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第75話 ヤキモチ
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「ニハルは、王国では姫だったんだぞ」
オルバサンが重ねて説明する。
「メルセゲル王国のお姫様あ⁉」
親衛隊長のアイヴィーが、驚きの声を上げた。
他の者達も衝撃で目を丸くしている。
ニハルの側についているのは、参謀のライカに、親衛隊長のアイヴィー、そしてボディガードのイスカ。みんな、ニハルが亡国の姫であるという情報は初耳だったようで、動揺を隠しきれていない。
「どうしたの?」
何か変なことでも? と問いたげな顔で、ニハルは首を傾げた。
「おねーさま! どうして、そんな大事な情報を、いままで隠してたの!」
「あれ? みんなに話してなかったっけ?」
「全然、聞いてない!」
「あ、そっか。ルドルフだけが私の正体知ってたんだ。あはは、ごめんごめん」
「ごめんじゃないわよ、おねーさまぁ!」
プリプリと怒るライカに対して、ニハルは実にあっけらかんとした様子である。
「そうなの。私、本当は、メルセゲル王国の姫で、王位継承権もあったんだけど、国が滅ぼされちゃったから放浪の旅に出て……で、色々あって、カジノで奴隷バニーとして働いていた、ってわけ」
「カジノで、奴隷……!」
ニハルが受けていた仕打ちを知り、オルバサンはクラクラとめまいを感じているような表情になった。奴隷バニーという単語は、彼にとってだいぶショッキングだったようである。
「すまない、俺が、ちゃんとお前の側についていれば、そんなつらい目にはあわせなかったのに……!」
「いいよ、気にしないで、オル君。こうして無事に再会できたんだから」
(この二人って、随分仲がいいんだ……?)
ユナは、ニハルとオルバサンの会話を聞きながら、二人の関係性を推し量っている。ニハルは相変わらずオルバサンのことをギュッと抱き締めて、離そうとしない。かなり親密な様子である。
ふと、イスカのことが気になって、ユナは彼のほうを見てみた。
彼は、表面上はニコニコして、特に心乱されている感じではない。しかし、ニハルの恋人であるというイスカのことだ、内心は思うところがあるのかもしれない。
「彼のことは、私が保証するわ。縄を解いてあげて」
他ならぬニハルの頼みとあらば、聞かないわけにはいかない。
せっかく捕らえたオルバサンではあるが、その縄を解くこととなった。
「ニハル。もしかして、コリドールに新たに赴任したという領主は、お前なのか」
「そうだよ。全然知らなかったの?」
「名前までは聞いていなかった。カジノから来た女だ、ということだけは伝わっていたが、まさか、それがお前だとは思いもしなかったよ」
「たしかに、一緒だとは思わないよね」
「何があったのか、順を追って説明してくれないか」
「いいよ。カジノをどうやって抜け出したのか、そこから教えるね」
ニハルは目を輝かせながら、自分の武勇伝を語り始める。
その話は、トール達も初めて聞くものであったので、みんな彼女のことを囲んで、語られる内容に聞き入っていた。
ただ、イスカだけは、そっとその場から離れた。
ユナは、彼のことが気になり、後を追った。
民家の陰に隠れるようにして、イスカは壁に寄りかかり、はあ、とため息をついている。
「話を聞かないの?」
いきなりユナに声をかけられ、自分一人だと思いこんでいたか、イスカはビクンと体を震わせた。
「ど、どうしたの、そっちこそ」
「うーん。君のことが気になって」
「やだなあ……見ないでほしかったけど……」
イスカは照れくさそうに苦笑する。
「けっこう妬いてる?」
「……ちょっとね」
「ニハルって浮気性だったりしない? 大丈夫?」
「ううん、そこは全然心配していないけど、ただ、なんだろう……」
はあ、とまたイスカはため息をつく。
「僕の知らないニハルさんを、あのオルバサンって人は知ってるんだ、っていうのが、うらやましくて」
「でも、いいじゃない。ニハルとは恋人同士なんでしょ。それこそ、もっと深い関係にあるわけじゃない」
「うん……まあ……」
「エッチとか、もうしたの?」
「ふえ⁉」
唐突に、ストレートなことを聞かれて、イスカは目を白黒させている。
「いや、恋人同士なら、エッチくらいしてるかな、って」
「キスくらいは、したことあるけど……」
「えええ⁉ まだエッチしてないの⁉ なんで⁉」
「それは……」
と言いよどんだ様子を見て、ユナは勝手に自分なりの解釈をした。
ああ、なるほど、実はニハルとイスカは、それほど上手くいってないんだな、と。
「君も、色々と大変なんだね」
「うん……まあ……」
どうにもイスカは歯切れが悪い。
そんな彼のことを見ていると、ユナは、ちょっとからかいたくなってきた。
「なに? なに? 悩みでもあるの? 私でよかったら、聞くよ」
「ユナさんには……話すとまずいから……」
「大丈夫。私、約束したことは絶対に他の人には話したりしないから」
「そういう問題じゃなくて……なんて言えばいいんだろ……」
なお、イスカは話すことをためらっている。
「どっちかが、エッチが下手とか?」
「ち、違うよ! そういうことじゃなくって!」
「もー、勿体ぶらないで。教えて」
「……ごめん!」
とうとう、強引に話を中断し、イスカはユナの前から去っていった。
あらら、とユナは肩をすくめた。彼のことを怒らせてしまったかもしれない。でも、あんな態度を取られたら、突っ込まずにはいられなかった。
「なんだか目が離せなくなってきたわね」
ユナはクスッと笑う。だんだんと、ニハル達に対する好感度が高まってきており、彼女らの行く末が気になりつつあった。
オルバサンが重ねて説明する。
「メルセゲル王国のお姫様あ⁉」
親衛隊長のアイヴィーが、驚きの声を上げた。
他の者達も衝撃で目を丸くしている。
ニハルの側についているのは、参謀のライカに、親衛隊長のアイヴィー、そしてボディガードのイスカ。みんな、ニハルが亡国の姫であるという情報は初耳だったようで、動揺を隠しきれていない。
「どうしたの?」
何か変なことでも? と問いたげな顔で、ニハルは首を傾げた。
「おねーさま! どうして、そんな大事な情報を、いままで隠してたの!」
「あれ? みんなに話してなかったっけ?」
「全然、聞いてない!」
「あ、そっか。ルドルフだけが私の正体知ってたんだ。あはは、ごめんごめん」
「ごめんじゃないわよ、おねーさまぁ!」
プリプリと怒るライカに対して、ニハルは実にあっけらかんとした様子である。
「そうなの。私、本当は、メルセゲル王国の姫で、王位継承権もあったんだけど、国が滅ぼされちゃったから放浪の旅に出て……で、色々あって、カジノで奴隷バニーとして働いていた、ってわけ」
「カジノで、奴隷……!」
ニハルが受けていた仕打ちを知り、オルバサンはクラクラとめまいを感じているような表情になった。奴隷バニーという単語は、彼にとってだいぶショッキングだったようである。
「すまない、俺が、ちゃんとお前の側についていれば、そんなつらい目にはあわせなかったのに……!」
「いいよ、気にしないで、オル君。こうして無事に再会できたんだから」
(この二人って、随分仲がいいんだ……?)
