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第二章 オオカミ少女は信じない

食後は会話に花が咲く(2)

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 残った料理を見てみると、意外と食いつきがよかったのかかなりお残しが少なかった。それでも余ってしまった料理をすべてホーローのタッパーに入れて調理室の冷蔵庫にぶち込んだ。

 食後、選手たちにしばらく与えられた休息の時間。

 俺たちはすべての撤収作業を終え、体育館で次の指示(命令)に備えながらマネージャーチーム五人で立ち話にきょうじていた。

「そいやさ、ヨツギとツユリとイオリは月峰つきみねダッシュ走るだろ? 僕とホタルは何すればいいのかね。ホタル何か聞いてる?」

 奏太かなたが人差し指を小桜こざくらに向ける。

「なーんも。あたしたちは荷物見とくんじゃないかな」

「それ二人もいらねぇだろ……」

 水ヶ原みずがはらのマネージャーも含めたら三人だが。

 星宮ほしみやが「あっ」と指を立てた。星宮の「あっ」は信用ならない。信用してはいけない。

「ならいっそ、狐火きつねびくんとほたるも月峰ダッシュやろうよ」

「「やだ」」

 元最強アスリートの奏太と小桜が口を揃えて拒否するとは……。どんだけやばいんだよ、月峰ダッシュ。

「自分で立候補しといてあれだけど、正直俺もあんまりやりたくないんだよ。この前バスケ部でやったばっかりでさ」

「⁉」

 苦笑交じりの戸張とばりに、思わず目を見開いてしまった。
 
 戸張が、あの戸張が拒否反応を見せた……! どんな醜女しこめからの身体的アプローチも嫌な顔ひとつせずに手際てぎわよくいなすあの戸張が……。
 
 戸張のことだろうから女性は見た目じゃないとか言ってくれそうだけど、初手が身体的アプローチの時点でその女、性格も終わってると思います。閑話休題。

「あの、ちょっといいですか?」

 奏太と戸張の間あたりに割って話しかけてくる女子がいた。水ヶ原のマネージャーだ。

「水マネちゃん、どしたー?」

 星宮のやつ、名前知らないからって変なあだ名つけましたよ。

「あ、水マネちお菓子食べるー? あたしぽっけにチョコ隠してるの!」

 ハムスターか。お前のぽっけやけに膨らんでると思ったら、そんなげっ歯類みたいなことしてたのかよ。

 というか小桜も変なあだ名を……。こいつに至っては誰に対しても下の名前に「ち」をつけるで統一されているのだが、水マネちゃんに関しては「水マネ」に「ち」をつけやがった。水マネちって本名要素ゼロじゃねぇか。
 
 お前らコミュ障じゃないんだから名前くらい聞きなさいよ……。そのあだ名、逆に失礼だよ……。

「水マネさん、どうかした?」

 奏太が問う。お前も水マネって呼ぶんか。

「ああ、えと。月峰ダッシュしている間のマネージャーの仕事、何か聞いていたりしますか?」

 どうやら水マネも同じことで悩んでいたらしい。こちらは五人いるからいいが、水マネはマネージャー職が一人だけだから不安はつのるのだろう。だから、役職が同じである俺たちに声をかけてきたのだ。

「それね。ちょうど俺たちもそれについて話してたんだよ」

「えー、ほんとですかー? 私たちめっちゃ気が合いますねー!」

 いつも通り「爽やか」をく戸張に、水マネは体をくねらせながら近づいていく。
 水マネ、誤解するなよ。戸張はお前に対してだけ優しいわけじゃない。皆平等に優しいだけだからな。そこんとこはき違えんなよ。
 
「水マネ、お前も走るか?」

 みんな水マネって呼んでるし、俺も呼ぶ権利あるよね? と思いながら聞いてみると。

「…………は? 走らないんですけど」

「ああ、そう……」

 バリトンパート歌えるんじゃないのかと思うほど、声のトーンが低かった。話しかけてごめん。

「もしやることがないんだったら、僕は調理室で食器洗いしようかなー」

「あーそれ、あたしも手伝う。解散の後だと帰るの遅くなっちゃうしね」

 奏太の提案に小桜が乗っかった。
 奏太らしい実に合理的な案だ。料理の撤収は終わったが、食事のさいもちいたお盆や皿、はし、カトラリーは調理室のシンクに放置してきたままなのである。
 本来の予定では、バレー部が解散となった後に料理部と戸張で洗うことになっていた。それがバレー部の活動中に終わらせられるとなると、俺たちも早く帰ることができて一石二鳥。

 願わくば、俺も食器を洗う側に回りたかった。

「それじゃあ、私も手伝っていいですかー?」

 水マネは今度は奏太にくねくねしながら近づいた。こいつくねくねしすぎ。見たら精神に異常をきたすのではないかと思うくらいにはくねくねしていて、都市伝説かと思った。

「え、水マネち手伝ってくれるの? うるとら助かるー!」

 小桜が水マネの手をがしっと両手で握る。水マネ、俺は見逃さなかったぞ。お前今、「あんたのことはどうでもいいんですけど」みたいな目線を小桜に送っただろ。うちの大切なマスコット兼記録の小桜に文句があるなら、俺がじっくり聞いてやるからな。

「集合ー!」

 午後のそれぞれの立ち回りを決めた時、汐海しおみ先生が集合をかけて俺たちは体育館の中心へと集まった。
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