことの前に、もっと基本的なこととして、シエナらしくない姿を見るのが嫌だった。今までシエナのおかげで救われたことが少なからずあった。俺を親友と言ってくれる。
落ち込んでいるシエナになにも元気つけられない不甲斐ない自分が嫌だった。
「君は、変わらないね」
頭を抱えているとき、ふとシエナがそうさみしそうに笑いかけた。いつもと違って風に吹かれれば飛んで消えてしまいそうな、脆い笑顔だ。
「責めてくれよ。僕のせいで、君を巻き込んだんじゃないか」
「そんなの・・・・・・・・・いつものことだろ。今更だ。同じくらい俺だって世話になってる」
「魔道士になれないかもしれないんだよ?」
「お前も騎士に戻れないかもしれない。けど、シエナが手伝ってくれるなら元に戻れる」
「戻れないよ」
「なんでだ」
シエナは、顔を膝に押しつける。体勢を縮こませて、ただでさえ小さい体躯が心細い子供みたいに。いや、違う。シエナは子供だ。普段対等な立場で話しているけど、こいつはまだ十代の子供なんだ。十代の頃、俺はどうしていただろう。
「あいつと同じだって、自分でもおもいだしたんだ。ゲオルギャルスと」
「?」
「ユーグ、僕にはね? 僕には秘密があるんだ。誰にも話せない、知られたら身の破滅。ルウにはそれを知られてしまったんだ」
「・・・・・・・・・意外だな。お前がそんな秘密を抱えているなんて」
シエナは女性に対しては軽いけど、騎士としてふさわしい男だって勝手におもっていた。清廉潔白。実直。友情と忠誠と正義を大切にしている。だれより騎士らしい男。秘密なんて誰にでも存在している。恥ずかしいこと、過去。俺にも身に覚えがあるから仕方がないって納得半分、驚き半分だ。
「僕は、そんな秘密を抱えているから、誰よりも騎士らしく振る舞わないといけないって。もちろん小さい頃からの夢だったけど、騎士になりたくてなったけど、どこかに後ろめたさがあったんだろうね」
悩んでいたんだろうか。苦しかったのだろうか。こんなシエナを見たのは初めてだ。なんだかんだ毎回付き合っていた愚痴とは違う、深刻な重さは推し量ることさえおこがましい気がして、黙っているしかできない。
「手を取りそうになったんだ。団長の。彼が不正を行った理由、ユーグに罪を被せた理由を聞いて。否定できなかった。彼の言っていることは、僕も常々おもっていたことだ。騎士の仕事で、汚れ仕事は何度もしているし、ほとんどが上が原因だった。団長は大義と言ったよ。国を変えるって。そのために・・・・・・・・・」
泣きそうになったのか、最後には声が震えていた。踏みとどまろうとしたのか、ぐっと歯を食いしばって鼻を啜るにとどめたのは、シエナの意地なのか。それともその先を喋りたくなかったのか。
「僕はね、汚れているんだよ。何人も殺してきた。拷問で痛めつけてきた。騎士だから、国を守るため、忠義のため、後悔は腐るほどしたけど、自分なりに一生懸命してきた・・・・・・・・・つもりだった・・・・・・・・・。けど、僕に彼を断じる資格なんてそもそもないんだよ。騎士団を、陛下を、知り合いを、君を、皆を騙している。自分のエゴを貫きとおすために、秘密を抱え続けている。そんな自分勝手で最低な僕とゲオルギャルスと、どこが違う? どうしてあいつらを断じることができる? 同じなんだよ。僕とあいつらは。それを、おもいだしたんだ」
独白に似た告白を終えたシエナは、顔をくしゃくしゃにして泣きそうな顔でじっと俺を見据えている。言葉にできない。シエナの秘密がなんなのか。それは問題ではない。秘密そのものよりもっと大切なことを、シエナは俺に伝えてきた。そんなことないって慰めればいいのか。そうだなって肯定すればいいのか。
