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第32話 全てが規格外の巨大バニー

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「な、な、何を言うんですか」

 イスカは露骨に動揺した。冷や汗を垂らし、目を泳がせる。

 そんなイスカに対して、ネネは身をかがめて、その顔を覗きこんできた。

「うふふ、ごまかしても無駄よぉ」

 場に緊迫した空気が流れる。

 アイヴィーとクイナは、背筋を張って、身を強張らせて、戦闘態勢を取りそうになるのをなんとか我慢している。ここで下手に動いたら、かえって事態を悪化させてしまう。

 そもそも、イスカとはたまたま知り合った、という設定にしている。あまり干渉すると関係性を疑われてしまう。

(なんとか切り抜けてくれ……!)

 クイナは拳を握り締めて、ひたすら自分を律している。大事なイスカがピンチに陥っているのだから、すぐにでも助けたいところ、どうすることもできない。

「んー……なんで、男の子が、女の子のフリをして、カジノにやって来たのかしらあ?」

 ネネは、ジロジロとイスカの全身を上から下まで眺め回して、探りを入れてくる。巨体もあいまっての圧迫感。イスカはグッと唇を固く結んで、無言を貫く。

 しかし、

「なるほどお。ルドルフ様を倒しに来たのねえ」

 完璧に、見抜かれてしまった。

(な、なんで……⁉)

 目を見張るイスカ。

 ライカだけは、この状況を冷静に観察していたので、すぐに、違和感に気がついた。

(いくらなんでも、当てすぎでしょ! まさか、ネネって……スキル持ち⁉)

 考えれば考えるほど、その結論にしか辿り着かない。

(そして、おそらく、ネネのスキルは……心を読む能力……!)

 そこまで思考を働かせてから、ライカはハッとなった。もしもそうだとしたら、これまでもアイヴィーやクイナの思考を全部読まれていたことになる。

(じゃあ、最初から、何もかもバレていた、ってことじゃない……!)

 焦燥感を募らせるが、いやしかし、もしかしたら違うかもしれない。単にネネの勘が鋭いだけなのかもと、思いとどまる。

 必死で頭を巡らせる。この場をどうやって切り抜けるか。軽率に動いてしまったら、かえってイスカを危険に晒すこととなる。そのためには、ネネの能力を確定させないといけない。

 ライカは、賭けに出た。

「ねえ。その子が男の子であっても、可愛いことには変わりないでしょ」
「そーお?」

 ネネはライカのほうへと顔を向けてきた。

 ライカは心臓をバクバクと鳴らしている。もしも、ネネが人の心を読み取る能力を持っているのなら、それはどういった条件で発動するのか。まさか、無秩序に、その場にいる人間の心を全部読み取れるとか、そういうわけではないのだろう。

 振り返ってみれば、ネネは話す時に、ジッと相手の目を見つめてくる。きっと、それが心を読むための条件の一つ。

 ライカは、ネネと目を合わせながら、心の中で語りかけてみた。

(聞こえてるんでしょ? 私の心の声。聞こえてるのなら、素直にそう言って)

 どうだ? と様子を窺ってみるが、特にネネの表情に変化はない。演技だとしたら、かなりのポーカーフェイスだ。心を読めているのか、そうではないのか。

「ねえ、ライカちゃん。ひとつ教えてちょうだい。あなたは、あの子が男の子だって知ってたのお?」
「知ってるわけないでしょ」

 すかさず、そう切り返した。

 だが、それに対するネネの反応は、否を唱えるものだった。

「ウソだぁ。本当は知ってたのねえ」
「!」

 ここに至って、ライカは、ネネの能力について、さらに詳細を理解することが出来た。

 ネネは、何もしていない状態では、相手の心を読むことは出来ない。心を読めるのは、質問をした時。その質問に対して、相手が何を考えたか、その内容を読み取ることが出来るのだ。

 質問さえされなければ、心を読まれることはない。

 だけど、一度でも質問されたら最後。口先ではどう答えようと、心の中では、その問いに対する答えを連想する形で、正直に回答してしまっている。それを止めることは難しい。何もかも見透かされてしまう。

「うふふ♪ いーけないんだあ。ライカちゃんってば、私のことをだまそうとしていたのねえ?」

 まずい。これもまた質問。そして、ライカは自然と、その質問に対する答えを頭の中に思い浮かべてしまっている。答えは、イエス。

「ふうん、あなた達、全員グルなのねえ」

 とうとう、みんなが仲間同士であることがバレてしまった。

 アイヴィーとクイナは、即座に身構えた。戦闘になるなら、断固戦ってやる、という決意を露わに、ネネのことを睨みつける。

 同時に、ネネのお供バニー達も戦闘態勢に入った。主に向かって害意を向けるのであれば。容赦はしない、といった表情である。

 一触即発の空気が流れたところで、パンパン! とネネは手を叩いた。

「はあい、そこまでえ。争っても、何もいいことはないわあ」

 それから、あらためてイスカのほうを向いたネネは、ニッコリと笑った。

「合格」
「へ?」
「合格よぉ」
「え? え? ちょ、ちょっと待って」

 理解が追いつかない。

 ライカ達も、ポカーンとしている。

「い、いいの⁉」

 裏返った声で、ライカは尋ねた。

「あらあ、採用したらダメだったのお?」
「だ、だって……」

 ライカは口ごもる。

「男の子でもいいじゃない~。可愛い子なんだからあ。きっと、多くの客に気に入ってもらえるわあ」
「本当に、いいの……?」
「何を気にしているのかしらあ?」

 そこで、ネネの表情に、凄みが出てきた。目つきは鋭く、口の端を歪めて、邪悪な笑みを浮かべている。

「あなた達が何を企んでいようと、このカジノの中では無力よお♪」

 それは、カジノのバニーガール達を司るマザーバニーとしての、圧倒的な自信から来る発言であった。

「せいぜい、このカジノのために、一生尽くしてちょうだいねえ♡」
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