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第38話 いざルドルフの部屋へ

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 さっそく作戦決行となった。

 イスカは、レジーナに案内されて、カジノの五階――最上階にある、ルドルフの部屋へと向かう。アイヴィーとクイナは、万が一に備えて、レジーナの部屋で待機することとなった。

 外からカジノを見た時、巨大な要塞のように感じたものだが、いざ中を歩いてみると、あらためてその規模の大きさに驚かされる。

 メインとなるカジノフロアは一階だけにあり、二階から上は、また違った機能を担っている。

 二階は、客室フロア。このカジノに寝泊まりする人々を受け入れるホテルとしてのフロアになっている。

 三階は、娯楽フロア。中央に巨大な噴水があるのが特徴の、イベントやショーを開催するための特殊なフロアである。

 四階は、飲食フロア。ありとあらゆる飲食店が、立ち並んでいる。

 そして最上階の五階。

「これは……!」

 イスカはフロアに入った途端、一目でわかる異様な雰囲気に、息を呑んだ。

 廊下を、完全武装した兵士達が行き交っている。鎧の音が鳴り響いており、かなり物々しい。バニーガールの格好をした自分達がこのフロアにいるのは、場違いな気がするほどだ。

「動揺しないで。このフロアは、ルドルフの部屋があるから、特に警備が厳重なの。でも、バニーガールはここに来ても怪しまれない。兵士達も、また誰か、ルドルフに抱かれに来たんだ、くらいにしか思わないから」
「わ、わかった……!」

 気持ちを落ち着かせたイスカは、ムン! と心の中で気合を入れて、努めて平然としている風を装いながら、廊下を進んでいく。

 歩いていく内に、妙なことに気がつき始めた。

 兵士達がみんなこっちを見ている。それも、視線は、主にイスカへと集まっているようだ。

「なんか……見られてる……」
「ああ。たぶん、あなたがかなり可愛いバニーガールだから、みんな見とれてるんだと思う」
「うわあ……なんだか嬉しくない……」

 もう少しでルドルフの部屋、というところで、いきなり、

「おう! レジーナではないか!」

 筋骨隆々とした髭もじゃの老戦士が、大きな声で話しかけてきた。

「リヒャルト。今日の指揮は、あなたがとっているのね」
「うむ! アリ一匹とて通さぬぞ!」

 リヒャルトは、ガッハッハッ! と豪快に笑い、それからイスカのほうへと目を向けてきた。

「見かけぬ顔だな! 新入りか!」
「あ……えっと……」
「よい! 何も言わぬでよい! このフロアへ来たバニーガールに、どのような役目があるか、わしは知っておる!」

 そう言ってから、突然、リヒャルトはダバー! と涙を流し始めた。

「大変だのう……! その若さで、かように過酷な勤めをやらされるとは……! 少しでも、そなたに幸あらんことを祈っておるぞ……!」
「そう思っているのなら、あなたからルドルフにもの申したらどうなの」

 レジーナの言葉に、リヒャルトは涙を拭ってから、かぶりを振り振り、沈んだ声で返してきた。

「わしにはできんのだよ。ルドルフ殿には、昔、戦場で命を救われた恩がある。その恩に報いるため、こうして仕えておるのだ……」
「本意じゃなさそうに見えるけど」
「これ以上は、わしの口からは、なにも言えん」

 心底つらそうな表情で、リヒャルトはため息をついた。

 イスカは、この老戦士に好感を抱いていた。正義感があり、義理堅い。ルドルフのような男に仕えさせるのはもったいないくらいだ。

「とにかく、だ!」

 リヒャルトは、イスカの目をしっかりと見据えて、力強く頷いた。

「苦しいこと、つらいことがあれば、わしに相談するのだ! 無力かもしれぬが、悩みを聞くことくらいは出来る。一人で抱え込まぬことが大事だ!」
「あ、ありがとうございます……」

 イスカは苦笑しながら、お礼を言う。

 リヒャルトと別れて、少し歩いたところで、ルドルフの部屋の前に辿り着いた。

「さて、ここまで来たけど、問題はあいつが部屋にいるかどうか」
「部屋にいたら、作戦Bだね」
「そう。あいつはバニーを抱く前に、必ず体を洗って身を清める。その時、チャンスがあるわ。鍵の置き場所は、頭に入っているわね?」
「うん。ベッドの横の棚、二段目のところ」
「よし、行ってきて」

 少しばかり深呼吸をしてから、イスカは、コンコン、とドアを叩いた。できることなら、ルドルフ不在であってほしかった。

 しかし、

「誰だ」

 中から、ルドルフの声が聞こえてきた。

 この瞬間、作戦Bへと切り替わった。

 作戦B。それは、ルドルフが部屋にいた場合の計画。鍵を手に入れるには、ルドルフを一度ベッドの側から追い出さないといけない。そのためには、ルドルフを興奮させて、お風呂へと追いやる必要がある。

 すなわち、色仕掛け作戦だ。

(これもニハルさんのため! ニハルさんのため!)

 何度も呪文のように頭の中で唱えて、イスカはドアを開けた。

「誰だ、お前は」

 ベッドの上で、バスローブを着た状態で、ルドルフはくつろいでいる。手に持つグラスの中には、葡萄酒らしきものが入っている。少々、酔っているようだ。

「あ、新しくバニーガールとなりました、カルラです」

 とりあえず、このカジノへ入る時に付けた偽名を名乗り、部屋の中に入った。

 もしもネネが、ルドルフにイスカの正体を告げ口していたらアウトだったが、どうやら何も伝えていないのか、それともルドルフの記憶に残っていないのか、「カルラ」の名前を聞いただけでは、特に目立った反応は無かった。

 が、イスカの顔を見ている内に、ルドルフの目の色が変わってきた。

「ほう……」

 たちまち好色な顔つきになり、ルドルフは舌なめずりした。

「いいぞ。肉づきはあまりよくないが、顔は俺好みだ。今晩は楽しめそうだな」

 クイクイ、と手招きしてくる。ベッドの上に乗れ、というのだ。

 もうどうにでもなれ! の精神で、イスカはゆっくりと近づき、ベッドの上に這い上がった。
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