シエナに、俺は救われた部分がこれまでたくさんあった。一緒に酒を飲んでいたとき。楽しげに女の子を侍らせていたとき。仕事を手伝わされたとき。愚痴を言い合ったとき。いつも、シエナは苦しんでいた。隠し続けるのに、どれだけの強さが必要だったか。誰にも打ち明けられず、誰にも共感されず、ただ年月とともに抱える秘密が重くなっていったのか。いつばれるかしれない恐怖と、罪悪感のストレスはいかばかりだったろうか。
その苦しみも重さも知らない俺が、なんて声をかけられるだろうか。
「騎士になんてならきゃよかったのかな」
それだけは違う。絶対に違う。お前が騎士になっていなかったら、俺はお前と会えてなかった。
「間違っていたんだ。夢を持ったのが。夢を叶えたのが」
「っ」
衝動的に殴っていた。夢を追いかけ続けている俺の前で、否定したのがどうしても許せなかった。
「ユー・・・・・・・・グ?」
突然のことで、驚きすぎたのか。殴られた箇所を押さえることもしないでシエナは呆けながら俺を見上げる。
「もういっぺん言ってみろ・・・・・・・・・二度と女を口説けない顔にしてやるぞ・・・・・・・・・」
俺を否定された気がした。俺と一緒に過ごした時間、親友であること、魔道士を目指している俺を応援してくれてたこと。俺に関わる一切を否定されたのと同義だ。
「ゲオルギャルスと同じところなんざ、あったっていいだろ。共感しちまってもいいだろ。俺だってエドガーの死霊薬とかエドガーの復讐とかモーガンの魔法の執着は・・・・・・・・・ある程度関理解できるんだよ。言っていることだけだがな」
「え、それはだめじゃないかな」
「そこは重要じゃねぇんだよ! 理解はできても納得できねぇんだよ!」
ドン引きしたシエナにもう一度バキ! と殴って無理やり黙らせる。
「なんだ? 秘密があったら騎士になっちゃいけないなんて誰が決めた? ふさわしいなんて誰が決める? じゃあどんなやつが騎士にふさわしいんだ? ゲオルギャルスみたいな最低なやつか?」
「・・・・・・・・・・・」
「どんな理由があろうとな、俺にとっては関係ないんだよ! 改革? 変える? 知ったことか! そんな自分勝手なもんに付き合わされて処刑されて納得できるかよ! してたまるか! もしそんなんで殺されたら、あいつごとお前を祟ってやるわ! なに親友見捨ててやがるってな!」
とにかく感情のままにぶつけ続ける。シエナを慮る余裕もなく、ただ言いたいことだけぶちまける。
「お前もお前だ! 秘密? だからなんだ! 俺は秘密を抱えているシエナと親友になってるんだよ! 最初から覚悟しておけよそんなこと! 途中でへこんで落ち込んで今更後悔してるんだったら今すぐやめろ! それか秘密を暴露して楽になっちまえ!」
「・・・・・・・・・」
「じゃあなにか!? お前は罪を犯したやつを許すのか!? 僕は秘密を抱えている、相手にも事情がある。そんな理由で今まで見逃してたのか!? 許すのか!? そっちのほうが騎士としておかしいわ! 帝国崩壊するわ! 例え嘘をついているからっていってこれまでお前がなしてきたこと全部が嘘になるわけねぇだろ!」
「ユーグ・・・・・・・・・」
「お前は他の皆に認められるために騎士を目指したのか!? それだけが目的か!?」
「ち、違う・・・・・・・・・」
「秘密がバレたときはあっさり諦めようってつもりで騎士を目指してたのか! じゃあ本気じゃなかったってことだ! 最初からお遊び気分で騎士になりたかったってわけだ! だったら今すぐやめちまえ!」
「っ! そんなわけないだろ!」
今まで見たこともない形相で、襟を掴まれる。
