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第一章 出会い、出会われ、出会いつつ。

蛍の猛攻

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 朝から疑似ぎじ裁判をさせられるくらいトンチキで頭のおかしいクラスなのだが、一度スイッチが入るとまるで別クラスかのように雰囲気が変わる。簡潔に言い換えると、メリハリがしっかりしているのである。

 閻魔えんま田中から解き放たれた後、教室に戻ると、カーテンも窓も全開放。裁判のためにわざわざ動かされていた机と椅子は元の状態に戻されており、法廷は完全に解体されていた。
 
 そのまま七時間の授業を受け、帰りのHRホームルームが終わる。廊下のロッカーに参考書を詰め込んで、かばんに文庫本や筆記用具をしまっていると。

「よつぎち、かたなちー。一緒に部活行こー」

 なんだよお前、連れション界隈の人間かよ。一緒に部活行くとかちょっとよくわからないので、聞こえなかったふりをかましてみる。
 
 荷物をまとめ終わった俺は、鞄を肩に掛けて前のドアから教室を出た。すると廊下でベガ立ちしている女子生徒が一人。チャームポイントのアホ毛は風に揺られて、ぎゅるるるるんっ! と大回転をしていた。

「無視しないでよ」

「別に一人で行こうがみんなで行こうが変わんねぇだろ」

「変わんないなら、一緒でもいいじゃん」

 小桜こざくらはむっとむくれている。

「あのさ、なんで奏太かなたは先行ってよくて、俺はお前と一緒じゃなきゃいけないんですか」
 
「何言ってるの? かなたちはここにいるじゃ―――ってあれ⁉ かなたちがいない! ついさっきまで一緒にいたのに!」
 
 どうやら小桜は、俺に気を取られているうちに奏太に逃げられたようである。
 それにしても、相変わらず奏太は奏太してんなー。しれっと置いていくとかいうクソムーブをするあたり、奏太が奏太すぎてまじ奏太。
 
 置いていかれたことにご立腹な小桜は、既に膨れていた頬をさらに膨張ぼうちょうさせた。

「もう! みんなまったく! ほんとにもう!」

 涙目でぷんすこしている小桜。
 俺はこいつの相手をするのが面倒くさくなってきた。

「そんじゃ俺も先行くわ。機嫌直るまで調理室に来るなよ」

 言って歩き出すと、結局小桜は数歩後ろを歩いて着いてきた。
 歩を進めるごとに俺と小桜との距離はだんだん近づいてきて、気がつけば小桜は隣を歩いていた。
 俺は歩く速度を落としたつもりはないので、小桜の方が小走りでもしたのだろう。

「なんか部活前に着替えないの、新鮮だなー。あ、あたしエプロン持ってない! どうしよ……。ジャージで料理……はなんか変だし。あっ、化学用の白衣でいっか。んでさ、あたしは料理部の記録なわけじゃん? だから昨日、仙台駅前のアエルまで行って記録用のノート買ったの! もうめっちゃかわいいから調理室着いたら見せたげるね。いやー、にしても仙台駅にはなんでもあるねー。パルコが二つあるのすごすぎない? ノート買ったついでに服とか見てたんだけど――」

 この子、俺は何も言ってないのに一生勝手にしゃべってるよ……。

 もしかして電池で動いてたりする? アホ毛とか異常に動くし、勝手に会話してくれる「DXおしゃべり人形ほたるちゃん」とかなんじゃ……。

「――その店員さんがウサギ抱っこしててね? すごいかわいかった。でもあたしハムスターの方が好きでさ? よつぎちは動物何が好き?」

 やっと会話のパスが俺に回ってきた。小桜さん、あなた一人でボール持ちすぎだから……。ドリブルのしすぎにも程があるって。ロナウジーニョでももうちょいパス出すよ。

「俺は猫が好きだな。あのふてぶてしい感じ、ガチ好き」

「ははーん、なるほどねー。たしかにつゆりち、顔が猫っぽいもんねー。納得納得」

 小桜は口元をわざとらしく押さえながら笑い出した。

「え、なんで星宮ほしみやの名前がでてくるんだよ」

「よつぎち、つゆりちのこと好きなんでしょ?」

 小桜は内容が内容だからか、俺の耳元に顔を寄せ、ぽそっとささやいた。
 
 何言ってんだこのアホ。

「星宮、性格はめちゃくちゃイッヌだぞ」

 もちろん星宮は俺にとって大切な人だし、恩人だし、ついでに顔もかわいい。
 人間として好きか嫌いかで聞かれたら、もちろん好きと答える。なんなら大好きだ。でも、だが、だがしかし。恋愛感情的に好きかどうかと聞かれると、それは明らかに違うと明言できる。

 この関係をどのように説明するか考えて言いあぐねていると、小桜は嬉しそうに笑顔をこぼした。

「もー、よつぎちは仕方ないなー。まったく、仕方ないなー」

 なんか勘違いされてる気がするけど、もうなんでもいいや。

 結局俺は、小桜と話しながら調理室まで向かったのだった。
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