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第一章 出会い、出会われ、出会いつつ。

閻魔スレイヤーズ

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 学級裁判が閉廷して、俺は自由の身となった。狼原かみはら奏太かなた小桜こざくらに指示を出し、二人がかりでザイルを解いてくれた。
 解かれて自由の身になったと思った矢先、今度は教室の外にぽいっと捨てられてドアをぴしゃりと閉められた。

 特別棟、二階。職員室前の廊下にて。

「よっ! 元気? 私は元気!」

 星宮ほしみやはいちごミルクのパックを片手に、もう片方の手をこちらにげる。いつもの調子である。
 
「元気じゃないよ……。朝から法廷にり出されたんだけど。どゆこと」

 悪ノリにも限度ってあると思う。

「ふーん。意味わからないけど大変だったんだねぇ。さてさて、どーせお説教だしさっさと終わらせよかー」

 星宮はストローをちゅーっと一回吸うと、そのままの流れでいきなり職員室の扉を開け放った。ノックをスキップするのはさすがすぎる。ノックキャンセル界隈かいわいはまじぱない。
 俺も説教をまじめに受けるつもりはちゃんちゃらないのだが、ノックスキップまでは思考がいたらなかった。

「田中せんせー? つゆりが来ましたよ~」

「よつぎも来ましたよー」

 ずかずかと職員室の中に足を踏み入れる星宮の後を、ズボンのポケットに手を突っ込んで追う。

 田中はなにやらパソコンをカタカタいじっていたが、俺たちが近づくと息をふーっと吐いて作業を止めた。

 バンッ!

 田中が机を叩き、そのままの流れで立ち上がる。

「星宮ァッ!」

 更に吠えた。声でか……。

「うっわびっくりした。田中せんせ、そんな大声出さなくても聞こえるって。はいはい、星宮が来ましたよー」

 相変わらず星宮が最強すぎる。
 田中は星宮の扱いに困ったようで、怒りを抑えている反動でぷるぷると小刻みに震えていた。
 星宮はそんな状態の田中に気がついていないのか無視しているのか、体をかがめて田中のデスクをまじまじと観察し始めた。

「にしても……。うーん、カップ麺と菓子パンばっかじゃん。私、明日から先生のお昼作ります?」

「おい星宮、そのくらいにしろよ。ほら、田中先生黙っちゃっただろ」

 言うと、星宮は既に空になっているカップ麺の容器を手に取り、成分表示を見る。

「えー? 別に私はカップ麺と菓子パンが毒って言ってるわけじゃないのー。うわ、塩分量えぐっ! …………ほら、食事って楽しいものでしょ? 適度な毒は人生を豊かにするのです!」

 星宮は熱弁しながら手の中の容器をくしゃっと握りつぶした。そしてデスクの隣に置いてあるゴミ箱にそれを捨てる。

「だーけーど、だからといってそればっかるのはダメ。健康的じゃないし、何より食事がマンネリ化してつまんない。そもそも食事ってのは――」

 すぱこ――――――――ん!

「いだい!」

 星宮が頭を押さえて両膝りょうひざをついた。そのはずみで星宮のいちごミルクがストローからぴゅっと出る。
 後ろを見ると、青筋あおすじを立てながらスリッパを持った川瀬かわせ先生が立っていた。

「てめぇら死ぬ覚悟はできてるんだろうな」

 川瀬先生の目が俺を捉える。俺と星宮は、田中より川瀬先生の方が数倍怖い。

「ちょ、待って! 待て待て、暴力反対! やめっ」

 すぱこ――――――――ん!

「いっだ!」

 俺にも怒りの鉄槌てっついは振り下ろされた。思わず星宮の隣に膝をついた。痛すぎる。なんで朝からクラスメイトからつるし上げられ、顧問に頭叩かれなきゃならんの? よつぎち納得いかない。

「田中先生、うちの部員が大変失礼しました。このままやっちゃってくれていいんで、みっちりしごいてやってください」

 川瀬先生が若手らしからぬ慣れた謝罪を見せ、ずっと黙っていた田中がうむと唸った。そして田中は本題へと入る。

「小鳥遊、星宮。おめーら、学校中にロールケーキを配ったじゃろ」

 俺と星宮は頭をさすりながらコクリと頷いた。

 …………。

 妙な時間が流れた。なんだこの間は。

「で?」

 俺が問うと、田中は更にギアを上げる。
 
「『で?』じゃねぇ! おめーら、もし食中毒が起こったらどうするつもりだったんじゃ! 考えが甘ぇんだよ!」

 田中の怒号に、俺と星宮は顔を見合わせた。そして、思わず同時にぷっと噴き出してしまった。

「俺と星宮が揃ってるんすよ? さすがにそこんところは徹底しましたとも、ええ」
 
「ですです。サルモネラ、ブドウ球菌、ボツリヌス。加えてノロもロタもカンピロも対策済み! さ、ら、に! 検食もしましたし、サンプルも一応とってあります」

 星宮がドヤる。が、田中もなかなか引かない。閻魔えんまの二つ名は伊達だてじゃないってか。

「検食は誰がしたんじゃ」

「「川瀬先生に毒見させました」」

「ちょ、俺を巻き込むな!」

 俺と星宮が言うと、自分のデスクに戻っていた川瀬先生は話の続きを聞いていたらしく、遠くでうろたえながら立ち上がる。

「何言ってんすか。先生も食べたんで共犯ですよ」

 俺と星宮は川瀬先生に向けてピース。
 と、そこで始業五分前を知らせるチャイムが鳴った。

「とりあえずお前ら、一旦戻れ」

 時間のおかげでお説教が打ち切りとなり、俺と星宮は田中の見えないところでグータッチを決めた。

 VS閻魔、俺たちの勝ちだ!
 
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