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第41話 巨人バニーとモーニングスター

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「あー、ちょっと待ってねえ。戦いを始める前にぃ、一応確認しておくわぁ」

 ネネは唇に指を当てて、うふ♪ と余裕の笑みを浮かべる。

「本当に私と戦う気なのぉ? 私、意外と戦えるのよぉ」
「知ってるさ。貴様は、人の心が読めるのだろう?」

 クイナに指摘されたネネは、目をパチパチとまたたかせた。

「あらぁ、やっぱり気がついていたのぉ?」
「やっぱりとは、なんだ、やっぱりとは」
「だってぇ、別に隠しているつもりはなかったからぁ」
「く……! 人をおちょくる気か……!」
「それにぃ、人の心を読める能力と、戦闘能力とは、特に関係ないわよぉ」
「どういうことだ?」
「私の人の心を読む能力はぁ、相手の目をジッと見つめながらぁ、質問を投げかけるのぉ。そうするとぉ、誰だって頭の中では自然と真実の回答をするでしょぉ。それを読み取るのぉ」
「ということは……戦闘中は、読むことができない⁉」
「そうよぉ」
「……敵のお前の言葉を、信じろというのか」
「それはあなた達次第ねぇ」

 ジャラリとモーニングスターの鎖を鳴らして、ニコリとネネは笑う。

「単純に、巨人族の血を引く私は、あなた達とは身体能力が違うのぉ。パワーもスピードも、段違いよぉ」
「もういい。ダラダラと喋っている時間はない。すでに私達には覚悟ができている」
「上等ねぇ。それじゃあ、始めましょうかぁ♪」

 そう言うやいなや、間髪入れず、ネネはモーニングスターを振り回して、ドンッ! とトゲ付き鉄球を撃ち出してきた。

 鉄球は、まず、レジーナを狙って飛んでいく。

「危ない!」

 イスカは飛び込み、レジーナのことを抱きかかえると、一緒に床に倒れ込んだ。その上を、鉄球が唸りを上げて通過していく。

「あ、ありがとう……」

 レジーナは顔を赤らめながら、イスカに礼を言う。

 それに対して、イスカは答えない。何よりも、ネネに対する怒りで頭がいっぱいだからだ。

「どうして、レジーナさんを狙った」
「裏切り者だからよぉ」
「違うだろ。この中で、一番戦闘力がないから、真っ先に叩き潰しておこうと思っただけだろ」
「あらぁ、随分と、意地悪な性格に思われてるのねぇ」
「お前がけっこう腹黒なのは、なんとなく感じてるから」
「ひどいわぁ……私、けっこう、バニーのみんなに慕われてるのに……」

 ブン! と鉄球を引き戻し、ネネは再び投擲の準備姿勢を取る。

「そういう意地悪なこと言うのなら、まず、あなたから、潰してあげるわぁ!」

 ドンッ! と二発目が撃ち出された。空間を切り裂く轟音とともに、巨大なトゲ付き鉄球が、イスカの上半身を吹き飛ばさんとばかりに、襲いかかってくる。

「っ!」

 すんでのところで、イスカは鉄球を回避した。

狙いを外した鉄球は、廊下の壁に激突し、ドゴォ! と大穴を開ける。

 攻撃直後の隙を狙って、イスカは一気に飛びかかる。ほんの一瞬で、相手のどこを狙うかを考えて、そこ目がけて突っ込んでいく。巨体の相手を倒すには、機動力となる脚を潰すか、攻撃を受け慣れていない頭部を狙うか。

「イスカ! 脚を狙え!」

 いつの間にか、すでに動いていたクイナが、イスカよりも前を走っている。そして、宙高く跳躍した。

 師弟による、上下同時攻撃。

 クイナが頭部を狙うのに対して、イスカは脚部を狙う。

「あらあら、可愛い攻撃ねぇ」

 ネネは嘲笑を浮かべると、向かってくるイスカに対して、蹴りを放った。

「ぐぶっ⁉」

 巨大な足が強烈なスピードで迫ってきて、突撃していたイスカはかわしきれず、真正面から顔面で受けてしまう。

 蹴りを受けて後方に吹っ飛ばされるイスカ。だが、同時攻撃を仕掛けていたクイナは、お返しとばかりに、上手くネネの顔へと蹴りを当てる。

「で?」

 ネネはビクともしていない。

 鎖を持つ手を離し、空中にいるクイナを、平手打ちでバシンッ! と弾き落とした。頭から床に叩きつけられたクイナは、ぐっ! と呻いたが、すぐに、よろめきつつも、その場を離れた。直前まで倒れていた場所に、ネネの踏みつけ攻撃がドスンッ! と叩きこまれる。いつまでも横たわっていたら、踏まれて、全身を砕かれているところだった。

 ここで、距離を置きながらタイミングを窺っていたアイヴィーが、動き出した。

 放たれた後、壁にめり込んだままのモーニングスターの鎖を掴み、キッとネネのことを睨みつける。

 アイヴィーのスキル「アイヴィー・アイヴィー」は、鞭状の武器を自在に操ることが出来るものだ。

 それは、実は、鎖にも適用される。

「オラァ!」

 気合一声、念を込めて、アイヴィーは鎖をスキルで操作した。ドゴンッ、と音を立てて、鉄球が壁から飛び出してくる。そのまま空中を一直線に飛んでいき、ネネへ向かって突っ込んでいく。

「わぁ、すごぉい!」

 キャッキャッと無邪気にネネは楽しそうにはしゃいで、余裕の動きで、鉄球を回避した。

 だが、そこでアイヴィーの攻撃は終わりではなかった。

「なめんな!」

 ギュンッ! と鉄球はUターンして、背後からネネに襲いかかる。

「だからぁ、無駄な足掻きよぉ」

 巨体に似合わない俊敏な動きで、ネネはサイドステップを踏み、鉄球攻撃をかわした。

 しかし、それは、アイヴィーの狙い通りであった。

「無駄かどうかは、結果を見てから判断しな!」

 グルン、グルンと、鉄球はネネの周りを飛び回る。それに伴い、鎖が、どんどんネネの体に巻きついていく。

「あ、あら⁉」
「最初から殺す気はねーよ! ちょっとおとなしくしてもらおうか!」

 気がつけば、ネネは、鎖で全身をがんじがらめにされていた。

「ん……! く……! あなた、やるわね……!」
「よし! いまだ! お前ら、ニハルを助けに行け!」
「アイヴィーさんは⁉」
「オレはこいつを抑え込むのに、スキルを使い続けないといけない! ここを離れられないんだ! だから、三人で行け!」
「わかった!」

 アイヴィーに促され、イスカ達は迷わず、ネネを放って駆け出した。
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