「僕のことなんにも知らないのに、よくもそこまで好き勝手言えるね! ああそうさ、最初は憧れだったさ! 現実を知っても汚れ仕事をしても、憧れとは違うって絶望しても、ネフェシュを使い魔にしちゃっても! それでも騎士の仕事が誇りだから! 意義と意味があるから! 好きだから続けているんだ! それをわからせてくれた君だろうと! 誰だろうと、否定させるもんか! 帝国だろうと皇帝陛下だろうとゲオルギャルスだろうとネフェシュだろうとユーグだろうと! 誰にも認めてもらえなくても秘密ごと心中する覚悟なんて・・・・・・・・・とっくに僕はできているんだよっっっっっ!!」
こんなにシエナの生の感情を見たのは、初めてだった。息を荒げ、唾を撒き散らし、醜く歪んだ顔には、騎士らしさなんて、微塵もない。初めて見る、親友の素顔だ。シエナの、内面に隠されていた本当の姿だ。俺は、嫌いじゃない。むしろうれしいくらい。
「それが、本音だろ」
なにかに気づいたように、表情がピクリと移り変わっていく。
「ゲオルギャルスに惑わされただけだ。あいつの都合のいい言葉に騙されかけただけだ」
シエナの手は、握力が脱けきっていたのかあっさりと外すことができた。小さい手だった。細く短く、女の子だって間違えそうなほど。この手で、今までどれだけ抱えていたのか。
「ああ、そうだね。騎士団長は、いや。ゲオルギャルス達を放置しておけば僕と君だけじゃない。帝都に住む平民も、帝国すべてに被害が出る。それは、看過しちゃいけない。看過できないんだ」
「俺はそっちのほうはどうでもいい。モーガンとその弟子、アコ―ロンを許せない。個人的に興味があるしな。あいつらの魔法は」
「まったく、君ときたら」
「なんだよ。魔道士(予定)って笑うつもりか?」
「笑わないよ。それに、君は大魔道士を越える男だ。そうだろ?」
それから、吹っ切れたらしいシエナはすっきりとした面持ちで、作戦会議を始めようとした。元気になったのはいいけど、そこまでは今日しなくていいんじゃないかな。眠くなってきた。けど、せっかくやる気を出しているシエナをとめるのが嫌だった。
「ねぇユーグ、僕の秘密、知りたいかい?」
「いや、話したくないことなら知らなくていい。そのうちルウに教えてもらう。もし教えてもらえなかったら、そのときは・・・・・・・・・」
「?」
「めんどうになりそうだから諦める」
「ははは。君らしいね。ねぇ、ユーグ」
「ん?」
「ユーグ、君が親友でよかった。ありがとう」
臆面もなくにっこりとした表情に、照れくさくなる。そのまま作戦会議を続行しかけたとき、ネフェシュとルウが揃って入ってきた。
「「・・・・・・・・・・・・」」
「あ、今シエナと話してたんだけど、俺達指名手配されてるだろ? どうやって外に出るかいい案ないか?」
「逆にあいつらを誘いだす噂とか流すべきじゃないかって」
「「・・・・・・・・・・・・」」
な、なんだ? ルウとネフェシュは口をあんぐりと開けて驚いているみたいだけど。
「ご主人様、シエナ様と距離が近くないですか?」
「そうか? 普通だろ。酒飲むときもこれくらいだし」
「おい主。お前さっきまでこの世の終わりほどに落ち込んでたろ・・・・・・・・・」
「ああ、ユーグのおかげでね」
「へぇ。ご主人様はシエナ様になにをなさったんですか?」
「別になにも」
「おい主。食事持ってった俺のこと無視してたよな」
「だって食べる気分じゃなかったし、一人になりたかったし」
「「へぇ・・・・・・・・・・・・・・」」
二人がこわい。どこがどうか説明できないけど、不穏なところがこわい。なんで? と不審がっていると、ダッ! と素早い動きで俺とシエナをグイグイと引き剥がしにかかる。そのせいで作戦会議するには違和感があるほど離れてしまった。
「なんで?」
「なにか困ることでもあります? 私よりシエナ様とくっついていたいんですか? 軽薄ですね。いざというときは奴隷である私を捨ててしまえるという深層心理が浮き彫りになっています」
