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第55回(改) 編集者に見てもらえるというありがたさ
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BB小説家コミュニティは、私にとって憩いの場となりつつあった。
他の参加者達と交流し、時にはブレインストーミングもしながら、書きたいものを書き進めていく。
仕事の合間を縫っての執筆となるので、ペースは遅かったものの、8月中に『水滸ストレンジア』を七話更新することが出来た。
コミュニティ内でのイベントにも積極的に参加した。
イベントは主に二種類あり、一つは「編集相談会」、もう一つは「交流会」である。
交流会は文字通り、特にテーマを決めずに、みんなで和気あいあいとお喋りしたり、音声で参加できない人はチャットで参加したりするイベントだ。
では、編集相談会とは何か、というと、BookBaseの編集者が週に一回~二回、Discord内の専用チャンネルで参加者達の相談を聞き、アドバイスをくれる、というものである。テーマが決まっている回もあれば、自由に何でも聞いていい回もあり、参加者にとっては、創作に関する悩みを解消することの出来る、絶好の機会となっている。
この編集相談会に毎回参加していて、心の底から実感させられたのは、「編集者がいるっていうのは何てありがたいことなんだ」ということである。
行き詰まった時に相談に乗ってくれる人がいる、と思うと、非常に心強い。
私は、せっかくの機会を生かそうと、これまで自分が抱えてきた不安や悩みを色々と聞いてみた。その度に、的確なアドバイスを得られることが出来た。
ただ、「レ・ミゼラブル」のことについては聞くことは出来なかった。自分の仕事のことを話すには、他の人にも見られるオープンな場所でもあったし、そこまで腹を割って話すほど、まだBookBaseの編集者達を信用してはいなかった。
さて、BookBaseの編集者達であるが、この当時は以下のような陣容となっていた。
サマンサ編集長。Twitterのアイコンがお寿司であるので、オタクペンギン社長はよく「あのお寿司」と呼んでいる。
O城さん。圧倒的な知識量と柔軟な思考で、あらゆる作品づくりに応えることが出来る編集者。真面目でクール。
天岸さん。編集者陣の中では紅一点。BLもTLも、どんな作品でもどんと来いの雑食。女性作家陣の人気随一の編集者。
ヒダマルさん。特にラノベ系統は抜群のセンスを誇る、ラノベ作家には最も適している編集者。たまに熱い変態性を見せる。
そんな中で、私は8月最後の依頼として、『魔女のキックが世界を変える』という作品の感想をお願いした。
「書いた当初は自分史上で最高に面白く書けたと思っていたのですが、その後各種賞に出してもまったく選考を通らず(一次も通らない)、そもそも出だしの一万文字でつまづいているのでは……と思っています。そのあたりがどうか確認できればと思います。よろしくお願い致します」
「あらすじ:ある日、彼氏に二股をかけられた秋山七瀬。ヤケになって夜遊びをしていた彼女は、ひょんなことから、表の顔はキャバ嬢、裏の顔は仕事人集団「ウィッチ・パーティ」の一員、千秋と出会う。元カレへの報復を依頼された千秋は、七瀬とともに、元カレのいる拳法道場へと乗りこんでゆき――魔法は一切使わない。武器は己の身ひとつ。パンチとキックで戦う「魔女」達の物語、ここに開幕!」
十二日ほどしてから、感想が返ってきた。
今回はヒダマルさんからの感想だった。
これがまた、一万文字という限定された分量に対して、かなりのボリュームでの感想が戻ってきたのである。
「拝読しましたので、感想をお伝えします」
「勧善懲悪を貫く裏の組織という設定はシンプルで強いと思います。主人公コンビは初心者と熟練者という王道の組み合わせで、設定を自然に伝えるのに一役買っています」
「「安西先輩は最低の男である」というひとつの情報を固めるために割かれている分量が多いかな、と感じます。一話の前半半分くらい(約二千四百字)はカットしても問題ないような。まず襲われている女性を前にしている場面から始めて、一通り終えたあと「いつもは来ない場所に来ていた理由」として回想するのでも良さそうです。安西絡みの話はちゃんと伝えなければいけない要素ではあるものの、第一章内でそこに重きを置き過ぎている印象です」
「もう一息、外連味が欲しいと感じます。安西の竜虎道拳法は所詮「表」の道であり、伝来した当時の技は更に強力な特徴があり千秋はそれを会得している、言ったでしょう「裏の仕事」だって……、みたいな特別感があると盛り上がります。「ウィッチ・パーティ」の前身は渡来天開が作った組織だとか」
「単に戦うだけで解決しており、主人公である七瀬はイマイチなにもしていない感があるのももどかしいです。冒頭の事件を通して簡単な捻り技を教えられており、安西撃退の際に襲いかかられるも咄嗟にその技を応用して投げ返す、といった七瀬の見せ場も用意できれば。「俺のパンチはピストルみたいに強い」「ゴムゴムの銃!」の前フリと回収がないワンピース第一話を想像すると、イマイチ味気ない感じが伝わるかと思います」
「「ハイボール」「ヘルプ嬢」「ヘルプ用の椅子」と、十七歳の一人称の語りにしては的確に意味を捉えて用語を出していくので、そこは女子高生の視点に準拠したほうが世界観に馴染むかなと思います」
これには驚くのと同時に、感動させられた。
サマンサ編集長の感想は端的でピンポイントであり、それはそれで切れ味鋭いのだが、ヒダマルさんの感想はとにかく濃い。そして、何よりも、私は電撃文庫で活動していた時のことを思い出した。あの頃の担当編集なら、きっと同じようなアドバイスをしてきたに違いない。
やはり、編集者に見てもらえるというのはありがたい。