ユナは、ニハルとオルバサンの会話を聞きながら、二人の関係性を推し量っている。ニハルは相変わらずオルバサンのことをギュッと抱き締めて、離そうとしない。かなり親密な様子である。
ふと、イスカのことが気になって、ユナは彼のほうを見てみた。
彼は、表面上はニコニコして、特に心乱されている感じではない。しかし、ニハルの恋人であるというイスカのことだ、内心は思うところがあるのかもしれない。
「彼のことは、私が保証するわ。縄を解いてあげて」
他ならぬニハルの頼みとあらば、聞かないわけにはいかない。
せっかく捕らえたオルバサンではあるが、その縄を解くこととなった。
「ニハル。もしかして、コリドールに新たに赴任したという領主は、お前なのか」
「そうだよ。全然知らなかったの?」
「名前までは聞いていなかった。カジノから来た女だ、ということだけは伝わっていたが、まさか、それがお前だとは思いもしなかったよ」
「たしかに、一緒だとは思わないよね」
「何があったのか、順を追って説明してくれないか」
「いいよ。カジノをどうやって抜け出したのか、そこから教えるね」
ニハルは目を輝かせながら、自分の武勇伝を語り始める。
その話は、トール達も初めて聞くものであったので、みんな彼女のことを囲んで、語られる内容に聞き入っていた。
ただ、イスカだけは、そっとその場から離れた。
ユナは、彼のことが気になり、後を追った。
民家の陰に隠れるようにして、イスカは壁に寄りかかり、はあ、とため息をついている。
「話を聞かないの?」
いきなりユナに声をかけられ、自分一人だと思いこんでいたか、イスカはビクンと体を震わせた。
「ど、どうしたの、そっちこそ」
「うーん。君のことが気になって」
「やだなあ……見ないでほしかったけど……」
イスカは照れくさそうに苦笑する。
「けっこう妬いてる?」
「……ちょっとね」
「ニハルって浮気性だったりしない? 大丈夫?」
「ううん、そこは全然心配していないけど、ただ、なんだろう……」
はあ、とまたイスカはため息をつく。
「僕の知らないニハルさんを、あのオルバサンって人は知ってるんだ、っていうのが、うらやましくて」
「でも、いいじゃない。ニハルとは恋人同士なんでしょ。それこそ、もっと深い関係にあるわけじゃない」
「うん……まあ……」
「エッチとか、もうしたの?」
「ふえ⁉」
唐突に、ストレートなことを聞かれて、イスカは目を白黒させている。
「いや、恋人同士なら、エッチくらいしてるかな、って」
「キスくらいは、したことあるけど……」
「えええ⁉ まだエッチしてないの⁉ なんで⁉」
「それは……」
と言いよどんだ様子を見て、ユナは勝手に自分なりの解釈をした。
ああ、なるほど、実はニハルとイスカは、それほど上手くいってないんだな、と。
「君も、色々と大変なんだね」
「うん……まあ……」
どうにもイスカは歯切れが悪い。
そんな彼のことを見ていると、ユナは、ちょっとからかいたくなってきた。
「なに? なに? 悩みでもあるの? 私でよかったら、聞くよ」
「ユナさんには……話すとまずいから……」
「大丈夫。私、約束したことは絶対に他の人には話したりしないから」
「そういう問題じゃなくて……なんて言えばいいんだろ……」
なお、イスカは話すことをためらっている。
「どっちかが、エッチが下手とか?」
「ち、違うよ! そういうことじゃなくって!」
「もー、勿体ぶらないで。教えて」
「……ごめん!」
とうとう、強引に話を中断し、イスカはユナの前から去っていった。
あらら、とユナは肩をすくめた。彼のことを怒らせてしまったかもしれない。でも、あんな態度を取られたら、突っ込まずにはいられなかった。
「なんだか目が離せなくなってきたわね」
ユナはクスッと笑う。だんだんと、ニハル達に対する好感度が高まってきており、彼女らの行く末が気になりつつあった。
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