「そんなわけないだろ!」
「ではそういうことで」
シエナを見やるけど、素知らぬ顔のネフェシュに指をさして、苦笑い。このまま続けるしかないようだ。まぁいいか。それに、ルウが近いから幸せだし。良い匂いだし。あ、今肩と肩が当たった。好き。
夕食の席に、シエナはいなかった。ネフェシュに尋ねると無言で首を振った。相当落ち込んでいるのか。シエナの分まで食べようとするルウをなんとか説得したものの気が気じゃない。今後の方針を話し合いたかったんだけど、まだかかるかもしれない。
仕方ないからルウと二人で凄そう。うん、仕方ない。キロ氏の屋敷は大きくて部屋もたくさんあるけど、さすがに甘えてばかりというのも気が引ける。だから俺とルウが同じ部屋で過ごすのもしょうがないことなんだ、うん。一つのベッドで寝るのも普通、寝ている間に俺が寝惚けて尻尾を堪能しまくったり耳を堪能しまくったり匂いを堪能するのも仕方ないことなんだ、うん。
誤解しないでほしいんだけど、牢獄にいて長い間ルウといられなかったせいでか、ルウへの愛が溜まりに溜まっていると自覚できる。だからといってルウに無理やりえっちなことをしたいわけではない。会えなかった分の時間を取り戻したい、それだけなんだ。うん、本当。下心なんてない。これっぽっちも。
「よし、ルウ。それじゃあそろそろ寝ようか」
「ええ、そうですね」
キタコレ。自然な態度で誘えたぞ。もしかしたら『もふもふタイム』も許してもらえるかも。具体的にできなかった時間、つまり三週間分まとめてやらせてもらえるんじゃないか?
「それではおやすみなさいませご主人様」
「おやすみってちょっと待て。なんで部屋から出て行く?」
「私はしばらく奴隷部屋で過ごすことになりました」
「なんで!?」
奴隷部屋っていうのはキロ氏に仕えている奴隷達全員が過ごすための部屋らしい。けど、わざわざなんでそんなところに。すべての前提条件が崩れるだろ。
「ご主人様と今一緒に過ごすのは、貞操の危機であると私の第六感が告げているので」
「そんなことねぇよ!」
「目が血走っていますし」
「寝不足だからだ!」
「鼻息荒いですし」
「モーガン達への怒りだ!」
「私の尻尾と耳と私を見る視線がいやらしいです」
「・・・・・・・・・気のせいだよ」
「ちっ、往生際が悪いですね。ご主人様は気づいていないかもしれませんが、女性にとって異性の視線だけでそういう風に見ているのか伝わるものなんですよ」
「大げさだって」
「『もふもふタイム』三週間分まとめてしたいとおもっているでしょう」
「心読んだ!? 『念話』使ってないぞ!?」
ほら、と言わんばかりのジトッとした視線に、反論できなくなる。いや、だって仕方ないじゃん。
「なにが仕方ないのですか」
「だからなんでそこまでわかるんだ! 目逸らしてるぞ!」
「とにかく、私は奴隷ですので、主と同じベッドで寝るのは生理的に無理、失礼しました。体質的に・・・・・・・・・嗅覚が発達している私にはご主人様の体臭は受け入れにくいので」
「うおおおおおおおおおお・・・・・・・・・!!」
「それに、ここは他の人の屋敷なので。破廉恥なことをすれば皆に聞こえますよ。朝になって、昨夜はお楽しみでしたねと善人にニヤニヤしながら言われるんですよ。私に羞恥プレイをお望みですか?」
「うおおおおおおおおお・・・・・・・・・!!」
ぐ、くそ。こんなの悲しすぎるじゃねぇか。せっかく脱獄したのにルウと愛を深められないなんて。一人残された俺は、ベッドで横になるけど、眠れない。無駄に時間を過ごすのが嫌になったとき、あることをおもいだし、シエナの部屋に向かった。