そんなホクホクした気持ちになりながら、私はヒダマルさんへお礼のメッセージを送ったのであった。
他の参加者達と交流し、時にはブレインストーミングもしながら、書きたいものを書き進めていく。
仕事の合間を縫っての執筆となるので、ペースは遅かったものの、8月中に『水滸ストレンジア』を七話更新することが出来た。
コミュニティ内でのイベントにも積極的に参加した。
イベントは主に二種類あり、一つは「編集相談会」、もう一つは「交流会」である。
交流会は文字通り、特にテーマを決めずに、みんなで和気あいあいとお喋りしたり、音声で参加できない人はチャットで参加したりするイベントだ。
では、編集相談会とは何か、というと、BookBaseの編集者が週に一回~二回、Discord内の専用チャンネルで参加者達の相談を聞き、アドバイスをくれる、というものである。テーマが決まっている回もあれば、自由に何でも聞いていい回もあり、参加者にとっては、創作に関する悩みを解消することの出来る、絶好の機会となっている。
この編集相談会に毎回参加していて、心の底から実感させられたのは、「編集者がいるっていうのは何てありがたいことなんだ」ということである。
行き詰まった時に相談に乗ってくれる人がいる、と思うと、非常に心強い。
私は、せっかくの機会を生かそうと、これまで自分が抱えてきた不安や悩みを色々と聞いてみた。その度に、的確なアドバイスを得られることが出来た。
ただ、「レ・ミゼラブル」のことについては聞くことは出来なかった。自分の仕事のことを話すには、他の人にも見られるオープンな場所でもあったし、そこまで腹を割って話すほど、まだBookBaseの編集者達を信用してはいなかった。
さて、BookBaseの編集者達であるが、この当時は以下のような陣容となっていた。
サマンサ編集長。Twitterのアイコンがお寿司であるので、オタクペンギン社長はよく「あのお寿司」と呼んでいる。
O城さん。圧倒的な知識量と柔軟な思考で、あらゆる作品づくりに応えることが出来る編集者。真面目でクール。
天岸さん。編集者陣の中では紅一点。BLもTLも、どんな作品でもどんと来いの雑食。女性作家陣の人気随一の編集者。
ヒダマルさん。特にラノベ系統は抜群のセンスを誇る、ラノベ作家には最も適している編集者。たまに熱い変態性を見せる。
そんな中で、私は8月最後の依頼として、『魔女のキックが世界を変える』という作品の感想をお願いした。
「書いた当初は自分史上で最高に面白く書けたと思っていたのですが、その後各種賞に出してもまったく選考を通らず(一次も通らない)、そもそも出だしの一万文字でつまづいているのでは……と思っています。そのあたりがどうか確認できればと思います。よろしくお願い致します」
「あらすじ:ある日、彼氏に二股をかけられた秋山七瀬。ヤケになって夜遊びをしていた彼女は、ひょんなことから、表の顔はキャバ嬢、裏の顔は仕事人集団「ウィッチ・パーティ」の一員、千秋と出会う。元カレへの報復を依頼された千秋は、七瀬とともに、元カレのいる拳法道場へと乗りこんでゆき――魔法は一切使わない。武器は己の身ひとつ。パンチとキックで戦う「魔女」達の物語、ここに開幕!」
十二日ほどしてから、感想が返ってきた。
今回はヒダマルさんからの感想だった。
これがまた、一万文字という限定された分量に対して、かなりのボリュームでの感想が戻ってきたのである。
「拝読しましたので、感想をお伝えします」
「勧善懲悪を貫く裏の組織という設定はシンプルで強いと思います。主人公コンビは初心者と熟練者という王道の組み合わせで、設定を自然に伝えるのに一役買っています」
「「安西先輩は最低の男である」というひとつの情報を固めるために割かれている分量が多いかな、と感じます。一話の前半半分くらい(約二千四百字)はカットしても問題ないような。まず襲われている女性を前にしている場面から始めて、一通り終えたあと「いつもは来ない場所に来ていた理由」として回想するのでも良さそうです。安西絡みの話はちゃんと伝えなければいけない要素ではあるものの、第一章内でそこに重きを置き過ぎている印象です」
「もう一息、外連味が欲しいと感じます。安西の竜虎道拳法は所詮「表」の道であり、伝来した当時の技は更に強力な特徴があり千秋はそれを会得している、言ったでしょう「裏の仕事」だって……、みたいな特別感があると盛り上がります。「ウィッチ・パーティ」の前身は渡来天開が作った組織だとか」
「単に戦うだけで解決しており、主人公である七瀬はイマイチなにもしていない感があるのももどかしいです。冒頭の事件を通して簡単な捻り技を教えられており、安西撃退の際に襲いかかられるも咄嗟にその技を応用して投げ返す、といった七瀬の見せ場も用意できれば。「俺のパンチはピストルみたいに強い」「ゴムゴムの銃!」の前フリと回収がないワンピース第一話を想像すると、イマイチ味気ない感じが伝わるかと思います」
「「ハイボール」「ヘルプ嬢」「ヘルプ用の椅子」と、十七歳の一人称の語りにしては的確に意味を捉えて用語を出していくので、そこは女子高生の視点に準拠したほうが世界観に馴染むかなと思います」
これには驚くのと同時に、感動させられた。
サマンサ編集長の感想は端的でピンポイントであり、それはそれで切れ味鋭いのだが、ヒダマルさんの感想はとにかく濃い。そして、何よりも、私は電撃文庫で活動していた時のことを思い出した。あの頃の担当編集なら、きっと同じようなアドバイスをしてきたに違いない。
やはり、編集者に見てもらえるというのはありがたい。
そんなホクホクした気持ちになりながら、私はヒダマルさんへお礼のメッセージを送ったのであった。
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