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第一章 出会い、出会われ、出会いつつ。

桜舞う季節、桜と出会う(1)

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 ゴールデンウィークの前日、すなわち四月最後の登校日がやってきた。
 料理部が成立するために必要な条件は、四月中に部員が四人になること。だが、現在の部員は、俺、星宮ほしみやつゆり、狐火きつねび奏太かなたの三人のみ。
 無情にも時間だけが過ぎていき、放課後を迎えてしまった。

 「「「…………やばい」」」

 調理室にて、俺たちはがけっぷちだった。それはもう、昼ドラサスペンス劇場ばりの崖っぷち。山村○葉でも出てるんじゃねぇの?

「はぁ、僕たちの料理物語もこれで終わりか……。またサッカー部に戻るの普通に嫌だなー。次は何部にしようかなー」

「ちょちょい狐火くーん、勝手に諦めるのはやめてくれない?」

 奏太がテーブルの上でして、隣に座っている星宮がその頭をつんつんとつついている。
 
「だってツユリ、考えてみろよ。下校まで三時間もないんだぜ? 僕たちの青春、あと三時間で終わるぞ?」
 
「狐火くん、君はサッカーの試合で負けてるとき、時間切れまであがこうとしてこなかったのかい? 戦いなよ! ストライカーならロスタイムまで戦い抜きなよ! ブザービートを決めるんだよぉ!」

 星宮は勝手にヒートアップして、椅子から立ち上がりグッとこぶしを握る。
 俺たちの現状はロスタイムなのかよ。もう試合時間は過ぎてるんですね。

「ブザービートはバスケなんだけど……」

 奏太、つっこむところはそこなのか。

「そもそも球技で例えてるのがもう既に意味わかんねぇよ」

 正解のツッコミを俺が見せてやったところで。
 
 トントン。

 鳴った。今確かに、調理室の扉が意図的に叩かれた。思わず俺たちはもれなく立ち上がった。

「ど、どうぞー」

 星宮が何度か咳払いしたのち、入るようにうながした。
 張り詰める緊張感。これでもし入ってきたのが川瀬かわせ先生とかだったら、しっかり助走つけてドロップキックをぶちかます。

「失礼しまーす……。料理部ってここですか……?」

 最初にひょこっと顔が見え、時間をかけて調理室に足を踏み入れた。
 赤みがかった金髪ショートヘアーをふりふりさせている女子生徒。頭の頂点からはぴょこんと一束ひとたばアホ毛が生えている。
 胸元のリボンはくったくたにくたびれていて、えりがだらしない。スカート短けぇ、目のやり場に困る。
 目がくりくりと大きく、どこか犬っぽい。眉根を下げた不安げな表情でこちらをうかがった。

 ――――――でも、今は見た目なんかどうでもいい。この際もう誰だっていい。

「「「っしゃあああああああああああああ!」」」

「え、なになになになになに⁉」

 ガッツポーズとともに雄叫おたけびを上げる俺たちを見て、金髪ショートが一歩身を引く。

「ようこそようこそ。よく来てくれたねぇ。入部だよね。入部なんだよね? 入部するんでしょ? 入部しなさい」
 
 星宮は金髪ショートの手を取って調理室に引きずり込み、俺は即座に引き戸を閉じて、奏太が扉に鍵をかけた。それを見て金髪ショートが叫ぶ。

「怖い! やっぱ怖い! やり方が反社のそれだ! ぎゃー!」

 逃げようと扉に近づく金髪ショートのことを、星宮は背後から四肢ししを絡めてがっちりホールドしていた。部員確保への執念しゅうねん垣間見かいまみえる。

「つゆりち、離して! 落ち着いて!」

 星宮の腕が金髪ショートの首元に回されており、金髪ショートはバシバシとその腕を叩いていた。
 
「ツユリ、一旦話くらいは聞いてやろう。松島湾まつしまわんに沈めるのはその後でいい」

「おい奏太、宮城がほこる松島の海を汚すんじゃねぇ。東京湾にでも着払いで発送しとけ」

「なんで沈める前提なの⁉ ていうかあたし、汚物なの⁉ …………着払い⁉」

 どうやら我が部活に、ツッコミ要員が増えそうです。
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