部屋の前には、ネフェシュがいた。扉の前にシエナの分なんだろうか。冷えてしまった食事がお盆に載ったまま置かれていた。ネフェシュは食事をじ~っと眺めていたあとプ~ンと飛んでこちらへ。
「どうだ、シエナは?」
「だめだな。相当落ち込んでる。たく、なにしてやがるんだか。なんだったらあんたが慰めてくれ」
え、俺? それどころじゃないんだけど。
「親友だろ」
「それをいうなら、お前は使い魔だろ。主の不始末押しつけんのか」
「俺は自分で望んであいつの使い魔になったんじゃねぇ。無理やり手元に置かれている状態だ。あいつに逆らえないからあいつの命令に従っているだけなんだよ。いつだって殺してやりたいくらいなんだ」
お、おう。なんかいろいろと複雑そうだ。ネフェシュの言葉は本音なんだろう。負の感情が多分にこめられている声音だった。けど、そういえばネフェシュがどうして使い魔になったのか、お互いがどうおもっているのか聞いたことがなかったっけ。出会った頃からシエナとネフェシュは一緒で、当たり前の二人だった。
命令には逆らえないか。俺とルウの関係に似ている。だとすれば、なにか参考にできるかもしれない。
「主が求めるんなら、なんでもするしかないのが今の俺だ。ペットとか人形扱いとかもみくちゃにされてストレス発散に付き合わされるのもな。けど、そうする余裕がないほどダメージくらってるあいつを自分から進んで慰めることなんざする義務ねぇよ」
ど、ドライすぎる・・・・・・・・・。それともしかしたらルウも本音はこうなんじゃないかって重ねてしまって心が痛い。
「そんなところだ。あんたもあの奴隷と安心した生活を取り戻したいのなら、自分でなんとかするんだな。あいつ、もうだめかもしれんし」
欠伸をした拍子に、口腔内にぎっしり詰まっている歯が丸見えになる。おそろしくグロテスクな場面を目撃したけど、それどころじゃない。去っていくネフェシュをぼんやりと見送ったあと、やや躊躇ってシエナの部屋をノックする。
「シエナ、俺だ。ユーグだ。話したいことがある」
返事はなかった。もしかしたら寝てしまったのか、とおもったけどカチャリと鍵が開く音がした。声をかけて部屋に入る。シエナはふかふかな椅子の上で膝を抱えてしまっている。いつもと打って変わってどんよりと暗い表情と包帯と湿布だらけなのもあって、痛々しい。
「魔導具を調べた結果なんだがな。使用者の魔力を吸い取る効果があった。材料は高級だけど作りが雑なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
違う。こんな話じゃダメだ。
「お前、ルウとなにかあった?」
「・・・・・・・・・・・」
「あの子、秘密だって教えてくれないんだよ。『念話』使えば知れるけど。そうしたらお前となにかあったのか赤裸々に伝わるんだよ。もしお前とルウが・・・・・・・・・なんておもったら仕えないんだ。あ、『念話』っていうのは説明してないだろ?」
これも違う。というか逆効果っぽい。横に倒れた。ダメだ、どうすればいいんだろう。『念話』の説明をしても、魔法のことに興味がないということじゃなく、もっと別の話題を振らなければ。
「もしも、お前がルウと良い仲になってしまったんだとしたら・・・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・一番はルウの気持ちを優先したいから。応援するよ。けど一発殴らせろ。もしくは俺を倒してから次に進め」
これも逆効果っぽい。なんかさっきより明らかにずうぅぅぅぅぅぅん・・・・・・・・・と落ち込み具合が重くなったし、椅子から落ちてコロコロコロ・・・・・・・・・と回転していって、部屋の隅まで移動していった。器用だなおい。その話題には触れられたくないのか? やっぱりなにかあったのか?
