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第一章 出会い、出会われ、出会いつつ。

桜舞う季節、桜と出会う(2)

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 俺と星宮ほしみや奏太かなたは、金髪ショートとテーブルをはさんで座る形となっていた。部長の星宮が中央に座り、その右に奏太で、左に俺。
 金髪ショートはどうも落ち着かないのか、目が長距離自由形ばりに泳ぎまくっており、俺たちと目を合わせようとしない。こちらが合わせようとしても逃げられる。目が水泳選手やってるくせに、胸筋のあたりが貧相というか……。何がとは言わんが星宮さん以下。B以下。暫定ざんてい最下位。
 
「えー、では金髪ショート。まずは自己紹介をお願いします」

 俺はテーブルに両肘をついて、口元で手を組んだ。

「え、なんで面接始まったの? ってか名前で呼んでほしいんだけど」

 金髪ショートは両手をテーブルの上に乗せ、こぶしをトコトコと軽くはずませる。
 なんか俺たちが金髪ショートのことを認知している前提で話が進んでいる……。
 
「俺、お前の名前知らんし。誰だよお前。いやほんと誰。まじで何しに来たの? そんで誰」

「何しに来たのぉー⁉」

 隣で星宮が両手を上にあげた。先程から星宮のテンションが妙に高い。

「僕は知ってるよ。ね、サトーさん」

 奏太はドヤ顔で指をパチンと鳴らす。

「名前違う! よつぎちとかなたちはあたしと同じクラスじゃん……。なんで名前知らないのよ。ちょい失礼じゃない?」

 金髪ショートがぷくーっとほおを膨らませた。
 
 その発言に関しては、俺にもひとつ一家言いっかげんある。一家言というか物申ものもうしに近いが。

「同じクラスになったら名前覚えるとか、意味わかんねぇこと言うんじゃねぇ」

「それ意味わからないの、よつぎちの方だから! あたし、よつぎちと何回かしゃべってるからね⁉」

 記憶にない。

小鳥遊たかなしくんは意味わからなくてしかるべきみたいなところあるからねぇ。狐火きつねびくんも常識人の皮かぶってるけど結構変人だし。金髪ちゃん、この人たちには常識とか求めない方がいいよー」
 
 金髪ショートはため息とも小さな深呼吸ともとれる息を吐く。
 そして、胸に、自身の胸に、そのかわいそうな胸に手を当てて自己紹介を始めた。うっ、涙が……。

「あたしは小桜こざくらほたる。女子バレー部」

「女バレから転部希望…………と。では、志望動機をお聞かせください」

 奏太はわざとらしく書類に書きこむ手真似をして志望動機とやらを尋ねる。

「あー、えーっと……、あたし料理が好きでさ? 料理部はずっと気になってて。そんで迷ってたら、いおりちが楽しそうな部活だったって教えてくれたし、だから今日来てみたの。あとロールケーキが美味しかった」
 
 小桜はまた目を泳がせながら答える。
 
 戸張とばりのやつ、この前の貸しを一方的に返してきやがった。何はともあれ戸張よ、よくやった。俺が偉人になったあかつきには、死にぎわに書く自叙伝じじょでん戸張とばり伊織いおりの名前を残してあげよう。
 
 小桜の志望理由を聞いて、俺は上を向いて大きく息を吐き、再び小桜の顔を見据みすえる。
 と、奏太が足を組みなおし、頬杖ほおづえをついて小桜にものを言う。

「好きってねぇ……。そんな軽い気持ちでうちを希望したの? ちょっと学生気分が抜けてないんじゃない?」

 あっ、それ知ってる! 圧迫面接あるあるだー! 姉貴の愚痴ぐちで聞いたことがあるフレーズだー! 「それ、うちじゃなくてもできるよね?」くらいメジャーなやつだー!

「いや、あたし学生だし……」

 戸惑う小桜を見て、星宮が一言。
 
「ところで、金髪ちゃ…………ほたるでいい? 蛍って呼ぶね? ……蛍はバレー部やめてよかったのかい?」

「うん。あたしレギュラーだったけど、あんまり上手くないし」

「どっちだよ」

 思わず声に出た。
 上手くなかったらレギュラーになれないじゃない。
 逆にいさぎよいというか。というかそういう感じで料理部も速攻で抜けるのはやめてね? フリじゃなくてマジで。
 俺たち三人は顔を見合わせ、星宮と奏太が合わせるようにうんと頷いた。

「では蛍、ようこそ料理部へ! 君には記録の役職を任命しまっす!」

 立ち上がった星宮が手を差し出すと、小桜も手を出してがっちりと握手した。
 
「つゆりち、よつぎち、かなたち、うるとらよろしくね!」

 うるとらよろしくね……? なんですかそれ。先程からできるだけ考えないようにしていたのだが、こいつ見た目通りなのかな。見た目通りアホの子なのかな。名前のあとに「ち」をつけるかよくわからないし。
 
 小桜の言葉を聞いて、俺たちは顔を近づけてぽそぽそとささやき合う。

「おい、こいつちょっとおかしな子なんじゃないか? おかしな子拾っちゃったんじゃないか?」

「私は別に誰でもいいんだけど、これはさすがにミスったかもしれないね……」

「性格が見た目通りすぎて怖いな。僕、ここまでアホな子初めて見たかも」

「聞こえてるしあたしおかしな子じゃないし! おかしいの三人の方だから! ……ねぇ、その目やめてよ!」

 向けられた三つの眼差しに、小桜がたじろいだ。
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