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第35話 探し求めるは協力バニー

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「ふうう、疲れたあ」

 バニー部屋に戻ったイスカは、ベッドの上にペタンと座り込んだ。その両脇には、アイヴィーとクイナ。周りには他のバニーガール達もいるが、もう三人が仲間同士であることを隠しても意味はない。

「さて、ここからどうするか……何か収穫はあったか?」
「ダメだ。他のバニーガールにも、ニハルが囚われてそうな場所について、探りを入れてみたんだが、みんな何も知らない。それか、隠しているのか」
「私も、客連中を相手に色々と話をしてみたが、何も分からない様子だった」

 仕事もこなしながら、しっかり情報収集していたアイヴィーとクイナに、イスカは頭が下がる思いである。

「ご、ごめんなさい……僕だけずっと、わたわたしてて……」
「いや、いいんだ。むしろイスカが場の注目を一気に集めてくれたおかげで、私たちが動きやすかった」
「だな。お前だって、立派に役に立ってたぜ」
「それなら、よかったんだけど……」

 はあ、とイスカはため息をついた。

 こんな調子で、ニハルの居場所を見つけ出せるのだろうか。

 そして、あの好色なルドルフが、いまごろニハルに何をしているのかと思うと、気が気でなくなる。

「ウェイターバニーや、客では、話にならねーな。黒服かディーラーバニーに当たらねーと」
「ディーラーバニーは、客の相手をしないといけないから、我々の応対をしている暇はないだろう」
「だったら、こっちから訪ねるまでだよ」
「訪ねる?」
「このカジノの中は、自由に歩いていいみたいだからな。ディーラーバニーに割り当てられている部屋へ遊びに行くことだってできる」
「直接乗り込むということか? しかし、相手してくれるかわからないぞ」
「当たって砕けろ、だよ。ほら、行くぞ」

 アイヴィーは、イスカとクイナに動くよう促した。

 上手くいくとは思えないが、他に手段を思いつかないイスカ達は、仕方なくアイヴィーに従って歩き出す。

 バニー部屋を出てから、廊下を何度か曲がって進んでいくと、やがてディーラーバニー達に割り当てられた区画へと到達した。

 個室が並んでいる。扱いはかなり上等だ。

「それで? どの部屋を訪ねる?」
「そうだな……」

 ドアについているネームプレートを一つ一つ観察していたアイヴィーは、ふと、イスカのほうを振り返った。

「この中に、お前の知っているバニーはいるか?」
「え?」
「顔見知りだったら、少しは話がしやすいだろ。カジノで対戦した時に、知り合ったディーラーバニーもいるんじゃないか?」
「それは……いるけど」

 すぐ近くには、クークーと書かれたネームプレートが見える。コインを荒稼ぎする時に対戦した、麻雀卓のディーラーだ。

 彼女はかなり好戦的だった。やめたほうが無難だと思い、他のバニーを探してみる。

 いた。対戦した中では、一番大人びて落ち着いていたディーラーバニー。このカジノで、ニハルと一緒に最初に対戦した、ポーカー卓のレジーナだ。

「その部屋か。頼んだぜ、イスカ」

 イスカは、ドアをコンコンとノックした。

 部屋の中から「どうぞ」と返事が聞こえてきた。

 鍵は開いているようなので、そのままガチャリと開けて、中へと入る。

「うん? 誰?」

 レジーナは首を傾げた。イスカの女装だと気がついていない。

「あの……僕……」

 イスカは長い黒髪を、手でかき上げて、頭の後ろで束ねてみた。ポニーテールになった瞬間、レジーナはようやくハッとなった。

「あなたは、まさか⁉︎」
「ど、どうも……」
「なんでそんなバニーの格好をして、こんなところまで⁉︎ いや、そもそも、コリドールへ行ったはずじゃ⁉︎」

 口調はそれなりに驚いているものの、表情は相変わらずのポーカーフェイス。ショートヘアの髪型や、鋭い目つきも相まって、かなりクールな印象を与える。

「事情があって、バニーになって、このカジノに入ったんだ」
「事情、って?」

 疑わしげな目つきで、レジーナはこちらを見てくる。

 下手な答えを返せば、状況はかなり悪くなるに違いない。

 イスカは必死で考えた。この場を切り抜ける、いい回答はないだろうか。

 その時、ライカが教えてくれたカジノの現状を思い出した。

 いま、カジノの中では、好き勝手に振る舞うルドルフに対して、かなりの不満が溜まっているという。

 レジーナも、もしかしたら、その一人かもしれない。

 賭けだ。

 けれども、試してみる価値はある。

「その……ここのバニーさん達が、みんな困っている、って聞いて……それで……ルドルフを、倒しに来たんだ」

 ルドルフを倒す、と聞いて、レジーナはかすかに眉を動かした。しかし、ほとんど表情は変わらない。

 これは失敗か、とイスカがヒヤヒヤしていると、レジーナはやや遅れて、口を開いた。

「腑に落ちないわ」
「え?」
「なぜ、あなたが私達のために、ルドルフを倒そうとするの? そんなことをする義理なんてないのに」
「それは……その……」
「まだ何か隠している。そうでしょう」

 さすがは一流のディーラーだ。洞察力に長けている。

 ニハルが囚われていることも、素直に話そうかと思った、その時、

「まあいいわ。協力してあげる」

 サラリと、レジーナは言ってのけた。

「え、いいの⁉︎」
「こっちとしても、ルドルフを倒してくれるのなら、願ったりだから。ただし……」

 と、レジーナは、いきなり距離を詰めてきた。

 なんだろう? とイスカは無防備に突っ立ったまま、レジーナの動向を見守った。

 イスカの鼻先まで顔を近づけてきたレジーナは、艶やかな吐息とともに、こう言ってきた。

「協力する代わりに、キスさせて」
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