一旦落ち着こう。ルウとのことは後回し。そもそも俺は落ち込んでいるシエナを元気づけるなんてしたことない。シエナだけじゃない。誰にもしたことがない。人付き合いを深くしたことなかった弊害が、こんな形であらわれるなんて。
ルウとシエナになにがあったのか知りたい。モーガン達を捕まえて俺たちの濡れ衣を晴らしたい。そんなことの前に、もっと基本的なこととして、シエナらしくない姿を見るのが嫌だった。今までシエナのおかげで救われたことが少なからずあった。俺を親友と言ってくれる。
落ち込んでいるシエナになにも元気つけられない不甲斐ない自分が嫌だった。
「君は、変わらないね」
頭を抱えているとき、ふとシエナがそうさみしそうに笑いかけた。いつもと違って風に吹かれれば飛んで消えてしまいそうな、脆い笑顔だ。
「責めてくれよ。僕のせいで、君を巻き込んだんじゃないか」
「そんなの・・・・・・・・・いつものことだろ。今更だ。同じくらい俺だって世話になってる」
「魔道士になれないかもしれないんだよ?」
「お前も騎士に戻れないかもしれない。けど、シエナが手伝ってくれるなら元に戻れる」
「戻れないよ」
「なんでだ」
シエナは、顔を膝に押しつける。体勢を縮こませて、ただでさえ小さい体躯が心細い子供みたいに。いや、違う。シエナは子供だ。普段対等な立場で話しているけど、こいつはまだ十代の子供なんだ。十代の頃、俺はどうしていただろう。
「あいつと同じだって、自分でもおもいだしたんだ。ゲオルギャルスと」
「?」
「ユーグ、僕にはね? 僕には秘密があるんだ。誰にも話せない、知られたら身の破滅。ルウにはそれを知られてしまったんだ」
「・・・・・・・・・意外だな。お前がそんな秘密を抱えているなんて」
シエナは女性に対しては軽いけど、騎士としてふさわしい男だって勝手におもっていた。清廉潔白。実直。友情と忠誠と正義を大切にしている。だれより騎士らしい男。秘密なんて誰にでも存在している。恥ずかしいこと、過去。俺にも身に覚えがあるから仕方がないって納得半分、驚き半分だ。
「僕は、そんな秘密を抱えているから、誰よりも騎士らしく振る舞わないといけないって。もちろん小さい頃からの夢だったけど、騎士になりたくてなったけど、どこかに後ろめたさがあったんだろうね」
悩んでいたんだろうか。苦しかったのだろうか。こんなシエナを見たのは初めてだ。なんだかんだ毎回付き合っていた愚痴とは違う、深刻な重さは推し量ることさえおこがましい気がして、黙っているしかできない。
「手を取りそうになったんだ。団長の。彼が不正を行った理由、ユーグに罪を被せた理由を聞いて。否定できなかった。彼の言っていることは、僕も常々おもっていたことだ。騎士の仕事で、汚れ仕事は何度もしているし、ほとんどが上が原因だった。団長は大義と言ったよ。国を変えるって。そのために・・・・・・・・・」
泣きそうになったのか、最後には声が震えていた。踏みとどまろうとしたのか、ぐっと歯を食いしばって鼻を啜るにとどめたのは、シエナの意地なのか。それともその先を喋りたくなかったのか。
「僕はね、汚れているんだよ。何人も殺してきた。拷問で痛めつけてきた。騎士だから、国を守るため、忠義のため、後悔は腐るほどしたけど、自分なりに一生懸命してきた・・・・・・・・・つもりだった・・・・・・・・・。けど、僕に彼を断じる資格なんてそもそもないんだよ。騎士団を、陛下を、知り合いを、君を、皆を騙している。自分のエゴを貫きとおすために、秘密を抱え続けている。そんな自分勝手で最低な僕とゲオルギャルスと、どこが違う? どうしてあいつらを断じることができる? 同じなんだよ。僕とあいつらは。それを、おもいだしたんだ」
独白に似た告白を終えたシエナは、顔をくしゃくしゃにして泣きそうな顔でじっと俺を見据えている。言葉にできない。シエナの秘密がなんなのか。それは問題ではない。秘密そのものよりもっと大切なことを、シエナは俺に伝えてきた。そんなことないって慰めればいいのか。そうだなって肯定すればいいのか。
