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第二章 オオカミ少女は信じない
孤独宣言は高らかに
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しばらく汐海先生と話していると、スタートとは反対の方向から戸張、狼原、牧が先頭になって走ってくるのが見えた。その数メートル後ろを他の部員たちが続いている。
戸張は俺の目の前に来ると、徐々に速度を落として集団から抜けた。集団は再び狼原と牧を先頭にして、二周目に突入。
「おつかれさん」
言って片手を上げると、戸張は腰あたりの高さで手をひらひらさせ、息を切らしながら俺の隣に腰掛けた。
「戸張、もう走らなくていいのか?」
「はい。もう道案内は大丈夫そうなので」
「私としては、ずっと走ってくれてもいいんだけどな」
「今日の俺はあくまでマネージャーですから」
俺にやったように、汐海先生は戸張にもアクエリを差し出す。受け取った戸張はこきゅこきゅと喉を鳴らして、心地よさそうに息を吐いた。多分今の戸張を撮影したらいい広告になる。広告塔にうちの戸張伊織くんはいかがでしょうか。
そういえば、あいつはいずこ。聞いてみよう。
「なぁ戸張、星宮はどこ行った?」
戸張の隣を走っているはずなのだが、姿がない。二周目に突入した女バレ集団の中にもいなかっただろう。俺が星宮のことを見逃すはずがないし、星宮も俺に見逃されるはずがない。
「最初に飛ばしすぎて途中で戦線離脱した」
「おい、お前置いてきたのか。お前ほどの男が、か弱い美少女を置いてきたのか」
ランニングで頬が紅潮して、呼吸が乱れたジャージの美少女だぞ。犯されてもおかしくない。というか描写がもう事後。
「でも『私に構うな、先に行け!』って言われて立ち止まるのはアレだろ」
「いやでもそれは…………それはそうだな。うん」
そんなこと言われたの立ち止まって構っていたら、星宮の命が無駄になる。死んではないけど。というか星宮、覚悟が決まりすぎてる。
俺も抜かされる前に「俺のことはいい、後は任せた!」みたいなこと言っておけばよかったのかな……。
「俺、星宮迎えに行ってきます」
立ち上がって、じゃりついたケツを払う。
「お、彼氏出動か。若いなー」
冗談を言っているつもりなのだろうが、小さじ一杯ほどのガチトーンを俺は聞き逃さなかった。
「あずっちゃん、老けることは悪いことじゃないし、年食ってからでも恋愛をする権利はあるんですよ? あと彼氏じゃねぇ」
「小鳥遊、生々しいから老けるって言うな。年を重ねると言え。そこんとこの表現はシビアなんだぞ。それに、私は一生独り身で生きていくって決めてるんだよ」
なんすかそのかわいそうな宣言。そんな堂々と言うもんじゃないよ。
「卒業したら奏太か戸張にで拾ってもらうのはだめなんですか」
「狐火や戸張は引く手あまただろう。私が奪っていい枠じゃない」
汐海先生の言葉を聞いて、隣の戸張がくくっと声を漏らす。
「俺に汐海先生はもったいないかな。奏太がきっともらってくれますよ」
奏太は一切の容赦はないし、二つ返事で断ってきそうなのだが、あいつはああ見えて振った後のアフターケアは抜かりない。
奏太が今まで何度告白されたかはよくわからないが、振った後の女の子と気まずい関係にならないように、そこんとこは丁寧にこなす男だ。
昼休みに振った女の子と、同じ日の帰りに二人っきりで帰ってるのを見た時は、うわまじかよこいつと思った。
汐海先生は腰を曲げ、足元のクーラーボックスを開ける。そしてもう一本アクエリアスを取り出すと、俺に差し出してきた。
「戸張ほどの人格者に振られちゃ敵わんな。小鳥遊、これ持って早く行ってやれ」
「っす」
右手に飲みかけ、左手にキンキンの新品を持ち、俺はジョギング感覚で最初の坂を上り始めた。
戸張は俺の目の前に来ると、徐々に速度を落として集団から抜けた。集団は再び狼原と牧を先頭にして、二周目に突入。
「おつかれさん」
言って片手を上げると、戸張は腰あたりの高さで手をひらひらさせ、息を切らしながら俺の隣に腰掛けた。
「戸張、もう走らなくていいのか?」
「はい。もう道案内は大丈夫そうなので」
「私としては、ずっと走ってくれてもいいんだけどな」
「今日の俺はあくまでマネージャーですから」
俺にやったように、汐海先生は戸張にもアクエリを差し出す。受け取った戸張はこきゅこきゅと喉を鳴らして、心地よさそうに息を吐いた。多分今の戸張を撮影したらいい広告になる。広告塔にうちの戸張伊織くんはいかがでしょうか。
そういえば、あいつはいずこ。聞いてみよう。
「なぁ戸張、星宮はどこ行った?」
戸張の隣を走っているはずなのだが、姿がない。二周目に突入した女バレ集団の中にもいなかっただろう。俺が星宮のことを見逃すはずがないし、星宮も俺に見逃されるはずがない。
「最初に飛ばしすぎて途中で戦線離脱した」
「おい、お前置いてきたのか。お前ほどの男が、か弱い美少女を置いてきたのか」
ランニングで頬が紅潮して、呼吸が乱れたジャージの美少女だぞ。犯されてもおかしくない。というか描写がもう事後。
「でも『私に構うな、先に行け!』って言われて立ち止まるのはアレだろ」
「いやでもそれは…………それはそうだな。うん」
そんなこと言われたの立ち止まって構っていたら、星宮の命が無駄になる。死んではないけど。というか星宮、覚悟が決まりすぎてる。
俺も抜かされる前に「俺のことはいい、後は任せた!」みたいなこと言っておけばよかったのかな……。
「俺、星宮迎えに行ってきます」
立ち上がって、じゃりついたケツを払う。
「お、彼氏出動か。若いなー」
冗談を言っているつもりなのだろうが、小さじ一杯ほどのガチトーンを俺は聞き逃さなかった。
「あずっちゃん、老けることは悪いことじゃないし、年食ってからでも恋愛をする権利はあるんですよ? あと彼氏じゃねぇ」
「小鳥遊、生々しいから老けるって言うな。年を重ねると言え。そこんとこの表現はシビアなんだぞ。それに、私は一生独り身で生きていくって決めてるんだよ」
なんすかそのかわいそうな宣言。そんな堂々と言うもんじゃないよ。
「卒業したら奏太か戸張にで拾ってもらうのはだめなんですか」
「狐火や戸張は引く手あまただろう。私が奪っていい枠じゃない」
汐海先生の言葉を聞いて、隣の戸張がくくっと声を漏らす。
「俺に汐海先生はもったいないかな。奏太がきっともらってくれますよ」
奏太は一切の容赦はないし、二つ返事で断ってきそうなのだが、あいつはああ見えて振った後のアフターケアは抜かりない。
奏太が今まで何度告白されたかはよくわからないが、振った後の女の子と気まずい関係にならないように、そこんとこは丁寧にこなす男だ。
昼休みに振った女の子と、同じ日の帰りに二人っきりで帰ってるのを見た時は、うわまじかよこいつと思った。
汐海先生は腰を曲げ、足元のクーラーボックスを開ける。そしてもう一本アクエリアスを取り出すと、俺に差し出してきた。
「戸張ほどの人格者に振られちゃ敵わんな。小鳥遊、これ持って早く行ってやれ」
「っす」
右手に飲みかけ、左手にキンキンの新品を持ち、俺はジョギング感覚で最初の坂を上り始めた。
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