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三章

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 食器がたてる金属音と、もそもそという咀嚼音しかない寂しい朝食も、何度目だろう。貧弱なおかずと美味しくないパンが原因ではない。なんとかせねば、と意気込んで打開を試みる。

「今日は天気がいいな」
「・・・・・・」
「これだと、洗濯しても昼には乾くんじゃないのか」
「・・・・・・」
「き、昨日あまりにも陽気すぎて、居眠りしちまうとこだった。先輩ににらまれてギリギリ耐えたけどな。は、ははは」

 引きつった笑顔も、虚しい。俺の独り相撲もここまでくると空気を悪化させる要因なんじゃないかと落ち込んでしまう。

「ルウ。どうしてなにも反応してくれないんだ?」
「そのようなご命令はいただいていませんでしたから。ご主人様に返事をしてよいと。そもそも私に話しかけているとはみじんも」
「俺が独り言をしていたって?」
「はい」
「・・・・・・普通誰かと一緒にいるとき、あんな大きな独り言、しないだろ」
「私は奴隷ですので。私は人ではなく、奴隷。つまり物ですので。物に語りかけること、普通はなさりませんから」
「いやいやいや」
「それでは私は今度からご主人様と会話をせよというご命令をなさってください。どのような場面で、どのようなことに反応してしゃべっていいのか私では決めかねます。奴隷ですから。奴隷に意志などありませんから」

 それでもう強制的に終了。こちらからのすべてを遮って、ルウのこわいくらい冷たい視線から逸らして、途中だった食事を再開するしかなくなる。

 通算十八回目の失敗。どうやらルウは俺とのとのコミュニケーションや生活を改善するつもりは一切皆無らしい。当初妄想していたきゃっきゃうふふな生活とは天と地ほどかけ離れすぎていて、つらい。

 デートをしてから悪化する一方だ。命令がなければなにもしない。会話さえも。家のことだけじゃなく、食事をすることも寝るということさえも。食事も、俺と同じものに戻っている。干した肉と硬いパンに、不平を漏らすことなく食べ進めている。

「奴隷の食事は、これで十分にございます。奴隷商人の元でいたときも、同じような貧相なものでしたから」

 劣悪な環境にいたときの食事と同じ物を食べて満足している俺が、なんだか悲しくなったし、きれい好きなのに、浴場にも行かなくなった。

 どうしてこうなった・・・・・・。頭を抱えてため息をつく。なんらかの原因があるはずだ。しかし、デートのときを頭の中で再現しても、一つも心当たりがない。
何があったんだ、どうしてそんな態度をとるんだ、頼むから教えてくれと何度かたずねたこともあった。

「それはご命令ですか」

もう命令をしたくはない俺は、それで引き下がるしかなくなる。このままではいつまでたってもルウと恋人同士、夫婦になんてなれない。それに、『もふもふタイム』だって・・・・・・。いや、決して下心だけじゃない。

あれは俺たちだけの特別な時間、誰も入ることができない神聖な儀式。二人に必要なあれで。それに、スランプだって悪化しているし、悪夢にうなされる頻度も増えている。二人での生活は、最初妄想していた楽しい物ではなくなっていて、前途多難すぎる。

ちらり、と視線だけルウをうかがうと、手に残った食べかすを舌でぺろりと舐めとっていた。仕草が色っぽくてどきっとした。それどころじゃねぇだろ、と自分にツッコむ。

 ルウが好きだ。幸せにしたい。幸せになってほしい。ルウのためならなんでも犠牲にしてもいい。けど、ルウは俺を拒んでいる。線引きをしてしまっている。奴隷と主という絶対に消せない間柄を持ち出して。

 どうすればいいんだよ・・・・・・。
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