シエナに、俺は救われた部分がこれまでたくさんあった。一緒に酒を飲んでいたとき。楽しげに女の子を侍らせていたとき。仕事を手伝わされたとき。愚痴を言い合ったとき。いつも、シエナは苦しんでいた。隠し続けるのに、どれだけの強さが必要だったか。誰にも打ち明けられず、誰にも共感されず、ただ年月とともに抱える秘密が重くなっていったのか。いつばれるかしれない恐怖と、罪悪感のストレスはいかばかりだったろうか。
その苦しみも重さも知らない俺が、なんて声をかけられるだろうか。
「騎士になんてならきゃよかったのかな」
それだけは違う。絶対に違う。お前が騎士になっていなかったら、俺はお前と会えてなかった。
「間違っていたんだ。夢を持ったのが。夢を叶えたのが」
「っ」
衝動的に殴っていた。夢を追いかけ続けている俺の前で、否定したのがどうしても許せなかった。
「ユー・・・・・・・・グ?」
突然のことで、驚きすぎたのか。殴られた箇所を押さえることもしないでシエナは呆けながら俺を見上げる。
「もういっぺん言ってみろ・・・・・・・・・二度と女を口説けない顔にしてやるぞ・・・・・・・・・」
俺を否定された気がした。俺と一緒に過ごした時間、親友であること、魔道士を目指している俺を応援してくれてたこと。俺に関わる一切を否定されたのと同義だ。
「ゲオルギャルスと同じところなんざ、あったっていいだろ。共感しちまってもいいだろ。俺だってエドガーの死霊薬とかエドガーの復讐とかモーガンの魔法の執着は・・・・・・・・・ある程度関理解できるんだよ。言っていることだけだがな」
「え、それはだめじゃないかな」
「そこは重要じゃねぇんだよ! 理解はできても納得できねぇんだよ!」
ドン引きしたシエナにもう一度バキ! と殴って無理やり黙らせる。
「なんだ? 秘密があったら騎士になっちゃいけないなんて誰が決めた? ふさわしいなんて誰が決める? じゃあどんなやつが騎士にふさわしいんだ? ゲオルギャルスみたいな最低なやつか?」
「・・・・・・・・・・・」
「どんな理由があろうとな、俺にとっては関係ないんだよ! 改革? 変える? 知ったことか! そんな自分勝手なもんに付き合わされて処刑されて納得できるかよ! してたまるか! もしそんなんで殺されたら、あいつごとお前を祟ってやるわ! なに親友見捨ててやがるってな!」
とにかく感情のままにぶつけ続ける。シエナを慮る余裕もなく、ただ言いたいことだけぶちまける。
「お前もお前だ! 秘密? だからなんだ! 俺は秘密を抱えているシエナと親友になってるんだよ! 最初から覚悟しておけよそんなこと! 途中でへこんで落ち込んで今更後悔してるんだったら今すぐやめろ! それか秘密を暴露して楽になっちまえ!」
「・・・・・・・・・」
「じゃあなにか!? お前は罪を犯したやつを許すのか!? 僕は秘密を抱えている、相手にも事情がある。そんな理由で今まで見逃してたのか!? 許すのか!? そっちのほうが騎士としておかしいわ! 帝国崩壊するわ! 例え嘘をついているからっていってこれまでお前がなしてきたこと全部が嘘になるわけねぇだろ!」
「ユーグ・・・・・・・・・」
「お前は他の皆に認められるために騎士を目指したのか!? それだけが目的か!?」
「ち、違う・・・・・・・・・」
「秘密がバレたときはあっさり諦めようってつもりで騎士を目指してたのか! じゃあ本気じゃなかったってことだ! 最初からお遊び気分で騎士になりたかったってわけだ! だったら今すぐやめちまえ!」
「っ! そんなわけないだろ!」
今まで見たこともない形相で、襟を掴まれる。
「僕のことなんにも知らないのに、よくもそこまで好き勝手言えるね! ああそうさ、最初は憧れだったさ! 現実を知っても汚れ仕事をしても、憧れとは違うって絶望しても、ネフェシュを使い魔にしちゃっても! それでも騎士の仕事が誇りだから! 意義と意味があるから! 好きだから続けているんだ! それをわからせてくれた君だろうと! 誰だろうと、否定させるもんか! 帝国だろうと皇帝陛下だろうとゲオルギャルスだろうとネフェシュだろうとユーグだろうと! 誰にも認めてもらえなくても秘密ごと心中する覚悟なんて・・・・・・・・・とっくに僕はできているんだよっっっっっ!!」
