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第72話 闇夜の奇襲

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「なっ⁉︎」

 まさか自分が吹き飛ばされるとは思っていなかったユナは、目を丸くする。

 すぐに体勢を立て直したが、しかし、一旦その場で身構えたまま動かずにいる。

「信じられない力ね……!」

 ユナも、決してパワーがないわけではない。細身のように見えて、体幹はかなり鍛えており、並の戦士よりは力がある。それでも、チェロには押し負けた。

 猫型の獣人であるから、スピード特化型かと勝手に思っていたが、とんでもない。実際はパワータイプなのだ。

「そーらそらそらそらァ!」

 勢いづいたチェロは、怒濤の如きラッシュ攻撃を放ってきた。爪や拳による連打を受けて、ユナは防戦一方となる。

(なかなかの強敵ね! でも、まだまだ……! まだまだ、私の敵じゃない!)

 これまでに多くの敵と戦ってきたユナならではの自負。自分なら絶対に勝てるという自信。

 チェロの攻撃の綻びを待っていたら、早くも、その機会は訪れた。

 痺れを切らしたか、チェロは大振りな力任せの一撃を放ってきた。

(ここだ!)

 タイミングを合わせて、ユナはチェロの攻撃をかわすと、すれ違いざまに剣の腹で、相手の胴体を思いきり殴りつけた。

「うぐっ⁉︎」

 チェロは呻き、体を折る。

 その隙を逃さず、ユナはチェロの腕を掴むと、グイッと引っ張りながら、足払いを仕掛けた。チェロの体は回転し、宙に舞う。

「ニャ⁉︎ ニャニャー⁉︎」

 驚きの声を上げたのも束の間、チェロは頭から地面に叩きつけられた。

「ニャンッ!」

 頭部を強打し、悲鳴を上げる。

 地面に倒れたチェロの首筋に、ユナは剣の刃を押し当て、グッと力をこめた。いつでもその首を刎ね飛ばせる、という意思表示である。

「ま、待ってニャ。降参ニャ」
「本当にもう襲ってこない?」
「もちろんだニャ。約束するニャ」
「嘘ついたら、承知しないからね」

 ユナは剣を外した。

 チェロは身を起こしながら、ふみゃあ、とため息をつく。

「さすが第一隊隊長のユナだニャ。あたしが敵う相手じゃないニャ」
「とりあえず、もう一度訂正しておくけど、私はニハル一派にくみしたおぼえはないから。ただ、帝国の民のために……」
「それはもうわかったニャ。戦えばだいたいのことはわかるニャ。君に悪意はないようニャ」
「そこのところ、トゥナにもちゃんと伝えてくれる? 私はちゃんと騎士団への忠誠心を忘れたことはない、って」
「了解ニャ」

 そこへ、トールがやって来た。

 民家の壁にあいた穴を見つめて、怪訝そうに首を傾げていたが、盗賊の仕業だと思ったのだろう、特に言及することはなかった。

「チェロ、こんなところにいたのか。この村を拠点とする。手伝ってくれ」
「あいあいさーニャ」

 チェロはトールに連れていかれた。その際、チラリとユナのほうを見て、軽く手を振った。また会おうニャ、ということだろう。

「ふう。余計な戦いをしちゃった」

 ユナは、戦闘後のクールダウンに、両腕両脚をストレッチする。

 とりあえず、明日まではここでのんびりしていよう、と思った。

 ※ ※ ※

 夜になり、早めに夕食を食べた後、みんなそれぞれの寝床についた。

 ユナは、馬小屋のわらをベッド代わりに使っている。

 人々は最大の功績者であるユナをこんなところに寝かせられない、と抵抗したが、ユナは、自分は床で寝ることだってできる、むしろ復興作業で大変な皆さんこそベッドで寝てほしい、と言って、譲らなかった。

 実際、硬い床の上で寝るよりも、わらの上はずっと楽である。

 だが、

「……寝れない」

 一時間ほど仮眠を取ったところで、ユナの目は覚めてしまった。

 天賦の才、野生の勘、といったところだろうか。どうもいやな予感がしてならない。このまま寝ていてはいけないような気がする。

 外へ出てみると、灯りはすっかり消えており、真っ暗だ。

 月明かりを頼りに、村の中を進んでいく。

 村の外れまで来て、草原を眺めてみた。月は反対側に出ているため、目の前の草原は真っ暗で、その上には星空が広がっている。よく目を凝らさないと、草地の様子はわからない。

「ん……?」

 ユナは、草原の一角を凝視した。

 何かが見える。

 闇の中に浮かび上がる――眼光。

(誰か隠れている!)

 よくよく見れば、そこかしこで目が光っている。自分に向かって一斉に視線が集中するのも感じた。

(奇襲……!)

 この村の盗賊達は一掃したはずだが、取りこぼしがあったのだろうか。外の仲間達に伝令が行ったのだろうか。あるいは、他の盗賊団がこの村を狙っているのだろうか。

 強さに自信のあるユナではあるが、さすがに、この状況では緊張で鼓動が早くなる。自分一人だけならなんとかなるが、村には安眠しているトール達がいる。いまから叩き起こしたとしても、パニックになるだけで、かえって事態を悪化させかねない。

「困りごとかニャ?」

 後ろから、チェロがやって来て、声をかけてきた。

「チェロ、起きてたの」
「猫は夜行性だニャ。夜こそ本領発揮ニャ」
「好都合ね。周りを見て」
「三十人くらいはいるニャあ」
「わかるの?」
「夜の闇は、猫には通用しないニャ」

 この上なく頼もしい。

 ユナは、チェロの加勢で勝機を見出し、剣を抜いた。

「二人で全員叩き潰すわ」
「オッケー♪ 腕が鳴るニャ!」
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