こんなにシエナの生の感情を見たのは、初めてだった。息を荒げ、唾を撒き散らし、醜く歪んだ顔には、騎士らしさなんて、微塵もない。初めて見る、親友の素顔だ。シエナの、内面に隠されていた本当の姿だ。俺は、嫌いじゃない。むしろうれしいくらい。
「それが、本音だろ」
なにかに気づいたように、表情がピクリと移り変わっていく。
「ゲオルギャルスに惑わされただけだ。あいつの都合のいい言葉に騙されかけただけだ」
シエナの手は、握力が脱けきっていたのかあっさりと外すことができた。小さい手だった。細く短く、女の子だって間違えそうなほど。この手で、今までどれだけ抱えていたのか。
「ああ、そうだね。騎士団長は、いや。ゲオルギャルス達を放置しておけば僕と君だけじゃない。帝都に住む平民も、帝国すべてに被害が出る。それは、看過しちゃいけない。看過できないんだ」
「俺はそっちのほうはどうでもいい。モーガンとその弟子、アコ―ロンを許せない。個人的に興味があるしな。あいつらの魔法は」
「まったく、君ときたら」
「なんだよ。魔道士(予定)って笑うつもりか?」
「笑わないよ。それに、君は大魔道士を越える男だ。そうだろ?」
それから、吹っ切れたらしいシエナはすっきりとした面持ちで、作戦会議を始めようとした。元気になったのはいいけど、そこまでは今日しなくていいんじゃないかな。眠くなってきた。けど、せっかくやる気を出しているシエナをとめるのが嫌だった。
「ねぇユーグ、僕の秘密、知りたいかい?」
「いや、話したくないことなら知らなくていい。そのうちルウに教えてもらう。もし教えてもらえなかったら、そのときは・・・・・・・・・」
「?」
「めんどうになりそうだから諦める」
「ははは。君らしいね。ねぇ、ユーグ」
「ん?」
「ユーグ、君が親友でよかった。ありがとう」
臆面もなくにっこりとした表情に、照れくさくなる。そのまま作戦会議を続行しかけたとき、ネフェシュとルウが揃って入ってきた。
「「・・・・・・・・・・・・」」
「あ、今シエナと話してたんだけど、俺達指名手配されてるだろ? どうやって外に出るかいい案ないか?」
「逆にあいつらを誘いだす噂とか流すべきじゃないかって」
「「・・・・・・・・・・・・」」
な、なんだ? ルウとネフェシュは口をあんぐりと開けて驚いているみたいだけど。
「ご主人様、シエナ様と距離が近くないですか?」
「そうか? 普通だろ。酒飲むときもこれくらいだし」
「おい主。お前さっきまでこの世の終わりほどに落ち込んでたろ・・・・・・・・・」
「ああ、ユーグのおかげでね」
「へぇ。ご主人様はシエナ様になにをなさったんですか?」
「別になにも」
「おい主。食事持ってった俺のこと無視してたよな」
「だって食べる気分じゃなかったし、一人になりたかったし」
「「へぇ・・・・・・・・・・・・・・」」
二人がこわい。どこがどうか説明できないけど、不穏なところがこわい。なんで? と不審がっていると、ダッ! と素早い動きで俺とシエナをグイグイと引き剥がしにかかる。そのせいで作戦会議するには違和感があるほど離れてしまった。
「なんで?」
「なにか困ることでもあります? 私よりシエナ様とくっついていたいんですか? 軽薄ですね。いざというときは奴隷である私を捨ててしまえるという深層心理が浮き彫りになっています」
「そんなわけないだろ!」
「ではそういうことで」
シエナを見やるけど、素知らぬ顔のネフェシュに指をさして、苦笑い。このまま続けるしかないようだ。まぁいいか。それに、ルウが近いから幸せだし。良い匂いだし。あ、今肩と肩が当たった。好き。
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